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第16話 おうちに帰るまでが救助です

 旅客船は証拠保全のため、おまわりさん預かりとなった。


 一行は俊蔵とさわこに別れを告げ、蒟蒻号へと戻った。


『さて。我らの仕事も、もうひと踏ん張りだ』


 艦内にいる避難民らを、本来の目的地である関西宇宙国際空港(旧関空)へと送り届けねばならぬ。


 哲人は蒟蒻号の艦内放送を開く。


『これより避難された百八十七名の皆様を、当初の目的地である関空までお送りする。到着は明朝。それまでどうか、我が家と思ってくつろいでいただきたい』


 一呼吸。


『ヨシ、皆の者、おもてなしじゃあ!』


「にょおお!w」


「おもてなしでござる!」


「ン……がんばろう、ね……♡」


     * * *


 春の陽光が降り注ぐ石畳の通りで、次々とのれんが掛けられた。


 星天通り商店街、一斉開店♡


 ある店では湯気を立てる汁物。


 ある店では焼きたてのパン。


 甘味処には団子と善哉、喫茶店には茶と珈琲。


 簡易診療所では体調確認を受けられ、空き店舗には静かに横になれる寝台まで並んだ。


 救助されたばかりの人々へ、陽気になれとは誰も言わない。


 毛布を肩へ掛けたまま温かいスープを飲む者。


 家族へ無事を知らせ、通信画面の向こうと一緒に泣く者。


 何もせず、満開の桜を眺める者。


 腹を空かせた子供に、自分の分まで食べさせようとして叱られる親。


 好きな場所で、好きなように過ごす。


 ただそれだけの時間が、彼らを少しずつ「遭難者」から「旅の途中の人」へ戻していった。


『おかわりはいかがかな』


 割烹着姿の哲人が、大鍋を携えて商店街を巡る。


「いっぱい食うたらええんヨw お上の経費なんヨw」


『左様、遠慮は無用だよ』


 そんなこんなで一段落し、一息つく田楽ガールズ。


 ミラリィは傍らの理仁亜へ視界共有画面を飛ばしていた。


「ン……これが、ソフトパンチャー……?」


「そーヨ。おめー、雑魚をカレールゥにしてもーたのヨw」


「う……加減が、むずかしくって……」


「じゅくれんど:1(素人)やけん、最初は道具つこたほーがええんヨw」


 ワル=キュリアル社アームズ部門製、フルオーダーメイド非致死制圧兵装【ソフトパンチャー】。


 持ち主の出力を常時監視し、打撃を「タヒなない強さ」へ自動的に丸めてくれる、高性能ぬこぱんちグローブである。


 哲人やオカンのように、タヒの六万五千五百三十五分の一歩手前まで目分量で調整できる怪物ばかりではない。


 そんなぶきっちょの認可旅団員界隈では、真面目に売れている人気商品である。


「ミラリィは手加減できるけんど、いちいち加減すんの邪魔くせーからつこてるんヨw」


「ン……あ、雪豹柄、かわいい……♡」


 理仁亜が毛皮パターン一覧を楽しそうに送っていると、二人の間から大きな頭が生えた。


「あのカワイイぬこ手でござるか!? せっしゃもせっしゃもw」


「いや、おめー要らぬのヨw」


「なっ!? い、いるでござるっ! 拙者も可愛いのほしいでござる!(´;ω;`)」


 ドッタンバッタン♡


『これこれ、食器が落ちるから暴れないでくれたまえ』


「にょおお! おめーのせいで怒られたんヨ!」


「せっしゃのせいではござらぬ~(´;ω;`)」


「ン……しずかに、みよ……ねっ?」


 仕方なく三人で画面を覗く。


 採寸。出力測定。毛並み。肉球色。関節保護。衝撃制御。対熱。対寒。耐圧。防汚。自動修復。


 そして、標準見積もり。


 五百万s¥より。


「…………huh?」


 ふとましいぬこになるコラーダ。


「ご、五百万でござるか!? 手袋でござろう!?」


「言うて、これ”そうび”なんヨ、それぐれーすんのはとーぜんなんヨw」


