その3
「えっと……、あらためまして、お母さ……ん?朝日陽太といいます。なんていうか、メルさんのお世話をさせていただいているというか、その……」
「あら、嫌どすわぁ。お母はんなんて他人行儀な。ウチのことは、リ・リ・ンって呼んでくれてかまわへんえ」
「は、はあ、それじゃあ、リリン……さん」
「もう、いけずやなぁ。さん付けなんて……。でも、そんなウブなトコも可愛いから、それでええわ」
「うひぃっ!」
俺達が何をしているのかといえば、相変わらずカウンターに座ったままである。ただし、先ほどまでと違うのは、隣に座る美女の位置がさらに俺の近くになり、もはや巨大なオッパイが常に俺の腕に当たっている状態である。
そして、そんな状態でさらに美女は俺の乳首を指で弄り倒す。またぞろ妙な声が出てしまったのも仕方ないだろう。というか、もうこれホテルに直行しても絶対にOKな状態だろ!?
だが、そうしないわけ、それは……。
「んふふ~。コーラおいしいよ。ママ」
「久しぶりに会うたから許しますけど、普段はこんな遅くにお菓子を食べたり、ジュースを飲んだらあきまへんえ。まさか、ママから離れたのをいいことに、お野菜食べてはらんのやないどすな?」
「むぐっ……。そ、そんなことないもん!ちゃんと食べてるよ。だって、おやさい食べないと、ヨータがプリン食べさせてくれないし……」
「あらあら、それはそれは……。ええことどすなぁ」
そう、俺と美女……いや、リリンさんの仲が発展しない理由は、リリンさんの膝にちょこんと乗っかっているメルだった。
「けど、陽太はんがええ人で安心しましたわぁ。しかもええ男やし。そ・れ・に」
「あひゃぁん!ん……、あん!」
お気付きであるとは思うが、妙な喘ぎ声を出したのはリリンさんではない。乳首を弄っていた指を股間辺りへと動かされた、俺の声である。
キモいとかの文句は受け付けない。だって、気持ち良いんだもん。いいだろ?男が気持ち良さそうに喘いだって!
「安心しましたわぁ。初めに見た時は、渋い殿方の乗った雑誌なんかが部屋に転がっとりましたやろ?おまけに裸のメルに手ぇも出さへんし、てっきり陽太はんは、そっちの気ぇがあるんやないかと……。でも、こないに元気に……」
「なっ……、んなわけ無いでしょ!あれはあくまで、俺の尊敬するブルースマン達で……。あふぅん!」
いや、喘いでる場合じゃない。今この人なんつった?俺の部屋の状況や、メルが裸で寝ていることも知っていた。そして俺は気付く。そうか!この人も空間を繋げられるんだ。それで俺の部屋を覗き見ていたということか。
リリンさんは当初、俺のことをまったく知らないわけでもないと言った。つまりは、娘が心配で覗き見ていたということだろう。
「事情はわかりました。でも、いくら女性が好きだからって、さすがにこんな小さな子に手を出すわけにはいかないでしょ。そっ、それに、元気なのはリリンさんが弄り回すからで……」
その時だった。不意にメルがリリンさんの膝から降りると、俺の膝によじ登り座ったのだった。
「なっ、なんだメル?久しぶりにママに会ったんだろ。ママと一緒じゃなくていいのか?」
「ん……、べつに……」
なんだろう。先ほどまでと違い、メルはやや不機嫌そうな感じでコーラを飲んでいる。
「ウフフ、なぁるほどなぁ」
「な、なんですか?」
片やリリンさんは、何かを察したように悪戯っぽい目で俺達を見ている。
「心配せんでも、取りはせんのになぁ。ウチはちょこっと、若い男の精を頂きたいだけなんに。メルはよっぽど陽太はんのことが気に入ったんやなぁ」
「は!?いや、メルに嫌われてるとは思いませんけど、さすがにそこまでは……」
「ヨータ、まんなかが出っぱってて、すわりにくい!」
だが、不意に掛けられたメルの言葉に、少しばかり冷静になる。
「真ん中って……。ばっ、馬鹿!これには事情があってだな……!」
「じじょうってなに?」
「ホホホ。そないに元気なんどすから、なんどしたら、ウチとメルの二人で……、いうんはいかがどすか?」
「は!?」
一瞬、頭の中に美女と美幼女の親子丼……、という光景が浮かぶ。だが、俺は頭を振り、慌ててその光景を振り払う。
「さっ、さすがにそんなことするわけないでしょ!悪魔であるリリンさんには、なんでもないことかもしれませんけど……」
「悪魔……、どすか……」
「え……?」
その時、ふとリリンさんの気配が変わったことに気付く。何かマズいことを言ってしまったのだろうか。
「陽太はんは、悪魔とは何だと思いますか?」
