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その2

「ほれ、パンツ脱いで。そうそう、ここんとこに足を通すんだよ。いやいや、同じ穴に両足入れてどうすんだよ!片っぽずつだよ。まったくお前は……、ホントに着るのは苦手なんだな。そうそう、次はここに腕を通して。よし……、とりあえずはこれでオッケーか」


 俺が何をしているのかと言えば、しつこいようだが幼女のパンツを脱がせて、いかがわしい行為をしようとしているわけではない。いや、むしろその逆、世のロリコン共の視線から、メルを守ってやっているのだと言ってもいいだろう。

 買い物を済ませた俺達が向かったのは、敷地内にあるスーパー銭湯だった。この辺りは、自治体が町の活性化に力を入れているのか、様々な店舗が集合し、ちょっとしたショッピングモールのようになっているのである。まあ、中途半端な田舎あるあるではあるが、日常生活に必要な物ならば、ほぼここで揃えることが出来るだろう。

 しょっちゅうではないが、俺も時々ここの銭湯は利用している。そして特に今の俺達にとってありがたいのは、ここは屋外の露天風呂が男女混浴になっているということだ。それにちょっとした温水プールも備え付いて、水着着用がルールになっている。

 風呂については迷ったが、一般的な銭湯ではさすがにメルを女湯に一人で放り込むのは不安があるし、かといって男湯に一緒に入るのも、年齢的にギリギリアウトな気がする。だからと言って、さすがにバイト先のシャワーを使わせてもらうわけにもいかない。

 結局奥の手として、ファッションセンターで水着を買い、ここへ向かったわけである。

 そして今現在、更衣室でメルに水着を着せている真っ最中というわけだ。

 こんなことなら、世の女子達が極めているという、体育の授業で肌を見せずに着替えるという技術を俺も学んでおきたかったくらいだ。いや、けっして女子の着替えが見たいわけじゃないよ?

 

「おーおー、似合ってる似合ってる」


 風呂用ということで、露出が多い方がいいのかと購入時に少しばかり迷ったが、結局子供らしいものをと選んだワンピース型の白い水着は、美幼女であるメルに良く似合っている。何より、金色の髪と純白の水着が美しいコントラストを描き、白い肌は水着と一体となっているようだ。

 とはいえ、水着を着せるのも一苦労ではあったのだが……。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「馬鹿っ、動くんじゃねーよ」

「なんでみずぎなんて着るの?おフロは、はだかんぼではいるところだよ?」

「だから言ったろ、世の中には変態ってヤツがいてだな……、って、この話はいいか。とにかく、外で裸んぼはダメなんだよ!」


 遡ること少しばかり前、俺は更衣室の片隅で、タオルでメルの体を隠しながら必死で水着を着せようとしていた。正体はともかく、見た目はそこらのアイドル顔負けの金髪の美幼女だ。ここに来るまでにもチラチラと視線を感じたし、男性更衣室に入った瞬間、ギラギラした男共の視線を感じ、更衣室内の人口密度が増えた(気がする)のだ。

 何かあってはいけないし、世のロリコンどもの視線からメルを守る義務がある。俺は妙な義憤に駆られ、こうしてメルのガードをしているわけである。

 だが、俺は知らなかったのだ。周りの男達からすれば、むしろ俺が金髪の幼女に付き纏う変態に見えていたことに。さらには、フロントに幼女を連れまわす不審な男がいると、何件も通報があったということに……。

 そんなことは露知らず、俺はメルを見る不審者どもに目を光らせていた。だが、こちらを見る者の中には、銭湯の従業員らしき人間もいる。まったく、従業員すら信用できぬとは、なんて世の中だ。この変態どもめ!

