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その2

「な、なあ、急がねば。早くせねばプリキュンが始まってしまうぞ!」

「慌てるなって。このまま行けば、3分前には到着するはずだから。それに、スピードアップしようにもお前の足の短さじゃ、これが限界だろうがよ。なんなら、おんぶでもしてくか?」


 洗面所で簡単な身支度を済ませ、黒いドレスを着せて俺達が向かった先は、近所のホームセンターだった。

 周りの家電量販店などは10時開店がほとんどである中、差別化を図ってのことなのか、ここは9時半から営業している穴場なのである。

 おまけに、家族連れを取り込もうと意識しているのだろう。家電コーナーでは大小様々なテレビ画面が一斉に、これから始まるプリキュンの予告をしている。


「な、なにこれ!?おっきいテレビがいっぱいあるよ!それも、ぜんぶプリキュンがうつってるよ!」


 おそらくは、こんな大量かつ大画面のモニターなど見たことは無いのだろう。メルは間もなく始まるプリキュンに胸を躍らせ、どの画面を見たら良いのか、顔を上下左右に振って悩んでいる。

 

「フフフ、ならば教えてやろう。狙いはコレだっ!」


 まあ、別に俺が何をしたわけでもないのだが、狙い通りのメルの反応に俺も若干ノリノリになり、この店で一番大きなモニターを指差す。それは、メルの身長よりも大きなモニターだった。その時である。

 

「みんな~。テレビを見るときは、部屋を明るくして離れて見てね。さあ、準備はいいかな?それじゃあ行くよ!愛と勇気が世界を救うの。レェッツ、プリティ!」


 10時の時報と共に、画面の中からプリキュンが全国の幼女達に笑いかける。いや、穿った見かたをしてしまえば、金蔓となる大きなお友達に媚びて笑っているのかもしれないが……。

 いやいや、さすがにそれは考えすぎだろう。メインキャラクターのセリフが終わると、もはや俺の頭の中には曲と同時にコード進行が浮かぶほどに聴きなれた、オープニングソングが流れ始める。

 いつの間に取り出したのか、プリキュンステッキを握ったメルは、それに合わせて歌いながら腰をフリフリさせ踊っている。

 さすがに気恥ずかしいのでやめさせようと思うが、良く見れば周りには、同じような幼女が何人もいる。

 つーか、あれほど外で出すなって言ったのに、こいつは何を聞いてたんだ?

 だが、幸いにも周りが同じような幼女ばかりのため、目立つことも無く、それに気付いた人はいないようだった。

 さらにその周りにいるのは、そんな幼女の親達なのだろう。我が娘の微笑ましい様子を見守る人もいれば、お守りをテレビに任せ、ここぞとばかりに自分の買い物へと向かう人もいる。

 娘と手を繋いで見ている父親もいるが、さすがに俺にそこまでの勇気は無い。かといって、目を離して買い物に行くのも少しばかり不安だ。

 俺は結局、自販機で缶コーヒーを買ってくると、少し離れたベンチで番組が終わるのを待った。何気なく周りを見渡せば、似たようなことをしているお父さんが何人かいる。

 その中でも、メルの美少女(美幼女)っぷりは群を抜いているようで、チラホラと周りの視線を感じる。

 まあ、注目はされていても特に幼女を狙う不審者もいないようだ。もっとも、この中で一番の不審者は俺なのかもしれないが……。

 う~ん。なんとなくだが、娘を心配する世のお父さん方の気持ちがわかってきたぞ。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「みんな~。今週の『プリティ☆キュンキュン』面白かったかな?来週は、『気になるアイツは敵?味方!?魔界からの転校生、ダークプリンス登場!』だよ。それじゃあまた来週会おうね。レェッッツ、プリティ!!」


 まもなく10時半になろうかという頃、盛大にネタバラシをしながら、次回予告が終了した。それと同時に幼女の群れは家族の下へと駆けて行き、楽しげにこの後の予定を話している。

