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私、このままでは死ねない ~お幸せ令嬢プティの監獄ダイエット~  作者: いのりん


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6.お腹が減って、眠れない



「はー……驚いた」


 メリーさんって、なんだか感情豊かな方だったわね。

 それか、実は平民の方と言うのはあれがナチュラルなのかしら。

 ちょっとしたことで感極まっていたみたいだけど……


「でもまあ、悪い人じゃなくてよかったわ」


 むしろかなり優しいお人好しまである。

 私が自分可愛さについた嘘も、なぜかお父様を庇おうとしたものだと勘違いしていたし。

 それに、コンプレックスの体型について何も言わずに、帰り際には手当てしてやるよって背中に傷薬まで塗っていってくれたしね。まあ、通気口に詰まって壁尻状態になったアライグマを見た時みたいにみたいに、哀れすぎて害する気をなくしただけかもしれないけれど。


「というか、背中って傷になってたのね。いたた……自覚したら急に痛みが」


 これは堪らないと思った私は、周囲の状況を確認し——()()()()()()使()()()()

 ぱああと緑色の光に包まれ、背中の傷があっという間に治っていく。


 そう、これが私とお父様が国に秘密にしている余罪である。


 今この国では、金髪か碧眼以外の魔力持ちって国に届け出て教会の管理下に入らないといけない卑しい存在扱いらしい。なのにお父様ったら「それは大昔、王様や教会のお偉方が異国人や反乱分子を排除するために作った虚構だから、プティは魔力を持っていることを隠してしれっと暮らしとけばいいよ」なんて言うんだもんなぁ。


「まあ、神話よりも自分に都合のいい方の話をあっさりと信じる私も私なんだけど……っと、よし完治」


 と言ったところで、お腹がぐうぅぅっとなった。そういえば、すっごい久しぶりで忘れていたけど、私の『治癒魔力』って使ったら結構疲れるし、お腹もすごく減るんだよなぁ。


 ……ん、魔力を使うと……お腹が、減る?


 パンときた。いや違うピンだ、やっぱりお腹減ってるなぁ……ってそうじゃなくて!

 もしかしてこれ、ダイエットに使えるんじゃなかろうか。魔力を使うだけだから、運動よりも楽にカロリーを消費できる気がする。


「そうよ、自傷と治療と繰り返して……いや、自傷は流石に怖いわね」


 うーん、どうしよう。

 あ、そうだ。これから知り合う囚人にけがをしている人がいたら、こっそり魔力で治療してあげよう。もちろんそこから魔力持ちってバレるリスクはあるけど、自分達に利益があれば黙っていてくれそうな気がするのよね。それに、もしバレたってどうせ一年後には処刑される身だし。


「よしよし、私、今とっても冴えているわ」


 そうと決まれば、明日に備えて今日はぐっすり眠りましょう。


 ……と思ったら、お腹が空いて全然眠れないんだけど!

 なんか、腹の虫もすっごい煩いし。

 これ、巡回に来る看守さんに聞かれたりしないよね!?


 結局、お腹が空いて中々眠れない私は、うるさい腹の虫を黙らせるために枕を全力で腹に押し付け、うーうー声をあげながら横になるのであった。



 ***



 採光カーテン越しに朝の光が入るディスト監獄の署長室。まるで貴族の執務室のように豪奢な調度品が備えられているその部屋で、一組の男女が話していた。一人は煌びやかなローブを身にまとった監獄署長のジェミニ、もう一人は女看守のメリーである。


「——と言うわけで、プティ・ロースターに余罪はなく、父親に虐待されていた事実が判明しました。」

「そうですか、では彼女は予定どおり3日後から一般房に移し刑務作業も開始させるように。」


 ジェミニの言葉にメリーは「えっ」っと声を上げた。


 囚人の処遇について強い権限を持つ彼なら、プティの境遇に情状酌量や恩赦の余地ありと判断して監獄生活に便宜を図ってくれると思っていたからだ。しかし、日ごろ慈悲深い好々爺といった言動をしている監獄署長は今、心底つまらなそうな表情をしている。


「あの、護送中にも手荒に扱われていた様で、昨夜巡回をした時には身体を丸め、声を押し殺して泣いているのをドアの木目から確認していまして……」

「ほう、確かにそれは哀れではあります。しかしそれは恩赦の理由にはなりませんね。この監獄には貧しさや親を失ったなどの事情から罪を犯した者も多く収監されていますから。その全員の生活に便宜を図るわけにはいきません。分かりますね。」

「……はい」

「そしてもし、彼女を救ってやりたいなら父親がまだ何か隠していないか探ることです。それは、彼女が反省し捜査に協力したという実績となりますから」


 ジェミニの言い分は正しく思える。

 だが、メリーにはなにか引っ掛かりを覚えた。


「あの、ジェミニさま」

「なんですか」

「ジェミニさまは私の魔眼について、どう思っていますか」

「……貴女のもつ魔眼は、悪魔の血が色濃く先祖返りしたものです。嘘を見抜くという能力ですし人々から忌避されることも多いでしょう。しかし、この監獄のような場所では非常に役に立つ能力でもあります。神の教えに従い動く我々の下でその力を使うことは贖罪になると、私は思っていますよ。」


 黄鉄色の髪と藍色の瞳を持つ眼前の男からニッコリと笑顔で言われた言葉は、過去にも一度きいたことがあるものだった。その時は、卑しい魔女である自分にも必要とされる場所があるのだと希望を持てた理屈。

 しかし昨日プティから言われた「貴女のことを卑しいなんて思っていない、金髪碧眼以外の魔力持ちだって別に卑しいわけじゃない。羨ましいぐらいだ」という言葉を聞いた後だと、また違う印象になった。


 まるで——そう、都合よく搾取されているかのような。


「さあ、もう下がっていいですよ」

「……はい。失礼しました」


 魔力を使用するのは相応の疲労が伴う。先日、多くの魔力を消費したメリーの顔色は優れなかったが、それに対する心配や、ねぎらいの言葉はなかった。




 そうしてメリーが退室した署長室。

 一人になったジェミニが、ぼそりと呟いた。


「ふむ、娘は『アンタレスの遺産』について何も知らなかったか?当てが外れたな」


 言いながら、ドアに執務中の札をかけカギを締める。

 首に掛けていた大ぶりなロザリオを机の上に雑に投げおき、遮光カーテンを閉めると部屋は薄闇に包まれた。


「それでも、父親に対するカードにはなるかと期待していたが、まさか虐待されていたとは。貴族令嬢にしては髪が短かったのもそのためか。これでは人質としても使えん……今日はもう何もやる気がせんな。愚かな看守もほだされているようだし、何か吹き込まれでもしたか?面倒なことだ。」


 言いながら豪奢な革張りのソファにどさりと腰かける。

 そこにはもう、先ほどまで浮かべていた微笑みはなかった。

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