第13話 中途半端なおなご、遭難船を救う
旅団「田楽」が九津木コラーダをメンバーに咥え挿れて、三日。
蒟蒻号の道場にて。
コラーダは一振りの長巻を構えていた。
フレキシブル長巻。
形状記憶ナノマシンによって、長巻、長刀、打刀、太刀などへ姿を変えるスラッシュアk……共用武器である。
身体へ合わせて柄の長さや重心まで調整できるため、使い手を選ばないのが売り……なのだが。
『では、まず振ってみたまえ』
「心得ましてでござる!」
豊かな赤毛をなびかせ、コラーダが踏み込む。
「せぇい!」
ブオンッ♡
刃は立派に風を裂いた。
勢い余った本人も二回転半した。
「ほぉっ♡」
ドイン♡
強振時に空振りした丸っこいやきうアバターが如く尻餅をつきよる。
「おめー、武器に振られてるんヨw」
「い、今のは足場が滑っただけでござる!」
「特注の最高級タタッミなのヨ」
「な、ナニ♂かが落ちとったでござる!」
「ルンピカ♪がちゃんとズオォ♡しよるのヨw」
ズオォ!
ズォォッ!
ドムン♡
ドムン♡
冤罪をかけられた道場担当のルンとしてピカット♪達による怒りの体当たりがコラーダのケツ肉を揺らす。
「ほ、ほぉん♡ サーッセンシッタでござる!(ドムン♡)」
『ミラリィ、そしてルンピカ達。その辺にしておきたまえ』
「にょおお、命冥加なやっこなんヨw」
ズオズオォオ!(チッ、コレグライニシトイタルワ!)
ズオォオン……!(ダンナニカンシャセェヨシッコタレガ……!)
「かたじけないでござる! かたじけないでござる!(ペコペコ♡)はぅ、せっしゃは何でbotに謝ってるんでござるかぁ……(メソメソ)」
哲人はルンとしてピカット♪達をなだめ、長巻を拾った。
……構えている時の姿だけを見れば、得物はよく似合っている。
褐色の肌。
豊かな赤毛。
長身で、身体能力は申し分ない。
元スペースガーディアンとして射撃、救命、船外活動、航空管制、法規、戦術概論まで一通り修め、座学の成績も良好。
丸っこいやきうアバター的に言うと、オールAでエラー回避だけEみたいな感じである。
数字だけなら、「へへ、悪かねぇぜ……♡(良くもない)」である。
しかし、田楽の面々は少々尖り過ぎていた。
哲人は武術と現場判断。
ミラリィは精密極まりない戦闘技能。
理仁亜は、触ったものを大体消滅させる圧倒的火力。
地球側にも、工学の蔵智、解析の貴将、特殊知覚のユリエルがいる。
そして、彼らをたった一人で支え切る主計の億代も忘れてはならぬ。
その中へ置くと、コラーダは――。
「おめー、まじで中途半端なんヨ。ニョホホw」
ズオォw(バーカw)
ズオズオォオ♡(ザーコ♡)
「中途半端って言うなぁーでござる!(´;ω;`)」
大体何でもできる。
だが、何を任せれば一番活きるのか、まだ分からなかった。
『フーム……ところで九津木君。なぜ長巻を選んだのだね? それを使いこなすのはまぁまぁ難しいのだがね』
「はい! この長い柄と大きな刃が……」
『長さと……刃が?』
「たいへん格好良かったからでござる!」
『左様か……うむ。動機は大切だな』
「ほぼジャケ買じゃねぇかてめーwなのヨw(ケツパァン♡)」
「ほ、ほぉん♡(ビクッ♡)ケツ叩くなでござる! こういうのはやはり形から……(。´・ω・)ん?」
コラーダが再び言い返そうとした、その時。
窓の外へ目をやり、ぴたりと止まった。
「隊長。あの光は、何でござろうか」
『光?』
船外カメラを拡大する。
星々の合間で、ごく小さな白い光が明滅していた。
三回短く、三回長く、三回短く。
間を置いて、また同じ明滅。
「は! 光モールス信号のSOSでござる!」
