011話 プリムラ(義母)の貴族院の入学試験と入学金
泡姫がヴィンスと仲を深めていたその頃、泡姫の義母だったプリムラは、貴族院の入学試験を受けて結果発表に来ていた。突貫工事の様な勉強の仕方だったので不安に駆られている。発表がある掲示板の前で手の平を合わせて神仏に拝んでいた。
「神様、仏様。私が貴族院の入学試験に合格しますように!」
泡姫だったら、ここはテオ神に祈るべきではと言いそうだ。
「結果発表を掲示するぞぉっ!!」
貴族院の職員が校舎から出て来て、掲示板に結果の書かれた紙を貼り出して行く。プリムラは逸る気持ちを押さえて、ゆっくりと自分の番号を追って行った。
「……七百九十一番…七百九十二番…七百九十三番…………ないっ!! 私の七百九十四番がないわっ!! うわぁぁぁぁん!!」
プリムラは地面に突っ伏して泣き出す。しばらくして発表を見る人が疎らになると声が聞こえて来た。
「うへぇ! 俺、補欠かよ!」
「補欠で受かっただけマシだろ! 俺は駄目だったから親の商売を継ぐよ」
男子が2人して掲示板の端の方で騒いでいるので、プリムラは涙を拭きながら掲示板の端を見た。補欠として番号がいくつか上下に並んでおり、その一番上に自分の番号の七百九十四番があったので驚く。
「う、受かっていた!」
職員が校舎に戻ろうとしているのを捕まえて聞き出した。
「す、すみません! 私、補欠で受かって一番上に番号があるのですが、どうすれば良いでしょうか?」
「君、補欠で受かったんだね。おめでとう……いや、まだお祝いすべきじゃないか。まあでも例年だと合格者の何人かは辞退するので繰り上がりで受かるかもね。上から順番に受かる権利があるから良かったじゃないか。自宅の方に連絡が行くはずだよ」
「や、やった~っ!!」
プリムラは自宅の冒険者食堂に帰って、数日間は心ここにあらずと言った感じで過ごす。手紙が配達されて来て、貴族院からの封書だと知ると、母親から奪うようにして受け取って封書を破って中を確認した。
「ほ、補欠合格した!! やった~っ!!」
「あらぁ、おめでとうプリムラ。今夜はお祝いしないとね!」
「ありがとう! お母さん!」
封書に書かれていた日時に貴族院へ入学手続きに行くと、職員に告げられて衝撃の事実が発覚した。
「1週間以内に残りの金貨十八枚を収めないと、辞退となって補欠下位に権利が移ります」
「にゅ、入学金のお金が足りない!」
プリムラの貴族院入学計画では、入学試験で良い成績を取って奨学金で一部を賄うはずであった。過去の自分を殴りたい気持ちになりつつ、自宅に戻って両親に泣きつく。
「金貨十八枚とか言われてもな……」
「うちの食堂の売り上げを知っているでしょ? 1日で銀貨二十枚も行けば良い方よ。金貨十八枚って銀貨何枚になるのよ?」
「……銀貨千八百枚」
日本で基礎教育を受けたプリムラは暗算した。冒険者食堂の売り上げ九十日分になるのも計算が出来る。売上であって全部が使える訳でない事も知っている。その売り上げから家族の生活費や、食堂で使う食材の購入費等を捻出しないとならないので、実際に金貨十八枚を稼ぐには、もっと日数がかかるだろう事も。
プリムラは自宅を飛び出した。
「うわぁぁぁぁん!!」
「「ぷ、プリムラっ!!」」
両親に呼び止められるが全力疾走して逃げる。いつの間にか冒険者ギルド前に来ていて、灰色のイヤリングを一緒に見つけたパーティー・メンバーが丁度、出て来る所に出くわした。
パーティーのリーダーである大柄の男性がプリムラを見つけた。
「おっ! 未来のお貴族様のプリムラじゃないか! 貴族院には受かったのか? 俺達は新しい仲間を入れた所だぜ」
「あら、そちらが前のメンバーだった人?」
ローブを羽織って僧侶っぽい恰好の女性メンバーだった。他が全員男性なので鼻の下を伸ばしているのが見て取れた。プリムラは昔の自分のポジションだったのにと心の中で嫉妬が渦巻いた。
「……お金を稼ぎたいから、またパーティーに入れなさい!」
「「「はぁ?!」」」
