最終話 最後の断罪
新政府の仕事などよりも、俺はもっと地に足のついた仕事をしたいと思っていた。いや、それは後付けの理由だ。
ただ家が恋しくて、俺は改めて、鍛冶屋の父のもとを訪ねた。
「おう、若いの、また来たか。あんた、この間の王政府の断罪のやつだろう? びっくりしたぜ。うちに来て突然泣き出したと思ったら、あんな大それたことをして。今日は何の用だ? 王政府に狙われても追い返せるように武器でも買うか?」
饒舌に話す父に、苦笑いしながら俺は言う。
「あの……不躾で申し訳ないのですが、弟子にしてもらえませんか?」
俺の突然の申し出に、父は目を丸くして驚いた様子だったが、やがて笑顔になって言った。
「あんた、確か、『ユウマ』ナントカって言うんだよな? 何だか、あんたが他人のように思えないんだよな。うちは後を継ぐ子供もいないから、弟子になってくれるってのはありがたい話だ。俺は厳しいが大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
実際のところ、父が厳しいと感じたことなど一度もないのだが。
「ところで、この鍛冶屋の名前って何と言うんですか?」
「『クレイ鍛冶屋』だ。俺の名前そのままだ」
クレイ鍛冶屋……。
「あの、俺、変な話なんですけれど、親がいなくて、ちゃんとした姓がないんです……。俺、ユウマ・クレイと名乗ってもいいですか?」
「え? なんだい。弟子だけじゃなくて、俺の息子にでもなりたいのか?」
そう言って父が豪快に笑う。
「はい。息子にしてください」
俺の返答に、父はまた目を丸くして一瞬驚いたようだったが、すぐにまた豪快に笑った。
「帰るところがねえなら、住み込みで働いたらいい。ちょうど空いている部屋もあるんだ」
「それはありがとうございます!」
「それから……今度一緒に断罪見物にでも行くか」
※
父の鍛冶仕事を手伝っていると、クローデリアがやってきた。
「おお、これはクローデリア様、いつもありがとうございます。今日は何をお探しで?」
「今日はユウマを探していたんです」
「へ? ああ、ユウマ、クローデリア様がお呼びだぞ。仕事なんかやめろ!」
やめていいの?
「クローデリア様、何かご用ですか?」
俺は作業を止めて、クローデリアのほうを見る。
「もう『様』なんてつけなくていいわ。お父様もね。時代は変わったのよ」
「お父様? 俺のことですかい?」
父はなぜクローデリアに「お父上」などと呼ばれたのかさっぱりわからないのだろう。固まってしまった。
「はあ、それで何の用事で?」
俺はクローデリアに尋ねる。
「ただ会いに来ただけよ。悪い?」
「……いえ」
「ちょっと散歩しましょう」
※
「ねえ、ユウマ。私のジークフリート様への提案良かったでしょう?」
「ああ……身分制度を撤廃して、どんな身分の者同士でも婚姻関係を結べるようにするってやつですよね?」
クローデリアが満面の笑顔を見せる。
「私がどうしても王国を変えたかった一番大きな理由はそれだったの。皆が幸せになるには絶対必要なことだと思ったの」
たとえ身分差がなくなったとしても、その笑顔はあまりに高貴で眩しく、どうしようもなく愛おしかった。
その笑顔は、「断罪」でヤジを飛ばし石を投げることなんかよりも、ずっと大事にすべきものじゃないかと思った。
「断罪の罵声! 公爵令嬢を好きになるなんて調子に乗ってんじゃねえ、モブ平民ごときが!」
「何? 突然?」
クローデリアが俺の奇行に驚いて言う。
「ちょっと自分を断罪しました。身分なんて関係なく、俺になんて似つかわしくない、あまりにすてきな人を好きになってしまった罪です」
「……誰のことを好きになったの?」
「……クローデリア様……クローデリア……あなたですよ!」
クローデリアが顔を手で覆う。
そして顔から手を離し、真っ赤になった顔で俺をまっすぐ見る。
「私もユウマのことが好き。大好き。初めて私を救ってくれたときからずっと」
俺は思わずクローデリアの手を取り、そして抱きしめた。今度こそ本当に何の躊躇いもなく、力いっぱい。
クローデリアも俺の体に手を回して呟く。
「私を悲しませたら、細かく刻んじゃうからね」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
昨今の「断罪」ブーム(?)に、ユウマばりに一石を投じられればと思ってこの作品を立ち上げました。
が、正直なところ、ユウマはどうでもよくて、私のお気に入りは公爵令嬢にして「剣姫」クローデリアです。
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改めて、ありがとうございました!
また、どこかでお会いしましょう!




