第2話:裏切りのネオン
Q. 甘い言葉の裏にある「冷たい値踏みの視線」に、いつ気づくべきだったのか――?
距離感の近さと甘い愛想。
嘘と計算が渦巻く夜の街で、男と女の静かな心理戦が加速する。
大人向けのビターなリアリティを描いた恋愛ストーリー。
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深夜0時を回った頃、歓楽街の熱気はどこか頽廃的な色を帯び始めていた。
1時間の空白を恭平の賑やかなお喋りで埋め、私は約束通り、再び『club MIRAGE』の重いドアを開けた。エントランスのシックな黒の空間に足を踏み入れ、出迎えた黒服に「さっきの礼亜を」と、当然の権利を行使するように告げる。
しかし、返ってきたのは、私の大人の余裕を冷酷にへし折る言葉だった。
「あ、礼亜さんですか? すみません、先程上がっちゃいました」
黒服はそれ以上の詳しい事情など何も知らないといった様子で、平然と頭を下げる。
一瞬、耳を疑った。
帰った――?
百歩譲って、ゴールデンウィークの歓楽街特有の「暇さ」のせいで、店側がキャストを早上がりさせる事情は理解できる。だが、せっかくの指名と売上の提案をよしとし、あれほど私の腕に赤い爪を絡ませて「待ってるね」と言ったのだ。だったら、私が店に戻ってくる前に、そっちから一本連絡を入れておくのが筋だろう。最低限のプロ意識ではないのか。
ポケットの中でスマートフォンが小さく震えた。画面を開くと、未読のままになっていた礼亜からのLINEの通知が滑り込んできた。
『ごめんね〜暇すぎて担当に上がらされちゃった〜送りの車もう出ちゃったから、また絶対来てね〜!』
句読点のない、絵文字とスタンプで装飾されていたであろうその軽薄な文字列を見つめているうちに、胸の奥から黒い怒りがせり上がってくるのを感じた。せっかくこちらの配慮で打った完璧なプロットを、彼女のプロ意識の軽さによって無惨に足蹴にされたのだ。
私は画面を睨みつけたまま、キーボードを叩いた。
『もういいよ』
それだけをぶっきらぼうに返し、画面を乱暴に伏せる。
MIRAGEを出たあと、広めの階段を降りていく。
一歩、また一歩と踏み出す足元。店内の喧騒と安い香水の匂いが遠ざかるにつれ、大宮の夜風が私の熱を容赦なく冷ましていった。
午前0時の興醒めを部屋へ連れて帰るには早すぎる。だが、予定していた美しい夜の続きは完全に崩壊してしまった。このまま恭平と虚しくタクシーに乗り込んで帰るのか? いや、そんな無様な真似はしたくない。この行き場のない熱量と裏切りを、一体どこへ捨てたらいいのか。
階段を降りきり、アスファルトの上に立ち止まる。
見上げた夜空には、月は見えていない。私の視界を遮るように、アスファルトに反射するネオンの光が、まるで私の無様を嘲笑う「嘘吐きの笑い声」のように冷たく歪んで見えた。