 だが、前述のとおり彼らが見ていたのはメルではなく俺だったというのを、俺はまだ気付いていなかったのだ……。


 ☆ ☆ ☆


「ふぃ~っ。久々だけど、やっぱり広い湯船はいいよな~。シャワーとは全然違うよ」


 少しばかり落ち着いた頃、俺は露天風呂に浸かりながら、プールではしゃぐメルを眺めていた。どうやら浮き輪が無いと泳げないというのは間違いないようで、貸し出し用のビート版に掴まって、パシャパシャとバタ足をしている。

 その姿はいかにも子供らしく微笑ましいが、はた目には溺れている人間がビート版にしがみついている様にしか見えない。やれやれ、せっかく水着も買ったことだし、今度ちゃんとしたプールに連れて行って教えてやるか。

 

「おいメル、プールはそのくらいにしとけよ。汗を流しに来たんだから、そろそろ頭洗えよ」

「はぁ~い」


 プールにも飽きてきたのか、メルは大人しく返事をする。そして洗い場の椅子にちょこんと腰掛けると、ジッと俺の方を見ている。

 

「だよなぁ……」


 予想通りというべきか、やはり一人で頭を洗えないようだった。まあ、一人で服を着れない時点でお察しだったのだが……。

 まあ、それも想定の範囲内だ。俺はちょっと奮発して買った(あくまで俺の中でだが)女性用の高級シャンプーを手に、メルの元へと向かったのだった。


 ☆ ☆ ☆


「おし、そんじゃあしっかり目ぇつむって、息を大きく吸えよ。そうそう、そしたら鼻つまんで……。よし、いくぞ」


 亀のように丸まったメルの頭へ、温度に気をつけながらシャワーの湯をかける。雨蘭よりも髪が長い分、洗うのも大変だが流すのも一苦労だ。しかし、長い金髪は猫の毛のように柔らかく、正直触っているだけで気持ちがいい。

 俺は10秒程度で一旦シャワーを止めると、メルに息継ぎをさせる。こんなことなら、シャンプーハットも買っておけばよかったか。

 そんなことを3、4回繰り返すうちに、メルの髪に付いた泡もすっかり流れ落ちたようだ。濡れた髪は日の光を浴びて、キラキラと輝いている。

 

「やっぱ、リンスとかもしてやるべきか……」


 メルの髪を眺めていると、さすがにシャンプーだけではもったいないという思いが浮かぶ。とはいえ、今回は用意していないのだから仕方がない。次回の教訓としておこう。

 

「おし、体は自分で……って、これも無理なんだろうなぁ。あれもこれもしてもらうって、お前、どんだけお嬢様なんだよ」


 俺は仕方なしに、タオルでメルの体を洗う。とは言っても、さすがに水着の中までというわけにはいかないので、あくまで手足の露出している部分だけだ。まったく、幼児の肌ってのは何でこんなにプニプニしてんだ?


「おし、そんじゃあ風呂にはいるぞ」


 自分のシャンプーも手早く済ませた俺は、メルと並んでに露天風呂に入る。それにしても、湯に入った生物の本能なのだろうか。メルは気持ち良いのか、呆けた老人のような顔をしている。

 だが、この機を逃せばまたうやむやになりかねない。俺は契約についての核心に触れる。

 

「なあ、それで契約のことなんだけどさ、お前と契約することで、俺はどんな力を得られるんだ?あとは、それに対してなんかデメリット……、要は、何か悪いこととかはないのか?まあ、漫画とかでよくあるのは寿命が短くなるとか、死後お前に魂を取られて永遠に苦しみ続けるとかなんだけど……。これは俺の人生設計に関わる大事なことなんだから、ちゃんと教えてくれよ」

 

 しかし、真剣な表情の俺とは対照的に、メルはポカンとしている。

 

「おっ、おい!俺は真面目に話してんだよ。昨日夜中に軽く弾いた感じじゃ、とてつもないギターテクニックが身に付いたようには感じないし、歌だってうまくなったようには思えない。いったいお前との契約で、俺は何を身に付けたんだよ!?」