「は?悪魔とは……、ですか?」
そんな謎掛けのような言葉に考え込む俺だったが、膝元からの言葉で我に返る。
「ねーねー、なんのおはなししてるの?」
「ウフフ。ちょこっと難しい話を陽太はんとするから、メルは少ぉし向こうで遊んできてや」
「え……、でも……」
「大丈夫どす。別に陽太はんを取ったりはしませんから」
「あ、ああ。そうだなメル、少し店長と遊んできてくれるか?もちろん、仕事の手が空いてたらだけどな」
「むぅ……。わかった」
渋々ながらだったが、いつもとは少し違う雰囲気を感じたのだろう。メルは大人しくスタッフルームへと向かう。店長が暇ならとは言ったが、おそらくは大丈夫だろう。なぜなら、先ほどから興味深々の様子で、物陰からずっと俺達を見ていたからだ。
「さぁて、陽太はんの答えはいかがどすか?」
「あ、悪魔といえば、人間に悪いことをする。人の願いを叶える代わりに、魂を喰らう。それから、自分自身の欲望に忠実に生きる……。とっ、とにかく、神様とは反対の行動をする、そんな存在……でしょうか?」
「なるほど、神とは反対の存在どすか……」
「なっ、何か違ってますでしょうか?」
「いえいえ、解釈いうんは人それぞれですし、今の人間界の考えでは、おおよそ合うとるんではないどすか」
なんだろう。このリリンさんの、奥歯に物が挟まったような言い方は。
「では、神様いうんはどんな存在で?」
「神様は……、信仰の対象であり、信じるものを救う……。とかですか?」
「なるほどなぁ。では、この世界にはたくさんの宗教があり、神様いうんがおると思うんどすが、自分の信じる神様以外の神はどちらどす?それは神?悪魔?」
「そ、それは……」
俺は答えに窮してしまう。自分の感覚では、宗教で祭り上げられているものは全て神様だとは思うのだが、世界ではその感覚の違いのせいで、相手を邪教と罵り合い、歴史上いくつもの宗教戦争が起きているのだ。
「フフフ。なにも意地悪を言うつもりではありませんし、陽太はんの解釈で合うとると思いますよ。ただ、少ぉし付け加えておくなら、この国にはたくさんの神様がおりはりますやろ」
「ええと……、八百万の神……、のことでしょうか?」
俺だって詳しいわけではないが、まあ普通に生活してれば名前くらいは聞くだろう。
「ええ。大地、水、火、風、木、精霊……。この国は本当にたくさんの神様がおられます。そのへんの石ころにさえも……。そして、そん中には荒ぶるモンもな」
「荒ぶる……、ですか?」
「ええ。大地を震わせ、嵐を起こし、洪水を起こす……。人から見れば悪魔と呼ばれてもおかしくない、そんなモンですら、昔から人は信仰の対象としてきたんどすなぁ」
確かに、俺だって聞いたことはある。各地の祭りだって、元々はその土地の神様に捧げるものだったらしいし、荒ぶる神を静めるために、生贄の儀式だってあったことも。
「だんだんと大きな宗教に組み込まれて行きましたが、眷属なんかにしてうまいこと土地ごとの神様を生かしてきたんどす。それが、この国の宗教が大きく発展した理由やろなぁ」
「はぁ……。でも、それがいったい……?」
たしかに、リリンさんのいうことはわかる、だが、それが悪魔とどのような関係があるのだろう。
「同じことどす。ただし、ウチ達が組み込まれた宗教は、神様は一人のみ、それ以外に信仰される存在は認められへんかった。祈りを捧げるミサはサバトに、土地ごとの神様は悪魔に、宗教は邪教へと変わっていったんどす」
「…………。じゃ、じゃあ、リリンさん達は本当は神様……?」
唖然とした。そうならば、やはり価値観の違いというだけで、リリンさんやメルは神様ということではないのか?
「そんな大げさなもんやあらしません。けど、ウチを信仰する人らも少なからずおりますし、そういう意味では、荒ぶる神と変わりはないのかもしれませんなぁ。けぇど、人からどう思われようと、やっぱりウチらは自由奔放に生きるのが合うてますしな。それに……」
言うが早いか、リリンさんは俺のズボンの隙間からスルリと手を入れる。
「ちょ、ちょっと何を!?うわっ!そ、そんな所触ったら……。らっ、らめぇっ!あふっ……、くっ……、い、いい……。あっ、あひぃぃぃぃん!」
「フフ、せっかく好みの殿方に会うたのに、今宵は何もできそうにありませんし、何もせんのも失礼どすしな。メルのお礼も兼ねて、ちょっとしたサービスどす」
「あっ……、ああぁぁぁぁんっ!!」
そして俺は、情けなくも盛大にパンツの中で果てたのであった……。