『なんと! ……確かにそうだな、良く発見した! 有子、座標を特定せい!』
「”方位二九七・一、俯角一二。距離、約〇・〇二光秒。発信源ハ姿勢制御ヲ喪失シ回転シテイマス”」
『ヨシ! 有子、進路変更! 直ちに発信源へ急行したまえ!』
「”了解。全速航行ヘ移行”」
蒟蒻号が船首を巡らせる。
「ン……でも、どうして……重力波通信を使わない、の?」
「分からぬでござる。されど救難信号であることは間違いありませぬ!」
誰も使わなくなった古い通信方式。
それを即座に見抜いたのは、ガーディアン課程を真面目に学んだコラーダだった。
中途半端。
裏返せば、広く色々なことを知っている。
* * *
果たして、発信源には中型旅客船があった。
だが、計器類は一切反応せず、何もいない空間である事を示していた。
「”光学補正完了。船籍照合、旅客船「アルタイル・ホリデー」。船体各所ニ損傷。未登録生体反応、多数”」
有子が観測像を補正すると、暗闇から傷だらけの船体が浮かび上がった。
外壁には不格好な機械が数台、吸盤のように貼り付いている。
貴将の顔が通信窓へ現れた。
「“古代宇宙ステーションに酷似した波形を感知しました。重力波通信と観測波を周囲へ迂回させ、船をグローバルネットから遮断しているようです”」
『未知なるジャマーか……旧式の通信方法もかね?』
「“そちらは遮断対象外のようです。今無線にて船体AIと通信を試みました。古い電波やWi-Fiといったデータ通信は可能です”」
「だからSOSだけ届いたのでござるな!」
『何でも覆い隠すものではないという事だな』
旅客船から、かすかな旧式電波が届く。
『“メーデー、船内ヘ武装集団ガ侵入。乗員乗客、百八十七名ガ各区画へ退避中。侵入者カラハ市民コードノ検出ヲ認メズ”』
同時に送られてきた船内映像。
廊下を歩く男の背には、脊椎に沿って異様な瘤が並んでいた。
腕は長く、皮膚の下で別の筋肉が蠢いている。
生身を土台に違法改造を重ねた宇宙暴徒。
バイオロイド系ローグである。
彼らは船内へ逃げ込んだ乗客を、獲物として狩ろうとしているようだ。
『フム、こやつらは手配データベースにあったハイドオーガスだな』
「ン……? 隠れおに……さん?」
『左様、神出鬼没に民間船を襲っては消え去り、証拠を殆ど残さぬ謎多き奴等だったが……』
「こーやって隠れよったのヨ! 尻尾を鷲掴みにした上で斬り落としてヤル♂のヨ!(# ゜Д゜)」
「ン……助けよう」
『そうだな、……さて、九津木君、初仕事だ、いけるかね?』
「勿論でござる!」
「狩る側を狩るんヨ。ニョホホw」
『ヨシ! 皆の者、作戦開始じゃあ!』
* * *
田楽の四人は、アルタイルホリデーAIと連携。
彼女のナビに従い、後部の整備口から侵入した。
外壁を破れば減圧で乗客を危険に晒す。
故に船内図をダウンロード、正常な気密区画から入る。
薄暗い通路には、遠くから金属を引っ掻く音が響いていた。
「にょおお? なんかキンキンしよるのヨ」
ミラリィは耳を澄ませた。
人の可聴域を越えた、鋭い音の連なり。
『ユリエル、ここはキミの耳が頼りだ。……何か聴こえるかね?』
「”了解ですあにさま。……賊がやり取りしてる? ……海獣類かなにか?”」
『フム、エコーロケーションと言うヤツだね』
「にょほほw 相変わらずすげー耳なんヨw」
「なんと! 蝙蝠並み(常人の30倍)ではござらんか! 恐れ入ったでござる!」
「”ふふっ、ありがとうございます。でもその代わりなのか目が悪くて……”」
「ン……眼鏡かけてらっしゃる、のは……そういう、事だったんだ、ね……」