「お前はいったい、何を言っておるのじゃ?」


 だが、メルの表情は変わらない。むしろ、ますます意味不明だという顔をしている。

 

「なっ、何って……。だから、お前との契約で得る、特別な能力は何かってことだよ!」

「そんなものは無いぞ」

「は!?」


 メルの言葉に、今度は俺がポカンとする番だった。

 

「な、無いってどういうことだよ!だって、クロスロードの伝説とか、巷に溢れる悪魔の話は、たいてい願いを叶える代わりに魂をって……」

「ふむ……。たしかにそういう悪魔もおるが、我にそのようなことができるはずが無かろう」

「はい!?」


 ペッタンコの胸を張って答えるメルの言葉に、さすがに唖然とする。

 

「じ、じゃあ、俺の寿命は?もうすぐ死ぬってことはないのか?」

「そんなことが、我にわかるはず無かろう。それに、我はお前の魂なんぞに興味はないぞ。我が夢中なのはプリキュンなのじゃ」


 なんてことだ……、じゃあ、こいつとの契約はいったい……。

 

「そ、それじゃあ、お前と契約する意味って……。いったい何なんだよ」

「そりゃあ、人間界で修業をする、我の面倒を見るために決まっておろう」

「…………」


 えーと、つまりは何か?俺は人間界での、こいつのお守り役を自ら買って出たってことか?いや、言い方を変えれば、本当に結婚するって意味にも……?。

 

「こっ、断る!今すぐ魔界へ帰れ!」


 つい興奮してしまった俺は、慌てて周囲を見る。だが、幸いなことに俺達に注目している人はいないようだった。

 そしてそんな俺に、メルは少しばかり驚いたようだった。

 

「か、かえれって……、なんで?メル悪いことしてないよ」

「い、いや、すまん。大声を出して悪かった。けどな、俺がお前の面倒をみてたのは、能力と引き換えに、契約を全うしないと死んじゃうって思ったからで……。でも、別に何も得られないし死なないってことは、このまま契約解除して魔界に帰ってもいいってことだろ?お前だって、パパやママと暮らした方が楽しいだろ?修業は、もうちょっと大きくなってからでも……」


 二日間にも満たない時間だったが、今にして思えばメルと過ごした時間はちょっぴり楽しかった。それにこいつを呼び出したのも、俺の責任だ。

 けれど、やはり人間と悪魔が共に暮らしていくのは無理がある。ここはすっぱりと契約を解除し、元の生活に戻るべきだ。

 よし、風呂を出たら体を拭いてやり、買った服を着せてやろう。そして魔界へと見送ってやるのだ。そう、買った服も全て人間界の思い出として、プレゼントしてやろう。

 

「でも、死んじゃうよ?」

「はい?」

「メルはたましい取ったりできないけど、けいやくのゆびわは、やくそくやぶったらたましいを取るから、死んじゃうよ」

「……、おい、嘘だろ……?」


 唖然とする俺とは対照的に、メルは満面の笑みを浮かべている。

 

「そーいや、まだおなまえきいてなかったね」

「……、陽太だ。朝日陽太」

「ふふぅん」


 俺の名を聞き、メルはさらににっこりと笑う。それはこいつと出会ってから初めて見る、子供らしい笑顔だった。

 

「じゃあ、これからよろしくね、ヨータ!」


 この時俺は不覚にも、メルの笑顔を可愛いと思ってしまったのだった……。

 

 おまけとして、俺が不審者と見られていたことを知ったのはスーパー銭湯を出た直後であった。

 

「あー、キミキミ。ちょっとお話伺ってもいいかな?ああ、疑ってるわけじゃないんだけど、幼い女の子を連れ回している不審者がいるって通報があってね」

「あ、あなたは……」

「あれ?キミは……」


 それは、昨日出会ったポリスマンであった。もちろん、ほどなく俺の容疑が晴れたのは言うまでもない……。

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