第15話 事後処理とは、事後に処理することである
戦いが終われば、戦利品を眺める時間である。
「でけーのヨw」
『でかいな』
「ン……でかい、ね……?」
「すごく……大きいでござる……♡」
同じ感想を何度も述べられていたのは、ジェネラルの首から回収された謎のガジェットであった。
大きさは、初代【お遊戯少年】級。
見た目は子供向け玩具と夏休みの工作と古代の祭具を悪魔合体させたような有様だ。
「おたからにしては、きったねーのヨw」
『機能美という言葉に真っ向勝負を挑んでいるデザインだね』
「ンン……これが、お舟を、隠してたの、かな……?」
『恐らくはね。少年の下敷きになって壊れてしまったようだね……補修するか? いや、証拠品だしな……さてどうしたものか――』
哲人のNavi-OSへ着信。
『――おや。噂をすれば、おまわりさんが到着したようだ』
* * *
田楽一行は、旅客船のカッターベイで二人の捜査員を出迎えた。
一人は、少々くたびれた上着を羽織った若い男。
「銀河連邦警察、冥王署強行課の赤池俊蔵です。現場を引き継ぎます」
熱のある眼差しで名乗り、哲人へ手を差し出す。
『旅団「田楽」団長、星永哲人です。お巡りさんも大変ですね』
「いえいえ、これが俺らの仕事っすから。で、こっちが……」
もう一人の女は挨拶より先に、哲人の後ろへ駆け寄った。
「理仁亜!(キュッ♡)」
「さわ……!(キュッ♡)」
唐竹さわこと陸奥理仁亜。
二人は互いへ駆け寄ると、そのまま両手を取り合った。
「……その必要は無さそうっすね」
『我らは同郷の馴染みなのさ』
「久しぶりじゃん! 元気だった?」
「ン……元気、だったよ。さわも……元気そう、だね……♡」
指と指が自然に絡む。
百合繋ぎ♡
「にょほほw 百合百合しいのヨw」
「大変美しい光景でござる! あら~^^でござる!」
『フッ、久しぶりだなさわ吉』
「哲にぃも久しぶり! 理仁亜、やっと凸れんたんだね~w」
「ン……♡(ポッ♡)」
唐竹さわこ。
理仁亜の竹馬の友である。
女学生時代にて共に青春の汗を流した盟友とも呼べる存在だ。
大学卒業後、理仁亜は保護院職員に、さわこは銀河連邦警察訓練機構へと進路を別った。
見つめ合う幼馴染を前に、赤池だけが一瞬、仕事の開始時刻を見失った。
「……さわこさん」
「分かってるって。勤務中、勤務中♡」
口ではそう言いながら、手は離さない。
『おまわりさんになったとは聞いたが、まさかここいらの所轄とはな』
「なんかね~、最初に3匹程ボコったら署長に昇進だよって言われてずっとなんだ~」
「ビビッて厄介払いしたとも言うっすね……(ボソッ♡)」
「ん? 何か言った赤池クン?(ニゴォ……♡)」
「ヴェッ!? マリモ!」
「にょほほw こっちも格付け終わっとるのヨw」
『ンフッw ともあれ、道すがら経緯を説明させていただくよ』
「ヒィヒィ……。あっ、よろしくお願いします!」
* * *
展望デッキへ向かいながら、哲人は事件のあらましを説明した。
コラーダが旧式のSOS光信号を発見したこと。
【アルタイル・ホリデー】が、重力波観測網から丸ごと消えていたこと。
船内へ侵入し、ハイドオーガスの生体通信を【X'】で傍受。
通信波形へ成り済まし、【まるッとサーチャー】で敵の位置を把握したこと。
待ち伏せしていた敵を、こちらが待ち伏せたこと。
「待ち伏せを待ち伏せた……?」
「にょほほw 待ち伏せを待ち伏せるということは、待ち伏せている相手を待ち伏せるという事なんヨw」
「……説明したようでそのままっすね……」
赤池は眉間を押さえた。
そうして救助した乗員・乗客、百八十七名。
全員生存。
被害者はすでに蒟蒻号へ退避し、治療と事情聴取の予備手続きも進んでいる。
「百八十七人、全員……」
赤池が呟いたところで、通路の角を曲がる。
ハイドオーガスだったモノが転がっていた。
上半身は内側から爆ぜ、頭部まで原形を留めていない。
その先にも一体。
また一体。
「どっひゃ~w みんなカレールゥみたいにぐっちゃぐちゃじゃんw」
赤池はしゃがみ込み、遺体を検めた。
「頭部が無いと情報が得られないっすよ……」
死者の脳や神経系には、死の直前まで強く抱いていた記憶が残留思念として残る場合がある。
捜査側からすれば、頭は死者が最後に遺した記録媒体なのだ。
それが、ことごとく無い。
