第五十九話 南方辺境伯の不可解な断罪5
王城前広場の断罪台の周囲には多くの観衆が集まっていた。
続けざまに発生した事件により、「辺境」が人々の耳目を集めていたところに、南方辺境伯の鬼畜のような所業の噂は瞬く間に広がっていた。
王都の人々は多かれ少なかれ辺境を差別する気持ちがあるのだが、中でも強い差別意識を持つ「辺境差別者」も多く集まっていた。
「辺境にいると心まで汚くなるようだ」「辺境にいる時点で貴族であってもクズになるのだ」と囁き合う声がそこかしこに聞こえた。
「辺境にいる」だけでクズになるなんてことは絶対にない、ということを今回俺は学んだ。村人たちは、貧しい暮らしに困窮しているにも関わらず、王都の人々よりよほど親切だった。
だからこそ、その村人たちを裏切ったセドリックが許せない。
俺はクローデリアとともに、断罪の開始を待った。
やがて、観衆から大きな怒号が上がった。
南方辺境伯セドリックが断罪台に上がってきたのだ。
続いて宰相ジークフリートと王太子レオンハルトが登場する。
レオンハルトはいつもどおりの様子で、すでに壇上に上がっていたセドリックに向かい、断罪の宣告を行う。
「南方辺境伯セドリック・アイゼンベルク。幼児、および乳児の誘拐犯、殺人、および食人の罪により、ここに断罪する!」
その非人道的な罪状が並べられると、観衆が一斉に悲鳴と怒号を上げる。ここまでの熱気は感じたことがない。観衆が感じているのは、ただの怒りではない。辺境への嫌悪と、残虐性への嫌悪がすさまじい化学反応を起こしているようだ。
「では、詳細については私から……」
ジークフリートがレオンハルトの後を継ぐ。
「セドリック様。南方辺境の村が困窮していることは認識しております。ですが、たとえ困窮していたとしても、自らの腹を満たすために村の子どもたちを誘拐した上、それを食糧にするなど、人にあるまじき行為は断じて許されることではありません」
従兄弟が重犯罪者だということがわかってショックを受けているはずだが、いつもどおり冷静なジークフリートのように見えた。
「王都のあなたたちが辺境を陥れたのだ。あなたたちが少しでも辺境への偏見を無くし、手を差し伸べてくれれば、私がこんなことをすることもなかっただろう」
セドリックの言い訳に、観衆の怒号が苛烈さを増し、石も飛び交い始めた。一つの石がセドリックの額に当たり、そこから血が流れると、観衆は歓声を上げた。
異様な盛り上がりだった。
本人が自分のしたことを棚に上げて、王都に責任をなすりつけようとしたのだ。自然とヘイトは高まる。
俺も断罪見物人として、ここはやらねばなるまい。
罪状を「誘拐犯」ではなく、より強い罪状の「殺人」に設定する。威力が変わるのかはわからないが、俺の怒りはより重く乗るだろう。
「断罪の石投げ!」
俺の手から放たれた石は鋭い弾道を描いてセドリックに向かい、空中でUターンして俺に直撃した。
なぜぇ!?
いてぇ! いつもよりいてぇ!
くそっ。何でだ? こんなにもヘイト絶頂なのにやめられるか! もう一回だ!
と、そのとき、隣にいたクローデリアが俺の腕を掴んだ。
「何をする……」と言いかけてやめた。
クローデリアがとても悲しげに涙を流していたのだ。
「ユウマ……やめて……お願いだからこれ以上、傷つけないで」
え? 何で俺が暴力亭主みたいになってるの?
「もう耐えられない……。ジークフリート様にはあなたに負担をかけないよう口止めされていたのだけれど……ユウマ、あなたは本当のことを知って」
「本当のこと」って言った? 周りがうるさくてよく聞こえない。
「……何ですか、本当のことって?」
クローデリアが俺の耳元に近づく。




