019話 お姉言葉の先生トランと放浪癖の神官ストレイ
泡姫が聖戦を宣言すると言うと、公爵夫妻は領軍を同行させようとするが、それは断った。領都の防衛もあるので聖戦に割けない事情もあった。ヴィンスが断言してくれたので渋々納得してくれる。
「アリエルの命は俺の命に代えましても守ります!」
「折角、男の家族が増えたのだから、婿殿も無事に戻って来てくれると嬉しい」
「2人共に気を付けなさいね」
「「はいっ!」」
泡姫は聖戦を宣言すると国王陛下に告げる。国王陛下は気前よく騎士団を連れて行って良いと言うので、候補を募るが全騎士団が同行したいと揉めたので、結局は聖女と同行した事がある第1と第2騎士団が同行する事になった。他の騎士団は国防の為に残さないとならないので強引に納得して貰う。トレニアは着いて来るが、ルパートは留守番が気に入らないようで、トレニアが宥める。
「私もトレニアと一緒に行きたいのだが……」
「王たる者、戦に常に同行する必要はありませんことよ。結果を待つのも仕事になります」
「そ、そう言うものか……」
それに加えて魔法があると心強いので魔法士団が同行する事になった。その団長に会って泡姫は驚いた。
「トラン先生!」
「まあっ! 聖女様は私の名前を覚えて下さっているのね。光栄ですわ!」
銀色の髪で背が高く、声が野太くイケメンの歴とした男性である。お姉言葉と心が乙女なのが玉に瑕だが、貴族院の先生で魔法士団長も兼任しているようだ。『プリンセス聖女』での攻略対象だが貴族院に入学しないと会えないと思っていたので、泡姫は嬉しくなった。
トランがセバスチャンの肩上を見ると、ノワールが詰まらなそうに欠伸をしていた。
「ふわわわぁぁぁニャ……」
「まあっ! 聖獣様! お可愛らしい!!」
「ニャニャッ!」
急にトランの矛先がノワールに代わってビックリしたようだ。トランはセバスチャンに近づいてノワールを引き剥がすと、胸に抱えて撫でだした。
「は~な~す~ニャァッ!!」
「聖獣様が嫌がっておられます」
セバスチャンは瞬きする間もなくノワールをトランから奪うと、元の肩の上に乗せた。両者は睨み合うが、ノワールが嫌がっているのでヴィンスが助け舟を出した。
「トラン。聖獣様が嫌がっているのに手を出したら、もっと嫌われるぞ」
「ああっ! 乙女の恋は一方通行なのね……」
トランは可愛らしい物が大好物なので、ゲームでもノワールに執着して聖女の行動を邪魔する存在だった。騎士団長のヴィンスの言うことは聞くようで、歯軋りしながら遠巻きに観察する事にしたようだ。
教会に行くと高位の神官と共に、冒険者の様な格好をした神官が待っていた。泡姫に近づいて聖女のイヤリングを眺めた。
「うおおっ!! 聖女のイヤリングが輝いている! これで転移門が起動するのか!」
「ストレイ?」
「聖女様に名前を覚えて貰えているとは! どこかでお会いしましたっけ?」
「お噂はかねがね……」
ストレイは紺色の髪色をしていて整った顔をして、眼鏡をかけている中肉中背な男性だ。遺跡好きが高じて放浪の旅に出ているので、ゲームでは転移門が使われた噂が広がらないと王都に戻って来ないので、攻略対象だと知らずにゲームをクリアしてしまうキャラクターであった。今回は泡姫が強引に聖女のイヤリングを手に入れて転移門を使用したので、噂を聞いて急いで戻って来たらしい。
高位の神官は額の汗を拭きながら紹介してくれた。
「聖女様。この度は聖戦を宣言されたようで、教会としても手助けをさせて頂きたく思います。これはこんな言動の者ですが、教会兵団長をしておりまして教会兵団を束ねております。騎士団と一緒に同行させると何かと役に立つかと思われますので、是非に使ってやってください」
「よろしく、聖女様!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。トランの魔法士団と一緒に、ストレイの教会兵団がヴィンスの指揮下に入るので良いのかしら?」
「ああ、魔法士と神官が同行してくれるのは心強い」
基本的に教会兵団は教会を守るための兵団なので、国の軍事行動には人員しか貸し出さないようだ。しかし聖女の聖戦には同行するのが習わしなようで、ヴィンスがウエルカム状態なので泡姫は了承した。
聖戦の役者が揃ったので教会の一室を借りて団長クラスを集めて会議をした。資料は設定資料集を元に公爵の屋敷で作って来たので皆に配布する。
ヴィンスが説明してくれる。
「今回の聖戦は聖女であるアリエル公女殿下を暗殺しようと企てた、サウスインダス王国の主戦派の討伐を目標としている。作戦は3段階に分かれていて、セバスチャンの息子を救出してから、次の段階に移る事になる」
「救出に文句がある訳じゃないけれど、主戦派を先制攻撃する機会損失にならないかしら?」
「僕もそう思います」
トランとストレイが首を傾げながら意見を言った。
「その点は問題ない。今からデモンストレーションを行う。トランとストレイ。驚いて暴れたり、魔法を暴発させないように」
「キャッ!!」
「うわっ!!」
トランの野太い黄色い悲鳴と、ストレイの驚きの声が上がった。泡姫のデバッグ・モードの『エンカウント操作』をゼロ指定した者に首を掴まれたからだ。完全に不意打ちを食らったようで、2人は降参した。
「これは驚いたわね……」
「全然気づかなかったぞ!」
「このように聖女の能力で完全な認識阻害となるので、先制攻撃の機会損失にはならない。逆に他の段階についても、このエンカウント操作を聖女に行ってもらうので、安全に先制攻撃をする予定だ」
「「了解!」」
2人が納得したのでヴィンスは作戦工程の説明に戻った。移動は泡姫によって転移門を経由するので迅速な行軍が可能だった。主戦派の首謀者はドレイク伯爵だ。第1段階としては領都にある城の地下牢に、セバスチャンの息子が捕まっているので、救出する手筈となる。これはセバスチャンを中心として泡姫とカルミアにヴィンスとトレニアの5名の少人数で行う。ノワールはいつもの様にセバスチャンに張り付く予定のようだ。
第2段階に必要な物として、デバッグ・モードの『アイテム生成』で懐中時計を出して、各団長に配った。
「な、なんて精巧な時計なのだろうか!! 聖女様、聖戦が終わっても返さなくて良いですか?!」
ストレイが物欲丸出しで願い出て来た。泡姫は少し引いて了承する。
「よ、良いのだけれど、他に見せびらかしたりしないで」
「了解! やったー!」
泡姫はアイテム生成を広めたくはないのでストレイに釘を刺した。
ヴィンスは作戦工程の第2段階の説明に戻った。第1段階の終了する時刻に合わせてドレイク伯爵の寄子であるカイロス子爵に第1騎士団を当たらせる。同じくドレイク伯爵の寄子のヘイロー男爵に第2騎士団を同時刻に当たらせて、両方を無血開城させて無力化する手筈になる。
第3段階は第1騎士団と第2騎士団をドレイク伯爵の領都に移動させてから、両軍団を持って無血開城させて無力化する手筈となる予定だ。
トラン 「あのキュートなお姿に胸が高鳴っているわ……これって恋かしら?」
ストレイ「ただのモフモフ好きだろ。僕の聖女様への思いに比べたら……」
トラン 「それこそ遺跡馬鹿だからじゃなのよ」
2人 「「……」」
次回の話は翌日の19時になります。
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