「て言うかこれ、誰がヤッ♂たの?」
さわこが理仁亜を見る。
「…………私」
「あんたまたパワー憑いたんじゃない? 冗談はおっぱいだけにしなさいよ!w」
プルン♡
「ひゃん……!><」
幼馴染の手が、理仁亜の豊かな胸元を下から持ち上げた。
先ほどまで惨劇の主犯だった深淵の魔女は、たちまち肩をすぼめる。
「ご、ごめんなさい……」
「うむ。反省しててえらい♡」
「警察の現場検証って、俺の知ってるものと違うな……」
赤池は立ち上がった。
『気にするな。彼女らの間では昔からこうだ』
「星永さんが慣れすぎてるんすよ」
* * *
展望デッキには、ジェネラルがいた。
正確には、ジェネラルだったモノが。
ほかの個体と違って頭部は残っている。
ただし脳天にはフレキシブル長巻がそそり立っているが。
赤池はその顔を確認すると、息を呑んだ。
「……こいつジェネラルだ。間違いない」
「あのショタ(偽)、そんな大物だったんヨ?」
「ハイドオーガスを束ね、旅客船襲撃まで仕切れるローグです。強行課が何か月も追ってた最重要対象ですよ」
『ふむ、確かに判断力は見事なワザマエだったね』
「それ以外はショボかったんヨw」
「いや、弱くはないっす。相手が悪かったんです」
赤池が証拠採取を終えると、哲人は展望デッキの広い壁を見た。
『む、ちょうどそこに広い壁がある。ここで投影してみたらどうだね?』
「そうっすね」
赤池が取り出したのは、直径十五センチほどの半球。
全周にレンズとセンサーを備えたハイテク風呂桶……。
|死体用残留思念投影装置《ザンリュー☆サトリエール》。
早速ジェネラルの頭へ。
ポコッ♡
「にょおおw 紙芝居は~じま~るヨ~w」
『本当かね、では椅子を借りるとしよう』
「ン……たのしみだ、ね……♡」
「早くおっぱじまらないかなでござる!」
哲人は展望デッキの椅子を並べ始めた。
ミラリィはコスモポーチから自慢の安っぽいお菓子コレクションを取り出す。
さわこも当然の顔で加わり、理仁亜と一袋を分け合った。
「アレ?……これ、現場検証っすよね?」
『記憶を覗くだけだろう? 肩の力を抜きたまえ』
赤池だけが立っていた。
三分後。
赤池も座っていた。
上映開始♡
* * *
映像は砂嵐の向こうから始まった。
若いジェネラルが、薄暗い遺跡を仲間と進んでいる。
宝箱を開けた途端、虹色の光が弾けた。
【にじのきらめき】発動。
毒。麻痺。沈黙。魔力0。石化。死亡。灰化。レベルダウン。
いずれかを無作為に与える、ろくでもない罠だ。
「伏せろ!」
とか言いつつ、ジェネラルは仲間の襟首を掴んで自分の前へ立てた。
「コイツ、仲間を肉壁にしよったのヨw」
『むう、やはりこの判断力は侮れぬな……』
「腐ってるっすけどね……」
虹色の光を浴びた男が、石像へ変わった。
「よし、生きてるな。俺は」
「すがすがしー程のゲスなのヨw」
脱出の途上で怪物と出会い、虎の子の近代兵器を使い切る。
それでもジェネラルは戦利品を抱え、一人で生還した。
手元へ残ったのは、【?おまもり?】と表示された用途不明の品。
それを「ウワマ・エハネール商会」へ持ち込むと、鑑定士は声を潜めた。
「お。にーちゃんアタリだぜw【妖精の隠れ蓑】だ」
「どういう効果があるんだ?」
「こいつを抜刀せずに身に憑けてっと、誰からも見つからなくなるっつー代物さ。あぶねーってんで、ご禁制くらっちまったアーティファクトさ」
ジェネラルの目つきが変わった。
換金すれば大金になる。
だが彼は、ただ売って終わることを選ばなかった。
次の映像。
薄汚れた貨物区画。
その一角に縁日のテキ屋めいたブースがあった。
店頭にはこれまた怪しげな遺物が並ぶ。
そしてそれに混じって、なぜかティッシュや衣服といった、清潔な生活雑貨が並ぶ。
店頭の怪しさに引けを取らない胡散臭さの店主の背後には巨大な美しい結晶が展示されていた。
「ン……綺麗な、宝玉……なのか、な?」
「すごく……大きいでござる(*´Д`*)」
「にょおお、値札憑いとるのヨ? 一、十、万……百万f$なんヨw たけーw」
※f$=フリーダムドル。フドルとも言われる。ローグ達の間で流通している通貨。物理貨幣のみ存在する。お互い報復を恐れてか、偽造する者が居ない不思議な存在。為替は存在しない。一般人からすればケツを拭く紙にもなりゃしねぇ代物である。
