第六十話 南方辺境伯の不可解な断罪6
「セドリック様は子どもを殺しても食べてもいないわ」
……?
何を言っているんだ? いよいよクローデリアの感性は崩壊したのか? 錯乱?
「……いや、本人、自白していますよ」
俺もクローデリアの耳元で聞こえるように話す。
「村の人たちがあんなに良い人たちだったのに、領主が悪人なわけがないじゃない」
「でも……子どもの誘拐はしていますよね。俺のスキルははっきりと辺境伯が犯人だと示したのを見ましたよね?」
「誘拐はしているけれど、それは村の人たちも承知の上でのことよ。セドリック様が子どものいる家を回って、親が目を離した隙に子どもを連れていったのよ」
「……それが神隠しの真相なんですか?」
「子どもはジークフリート様に預けて、ジークフリート様が王都で子どもの里親を探して、今は身分を偽って王都の子どもたちとして無事に過ごしているわ」
「なぜそんなことを……」
「ユウマも見たとおり、あの辺境の村はもう未来がないの。作物も取れなければ、王政府が何か手を打つこともない。セドリック様と村の大人たちは、せめて子どもだけでも助けようとしたのよ。
だけどそのまま子どもを辺境の平民の子として王都に送ってしまったら……わかるわよね? 激しい差別といじめを受けて、野垂れ死ぬか、よくて奴隷になるだけの未来よ」
「それは……そうですね……。でも、なぜわざわざやってもいない殺人、食人の罪まで捏造する必要があるんです?」
「子どもが生きているとわかれば、捜索が続けられてしまうかもしれない。最悪の場合、王都に辺境の子どもが紛れ込んでいることが明らかにされてしまうかもしれない。
だけど、子どもは死んで、食べられて死体も残っていない、となれば、誰も子どもたちの行方を追わなくなるわ」
「でも、セドリック様の罪はひどく重くなってしまいますよ」
「セドリック様はあえて自らの罪を重くしたのよ……あなたのスキルまで利用して、正規の捜査で、確実に死罪になるために」
「は?」
「セドリック様が嘘の自白をしてこの世から去れば、その嘘が未来永劫、真実となるわ。もう掘り返されることもなくなるでしょう」
「……なぜ貴族がそこまで」
俺は本当に理解ができなかった。自分の身を犠牲にして平民の……ましてや「辺境」の平民の子を守ろうとする貴族などが存在するはずがなかった。
「私も、もっと良い方法がなかったのかと今でも思うわ。でももうあの辺境の村は限界で、時間がなかった。
私が以前失踪したとき……ユウマが私を探してくれて、エリシアが誘拐犯として断罪されそうになったときのことだけど、私は辺境伯のところまで支援物資を届けていたの。
ジークフリート様も私も個人的な支援を続けていたけれど、それすら王政府に妨害されるようになったわ。私たちは自分たちの財産も差し押さえられて、何もできなくなってしまったの。ねえ、なぜそこまでして王国はあの人たちを追い込むの?」
辺境の平民は生きるほどの価値もない……。王都の財産を辺境に回すなど言語道断——それが王都民にとっての常識だ……。
しかし、思い返せば、あの辺境にいたのは紛れもない人間……王都の人間とも何も変わらない。いや、俺からしてみれば、嫌味なやつらばかりの王都より、むしろ温かみと人間味が感じられた。
なぜ俺たちはそんな人々をないがしろにすることが常識だと信じて疑わなかったのだろう。
「私は絶対にこの王国が許せない。辺境の人を人とも思わず、身分差で人を虐げる王都の人も許せない。……何よりも無力な自分が許せないのよ」
俺はここまで真剣に怒りを見せるクローデリアを見たことがなかった。
それから、クローデリアは断罪台上のセドリックを、まるで懐かしむように見た。
「セドリック様は本当にお優しい方よ。私が出会ったどんな方よりもね。実はレーヴェンハイト公爵家とも遠縁で、私が小さい頃から知っているの。
王都から訪ねてきた私たちにも精一杯のおもてなしをしてくれたのよ。魚が獲れる川もないから、隣の町までわざわざ歩いて魚を買いに行ってくれたんだわ。馬も何もかも売って、領民に食べ物を分け与えていたから、財産なんてほとんどお持ちでないの。使用人がいなかったのは雇うお金もないから……」
俺は激しい自己嫌悪に襲われた。
そして、セドリックに「死ね!」とヤジを飛ばす観衆たちが、醜悪で巨大な怪物のように見えた。
しかし、俺もその一員なのだ。
俺のヘイトが、セドリックではなく、その観衆たちと俺自身に向かって激しく高まっていくのを感じた。
「おまえらこそ死んじまえ!」
俺の渾身のヤジは、ヤジを飛ばす観衆に向かった。
そして俺は周囲の観衆に、手持ちの石を手当たり次第ぶちまけた。
「痛えじゃねえか!」と興奮した一人の男が殴りかかってきたので、俺はそいつを殴り返した。
その男はさらに力強く俺を殴り、俺は吹き飛ばされ、地べたに転がった。
悔しくて涙が溢れた。
俺はこれから、普通の断罪見物人として、断罪を見続けることができるのだろうか……
「ユウマ、お願い……。この王国を断罪するのに手を貸して」
クローデリアはしゃがみ込んで地べたに倒れた俺の顔を見て、美しい顔を涙でくしゃくしゃにしながらそう言った。
遠くで「残虐非道な鬼畜セドリック・アイゼンベルクを死罪とする」とジークフリートが宣告した声が聞こえた。
その声は震えていた。
ここまで第三章「猟奇的な辺境編」をお読みいただき、ありがとうございます!
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ユウマとクローデリアは、今後どんな選択をしていくのか? 二人の関係はどうなっていくのか?
今後もぜひお楽しみいただければと思います!




