第四十一話 反断罪戦線の断罪(前編)
王城前広場の断罪台の周りには多くの観衆が集まり、騒然としていた。
「反断罪戦線」の首謀者が聖女エリシアでだったことに、誰もが驚き、戸惑っていた。
断罪迷宮デスホールの攻略、そして聖女エリシアを捕獲した後、エリシアの手引きにより、俺たちはダンジョンからの脱出を果たした。
俺とクローデリアは、聖女エリシアを「断罪結社」の首領である宰相ジークフリートに引き渡し、断罪迷宮デスホールでの経緯を伝えた。
そしてほどなく、エリシアの断罪の場が設けられたのだった。
やがて観衆の歓声が上がる。
聖女エリシアが断罪台に登場したのだ。続けて、宰相ジークフリートと王太子レオンハルトが続いて断罪台に上がる。
レオンハルトが何かを言おうとしたところで、ジークフリートがそれを制する。
「レオンハルト殿下、婚約破棄はもうされていますので、罪状からお願いします」
レオンハルトは露骨に不満そうな顔をしながらも頷き、断罪の宣言を行う。
「聖女エリシア・ブランシェ、おまえを国家反逆罪でここに断罪する!」
観衆が騒然とする。だが、エリシアを非難する声よりも、「嘘だ」「そんなはずはない」と、罪状を認めたくない観衆が多いようだった。
「では、あとは私にお任せください」
ジークフリートが一歩、エリシアのほうに歩み寄った。
「断罪結社」首領と、「反断罪戦線」首領の直接対決だ。
「エリシア様、あなたは「聖女」という責任ある立場ながら、『断罪』制度に反対する立場を取りました。それが意味するのは、王国法を否定し、王国の治安を乱す行為になります。王太子殿下が『国家反逆罪』と宣告されたのは、そういった根拠によるものです」
ジークフリートの言葉を受け、エリシアが口を開く。
「ジークフリート様、私はあなたと、つまり王政府と対話する気はございません」
エリシアがそう言い放つと、ジークフリートが片眉を吊り上げる。
「罪を無条件に認めるということですか?」
エリシアはジークフリートを無視し、観衆に向かって前に出る。
「皆様、お聞きください」
透き通るような美しい声だった。
観衆は静まり返り、エリシアの声に耳を傾ける。
「『断罪』見物は楽しいですか? きっとそうなのでしょう。悪人が裁かれ、罰を受ける。それは正しいことのように思えますし、あなた方の安全と公正さを保証するものだと感じられるかもしれない。
けれど、罪人に怒りをぶつけ、溜飲を下げることに何の意味があるのですか? 罵声を浴びせられ、石を投げられた罪人本人や家族、友人たちはあなたたちを憎むでしょう。被害者でもないあなたたちに、なぜ罪人は責められなければならないのですか? あなたたちも理不尽に人を傷つける罪人なのではないですか? あなた方は罪人になる覚悟を持って、罪人を責めていますか?」
観衆は静まり返る。演説をしているのが聖女でなければ、余計に観衆の怒りを煽ったことだろう。
しかし、相手は女神の最大の寵愛を受ける聖女なのだ。国王と同等か、あるいはそれ以上の敬意を集める存在なのだ。
「……言いたいことはそれだけですか?」
ジークフリートもまた黙って聖女の言い分に耳を傾けていたが、ついに口を開いた。
「私の目的は果たされました。皆様がこの『断罪』制度そのものに疑問を持っていただければ十分です。私の処分はいかようにもしてください」
そう言って、エリシアは目を閉じ、口をつぐんだ。
「では、私からも一つだけ言わせていただいた上で、断罪の宣告を改めてさせていただきましょう。
王国法は、王国民の安全を脅かし、不利益をもたらす者を許しません。それを知らしめるための断罪なのです。
聖女エリシア・ブランシェ様。あなたはその王国の大原則に疑問を投げかけ、王国を混乱させかねない言動を行いました。いくら聖女といえども、それは許されることではありません。
しかし、聖女として、人々を救ってきた功績を踏まえて、死罪からは減刑させていただき、無期投獄とさせていただきます。投獄中も、人々の治癒や、結界の補助などを通して王国に貢献することで、罪を償っていただきたい」
観衆が再び騒然とする。罪状について不満を漏らす者もいたが、概ね、安堵の声が多かった。
厳格なジークフリートも、民衆からの反発のリスクを最小限にしたかったのだろう。そして、それが王国にとっても最善だと考えたのだ。
俺自身も、安堵の気持ちが大きかった。聖女だからと言うより、見知ったエリシアが死ぬということが受け入れ難かった。しかも、俺が彼女の捕獲に携わった張本人であったのだから。
きっとクローデリアも同じ気持ちだろう。
しかし、俺には一つ大きな疑問があった。聖女の誘拐の実行犯であった勇者ソウマが、反断罪戦線の首領が聖女エリシアであることを知らなかったことだ。
そのことが示すのは、聖女エリシアと勇者ソウマを繋ぐ、「協力者」の存在だ。
そもそも「反断罪戦線」という組織が、エリシアとソウマの二人だけで構成されていたということに違和感があった。
「ユウマ……」
隣にいて断罪を共に見物していたクローデリアが俺を見る。賢いクローデリアも、おそらく同じ考えを持っているだろう。
俺はクローデリアに向けて頷き、静かにスキルを発動する。
「断罪の石投げ」
俺の手から投じられた石が飛翔する……。




