第五十八話 南方辺境伯の不可解な断罪4
俺たちは辺境伯の城に戻り、セドリックに結果を報告した。
「村人の中に犯人はおりませんでした」
その報告に、セドリックは狼狽えたように見えた。
「そんなはずはありません。失礼ですが、ユウマさんのスキルに誤りがあるのでは?」
「いえ、曖昧な罪状であればうまく機能しないことがなくはないですが、今回は『子どもの誘拐犯』という明瞭な罪状です。罪状が明確であれば、俺のスキルは必中なんです」
「……では子どもたちはどこに行ったのですか?」
セドリックが尋ねる。
「俺は神隠しかと……」
「ユウマ、スキルをお願い」
クローデリアが俺の答えを遮って言った。
「いや、でも……」
「あなたも見たでしょう? この村の人々は満足に食べるものもなくて、ひどい状態なのよ。領主が悪政を強いているのは明らかだわ」
クローデリアはまた涙を浮かべる。それでも……
「そもそも子どもが目を離している間に一瞬で誘拐するなんて人間には無理ですって」
「いいからやって」
「わかりました。それでセドリック様の無実が証明できるのであればやりましょう」
俺は石を握る。
「断罪の石投げ」
俺の手から放たれた石がセドリックに向けて飛び、セドリックに当たった。
……ん?
「……石が当たりましたが、どういうことですか?」
固まってしまった俺にセドリックが尋ねてくる。
「あなたが誘拐犯だということです。セドリック様。ユウマも言ったとおり、ユウマのスキルは絶対に犯人に必中するんです」
俺に代わり、クローデリアがセドリックに有罪を宣告する。
セドリックは少し驚いたように沈黙する。
やがてセドリックが静かに笑い声を上げ始め、沈黙を破った。
「くくく、まさかこんな平民に私の罪が暴かれるとはな。そうだ、私が村人から税を搾り取って土地も荒れさせてこんな状況になったんだ。領民が税も払えなくなって、食べるものも手に入れられないとなれば、領主でも生きていけないのはわかるだろう?」
え、突然何なの、この人? 多重人格者? やっぱり霊的な何かに取り憑かれているんじゃないの?
「子どもは俺が殺して食べた。まずい子どもは魚に食わせた。おまえたちが口にした魚もその魚だ」
うそでしょう!? 間接的に俺たちも子ども食べちゃったの?
「絶対に許さない……」
クローデリアが怒りに手が震え、頬には涙が流れた。
セドリックの豹変という急展開に俺が混乱していたということはあると思うのだが……どこか違和感が残る気もした。
※
俺たちはセドリックを連れ、王都へと戻った。
相変わらずクローデリアは道中の魔物を瞬殺するが、往路のときの心踊る気分は皆無だった。
セドリックは一言も話さなかった。捕まったことで、どこか安堵しているようにも見えた。いかに悪人とはいえ、罪を隠し続けるのは心への負担が大きかったのかもしれない。
この猟奇的な殺人者と一緒に王都に帰らなければならないのは憂鬱だったが、すっかり牙を抜かれた人狼のようにセドリックは大人しくなっていた。
王都に着くと、セドリックをジークフリートに引き渡し、事情を説明した。セドリックがいかに非道な行いに及んでいたかということも。
ジークフリートは黙って俺たちの報告に耳を傾け、頷いていた。
「これから直ちに断罪を行う」
報告を聞き終えたジークフリートは、落ち着いた声で、そう宣言した。




