012話 従妹トレニア第2王女殿下のお節介とプリムラ(義母)の借金
公爵の屋敷に戻るとトレニア御一行を宿泊させる準備が出来ていないそうで、屋敷の中が慌ただしくなった。迷っていたとはいえ転移門でショートカットしたので予定が早まり、使用人達は忙しく別館の建物を整え出した。トレニアはここから泡姫と一緒に貴族院へ通うので、3年間は一緒に住む事になる。
両親から談話室に泡姫は呼び出されたので、使用人と共に向かうとトレニアも着いて来た。
「トレニア。着いて来ても面白い事なんかないわよ」
「あらあら、私の感がそうは言っていないわ」
談話室に入ると先程に玄関で行ったやり取りが繰り返された。公爵夫人アマリリスにトレニアはハグされた。
「まあまあ、トレニア。長旅で疲れたでしょう? 休んでいたら良いのに」
「叔母様。アリエルにお話があるのは分かっているので、一緒に聞かせて頂けないかしら?」
アリエルの母アマリリスは目を瞬かせて、泡姫と公爵である夫アーネストを交互に見た。どうやらトレニアには聞かせたくない話の様で、退席を願っているらしい。トレニアは他国の王女であるが身内でもあるので、泡姫は隠し事をしたくなかったので同席を了承した。
「お母様。トレニアには私が聖女であることも転生者であることもお話してあるので、隠し事はなしでお願いします」
「そう? それならばアーネストから話してやってね」
アーネストは告げるのが自分かと落胆の表情を見せてから語り出した。
「う~む、アリエル。陛下にアリエルが聖女であると報告したのだが、どうやら王太子と縁づかせたいようで王命で婚約をなさりたいそうだ」
「なさりたい…と言うことは、まだ王命が出された訳ではないのでしょう? お断りして下さい」
王が王命を使ってまで王太子と結婚させたいとは驚きだったが、聖女になると王太子ルパートと婚約まではゲームとしてのストーリー的に規定事項だったので泡姫はバッサリと断りを入れる。
「断りを入れるとアリエルに傷が付いてしまうのが心配なのだが……」
「アーネストおじ様、アリエルには思い人が居ますので心配には及びませんことよ」
「どこのどいつだっ!! 私の娘に手を出したのはっ!!」
「あらあら、まあまあ!」
トレニアから泡姫の思い人の話を聞くと、アーネストはソファーから立ち上がって泡姫の両肩を掴んだ。アマリリスは口に手を当てて驚いている。
「ちょ、ちょっとお父様! 痛いです! ヴィンスさんとは、まだ何もありません!」
「ヴィンス……どこかで聞いた事があるな。あれかっ! 侯爵家の三男坊だろう。相続権を放棄して騎士団長をしている変わり者か」
「相続権を放棄しているのでしたら、婿に最適ではないですか? アーネストおじ様」
「おおっ! そう聞くと凄く良い相手に思えて来た!」
公爵家には泡姫しか子供が居ないので、ヴィンスが婿に入ってくれると助かるのも事実だ。トレニアの入れ知恵で話が変な方向に進みそうなのが困り者だと泡姫は溜息を吐いた。アーネストは落ち着いたのかソファーに戻った。
「それでは王命になる前に王太子との婚約は断るが、ヴィンス君との婚約の了承を早めに取り付けなさい、アリエル」
「ま、まだヴィンスさんとは交際もしていませんので、婚約とか時期尚早ですわ」
「早い事はありませんよ、アリエル。私も貴族院の在学中に猛アタックしたのですから。ねぇ、アーネスト。ご実家経由でヴィンス君をお呼びしたらどうでしょうか?」
「それは妙案だ!」
アマリリスは当時を懐かしむように、うっとりと微笑んだ。アマリリスがアーネストに惚れて結婚した、2人は貴族では珍しい恋愛結婚であった。
「お父様とお母様、待って!!」
公爵夫妻からヴィンスが呼び出されそうになって、泡姫は必死で止める。
「まだヴィンスさんとはそう言う関係ではないので、自分達のペースで進めたいの!」
