第15話:18時ジャストのケジメ
6月7日に届いた唯月からの長文の謝罪に、既読をつけぬまま放置する私。もう二度と行かない——そう心に決めつつも、迎えた6月9日の彼女の25歳の誕生日当日。私は自分自身の想いとあの日抱いた熱量への「最後のケジメ」として、開店前の18時ジャストに店へお祝いの花束を手配する。そして同時刻、未読のままだったトーク画面を開き打ち込んだ『HAPPY BIRTHDAY Ren』の一言。それは物語を美しく完結させるための儀式であり、冷徹に背を向けた私なりの、彼女の心への最後の反逆だった。
画面に並んだ無数の文字列を、私はただ冷ややかに見つめていた。
6月7日の夜に届いた、彼女からの長文のメッセージ。
そこには、あの日お店の裏側で起きていた段取りの悪さや、彼女自身が抱えていた悔しさが、言い訳ではなく痛烈な謝罪として綴られていた。
だが、私はそれに既読をつけることはしなかった。
スマートフォンをデスクの上に伏せ、大宮の街に沈む夕日に目をやる。もう二度と行かないと決めたから。夜の街の身勝手さにこれ以上、自分の心をすり減らす必要はない。関係は終わった。
そう自分に言い聞かせるたびに、胸の奥に澱のように残る、割り切れない痛みが小さく疼いた。
そして迎えた、6月9日。彼女の25歳の誕生日当日。
火曜日という平日の夕方、私はいつものように自分の日常を生きていた。当然、あの店に足を運ぶ予定など毛頭ない。けれど、私の心のどこかが、このまま何もなかったかのようにすべてを風化させることを拒んでいた。
あの日、彼女のために時間を作り、少しばかり弾むような気持ちで週末の店へと向かったあの熱量――それだけは、偽りのない本物だったはずだ。
私は、自分が彼女へ抱いていた想いの「最後のケジメ」として、お祝いの花束を贈ることを決めた。
それは未練ではなく、私のなかでこの物語を美しく完結させるための儀式だった。
花屋に手配した配達時間は、お店の夜の営業が始まる前の、最も静かな時間。
18時、ジャスト。
時計の針が重なるその瞬間、私は手元のスマートフォンを開き、ずっと未読のままだった彼女のトーク画面をタップした。スクロールすることなく、ただ一番下の空白に、短いメッセージを打ち込む。
『HAPPY BIRTHDAY Ren』
画面に並ぶその無機質なアルファベットは、お祝いの言葉であると同時に、私が彼女に突きつける最後のタイムスタンプでもあった。
私が贈った花は、今頃、店の入り口に届いているはずだ。そしてこのメッセージが彼女の画面に弾ける。
もう二度と行かないと告げた男からの、18時ジャストの贈り物。それを目にしたとき、彼女は一体どんな表情を浮かべるのだろう。これは、冷徹に背を向けた私なりのささやかな反逆であり、彼女の心への最後の賭けだった。
送信ボタンを押し、私は再び画面を暗転させた。
手応えのない沈黙のなか、私はただ、遠い大宮の夜の始まりを静かに見つめていた。