「そ、そんな大金もって居らぬでござるぅ~(´;ω;`)」


「ン……? そういえば、コラーダさん……賞金、は?」


「にょおお。そーいやおめー、ショタ狩ったけん、リザルトはいっとるんヨ?」


「しょ、ショタなど狩ってござらん! とはいえ拙者も団員の端くれ、幾ばくかは頂けてるかもしれぬでござる」


 コラーダは今回の任務結果を開いた。


 討伐報奨ほか、合計。


 一〇億三〇〇〇万s¥+α。


「…………huh?」


 本日二度目♡


「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……十億!?」


 最大の内訳は、特別指名手配対象【ジェネラル】討伐報奨。


 一〇億s¥。


「拙者、ショタを討伐した覚えなどござらんが!?」


『最終的に討ち取った者へ報奨が支払われる規定だからね』


「おめー横殴りしてタゲもってったんヨw」


「納得できるような、できぬような!」


「ン……? 残りの、端数……は、何だろう、ね?」


「は! 確かに細かい部分もござった! いや、これだけでも十分高額でござるが!」


「にょほほ、その内慣れるんヨw」


 リザルトの詳細を開く。


 ベンザ・スマッシュ。


 トリック&スイッチ。


 ブービーフォール。


「…………誰でござる?」


     * * *


 救助作戦の最中。


 船内で迷ったコラーダは、お手洗いを探していた。


 懸命に救助活動に集中していて麻痺していた尿意は決壊寸前。


 膀胱内は超新星爆発寸前であった。


「ほああ! ほわー! ほぉあああ! 爆ぜる! 爆ぜるでござるっ~(´;ω;`)」


 内股気味のひよこ走りで船内を駆け回り、何とか発見。


「渡りに船ならぬ、厠に便座でござる!」


 急いで個室へ飛び込み、いざ便座へ向かい合おうとした、その時!


「やぁ(クモさんスッ♡)」


「ほ、ほぎゃ!」


 デカすぎんだろ……と愚痴りたくなる程の蜘蛛軍曹が突然鼻先に現れる。


 その拍子に思わずのけぞったコラーダ。


 限界を迎えた膀胱から圧縮シッコ・ビームが放出される!


 プッシャオウ!


 コラーダのパワーレシオは80倍。


 当然、膀胱内部も途轍もない力で圧縮されている。


 そのコンプレッサーから放たれたシッコは超高圧水流カッターと化した!


「ピスッ♡(ズドム♡)」


「嗚呼……、せっしゃ、またヤッ♂てしまったでござるぅ……」


 シッコ・ビームは眼下の便座を打ち抜き、直接下水へ流れ込んだ。


 この時、便器に擬態していたローグ、ベンザ・スマッシュへ直撃。


 見事急所を打ち抜いた。


「あうう……ともあれ、お掃除しておくでござる……」


 何も知らぬコラーダは、水たまりを掃除し始める。


 後始末ののち、洗った手を乾かそうとして乾燥機に突っ込むも、作動せず。


「あっ、非常モードでござるか……はしたないがやむを得ぬでござる!」


 びちゃびちゃのまま、先を急ぐコラーダ。


 照明が落ち、真っ暗な区画に差し掛かる。


「はわわ、何も見えぬでござる! 電気電気……おっ! この赤いヤツでござるな!」


 暗みにてぼんやり光る照明スイッチを発見。


 早速手を伸ばすも……。


 コラーダはノブ等に触れるとビリッと来る体質である。


 80倍のパワーを持つボディから途轍もない電力が放出される!


 バチン!


「ほぎゃ! びりっとキターでござる!><」


「ぎ!(バリバリ♡)」


「あ! スイッチが壊れたでござる……ご、ごめんなさいでござるぅ~(´;ω;`)(ピューン♡)」


 この時、液状ボディを持つバイオロイドローグ・トリック&スイッチが擬態していた。


 彼は電気ねずみ10匹分が放つ10まんボルトに匹敵する電圧を喰らい感電死。


 そのまま炭化し、排気ダクトへと吸い込まれていった……。


 照明スイッチを破壊したコラーダは逃亡を企てた!