「ふ~ん、自分で進める気はあるようね」
「もう茶化さないでよ、トレニア!」
「どちらにせよアリエルが貴族院を卒業する成人までは間があるので待つか……」
「そうね。吉報を待っているわね、アリエル」
「はい……」
トレニアのお陰で両親に気兼ねなくヴィンスとの仲を進められる事になったが、引っ掻き回して遊ばれているような気がしたのでトレニアを睨んで置いた。
泡姫の義母だったプリムラは、富豪の女傑ディステルに入学金のお金を借りに豪邸に訪れていた。最初は門番に相手にされなかったが、アリエル公女殿下の名前を出すと中に通される。
応接室でプリムラが待っていると紫色の髪をした母と息子が入って来た。挨拶しようとしてプリムラは立ち上がるが、先に名乗られた。
「あたしはディステル。有名だから知っているでしょ? こっちは息子のウォードよ。アリエル公女殿下の名前を出して置いて、くだらない用事だったら許さないわ!」
「お、お噂はかねがね……。わ、私はプリムラで冒険者食堂の娘です。貴族院に入学するためのお金を貸して頂きたく……」
「あらぁ、食堂の娘が貴族院になんて入学するの!? うちのウォードも今年から入学なのだけれど奇遇ね。所でアリエル公女殿下とはどう言ったご関係かしら?」
「!!」
転生の事は説明しても信じて貰えないだろうし、かといって接点がないので困って絶句する。仕方がないので先程のやり取りでお情けを頂いた路線で通そうと思った。
プリムラが冒険者ギルド前で突っ伏して泣いていると、アリエル公女殿下の馬車が通って心配して声をかけてくれた。お金に困っていると請願すると、アリエル公女殿下の名前を出しても良いのでディステルの所で借りなさいと助言された事を、転生の事情は抜かして正直に話した。
プリムラが話し終わると応接室の扉がノックされて使用人が入って来る。入って来た使用人はディステルの耳元に囁き、こちらに聞こえない音量で用件を伝えると出て行った。
「アリエル公女殿下が差し向けたのは確かそうね」
「う、裏を取ったのですか?」
「あたりまえじゃない! 初対面の人を信用するほど、あたしは愚かじゃないわよ」
「ママ。僕、この子が気に入った!」
ウォードが初めて口を聞く。応接室に入って来た時から、プリムラを舐め回すように見ていたので悪寒が走った。
「あら、それならば条件は良くして上げましょうね! ちなみに入学金だけで良いのかしら? その様子だと授業料も払えないのじゃないかしら?」
「そ、それは……そうかもです」
入学金だけで一杯一杯なので、プリムラは授業料まで考えていなかった。
「それじゃあ入学金だけでなくて、貴族院にかかる費用を卒業まで面倒を見て上げるわ」
「えっ?! 良いのですか?」
「ええ。その代わりに返済までは息子の面倒を見て上げて欲しいわ」
「ま、まあその位なら……」
「それから返済期間は卒業した2年後にしましょう。利子はアリエル公女殿下に免じて無利子で良いわよ」
「わぁっ! それはありがたいです!」
「それで担保を設定しましょう」
「担保?」
プリムラは嫌な予感がした。
「卒業した2年後までに返済できなければ、息子の嫁になること」
「ええっ!?」
「ぐふふ! プリムラちゃんと一緒に貴族院に通える! お金は返さなくて良いからね。僕のお嫁さんになるんだから!」
「耳を揃えて返すから、それはないから!」
プリムラは貴族院に通って聖女になって、プリンセスになれば返済なんか余裕だろうと契約書にサインした。
泡姫 「トレニア、お節介が過ぎるわよ!」
トレニア「こうでもしないと『イベント・フラグ』が立たないそうよ」
泡姫 「だ、誰からの差し金かしら!?」
テオ神が笑ったような気がした。
次回の話は翌日の19時になります。
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