018話 執事セバスチャンの闇落ちと聖戦の発動
後1ヵ月で貴族院に入学となった頃、公爵の屋敷に闇が訪れた。手紙を受け取って自分宛の手紙なので封を開けて中身を読んだセバスチャンが、無表情を凍らせて全方位の威圧を発した。いつものようにセバスチャンの肩に乗っていたノワールが喚いて飛び降りると、泡姫の元に向かった。
「ニャニャニャッ!! こ、怖いニャ!」
喫茶室でトレニアと談笑している泡姫の元に、ノワールが飛び込んで来た。
「し、執事がヤバいニャ!」
「どうせまた肩の上で爪でも立てたのでしょう?」
「違うニャ! 手紙を見たら威圧が凄いのニャ!」
「え? もう来たのかしら?!」
隣国サウスインダス王国の主戦派にセバスチャンの息子が人質に取られるのは、アリエル公女殿下が貴族院に入って1年目の後半だったはずだ。ノワールに言ってセバスチャンを連れて来て貰うと確かに荒れていた。泡姫がデバッグ・モードの『アイテム生成』を使って出したカード・ゲームを、別の部屋で遊んでいたヴィンスとブレイドとルパートの男性組も威圧に気づいてやって来た。
「この強烈な威圧は何だ!?」
泡姫はヴィンスを手で制すると、セバスチャンは泡姫に無言で手紙を渡して来る。
「……」
「う~ん、サウスインダス王国の主戦派が私の暗殺を早めたのは、何故かしら?」
「そう言った場合は早めたのではなくて、遅くなっていた足枷がなくなった場合も想定すべきよ」
「……あっ! ギガントロールの被害がサウスインダス王国に対してもなくなって、主戦派の矛先が私に向いた訳か! トレニア、良い読みよ! ……ちなみにトレニアに関わらせるつもりはなかったのだけれど!」
トレニアはサウスインダス王国の第2王女なので、主戦派との話には関わらせないつもりだったが聞かれてしまった。そしてトレニアに図星を指されてしまう。
「アリエルはこの件が起こる事を知っていたようだけれど、それは転生者として知り得た情報かしら?」
「……そうよ。ここまで知られてしまっては黙っているのも難しいわね」
皆にサウスインダス王国の主戦派がアリエル公女殿下の暗殺をするために、セバスチャンの息子が人質に取られて暗殺の強要を示唆する手紙が届いた事を説明した。
ゲームではアリエル公女殿下の暗殺を機に、ノースグラナリー王国とサウスインダス王国とが戦争を始める。主戦派はノースグラナリー王国との戦争が主目的ではなくて、戦争で自国の騎士団の主力を戦場に張り付けて、その隙に王家を転覆させてテロ行為によって国を簒奪する予定だった。
泡姫の頭の中には大体の出来事があるが細かい事までは覚えていないので、アイテム生成で設定資料集を出して見た。B4判の分厚い書籍の上下巻で『プリンセス聖女』の全ての設定資料が網羅されていた。出て来たのは重版と改版が重ねられているようで十五版目になるようだ。
泡姫は表紙を捲ると「本作に尽力を尽くしたゲームシナリオライター難波泡姫に捧ぐ」との一文を見つけてしまい、慌てて目次にページを進めた。自分が亡くなった証拠の様な物を見せられて心が騒ぐが、暗殺エンドは防ぎたいので心に蓋をする。
トレニアは表紙を飾る自分達のイラストに驚いた。
「まあっ! 私達が精巧に描かれているわ!」
「この世界は、私が転生元で創作設定した遊戯の世界観を参考に、テオ神が創造したそうよ。その設定が全て書かれている本になるわ」
皆は自分がどうなる予定だったのか聞きたがって、質疑応答になった。特にヴィンスは魔の森で重症を負って第1と第2騎士団が壊滅状態になって、サウスインダス王国との戦争に負ける要因だった事も話した。
「アリエルに助けられたのは僥倖だったのだな」
「まさか私の推しのヴィンスが、あの頃に魔の森へ遠征していたなんて、私は細かく設定していなかったし知らなかったのよ」
「俺が君の推しに転生できたのも僥倖だった!」
2人の世界に入りそうになるのを、トレニアに止められる。
「それで私はどうなるのかしら?」
「……確か亡国の王女になって、このノースグラナリー王国で幽閉されるはず」
「私の一大事でもあるじゃないの!!」
自分の暗殺エンドにかまけていて、トレニアの行く末は気にしていなかった泡姫である。視野が狭くなっていたようで、トレニアに謝った。
「ごめんなさい、トレニア。自分が暗殺されないようにする事で頭が一杯だったの」
「良いわよ。まさか私の撒いた聖水が自分の国を左右するとか、普通は思わないでしょうし。それでアリエルは私も救って下さるのでしょう?」
「もちろん! ほら、セバス。息子も助けに行くから、威圧はよして頂戴」
「アリエル様に最大限の感謝を。しかしまだアリエル様には隠し事があるのではないでしょうか?」
ようやくセバスチャンは威圧を解いて落ち着きを取り戻したようだ。だがセバスチャンに見破られて皆から何があったのか聞かれたので、義母が泡姫にして来た嫁イビリを説明しないとならなくなった。それを聞いた皆が憤慨してくれる。
傷病の騎士エンドの攻略対象ヴィンスが切り捨てる。
「俺がそのプリムラに靡くとは思えないのだが……」
傷病の騎士ルートへのお邪魔虫のブレイドが失言をして、カルミアに脛を蹴られた。
「そのプリムラって子は可愛い……い、痛っ!!」
セバスチャンはプリムラがヒロインで聖女になる物語だったと知ると、泡姫の邪魔だと思ったのか排除しようとするので止める。
「しかしあのピンク髪のお嬢さんが主人公だったとは片腹痛いですな。排除致しますか?」
「もうあの子が聖女になる芽も摘んだし、何も出来ないから放って置くようにしましょう。ウォードの富豪ルートは転生元の義母の贖罪にもなるし」
他の攻略対象は貴族院に入学した頃でないと出て来ないので、ここには居ない。
質疑応答が終わって泡姫はボヤいた。救出だけならばともかく、サウスインダス王国の主戦派をどうにかする戦力が思いつかなかったのだ。
「う~ん、救出だけならばどうにかなると思うのだけれど、主戦派をどうにかする戦力が思いつかないわね」
「アリエル様。聖女なのですから教会で聖戦を宣言して、物語のように挙兵するのでは駄目でしょうか?」
「「「「「「「あっ!」」」」」」」
リリーが珍しく意見を言ってくれたので見落としに気づけた。勇者や聖女は人類の敵となる魔王を討伐するために、国を超えて兵を集めて運用できる超法規的な権限を有していたのだ。
泡姫は『プリンセス聖女』の設定資料からヴィンスのイラストを抜き出した。
泡姫 「私の部屋に飾りましょう!」
ヴィンス「アリエル……」
泡姫 「ヴィンス……」
セバス 「…………コホン!」
2人 「「あっ!」」
次回の話は翌日の19時になります。
作品が気に入って頂けましたらログインして、ブックマークをして更新通知をオンにすると便利です。
また評価等して頂けると作品作りの励みになります。