『ともあれ、周囲の観測データを送信する。解析してくれたまえ』
後付けされたイルカのような生体器官。
通常の通信機器を使えば、行政AIに検知される。
そこでハイドオーガスは、肉体そのものへ通信器官を埋め込んでいた。
各人が拾った波形を、そのまま地球へ送る。
「“心得ましたあにさま。……貴将兄者、よろしくお願いします”」
「“データ来ました。……基底波形と変調規則を分離……蔵智さん、お願いします”」
「“にゅ~ん。お任せあれ~”」
ユリエルが聞き、貴将が解析し、蔵智が組む。
離れた地球と遭難船の中で、専門家たちの仕事が継ぎ目なく繋がっていく。
三分後。
全員の端末へ、見慣れぬ二つのアイコンが増えた。
「“生体通信エミュレータ「X'」と~”」
「”発信源表示アプリ「まるッとサーチャー」だ。受信、個別送信、全体送信、発信位置の特定まで一通り可能だぞ賢台”」
「”現地試験はよろしくねぇ~(*'ω'*)”』
「三分で何かまろび出て来たんヨw」
『“あり物を繋いだだけだよ~。バグったらゴメンね~”』
『その時は普通に賊を殲滅するとしよう』
「にょほほ……w」
「筋肉理論でござる!(*´Д`)」
早速両データをインストール。
船内図へ、赤い印が次々と灯る。
ハイドオーガスの位置である。
客室、厨房、展望区画、機関区。
そして脱出用カッター置き場にも、五つ。
『脱出者狙いの待ち伏せか……』
避難民が脱出艇へ集まったところを、一網打尽にするつもりだ。
このまま避難を始めれば、乗客を敵の前へ送り込むことになる。
「にょほほwなら待ち伏せを待ち伏せるのヨw(進次郎構文)」
『そうだなw まず退路を開く。九津木君、旅客船と蒟蒻号の接続を構築せよ。地上班は乗客へ旧式通信で「まるッとサーチャー」を配布後、手分けして誘導してくれ。だが、まだ動かしてはいかんぞ』
「心得ましてござる!」
「”了解!”」
『ミラリィ、理仁亜。私と来たまえ。まずは避難経路を確保する』
「ラジョッ!」
「ン……!」
* * *
カッター置き場では、五体のハイドオーガスが息を潜めていた。
「“獲物どもはまだか?”」
「“焦るな。逃げ道はここしかない。いずれ泣きながらやって来る”」
哲人らは、隔壁一枚を挟んだ整備通路にいる。
「にょおお、早速試してみるのヨw」
蔵智のアプリを開き、ミラリィが喉を鳴らした。
X'が声を生体波へ変換する。
「“獲物がそっちへ逃げよったのヨ。狩りは任せるヨw”」
待ち伏せ班の一体から、すぐ返答があった。
「“ヨシキタ♡”」
五つの赤い印は動かない。
『フム、個別偽装は成功だな』
「ほな、次はワイドの方を実地試験なのヨ♡」
隔壁が音もなく開いた。
待ち伏せていた者たちの背後へ、待ち伏せていた田楽が躍り出る。
「何――」
哲人の掌底が一体の腹へ沈む。
ズゴム♡
「“ほげぇッ!”」
「ンンッ!」
理仁亜の杖が、二体目を床へめり込ませる。
ブッピガン♡
「“お゛っほぉ!”」
残る三体の間を、五色の光が駆け抜けた。
「遅いのヨ」
ドスドスドスッ♡
ピブー♡
「“あっ♡”(パボォン♡)」
「“ひでぶっ♡”(パボォン♡)」
「“グワーッ♡”(パボォン♡)」
五体が倒れるまで、四秒。
そしてその断末魔は、X'を通して敵の通信網へ流されていた。
獲物が向かった。
戦闘が起きた。
悲鳴が上がった。
離れた仲間には、待ち伏せが成功したようにしか聞こえない。
ミラリィが全体送信を開く。
「”ンッ。ニョホホw 待ち伏せしてヤッ♂てやったのヨw”」
「“よくやった。引き続きそこで待機しろ”」
