第四十二話 反断罪戦線の断罪(後編)
俺の「断罪の石投げ」の石は美しい放物線を描いて、断罪台に向かって飛んでいく。
そして断罪台の手前で、石が着弾した。
その人物は石が当たった頭を抑えて後ろを向く。
その人物の顔に、俺は見覚えがあった。
「ギルドマスター……?」
クローデリアが呟く。
そうだ、冒険者ギルドのギルマスだ……。クローデリアに卑屈な態度を取って、俺がなりたくもない冒険者の申請を受理しやがったあの男。そして——断罪迷宮デスホールに挑むパーティーメンバーを選定したのもギルマスだったはず……。
いったいどういうことなのだ……?
「あのギルマスが、エリシア様の協力者だったようです」
「そんな……」
「確保しましょう。話はそれからです」
クローデリアと俺は、ギルマスを目がけ、観衆を掻き分け進む。
「おう、『剣姫』じゃねえか。無事だったんだな」
観衆の中に、クローデリアを呼び止める者がいた。
「生きていたのか……」
それは重戦士ガルドだった。
ガルドが死ぬところは見ていなかったが、あの巨石の前に無事でいるとは思っていなかった。
「うん? おまえは誰だ?」
ああ、そうか。俺の素顔は見ていなかったんだな。このまま身分は隠しておくか。
「あ、いえ、ただのファンです。これからも頑張ってください。それじゃあ」
ガルドのことは後だ。今はギルマスのところに辿り着かなければ。
「何でファンがそんな逃げるように去ってくんだ。怪しいな、おまえ」
ガルドが立ちはだかる。くそっ。こんな面倒なやつだったのか。
「ちょっと急いでいるだけですよ。クローデリア様、俺に構わず先に行ってください」
俺の言葉に頷いて、進もうとしたクローデリアだが、またすぐに止まってしまう。
「クローデリアやん! ダンジョン攻略したんやな。さすがや」
「無事だったのですね。よかった」
「まさか『断罪聖獣』を倒したの?」
斥候のリネット。神官セシルに、魔導士ノクティア……。
捕獲前にエリシアが「私は彼らを殺していない」と言っていたのを思い出す。彼らはダンジョンに殺されたのであって、エリシアが殺したわけではない、という意味かと思っていたが、エリシアは彼らを救っていたということなのか……。そうなるとエリシアには本当に咎めるべきところがあるのか? ただ、「断罪」に反対しただけ? この王国ではその程度の言論の自由も許されないのか?
しかしタイミングが悪い。今はそんなことを考える暇もなければ、再会を祝している場合でもないのだ。
「クローデリア様! 今は彼らの相手をしている場合じゃないです」
俺がそう言うと、四人が俺を睨みつけてくる。
「何や、こいつ」
リネットが絡んでこようとする。
ここは俺が犠牲になって、クローデリアを先に行かせるしかないか。
「おまえらの相手は俺がしてやる! さあ、かかってこい!」
「何を意味のわからんことを」
四人が憐れむような、冷ややかな目で俺を見る。そうだ、俺に注意を向けてくれればいい。
「……ユウマ、もうダメだわ」
「え?」
「見失ってしまった……」
俺は慌てて断罪台のほうを見遣ったが、そこにギルマスの姿はなかった。
俺は途方に暮れるしかなかった。
「種は蒔かれました。反断罪戦線の精神はいつか芽吹き、大きくなっていくことでしょう」
エリシアの最後の言葉が王城前広場に響いた。




