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その2

「えへへ、コーラおいしいね」

「まったく、そんな子供向けのお下品な飲み物で喜ぶなんて……。もう少し優雅な飲み物を頂くことはできないのかしら?」

「でも、おいしいよ。ローズちゃんは飲んだことないの?」

「ま、まあ、飲んだことはありますけど……。で、でも、わたくしのような大人の女の口には、少々甘すぎて合いませんでしたわ!」


 そう言いながら銀髪の幼女は、コーラをうらやましそうに見つめながら、ペットボトルに入ったお砂糖たっぷりのミルクティーを口に運ぶ。無茶苦茶ツッコミたいんだが、先ほどから甲斐甲斐しく幼女の世話をする総左衛門を見ていると、そんなことを言ったら本気でキレられそうだし、見て見ぬフリをする。なんでこいつ、こんなにこの幼女に尽くしてんだ?取り巻きの女どもはどうしたんだよ?


 俺達が何をしているかといえば、休憩コーナーの自販機で飲み物を買い、しばしの休息というわけである。まあ、あの場で悪魔悪魔と大騒ぎするわけにもいかないし、少しばかり人ごみから離れたほうが無難だろうとの判断だ。

 

「メルの知り合いってことは、やっぱりローズちゃんも悪魔なんだよな?」


 俺は目の前の幼女を見る。真っ白な肌に、水泳キャップを取った下からは長く美しい銀髪が伸びており、切れ長の目は赤みがかっている。幼児とは思えない大人びた雰囲気は、やはりメルと同じく人間離れしており、悪魔と言われればそう見えなくもない。

 もっとも、メルは美しいんだが、ちょっと愛嬌があるというか、おバカさんな雰囲気を漂わせている。しかし、目の前の幼女は少しばかり大人な……、率直に言ってしまえば、少しばかり冷たい雰囲気を漂わせている。それはけっして、言葉遣いのせいだけではないのだろう。

 

「ちょっと!気安くローズなどと呼ばないでくださいまし。わたくしが認めた容姿を持つ総左衛門はともかく、貴方のような凡庸な見た目の人間風情に、気安く呼ばれる筋合いは無くってよ」

「あ、ああ……。すまん」


 幼女に怒られた……。しかも、凡庸ってなんだよ。そりゃあ俺はけっして二枚目とはいえないし、総左衛門とは比べものにはならないだろう。だが、少しはイケてるかもって希望は持ってたんだよ!

 しかも、横で総左衛門がニヤニヤと笑っているのが気に食わない。ちくしょう、総左衛門のくせに。

 

「わたくしの名は『メルエムローゼス』。高貴なる薔薇の乙女、メルエムローゼスですわ」

「…………」


 今こいつ、何て言った?

 どこぞの少女漫画に出てきそうな二つ名を口にした銀髪幼女は、誇らしげに胸を張る。もちろん、メルと同様にペッタンコなんだけど。

 それよりも、あまりの衝撃に肝心の名前を忘れてしまった。

 

「えっと、エスエムローズ……、じゃないな。エロエムローザ……。じゃなくて、薔薇貴族、エロエロローゼスちゃん……だっけ?」


 やばい単語がいくつか入っている気がするのも、似たような名前のちょっと特殊な雑誌があったように思うのも、きっと気のせいだろう……。


「なっ……、なんてことをおっしゃるんですの!?人のことをエッ……、エロ……とか……。わ、わたくしはそのような破廉恥な女ではございませんわ!」


 てか、おマセなくせに下ネタには弱いようで、顔を赤らめる幼女は可愛かった。ちょっぴり苛めてるみたいで楽しくなってきたが、俺は断じて幼女にセクハラして喜ぶような、変態野郎じゃない。


「お前、ローズになんてことを!!」

「すっ、すまん!悪かった。ちょっと難しくて、覚えきれなかったんだよ」


 だが、幼女とともに物凄い形相で睨んでくる総左衛門に恐怖を感じ、俺はひたすらに頭を下げる。まあ、名前を間違えるのはたしかに失礼だしな。

 でも、こいつってこんなヤツだったっけ?もっと飄々として、他人なんてたとえ女でも、自分がのし上がるための道具だって思っている、血も涙も無いヤツだと思っていたのだが……。

 

「で、でも、メルもローズちゃんって呼んでるじゃねーか」

「フン!このお馬鹿さんは、何度注意しても忘れてしまいますので。もう諦めましたわ」


 そう言いながらローズは、忌々しそうな顔でメルを見る。一方のメルは、毒を吐かれてもニコニコと笑っている。

 なるほど……。俺は何となくだが、二人の関係性を理解した気がした。こいつにとってメルは、一方的にライバル視しても、無邪気に自分を慕って来る、嫌いになれない存在なのかも……。

