第7話:喉を焼く偽り
指名をもらい、どんちゃん騒ぎの席で煽る苦手なテキーラ。
それは客と楽しむためでも、夜を愛しているからでもない。
「あの一刻一秒が重い待機席に戻りたくない」――ただそれだけの理由だった。
熱を帯びた店を後にし、午前4時の車内で送信する無機質なメッセージ。
どこまでも平坦な夜の終わりを、私は今日もうまくやり過ごす。
「よし、テキーラでもやるか」
蓮さんがそう言った瞬間、私の心臓は小さく身構えた。
本当のことを言えば、テキーラなんて大の苦手だ。お酒自体そんなに強くないし、あんな強いアルコール、進んで飲みたいわけがない。
だけど、せっかく場内指名をもらって温まったこの場の空気を、自分のわがままで冷ますような真似はしたくなかった。
それに、いくら酔っても、私はそれを周囲に悟らせない妙なポーカーフェイスだけは得意だった。あの一分一秒が長く感じて気が滅入る待機席に戻るくらいなら、ゲームに付き合ってテキーラを煽っている方が、何百倍もマシ。
テーブルの上にサイコロが用意され、どんちゃん騒ぎのチンチロゲームが始まる。
「あ、負けたー!」
わざと大袈裟に声を張って、顔をくしゃっとさせて笑いながら、ショットグラスを喉に流し込む。喉が焼けるように熱い。
満足感なんてどこにもない。ただいつもより少しだけ楽しめている自分がいたのは、この席に特別な何かを感じたからじゃなくて、単に「時間の過ぎるのが早く感じられた」からだった。
恭平さんと静華さんの掛け合いに笑い、蓮さんのスマートな視線を受け流しながら、サイコロを振る。店内のどのテーブルよりも大きな笑い声を響かせているうちに、気づけば閉店の時間はあっさりと訪れていた。
「ありがとうございました」と店の扉まで蓮さんたちを見送って、「お疲れ様でした」とドレスから私服へと着替える。
お店を出て、送りの車に乗り込み、夜風に揺られながら移動する車内。身体に残るテキーラの残像がじわじわと頭を重くさせていくけれど、私の胸の中に特別な余韻なんてものは、これっぽっちも残っていなかった。
悪くはない夜だった。だけど、それは私にとって、場内をもらって、お酒を飲んで、時間をやり過ごしたという「いつもの営業終わり」と何一つ変わらない。
スマートフォンを開き、トーク画面に登録されたばかりの「蓮」のアカウントをタップする。時刻は午前4時を回ったところ。蓮さんから「ありがとう もう行かない」というメッセージが入っていた。
『こちらこそ遅くまでありがとうーー』
私はすぐにそう文字を打ち込み、画面をスワイプする。間を置かずに、もう一通。
『もう行かないとか言っちゃだめ』
いつもの定型文。いつもの距離感。指先ひとつで完結する、夜を生きるための義務的なアフターケア。
送信ボタンを押して画面を伏せたとき、私のなかにあったのは、今日も1日の業務を無事にやり遂げたという、ただそれだけの平坦な安堵感だった。




