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Bathroom Blues 悪魔は混浴がお好き? その1

「うむ、うまいぞ!やっぱりコーラとかいうやつは最高なのじゃ。それにこのハンバーガーとやらも……。むぐむぐ」

「わかったわかった。ハンバーガーは逃げやしないんだから、落ち着いて食え。ほら、口にケチャップがついてるぞ。ドレスに付いたら大変だから気を付けろよ」


 俺は紙ナプキンで、メルの口元のケチャップを拭き取る。

 プリキュンを見終わった後、俺達は店内のフードコートにある、ハンバーガーショップで朝飯兼昼食を摂っていた。予定外の出費に悩んだ俺だったが、この後の行動を考えると、さすがに腹を膨らませておきたい。結局最小限の出費として、100円バーガーと飲み物を注文したのだった。

 しかし、7歳児にこんなジャンクフードばかりを食わせていてもいいのだろうかと、一抹の不安がよぎる。まったく、そんな心配をするなど、これじゃあホントの父親みたいじゃないか。

 だが、あれでいて姉貴は、雨蘭の食事には気を使っているのだ。カップラーメンで済ませようとすれば怒られるし、遊びに来る時は弁当持参だ。もっとも、当然のごとく俺の分は無いし、俺も姉貴の手料理など食いたくも無い。当の雨蘭は、横でカップラーメンをすする俺をうらやましそうに見ているが……。

 そんなわけで俺も自然とそういうことを気にするようになったし、どちらかといえば、孫に甘いジジババぶりを発揮して、俺の両親のほうが甘やかして好きな物を食わせているくらいである。

 

「なあ、お前って、普段はどんなもの食ってんだ?」

「むぐ……、ママの……、むぐむぐ……、ごはん」

「いや、それはわかるんだけど……って、食いながら喋んなよ。てか、悪魔も母親が料理すんのかよ!?」


 少しばかり意外だった。それこそ、悪魔だけに人間の生気とか、欲望とか、はたまた人間そのものを襲って食っているのかとも思ったが、意外にも普通だ。いや、昨日からのこいつの食事を見ていれば不思議はないのか。

 

「そうじゃなくてさ、昨日食ったチーズドリアとか、ハンバーガーやジュースみたいなジャンクフードは無さそうなのはわかった。ほら、例えば、肉がメインだとか野菜が中心だとか、主食は米か麺のどっちかとかさ」


「おにくもたべるけど、おやさいが多い……」

「へ~、悪魔に野菜って意外だな。じゃあ、お前は野菜好きなのか?」


 だが、俺の質問にメルは渋い顔をする。

 

「だって、けんこうにいいからって。おやさいたべないと、ママおこるし……」

「……。そうか……」


 俺は、目の前のジャンクフードを黙って見つめる。うん、やっぱもう少し自炊をすべきだろう。こんな食事を続けて、メルを肥満児にさせたらそれこそ八つ裂きにされそうだし。

 しかし、健康に気を使う悪魔っていったい……。

 まあ、こいつの綺麗さは野菜中心の食生活のせいもあるかもしれないし、今後の食生活の方針が決まったのはいいことだ。

 それに、一人暮らしはどうしてもインスタント物やコンビニ飯が多くなる。俺自身の健康にも良さそうだし……、って、もうすぐ死ぬかもしれない俺に、健康なんて必要あるのか?

 とはいえ、今するべきことは一つだ。食べ終わった包み紙と空になったコップをゴミ箱に捨てると、俺はメルを連れて店外のファッションセンターへと向かったのだった。

 

 ☆ ☆ ☆


「これ!これがいい。それとこれも!」

「だーっ!プリキュンは1枚ずつって言ったろ。ほれ、Tシャツとパンツ、1種類ずつ選べよ。サイズは……、まあ、昨日見た感じじゃコレで大丈夫だろ」


 案の定、メルは下着売り場に並んだキャラクター商品に大はしゃぎしている。開店してそれほど経ってないとはいえ、日曜ということもあり、激安ファッションセンター内は親子連れが目立つ。

 もっとも、女性と子供向けの商品が8割を占める店内だ。俺のような若い男の姿はほとんど見られない。しかも、俺がいるのは女児向けの下着売り場である。チラチラとこちらを見るママたちの視線や、さり気なく子供を俺から遠ざける仕草を見ていると、なんとなくいたたまれなくなる。いや、俺だって好きで女児のパンツ売り場にいるんじゃねーよ!

 

「ほら、決まったか?」

「う~……」


 真剣な表情でプリントされた絵柄を見つめていたメルだったが、やがてメインキャラクターである、『プリティストロベリー』がお尻のあたりでポーズを取っているものに決めたようだ。諦めたほうをワゴンに戻すと、俺にパンツを差し出す。

 意外な聞き分けの良さに、正直俺はホッとしていた。また昨日のように泣かれでもしたら、たまったものではない。

 

「なんだこれ?子供向けのスポーツブラか……。まあ、おまえの胸じゃブラジャーはいらなさそうだし、必要ないか。んじゃ、あとは下着を何着かと、次はTシャツだな。そうだな、この季節なら下は短パンがありゃいいか。あ、でも女の子だし、スカートも必要だな。それに、そのヒールみたいな革靴も暑苦しそうだし、サンダルも買ってくか」


 聞き分けの良さに思わず嬉しくなった俺は、予定外の買い物までしてしまったのだった。

 

 ☆ ☆ ☆


「よし、まあ日常の着替えはこんなもんだろ。さて……。フフフ、とっておきの秘密兵器も買ってかなきゃならないしな」

「ひみつへーき?なにそれ!?もしかして、『プリキュンへんしんセット!?』。メルねぇ、プリティストロベリーのやつがいい!」

「落ち着けよ、変身セットじゃねえよ。ってか、何でそんなもんの存在を知ってんだよ」

「だって、テレビでやってるもん!」

「ああ、コマーシャルな。てか、それ以前に何で魔界でテレビが見れんだ?電波状況はどうなってんだよ。受信料とか払って……るわけねえよな。ま、変身セットじゃねえが、もう少ししたらのお楽しみだ」

「え~、へんしんセットがいいのに……」


 不満そうなメルではあったが、駄々をこねることはなかった。

 それに、入店時はちょっとした不審者を見るような目をしていたレジのお姉さんも、仲の良さそうな俺達の様子を見て警戒を解いたのだろう。レジの奥からずっとロックオンされていた視線も、今は和らいでいる。むしろ、親子にも兄妹にも見えない俺達の関係を、いったいどのようなものかと興味ありげな視線で、チラチラと見ている。

 だが、俺はまだ知らなかったのだ。5分後、レジで会計を済ませる際に、『可愛いお嬢さんですね。妹さんですか?』と、お姉さんがにこやかな表情で問いかけてくることに。

 そして、『え、ええ……、そうなんですよ。ちょっと事情がありまして、半分しか血は繋がっていないんですけど……』と曖昧な返答をする俺に、『何を言っておるのじゃ?お前と我は契約をした仲であろう。ほれ』という声とともに、メルがお姉さんに指輪を見せることに。

 そしてそれを見た瞬間の、お姉さんの引きつった笑顔を俺はしばらく忘れないだろう。

 

「ばっ、馬鹿、メル!じょ、冗談ですよ。いっ、妹は俺のこと大好きなものですから。いやぁ~、あはははは……」

 

 俺は昨夜のように、メルを小脇に抱えて慌てて店を後にしたのだった。

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