 

「フン!まあ、下等な人間が頭が悪いのは仕方ないですわ。またその、エ……とかいう下品な単語で呼ばれても嫌ですし、特別にローズと呼ぶのを許してさしあげますわ」


 大人ぶってはいても、所詮はメルと同じお子様なのだろう。


「ああ、さすがローズだ。外見だけじゃなく、心まで驚くほどに美しい……」

「ふっ、当然ですわ。さすが総左衛門、わたくしが契約者にと見込んだだけのことはありますわ」

 

 くっ!悪かったな、頭の悪い人間でよ。いや、それよりも今、こいつ聞き捨てならないことを言ったぞ。


「そっ、そうだ!おい、その契約者って……。お前も総左衛門と、指輪の契約をしたんだな?だったら、契約についての詳しいことを教えてくれよ。メルじゃ話になんなくて……」

「ハッ、契約者のくせに、そんなことも教えてもらってないのか。パートナーに信頼されていないとは、音楽のスタイルと同じで相変わらずダサいな」

「てめぇ……」


 俺の愛するブルースを馬鹿にされたことに、瞬間で頭に血が上る。瞬間的に手を出しそうになるが、俺は新しい武器を手に入れたことを思い出し思いとどまる。

 その武器とは……。

 

「ああ、そうだな。確かに俺のスタイルは古くせーよ。けどな、お前の方こそなにがSoza(ソーザ)だよ。カッコつけた横文字並べてたくせに、総左衛門ってなんだよ。ククク、江戸時代のセンスかよ」


 俺は思いっきり嘲り、鼻で笑って見せる。けっ、今まで俺を馬鹿にした分、たっぷりお返ししてやるぜ。だが、そう思った矢先だった。

 

「ひ、ひいお爺ちゃんの付けてくれた名前を馬鹿にするなぁぁぁぁ!」


 それは驚きの光景だった。スカした態度で人を小馬鹿にし、常に女に囲まれニヤけている姿くらいしか見たことのない俺が、初めて見る光景だった。


「こっ、この名前は、僕が3歳の時に死んだひいおじいちゃんが付けてくれたんだぞ!!それを、それを……」

「い、いや、悪かった。そんなつもりじゃないんだ。そっ、そうだな。俺の名前だって、5年前に死んだ爺さんが付けてくれたとかくれてないとか……。それを悪く言われたら、確かに怒るよな……」

「そっ、そうか……、君の名もお爺ちゃんが……。いや、すまない。取り乱したようだ」

 少しばかり冷静さを取り戻した総左衛門に、俺はホッとしていた。ぶっちゃけ爺さんが俺の名前を決めたなんて話は聞いたことはないが、こいつをなだめるためには仕方ないだろう。しかし、先に挑発してきたのはそっちだぞ。理不尽さに腹は立つが、またキレられてもたまらない。ここは俺が大人になるしかないだろう。

 てか、俺も随分ととっさの嘘がうまくなったもんだ。それもこれも、メルと出合ってからのことだ……。


「それで、契約のことなんだけどよ。お前がこの子を呼び出した……ってことで間違い無いんだよな。つまりは、お前にも思うようにならないことがあったってことか……」


 正直意外だった。人気もあり女にも困っていない。金だってあれだけチケットが売れればそこそこに持っているはずだ。それに、普段の遊興費なんかは全部女に出してもらっているはずだ。そんな奴が、何の不満を抱えているのだろう。

 

「ああ、そうさ。僕は人気も金もあるし、ルックスだって恵まれている。女にだってモテるし、歌だってうまい」


 けっ!なんだよそれ。ちょっと同情した俺が馬鹿みてーじゃねえか。しかも、他は認めるが、歌がうまいということだけは認めん。そもそも、天空飛翔を実質支えているのは、あのバックの連中じゃねえか。

 

「けどね、むなしくなったのさ。群がってくる女だって、しょせんは僕の見てくれやスター性を目当てに寄って来るのさ。だから僕は望んだんだ。本当に心から愛せる、魂を捧げてもいい女が現れることを。僕とローズの出会いは、まさに運命だった……」

「そういうことですわ。この高貴なる薔薇の乙女を前にして、総左衛門はまさに魂をわたくしに捧げたのです。そこのお子様のメルでは、そのようなことはできないでしょうね。オホホホホ」


 高笑いをするローズを、総左衛門はうっとりと眺めている。つーかヤベぇ。こいつ、あれだけの恵まれた境遇にいながら、ガチロリに目覚めやがった……。

 そして俺は、昨夜のライブハウスで見た光景の意味を、ようやく理解したのだった……。

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