第八十一話 新しい時代の断罪
王国への断罪が終わり、俺とクローデリアは聖女エリシアと相対していた。俺たちとエリシアは、王政府打倒の目的は共有していたものの、断罪に対する見解は異なっていたのだ。
「エリシア様、あなたはやはり、断罪制度そのものを廃止すべきと考えているのですか?」
それは、俺にとって、いや、新しい王国にとって、最も重要な問いだ。
「あなたはどうお考えなの?」
エリシアが俺に問い返す。
「……たとえ王政府が断罪をしなくなったとしても、人が集団を構成する以上、多かれ少なかれ、何らかの形で『断罪』は行われるのだと思います。つまり……『断罪』を制度として廃止したとしても無意味だと思うのです。
そうであるならば、少しでも公正な『断罪』ができるように、俺たちは努力すべきだと思います。それでなければ本当に平和な王国にはならないのではないかと」
どうせなら、俺の大好きな断罪見物の趣味を奪わないで、という言葉を飲み込む。
「そうですか……。そうかもしれませんね」
エリシアが穏やかな笑みを浮かべる。
「どのみち王政府を倒したのはあなたです。あなたの好きなようにしたらいいわ」
「……ありがとうございます」
笑みを浮かべたまま、エリシアがひと言加える。
「あなた……聖女の私より女神に愛されているのかもしれませんね」
※
エリシアに任されたものの、俺では王国の運営などできるはずもない。
そこで、投獄された王政府の幹部の中でも、あらゆる政務に精通し、最も清廉潔白に近いと思われる人物に助けを求めることにした。
「ユウマ・クスノキ……。私を解放するのか?」
ジークフリートが信じられないというような顔をする。
「あなたしか頼れる人がいないんですよ。こっちはモブ平民のど素人なんでね。でもちゃんと新政府の方針には従って運営をお願いしますよ」
そうして俺はジークフリートを再び宰相の座に戻した。
宰相ジークフリートは水を得た魚のように張り切り、新しい政治体制や基本制度を考案していった。
今まで国王や王政府の重鎮にうるさいことを言われて、やりたいこともできなかったようだ。
実際、ジークフリートは相当に有能だが、結局おいしいところを持っていかれている気分は拭えなかった。
ジークフリートが概ね案を整理したとのことで、「反断罪戦線」代表の俺とクローデリア、そして聖女エリシアが集まった。
ジークフリートが早速口を開く。
「王家から政治の実権は剥奪、ただし、王政府から実務経験がある数名の代表者、聖教会、平民からも、農民、商人、職人、冒険者、主婦、無職、そして辺境の代表者を無作為に決めて議会に参加させ、私が意見をまとめます。それでも多数決ではまた辺境のようなマイノリティが置き去りになる可能性があります。独裁も多数決もいけません。私は一人でも不幸な王国民を生み出したくないのです。ですから……最終承認者として聖女様に議決の是非についてご判断していただくのはいかがでしょう? よろしいですか、エリシア様?」
「そうね……。でも承認者が一人では考えが偏ってしまう可能性がありますね……。ジークフリート様がたった今仰った独裁になってしまう可能性だってありますし。私と異なる観点から見られる方がもう一人はいるといいわね……。ユウマさん、どうかしら?」
「は? 俺? 無理ですよ。俺はただのモブ平民ですよ!?」
「重要な議案だけでもいいから、ね?」
エリシアが迫るが、俺は面倒なことは嫌なのだ。
「私もいいと思うわ。私も手伝うから」
クローデリアまで押してくるか。
「はあ……じゃあ、まあ、やれるだけのことはやりますよ……」
「では決まりですな」
ジークフリートも満足げだ。
「そんなことより、新しい時代の断罪はどうするんです?」
俺の興味は、むしろそこにしかないと言ってもいいのだ。
「そのことなんだが、ユウマ殿。聞けば、事件の真犯人を必ず見つけ出すスキルを持っているそうだな? そのスキルを使えば、冤罪もあり得ない、真に公正な断罪ができるだろう」
ジークフリートが目を輝かせて俺に話しかけてくる。
「それを聞いて思いついたのだ。新しい時代の断罪に相応しい、新しい政府組織を作ろうと」
嫌な予感しかしないのはなぜだろう。
「その名も『断罪結社』だ!」
「……」
俺が無言になると、横からクローデリアが入ってくる。
「あの……私もどうしても叶えてほしいことがあるのですが……」
最後に、クローデリアが新しい王国に向けたある提案を行い、皆の合意を得て、その日の会合は終わった。