『売約済み、とあるね……店主の脇にも小さい石が山積みだな……“1g=5f$”か,ふむ……』
「秤量機も置いてあるでござる! お肉屋さんでござろうか!?」
「にょおお、ティッシュ一箱4500f$! たけーのヨw」
『彼らにとってはそっちの方が値打ちがあるんだろうね』
「真面目に生きてホムセンで買えば良いじゃんよw」
「そこがローグの1番の謎っすよねぇ……」
顔を隠したブラックマーケットの出張バイヤーを前に、ジェネラルは【妖精の隠れ蓑】を机へ置いた。
機能を説明の後、こう告げる。
「ブツはいらねぇ。その代わり、こいつのコピーをくれ」
バイヤーが初めて顔を上げた。
「……面白ぇ。お前、ただの遺跡漁りじゃねぇな」
赤池の手からポテチが止まる。
「な、コイツ……広域手配にあった航宙軍装備横流し犯だ……」
「ンー? そだっけ?(*'ωс'*)(ボリボリ♡)」
「さわこさんはもうちょっと資料読んで……」
「にょほほ……w」
映像はさらに流れた。(bgm:中島みゆき「地上の星」)
ブラックマーケットとの取引。
肉体改造。
手下の獲得。
独立。
ハイドオーガス結成。
一件の犯罪で稼ぎ、稼いだ金を装備へ回し、危なくなれば逃げる。
勝ちきれなくても生き残り、次は前より少し強くなる。
ついには旅客船一隻を襲える組織を築いた。
「こいつ……真面目にやってりゃ、青年実業家になれたんじゃないっすか?」
赤池が呟く。
『彼の不屈の精神なら余裕で可能だったろうね』
「努力の方向音痴でござるな!」
最後の映像。
【アルタイル・ホリデー】を覆う不可視の膜。
悪魔めいたおなごによる、ぬこぱんちグローブ可愛がり♡
ニョーホホホ♡
プニッ♡ グシャッ♡
プニッ♡ ズゴム♡
ヒライテェー(´;ω;`)
それでも逃げるジェネラル。
開きかけた扉。
向こう側に、コラーダの姿が見えた。
ジェネラルがチラッとそちらを見る。
ジジジ……バチン!
映像は途切れた。
全員が、この後に起きたことを知っている。
転倒。
長巻。
残HP98。
かいしんのいちげき♡
「……事故死っすね」
『事故死だな』
「事故死なのヨw」
「ン……」
「……せっしゃでござるか!?」
「そうだね、残念だけど……(テジョウガチャン♡)」
「はわ! 待つでござる違うでござる冤罪でござるぅ~!(´;ω;`)」
警察による死因確認も完了した。
* * *
上映会を終えると、一行はカッターベイへ戻った。
「星永さん。あのバイヤーの情報、俺たちが追っていた供給経路と繋がります」
『ほう』
「ここからは俺らの仕事っす。ご協力感謝します!」
『なに、これも市民の務めさ……おっとその前に、こいつを調べたいのだが』
捜査の仕事は、おまわりさんへ。
哲人の本懐は親父ぃの捜索なのだから。
だが、ちょっと待って欲しい。
証拠品の謎はもう一つ残っていた。
初代【お遊戯少年】型ガジェット。
「アイツが受け取ったっつー代物っすね。警察立ち会いのもとでなら、分解解析を許可します」
* * *
蓋を開ける。
基板を外す。
配線を追う。
中心にあった宝石状の結晶を、田楽の分析機へかける。
「”……【クズ石】ですね”」
地上班から回答が返った。
「クズなのヨ?」
『ローグが使う通称だよ。密輸品を運ぶローグがよく持ってるエネルギー結晶だね』
「そうっす。長らく使い道不明だったっすけど、これで換金用ってわかったっすね」
「ン……じゃあ、すごいのは……石じゃ、ない?」
「”この、内部の文様が重要な機構のようです”」と貴将。
拡大投影された結晶内部には、極微細な立体模様が走っていた。
特殊なパターン。
「”とりま~、コレをジツ式っていうねぇ~(*'ω'*)”」と蔵智。
「”クズ石を基板とすれば、ジツ式はそこへ刻まれた回路。通電する事でサーキットが動くようだな”」と億代。
「それが、周囲を主要な観測手段から隠ぺいする機能だった……すか」
ローグの背後界隈も、アーキテクチャを完全に把握した訳ではない。
それは、お遊戯少年ガジェットに憑いている機能しないツマミから明らかである。
だが、オリジナルを調べて同じ模様を別の石へ刻めば、似た現象が起きることまでは突き止めていた、と判断できる。
「コピペったら、よー分からんけど動いたからヨシ! という事でござるか!?」
「”身も蓋もないですが、その通りです!”」