 慌てて船内を疾駆、角を曲がった、次の瞬間。


 ゴイン♡


 と、何かを蹴飛ばしてしまった。


「はわわ! 何か蹴っぱぐってしもうたでござる!」


 驚いたコラーダが蹴飛ばした清掃用バケツは、80倍のパワーによりマッハ7に達し。


 天井に張り付いていたブービーフォールの後頭部へ命中。


「み゜っ♡」


 頭部に致命的な致命傷を受けた罠師は、自分で張った落とし穴へ落ち。


 自らの槍で串刺しになり死亡。


 それを検知した落とし穴が自動的に消滅。


 ** いしのなかにいる **


     * * *


「拙者、本当に迷子になっていただけでござるのに……」


『バトルログ上では四キルだね。見事なワザマエだw』


「全員巻き添えなんヨw(ゲラゲラ)」


「ンン……すごい、ね……(ニガワライ)」


 直接戦闘能力、依然不明。


 偶発殺傷能力、異常♡


「にょほほwとりま十億ちょいあるけん、七百五十万くらい誤差なんヨw」


「……せやなでござるな!」


 よくない納得をしたコラーダは、三毛柄を選択。理仁亜は雪豹柄。


 両者とも、オプション全部盛り。


 一組、七百五十万s¥也♡


「かわいいでござる♡」


 こうして一人の宇宙人の金銭感覚が、五分で壊れた。


     * * *


 腹が満ち、皆の顔色が戻ったところで、一行は希望する避難客をサマーセクションへ案内した。


 青い海。

 白い砂浜。

 風にそよぐ稲穂。

 海岸沿いのお宿型レストハウス。


 哲人は【うぇみの家】の店主となり、ミラリィは引き続き給仕。


 理仁亜とコラーダは、子供たちのお相手兼安全監視員である。


「コラーダちゃん、こっち!」


「次はスイカ割りでござる!」


「先にお城つくるの!」


「拙者は一人しかおらぬでござるぅ!」


 子供と同じ勢いで砂浜を走り回る。


 理仁亜は海辺に立ち、誰より穏やかな顔で全体を見守っていた。


 大人たちは田園風景を眺め、食事を取り、畳へ横になって眠った。


 何かを楽しむ必要などない。


 安全な場所で、何をしてもよい。


 その贅沢を、昼いっぱい味わった。


 夜には大輪の花火が、ドーム一面へ咲いた。


 大型花火はホログラム。


 手元でぱちぱちと爆ぜる花火だけは本物である。


 火と煙と匂いを残し、安全を損なう大きな火薬だけを光へ置き換えた。


 浜辺には夏野菜と魚介を山ほど並べたバーベキュー。


 食後は温泉。


 最後は大広間で宴会。


『私は飲まぬのでな。いただき物だが、遠慮なく空けてくれたまえ』


 哲人が死蔵していた贈答酒を放出したところ、百八十七名の中から選りすぐりのうわばみどもが集結。


 ちょっと上等な酒類は全滅した♡


 その頃、蒟蒻号の管理系統は静かに働いていた。


 商店街の人流、飲食店の回転率、休憩場所の混雑。海浜、田園、入浴、宿泊、大規模飲食、夜間催事の利用状況。


 百八十七名が一泊したことで、スプリングとサマーには初めての大規模運用データが蓄積された。


 匿名化を前提にした任意の事後評価も、驚くほど多く集まった。


 評価次第で加算される田楽の任務報酬は、基準額六億八千万s¥。


 どうやら七億前後へ届きそうである。


 だが、その話を聞いた哲人が先に確認したのは金額ではなかった。


『重大事故は?』


「”ゼロです”」


『ならば上出来だ』


     * * *


 翌朝。


 蒟蒻号は関西宇宙国際空港へ接舷した。


 救助者、百八十七名。


 護送完了、百八十七名。


 重大事故、ゼロ。


 MISSION ACCOMPLISHED♡


 乗客たちは家族や空港職員に迎えられ、一人、また一人と帰っていく。


「コラーダちゃーん! またねー!」


「達者で暮らすのでござるぞー!(´;ω;`)」


 コラーダは両腕をぶんぶん振った。


 救助とは、船から出したところで終わりではない。


 本来行くはずだった場所へ、無事に帰すところまでが救助である。


 哲人が最後の一名を見送った、その時。


「お客様ァ――――ッ!」


 空港ショッピングエリアの彼方から、残像が来た。


 ワル=キュリアル関空店、チーフマネージャー。


 雪豹柄と三毛柄のソフトパンチャーを載せたワゴンを押し、質量を持った残像が出そうな勢いで揉み手している。


「このたびは二組、オプション全部盛りでのご注文! 誠に、誠にありがとうございますゥ!」


 九十度。


 戻る。


 また九十度。


「ン……かわいい……♡」


「肉球がぷにぷにでござる♡」


「お連れ様にはこちらの新作ヒールなどいかがでしょうか!?」


「ミラリィは付き添いやけん――ン……これイイのヨ」


 三分後。


 ミラリィ、圧に負けて新作ヒール購入♡


 チーフマネージャーは最後に哲人を見た。


「旦那様には、弊社姉妹ブランド【teki-tou】がございますので……こちらを」


 単色印刷のチラシをペラッ♡


『ほう、丈夫で洗えて安い。これは良いね』


 哲人は普通に喜んだ。


 さらに、星天通り商店街が交易所を兼ねると知ったチーフマネージャーは、目の色を変えた。


 百八十七名規模の実利用実績。

 商業導線。

 利用者評価。

 洋品店区画。

 おまけに田楽一行の旺盛な購買実績。


「でしたら、正規販売ライセンスをお出しできる可能性がございます!」


『それはありがたい。住民や来訪者が正規品を船内で買えるなら助かるよ』


「本部へ私から申請いたしますとも!」


「にょほほw 手袋買ったら店まで生えたのヨw」


 将来、ウィンターセクションが完成すれば、正規データと不足原料だけを運び、船内で製造、検査、販売まで行えるかもしれない。


 だが、それはまだ先の話。


 今は、商店街へ新しい看板が一つ増えるかもしれない。


 その程度で十分である。


 哲人のNavi-OSへ着信が入った。


「“ユリエルです。古代魔導文明関連技術の第一次調査結果がまとまりました”」


 皆の表情が、ほんの少し引き締まる。


『分かった。今から向かう』


 目的地はモモヤマヴィレッジ。


 近畿エリア大学。


『ヨシ、皆の者。出発じゃあ!』


「にょおお!w」


「ン……行こう……♡」


「大学見学でござる!」


 颯爽と飛び立つ蒟蒻号。


 ワル=キュリアル関空店チーフマネージャーが腰を折って見送る。


 一二〇度。


 一五〇度。


 最終的に、一八〇度♡


「またのご利用を、心よりお待ち申し上げておりますゥ――!」


『……ほう、見事な柔軟性だ……』


「企業努力なんヨw」


 助けた人々を無事に送り届け、思わぬ商機まで拾った。


 そして旅は、再び古代の謎へ戻っていく。


 続く♡


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