元のパーティー・メンバーの男性3人があざ笑う。
「お前が自分で抜けて行ったんだろ!」
「そうだ! そうだ! 穴埋めのメンバー探しは大変だったんだからな!」
「オークションで売れたイヤリングの代金を受け取れただけありがたく思えよ。それをまた自分の都合が良いように金を稼ぎたいから、パーティーに入れろとか自分勝手が過ぎないか!」
「ご、ごめんなさい。パーティーが駄目なら、お金を貸して」
「「「ふざけんなっ!!」」」
元のパーティー・メンバー達は新メンバーを引き連れて去って行った。プリムラは地面に突っ伏して泣き出す。辺りの冒険者達は見て見ぬふりをしてプリムラを避けて通った。
「うわぁぁぁぁん!!」
しばらくすると馬車がプリムラの近くを通った。少し通り過ぎた所で止まり、中から泡姫と使用人達が出て来た。ヒロインになる予定だったピンク色の髪の少女が、地面に突っ伏しているのを見かけて降りて来たのである。
「お、お義母さん?」
プリムラは日本語で呼びかけられて、突っ伏していた顔を上げて声のした方を向いた。そこには金髪碧眼のクールな出で立ちの美少女が首を傾げて覗き込んでいた。
「泡姫……なの?」
「そうよ。そこでお義母さんは何をしていたのかしら?」
「う、うわぁぁぁぁん! お金を貸してぇぇぇっ!!」
「アリエル様!」
プリムラが泡姫に飛びつこうとしたので、カルミアが剣の鞘で小突いた。
「ぐほっ!!」
「あ、ちょっとカルミア。乱暴にはしないで上げて」
「し、しかし……」
「アリエル様。平民が公女殿下に飛び掛かって来たのですよ。本来ならば護衛のカルミアが切り捨てても問題ありませぬぞ!」
「それは分かっているのだけれど、彼女は同郷なのよ。話だけさせてもらえるかしら?」
「「「あっ! 了解しました」」」
セバスチャンとリリーとカルミアは、プリムラが転生組だと理解して了承してくれた。安全策として公女殿下が平民にお情けをかけるという風体を取って貰った。セバスチャンからの軽い威圧を受けてプリムラは両膝を地面に付けて請願するスタイルを取らされた。プリムラの内心としては屈辱であるが、背に腹は代えられないので経緯を説明した。ここから泡姫とプリムラは、こちらの言葉での会話となり、泡姫が質問した。
「……プリムラって勉強が出来た設定だったのだけれど?」
「冒険者達にチヤホヤされながら遊んでいました……」
「クエストで街を回れば、かなりお金が稼げたような?」
「そんな面倒な事をやる訳ないじゃない!」
「逆ギレ?!」
「声を荒げるでないわ!!」
「ひいっ!!」
プリムラが声を荒げたのでセバスチャンは本気で威圧を飛ばした。遠くで見守っていた冒険者達も威圧に畏怖したようで震え始める。プリムラは少し粗相をしてしまったようで、同時に涙が溢れた。
「セバス?」
「申し訳ありません。アリエル様」
セバスチャンが威圧を止めると、周囲から溜息が零れた。
「しかし私がお金を貸すのも違う気がするのよね……。あっ! 貸し手なら紹介して上げられるかも?」
「ほ、本当っ?!」
「この通りにある豪邸に住むディステルと言う女傑が、商会を運営しているわ。私の名前を出して良いから貸してもらえば良いわよ」
「あ、ありがとう! これで聖女になってプリンセス一直線よ!」
「……」
現金な物でプリムラはディステルの豪邸に走って行った。プリムラの最後の望みの言葉に泡姫は口を噤んだ。セバスチャンに聖女の件を突っ込まれる。
「聖女の話は否定なされないで、よろしかったのですか? アリエル様」
「希望を潰すものではないわ。セバス」
「左様でございますか」
プリムラ「貴女はお金持ちそうで、そっちが良かった……」
泡姫はプリムラに囁き声で、セバスに視線を向けながら言った。
泡姫 「使用人に暗殺者が居て狙われる予定だけれど?」
プリムラ「う、うわぁぁぁ!!」
次回の話は翌日の19時になります。
作品が気に入って頂けましたらログインして、ブックマークをして更新通知をオンにすると便利です。
また評価等して頂けると作品作りの励みになります。




