第14話:涙のあとの咆哮
冷徹な拒絶のLINEに頭が真っ白になり、控え室でドレスを濡らして号泣する唯月。周囲の目もはばからず泣き明かした翌夕、悲しみは激しい「悔しさ」へと姿を変える。大切な客である蓮に対し、無神経で粗雑な対応を繰り返した店と担当ボーイへ剥き出しの怒りをぶちまける彼女。「大切な人に雑な対応をするなんて絶対許せない!」——涙ながらの訴えを経て、彼女は再びスマートフォンを手に取る。19時25分。店への憤りと、彼を傷つけた悔しさ、そして「気長に待ってます」という切なる本音を込めて、彼女は祈るようにメッセージを打ち込んでいく。
「蓮さん!」
息を切らせてたどり着いた店の入り口で、私は彼の背中に向かって声を絞り出した。
振り返った彼の瞳は、私が今まで見たこともないほど冷たく、静かに据わっていた。私の戸惑いや何かを言い募ろうとする視線を一切受け付けることなく、彼はただ一言、冷徹な言葉を私に突き刺した。
「2度と来ないからな」
その言葉を残して、彼は夜の街へと消えていった。
引き留めることも、言い訳をすることも許されないまま、私はただ立ち尽くしていた。時間を作って来てくれたのに、あんな最低な時間を過ごさせてしまった。お祝いの気持ちを、お店の不誠実さで踏みにじってしまった。彼を失ってしまったかもしれないという底知れない恐怖に震えながら、私はすぐにスマートフォンへ必死の思いを打ち込んだ。
『蓮さん着くの遅くなっちゃったりボーイさん女の子の対応とかで嫌な思いさせたよね本当にごめんなさい。理由だけでも教えて欲しい、、』
これでお別れになるなんて、絶対に嫌だった。連絡をくれないかと、祈るように画面を見つめた。
日付が変わって、午前1時。
画面に灯った通知に心臓が跳ねた。けれど、そこに並んでいたのは修復の言葉ではなかった。
『大丈夫』
『もう二度と行かないから』
極めて短く、冷淡な二行。
頭が真っ白になり、パニックのまま『電話かけて良い??』と送ったけれど、拒絶される怖さに耐えかねて、すぐにそのメッセージを取り消した。
控え室の重い扉を閉めた瞬間、私のなかで張り詰めていた糸が、音を立てて千切れた。
涙が、溢れて止まらなかった。
周囲の女の子たちの視線やざわめきなんて、もうどうでもよかった。新調したドレスの胸元を涙で濡らしながら、私はただ声を上げて、長いこと号泣した。悲しくて、情けなくて、胸が引き裂かれそうだった。
泣いて、泣いて、夜が明けてもなお消えないこの悲しみは、翌日の夕方、激しい「悔しさ」へと姿を変えて破裂した。
「……なんで、あんな対応しかできなかったの!?」
私は控え室にいた担当の黒服に向かって、剥き出しの怒りをぶちまけた。
売上が下がるとか、そんなことはどうでもよかった。私のために時間を作り、お祝いの気持ちを持って足を運んでくれた、何よりも大切なお客さんなのだ。それなのに、ボーイが席に着いているにもかかわらず延長交渉を遅らせて待たせ、待機がいるのに態度が悪いヘルプをつけ、極め付けには、チェックを伝えたボーイがすぐ理解せずにヘラヘラと笑っていた。
「歴が浅くて強く言えないからって、ナメるのもいい加減にして! あんなに大切な人に雑な対応をするなんて、人として絶対に許せない!」
声を荒らげ、涙を流しながら叫ぶ私を、担当の黒服はただ気まずそうに見下ろしているだけだった。明日、店長としっかり話してくる。そう心に誓いながら、私は再びスマートフォンを手に取った。
まだ怒りは収まらない。けれど、彼を傷つけてしまった私の力不足が、ただただ悔しくてたまらなかった。
19時25分。
私は画面の向こうの彼に向けて、お店への怒りと、人として雑な対応をされたことへの悔しさ、そして「蓮さんとこのままお別れは嫌だから、気長に待ってます」という心からの本音を、一文字ずつ、祈るように打ち込んでいった。