「”もとより、基盤というのはそういう機械だからな”」
「”カプセル化って~いうんだよぉ~(*'ω'*)”」
設計はできなくとも、複製はできる。
ジェネラルが受け取った【お遊戯少年】は、古代魔導文明の仕組みを、ブラックマーケットの加工技術と外部電源で無理やり動かす実用品だった。
「ジェネラルは使えるコピーを手に入れた。でも向こうには原品と複製方法が残った……すか……」
赤池が腕を組む。
『利用価値を見抜いたジェネラルも大したものだが、知的財産を押さえた胴元が一枚上手だったわけだな』
「ろーぐ・あんど・らいく、世知辛いのヨw」
解体で得られたデータは即座に地上班の元へ。
そして十分後。
新しい機能が返ってきた。
「”という事で対・妖精の隠れ蓑遮蔽フィールド透過機能、名付けて【ピクシーコロリ】です!”」
「サンキュータッカw にょほほw」
「ファッ!? 早くないっすか!?」
「赤池クン、この人たち大体こうだよ?」
「ええ……(ドンビキ)」
『原理と挙動が割れれば、対策は早い。古代の術理を一から設計することはできずとも、発生している現象へ観測側から穴を開ければ良いのだからね』
「いや、だからって秒で出せるモノなんっすかね……(ボリボリ)」
この瞬間。
宇宙さんに広く飛び散ったであろう同一手口による犯罪が白日の下に晒される。
今後、各方面から多数の検挙劇を生み出す事となろう。
【妖精の隠れ蓑】、ナーフ完了♡
だが、この程度で地上班は止まらぬ。
「”にゅふふ~♡ これだけじゃ~、ないよぉ~?(*'ω'*)”」
「”左様。賢台、そして気高き俊英よ。単体では使いにくかろう。そこでこの億代が機能を統合しておいたぞ”」
【ピクシーコロリ】へ、【X'】と【まるッとサーチャー】を統合。
遮蔽を見破る。
内部を観測する。
敵の位置を割り出す。
生体通信を聞く。
波形へ成り済まし、嘘まで流す。
統合アプリ、完成。
その名も――。
「”【ピクシーホイホイ】だよ~♡”」
ピカピカピカ♪
テッテレテッテテーッテテ~♪(青狸ガジェット登場音)
『助かるよ。有難う億代君』
「”フッ、礼には及ばんぞ賢台”」
「いや待って。長いこと追ってた一派が偶然見つかって、百八十七人助けて、一派を壊滅させて、ジェネラルの死体から密売組織の手掛かりを拾って、秘匿技術を分解して、対策アプリまで作ったんすか?」
『正確には、作ったのは地上班だよ』
「”あれれ~? ご先祖が発明家の小賢しいキッズ音の方がよかったかなぁ~”(*'ω'*)」
テーッテテーッテ、テテテテー……テッテン♪
「いや、そういう問題じゃないっす!」
『妖精の隠れ蓑の解析データ、ピクシーコロリ、X'、まるッとサーチャー、それからピクシーホイホイ。警察とお上へ提出しておく。必要ならガーディアンや宇宙軍へ回してくれたまえ』
「ほい」と渡されたデータ一式を前に、赤池は田楽を見た。
「ええ……あ、あざっす……」
「赤池クン、これで捗るから楽でいいじゃん♪」
「いや、そうっすけどぉ……」
「気にしない気にしない♪」
「一休み、一休みなんヨw にょほほw」
『先ほども言ったが、これも市民の務めだよ』
「務めでござる!(*´Д`)」
警察としては、非常に助かる。
同時に、非常に怖い。
素材そのものは、ありふれたクズ石。
珍しいのは、その中へ刻まれていた設計。
そしてブラックマーケット程度の技術力でも、既存の設計なら複製できる。
その事実が後に何を呼ぶのか。
この時はまだ、誰も大騒ぎしなかった。
哲人は空になったポテチの袋を丸め、コスモポーチへ片付ける。
『さて、では我らは撤収するよ、たった今、避難民の護送ミッションがお上から下されたのでね』
「……マジで帰るんすか?」
『うむ。事件は終わった。故に事後処理をした。そして事後処理とは、事後に処理することである』
「哲にぃ、ありがとねぇ~♪ じゃ理仁亜、またね♡」
「ン……♡ さわ、また……ね♡」
『ヨシ! 皆の者、引き上げじゃあ!』
「にょおお!w」
「引き上げでござる!」
かくして、アルタイル・ホリデー襲撃事件の事後処理は完了した。
「……結局、何も説明できてないじゃないっすか!」
……事後処理と言う、事後に処理する事を説明したからええやろw
「よくないっすよ! ナニ見てヨシ!って言ったんすか!?」
フヒヒ、サーセンw
続く♡




