第13話:強張った横顔の理由
25歳の節目を祝うため、蓮の言葉を胸に特別に用意したドレスを纏う唯月。火曜日の当日に来られない彼が週末の店に駆けつけてくれた喜びも束の間、店内は過酷な混雑と粗雑なオペレーションに呑み込まれていく。焦りと申し訳なさで心がいっぱいいっぱいになる中、ヘルプが固まる冷ややかな彼のテーブル横を通過する唯月。今すぐ声をかけたいのに、戸惑い焦りきった顔を見せられない——その余裕のなさが生んだ一瞬の「視線の回避」が、二人を決定的なすれ違いへと突き落としていく。唯月視点で明かされる、悲痛な一夜の真実。
鏡に映る新しいドレスは、胸がすくほど綺麗な色をしていた。
「可愛くしなくても光ってる」
スマートフォンの画面の向こうで、蓮さんがいつか何気なく投げかけてくれた言葉が、耳の奥で何度もリフレインする。25歳のバースデー。その節目を祝うための週末に、私はこの日のためだけに用意した勝負服を纏っていた。
それなのに、フロアから伝わってくる空気は、私の焦燥を煽るようにただひたすらに目まぐるしかった。
週末の混雑、お店の段取りの悪さ、他のお客様の対応。次々と舞い込む目の前の処理に追われながら、私の心は別の場所へと囚われていた。火曜日の当日には来られないからと、時間を作ってこの土曜日に駆けつけてくれた、大切なお客さん。今、蓮さんがフロアのあの席で、私を待ってくれている。
一刻も早く席に向かいたいのに、秒針は残酷なほどの速さで進み、私をその場に縛り付ける。私のせいで、大切な人を長い時間待たせている――その事実が、じわじわと鋭い棘のように胸に突き刺さっていた。
一瞬の隙を縫って、私は他のお客様の席を立ち、フロアを横切った。トイレへ向かうその動線の途中に、蓮さんの座るテーブルがある。
近づくにつれて、その席の異常な冷たさが、肌を刺すような緊張感となって伝わってきた。
恭平さんの隣の静華は楽しそうに話しているのに、蓮さんの前にいるヘルプの女の子は、まるで置物のようにただ俯いて沈黙している。なんて酷い空間を彼に強いてしまっているのだろう。申し訳なさと、思い通りにいかない理不尽な状況への焦りが一気に限界まで膨れ上がり、私は完全にいっぱいいっぱいになっていた。
蓮さんの席の前を通り過ぎる、ほんの数秒の刹那。
視界の端に、彼の姿が映る。
今すぐ足を止めて声をかけたい。けれど、他のお客様の対応に追われていてまだ席を抜けられない状況で、こんなにも戸惑い、焦りきっている顔を彼にまともに見せることなんてできなかった。余裕のない今の私には、彼と視線を合わせることすら、酷く高いハードルのように思えてしまったのだ。
強張った横顔のまま、私はただまっすぐに、彼の前を通り過ぎることしかできなかった。
背後で、冷え切った大気の密度がさらに増していくような気がした。
その一歩が、二人の行く先を暗転させる決定的なすれ違いになるとも知らずに、私はただ、焦りの中に身を投じていた。