 メルも満足したのだろう。俺の方へと駆けてくる。いつの間にしまったのか、ステッキはすでに握られていない。てか、むやみに出し入れしないように、もう一度注意しておく必要があるな。

 そんな明らかに親子でもなく、かといって兄妹にも見えない俺達にやや不振な目を向ける人達もいるが、オドオドしていれば帰って怪しい。俺はさも仲のいい兄妹ですよというアピールをして、メルを迎え入れる。


「なあなあ、ここは凄いところなのじゃ!大きなテレビで、プリキュンがいっぱい見れるのだぞ!」

「そうだろう。ここはこの町のDIY好きが知る、穴場中の穴場だからな。って、今日の目的はプリキュンだけじゃない。お前の着替えを買ってかなきゃならないんだからな」

「きがえ……?」

「そうだ。いくらなんでもそのドレスとパンツ一枚だけってのはどうかと思うし。それに家の中なら俺のシャツでも何とかなるだろうが、さすがに外に出かけるのにそうはいかねえだろ」

「おきがえ!?メルねぇ、メルねぇ、プリキュンの絵がついたやつがほしい!」

「ぐっ……。わかったわかった。ただし、キャラクターの付いたやつは高いから、シャツとパンツ1枚ずつだぞ。それに、お前はいいかもしれないが、俺は昨日の昼から何にも食ってねえんだ。買いもんしたらさっさと帰って飯食うぞ」

「ふぁみれす?ふぁみれすいくの!?」

「ばっ、馬鹿言うな。ファミレスは時々だよ。そんなに金は無えんだよ!」


 期待に目を輝かせるメルには悪いが、そうそう外食するような金は無い。いや、正直腹ペコだし、今すぐ店内にあるフードコーナーに直行したいくらいだが、昨日の散在があるうえに、これからメルの服を買わねばならぬのだ。帰って備蓄品で我慢するよりあるまい。

 

「とは言え……」


 俺は正直、ここまで目を逸らしてきた現実に目を向ける。その現実とは、目の前のメルの姿であった。

 幼児というのは基本的に代謝が良いため、体温が高い。それは、今朝方全裸で俺にしがみついていた時からも証明されている。いや、けっして俺が幼女の体温をじっくり味わっていたわけではない。それ以前に、雨蘭で立証済みの事実である。

 そして、代謝が良く体温が高いというのはどういうことか。つまりは、大量に汗をかくということである。

 

「やっぱ、風呂は避けて通れないよなぁ」


 目の前のメルの髪は、出会った時のようにサラサラと風になびくような面影は無かった。いや、相変わらず美しい金髪には違いないのだが、今はその髪は汗に濡れぺったりとしているし、黒いドレスは汗を吸って色合いが濃くなっている。さすがにバイト先のシャワーを借りて……、というわけにもいかないだろう。

 

「やれやれ、こんなところで姉貴の偉大さがわかるとはな……」


 幼児の世話がいかに大変か。姉貴がアパートへ連れてきた時や、実家に帰った時に適度に遊んでやるだけの俺とは違い、24時間365日付きっ切りで世話をする苦労は相当なものだろう。そう考えれば、時々(割と結構な頻度だが)俺に預け、酒を飲みに行くのも許容してやるべきか……。

 思えば、俺の両親だって俺を育てるためにそんな苦労をしてきたのだ。べつに、子供たちの未来のため……、なんて大層な考えは無い。そもそもこいつは悪魔だしな。けれど……。

 

「おい、メル」


 俺は興奮状態のメルに声をかける。幸いにも、田舎ならではの何でも揃っているのが売りのホームセンターだし、何だったら一歩店を出れば、周辺にスーパーからコインランドリー、激安ファッションセンター、はたまた健康ランドまでもが密集している。

 

「とりあえずはお前の服を買って……っと。それからお風呂セットを買って、銭湯に行くぞ!」

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