Another Lolis Blues もう一人の悪魔? その1
「ね~ね~、はやく。はやく行こうよ!」
「落ち着けって。危ないから走るんじゃねーぞ。それに、プールに入るのは準備運動をしてからだ」
ライブから一夜明けた翌日、俺達はプールサイドにいた。むろん洒落たテーマパークのプールとかではなく、ごく普通の市民プールだ。昨晩予想外の出演料を貰ったとはいえ、別に贅沢できるって程の額じゃない。
とはいえ、これはほとんどメルが稼いだようなもんだろう。有効な使い道を考えた結果、フェミレスで好きな物を食わせた後、プールへ来ることを思い付いたのである。せっかく買った水着を、風呂に入る時だけってのももったいないし、前にこいつに泳ぎを教えてやろうって思ったしな。
「プールなんて久しぶりだけど、いい天気だし、この地面から照り返すジリジリした暑さも懐かしいな」
駆け出そうとしたメルを掴まえ、手を繋いで歩いて行く。最近は自然な態度で接していると思うし、不審者には見られていないはずだ。たぶんだけど……。
平日とはいえ、夏休みの市民プールは母子連れで込み合っている。世のお父さん達の多くは仕事なのだろうし、母親が多いのは仕方ないのだが。
「しかし……」
俺はついつい、お母さん方をチラ見してしまう。いや、大半は『お母さん』って感じの人達なのだが、中には市民プールを勘違いしてんじゃないかって程の、セクシーなカッコをしたお姉さんのようなママもいるのだ。ついつい視線が向かってしまうのも理解して欲しい。ね?俺ってばロリコンじゃないでしょ?
「いや~。市民プールも捨てたもんじゃないなぁ」
「ヨータ、なんかかおが気持ちわるい……」
「ぐっ……」
いかんいかん。つい表情が出てしまっていたようだ。ただでさえ派手なメルと一緒なのだ。目立つ行動は控えなければ。
「いいか、今日はお前を泳げるようにするのが目的だからな。今日の俺は学校の先生だ」
「せんせー?」
「そうだ。ええと、魔界の学校でもいるだろ?体育の授業……になんのか?とにかく、お前に泳ぎを教える先生なんだよ」
「はいっ!わかりました、せんせー」
なんだよ、魔界でも小学校の先生と生徒はこんな感じかよ。少しばかり微笑ましく思いながら、俺はメルに指示をする。
「よしっ。それじゃあ、まずは準備体操からだ」
☆ ☆ ☆
「そうそう、まずは体を真っ直ぐにして力を抜いて……。顔を付けたらバタ足すんだぞ」
「はっ、はなしたらダメだからね!それから、ちょっとしたら水からちゃんとひっぱってね!」
「心配すんな。ほれ、バタ足しろよ」
俺はメルの手を掴み、プールの隅で泳ぎを教えていた。いきなり息継ぎやクロールなんかも難しいだろうし、まずはビート板を使わず前進出来るのが目標だ。
「うぷぷ……、ぷあぁぁっ」
「いいか、膝を曲げるんじゃなくて、もっと太ももから動かすんだ。足全体を動かすようにな。ほれ、もう一回」
バタバタと足を動かすメルを眺めていると、ふと視界の隅に俺達と同じようなことをしている兄妹?が目に入った。
もっとも家族連れで賑わう場所だし、別にどうということはない光景だ。だが、俺が気になった理由。それは、妹?のあまりに日本人離れした美しさと、兄?の後ろ姿を、どこかで見たような気がしたからだ。
「いっ、いいですこと?絶対に離さないでくださいまし!」
「大丈夫だよ。僕がローズの手を離すわけないだろ」
「うっ、嘘ではございませんわね!?じゃ、じゃあいきますわよ」
恐る恐る水に顔を付け、兄に手を繋がれバタ足をする幼女は、メルと同じくらいの年だろう。お嬢様育ちなのか、少しばかり変わった喋り方をする子だった。そういえば、プリキュンの主人公グループに、こんな感じの喋り方をするキャラクターがいたっけ。もしかしたら、アニメの真似をしているのかもしれない。
だが、どこかの国のお姫様という線も捨て切れない。なぜなら、それはその女の子の外見にあった。