「“くそ、俺もヤリ♂てぇw”」
「“こっちの獲物は何処へ隠れたのかなぁ~?”」
「“へっへっへ、ジワジワ追い詰めてヤル♂ぜ……”」
敵の通信網へ、何の疑いもなく混ざれた。
ただ一人。
少年めいた声だけが、しばし沈黙した。
「“……ン?”」
「“おい、モブーガ”」
「”なんなのヨw”」
「“お前……そんな喋り方だったか?”」
「”そうヨw 前からヨw”」
「“そうだったか……?”」
「”こまけーこと気にしてるからハゲんのヨ、ハゲw”」
「“なっ!? 減らず口を! いいから持ち場を離れるな! 俺様の狩りが終わるまで待機だ!”」
「”了解ハゲ♡ なのヨw”」
「”クソがっ!”」
通信が切れる。
「ニョホホw チョロいのヨw」
『うむ。本人確認も問題ないようだな』
「ンン……そうなの……か、な?」
* * *
カッター置き場の安全が確保された。
ここから先は、時間との勝負だった。
各区画へ隠れていた乗客が、端末に示された経路を進み始める。
赤い印が近づけば止まり、地上班が別の通路へ誘導する。
辿り着いた者を待っていたのは、コラーダだった。
「歩ける方は右列へ! 負傷者とお子殿は左列! 荷物は命に必要な物だけにしてくだされ!」
「母が、まだ後ろに――」
「お名前と部屋番号を! 確認班へ回すでござる。あなたはここで通路を塞がず、次の指示を待ってくだされ!」
「この子、息が苦しいって!」
「酸素吸入器をこちらへ! 次便の最前列に乗せるでござる!」
怪我の程度、年齢、介助の要否で乗船順を組み替える。
到着人数と未確認者を照合し、カッターの重量限界を見て次便を調整する。
泣く子供へ目線を合わせ、混乱する大人へは短い言葉で今すべきことだけを伝える。
走れば転ぶ。
武器を振れば回る。
だが正規ガーディアンとして十二年積み上げた救助の手順は、彼女の中へ確かに残っていた。
『九津木君、蒟蒻号のカッターを全て使え。旅客船備え付けと合わせてピストン輸送したまえ!』
「承知! 第二便、あと二名乗れまする! 歩行困難者を優先!」
カッターが次々と発進する。
蒟蒻号へ到着した避難民は、有子が受け入れた。
医療処置の要る者は治療区画へ。
その他の者は、桜並木と星天通り商店街のあるSpring Sectionへ収容される。
つい先ほどまで死の恐怖に震えていた乗客たちは、暖かな街灯と満開の桜を見上げ、ようやく呼吸を取り戻していった。
救助網は安定している。
哲人は船内図を見た。
残る敵は、まだ多い。
だが、避難場所を離れる者が一人もいなければ、掃討へ人員を割けない。
『九津木君』
「はい!」
『ここは任せていいか?』
問いは短かった。
コラーダは、一度だけ周囲を見渡した。
発進待ちの乗客。
戻ってくるカッター。
地上班から届く新たな避難者情報。
全てを確かめ、胸を張る。
「もちろんでござる!」
『頼んだ』
哲人は、それ以上何も言わなかった。
任せるとは、そういうことだった。
『残敵を二手に分かれて掃討する。ミラリィは右舷。私と理仁亜は左舷だ』
「一人占めしていいんヨ? ニョホホw」
「ン……殲滅、する」
『第一は乗客の安全だ。敵を避難経路へ近づけるな』
「ラジョッ!」
三人が別々の通路へ消えていく。
その背を見送り、コラーダは次のカッターへ向き直った。
「第六便、搭乗開始! 慌てず、されど速やかに願いまする!」
何でもできるが、何にもなれなかったおなご。
その彼女へ、百八十七名の命が任された。
コラーダ攻略、暫定的に前進。
そして遭難船の奥では――。
狩る者を狩る、二つの惨劇が始まろうとしていた。
つづく。