雪のように白い肌はメルと同じくらい透き通っているし、メルとは対照的な漆黒の水着は、肌の白さを凶暴なまでに浮き立たせている。水に潜る前に見た顔は切れ長の美しい目と、高く真っ直ぐに通った鼻筋に小さな口で、まるで海外の女優をそのまま幼くしたようだった。
そして極めつけは、その髪である。メルの金髪とは違う、白銀の髪。おそらくは相当に長いだろうその髪を束ね、結わえて水泳キャップの中にしまっているのだろうが、入りきらずに見えている部分は、日の光を浴びて光り輝いている。
なんていうか、年齢的には同じくらいなんだろうが、メルと違い妙に大人びた感じのする子だ。太陽の似合うメルとは対照的に、月光が似合うというか……。
いや、メルだって負けず劣らず可愛いんだがな。
そこで俺はふと我に返る。なんだよ今の感情は。まるで、自分の娘が世界一可愛いって思ってる、親バカみてーじゃねえか。まあ、雨蘭に関しては『俺の姪っ子世界一可愛い』って思ってるけど。
話は脱線したが、あまりジロジロと見ていて変質者扱いされてもなんだろう。とりあえずメルの特訓に集中するか……。と思った矢先、俺は目の前からパシャパシャと聞こえていた音がしないのに気付く。
「げっ!やべっ!」
目の前では、メルがピクピクと妙な動きをしながら小さく動いている。
「うおぉぉぉっ!!」
俺は慌ててメルの手を引っ張り引き上げる。
「すっ、すまん!大丈夫か!?」
「ぶえっ……。げほっ……。ひっ、ひっぱってって……、ごほっ……、い、言ったのに!!うぅぅ……」
「す、すまん!ホントに悪かった。ほ、ほら、とりあえず休憩して、コーラでも飲むか?な!?」
「ごほっ……、コーラ!?うん!」
今にも泣きそうだったメルは、コーラと言う言葉にあっという間にご機嫌になった。やれやれ、やましいことはないとはいえ、泣かれでもしたらそれはそれでやっかいである。
「でも、なんでひっぱってくれなかったの!」
「悪かったって。お前によく似た女の子がいたから、もしかして悪魔なんじゃねーかって気になっちまったんだよ」
もちろん言い訳である。そうそうそこいらに、悪魔がいるはずもないだろう。だが、あまりに綺麗な幼女がいたから見惚れてましたなんていったら、それこそ大きな誤解を生みかねない。ほら、俺の趣味はあくまで、あそこでビキニで日光浴してる、お姉さんみたいなママだし。
「ちょ、ちょっと総左衛門!あなた今、力を緩めたでしょ。わたくしを溺れさせる気!?」
「ご、誤解だよローズ。僕が君に、そんなことをするはずないだろ」
少し離れた場所からは、相変わらず賑やかな声が聞こえてくる。しかしながら、耳を疑うような言葉が聞こえてきた。総左衛門!?なんつー名前だよ。もちろん人の名前を馬鹿にするつもりはないんだが、男の後ろ姿は俺と同じくらいの年齢にしか見えないし、珍しいどころの名前ではないだろう。しかも、口ぶりからはどうも兄妹という感じでもなさそうだ。
俺が気にしているのに気付いたのだろう。メルも声のする方を振り向く。そして次の瞬間……。
「あーっ!やっぱりローズちゃんだぁ。きぐーだね、ローズちゃぁぁぁん!」
あろうことか、メルは二人へと向かい駆け出して行ったのだった。
「うげっ!メ、メルさん……!?」
銀髪の幼女は、メルの姿を認めた途端、今までの言葉遣いが嘘のような下品な声を出して露骨に顔をしかめる。いやお前、この子にいったい何やったんだよ。
だが、メルは相手のそんな表情などどこ吹く風だ。嬉しそうに銀髪の幼女へと駆け寄ってい行く。
「どうしたんだいローズ?お友達でもいたのかい?」
総左衛門と呼ばれた男は、銀髪の幼女の視線の方へと振り向く。
「「うげっ!!」」
瞬間、俺と振り向いた男の叫び声がシンクロした。だって……。
「な、なんで……」
そこにいたのは、総左衛門こと、天空飛翔のボーカル、『ヤツ』であった。




