第四十話 ダンジョンの断罪8
「倒したの……? 信じられない……」
倒したのはいいのだが、俺はそれ以上に死にたいくらい恥ずかしくて、死んでおけばよかったと後悔中だ。
「またユウマに助けられたわね……。あなたにはもう返しきれないほどの恩ができてしまったわ……」
「そんなことを言ったら、クローデリア様がいなかったら俺は百回くらい魔物に殺されていますよ。ははは」
よし、やっぱり俺の言葉など気にしている余裕はなかったんじゃないか。良かった。
「ところで、奴隷って言われるのが嬉しいとか、公爵令嬢が……」
「ぎゃぁぁぁ! そんなこと言っていませんよ! 戦闘中で錯乱していたんですか? 大丈夫ですか? 大丈夫じゃないですよね? あっ!」
コンデム・ビーストが破裂した跡に、聖女エリシアの姿が現れていた。
「エリシア様!」
エリシア救出の成功よりも、話題が変えられることが何より嬉しい。ありがとう、聖女様。
「クローデリア……。それから……『断罪の使徒』?」
エリシアは俺を認識できていないのか。
俺は慌てて鉄仮面を脱いだ。
「ユウマです」
俺の顔を見ると、エリシアはため息をついた。何で?
「ああ、やはりあなただったのね」
「いや、はい。俺で……何かすみません」
「ユウマさん、私ではあなたには勝てないみたい。降参するわ」
「いや、勝つも何も、俺たちはエリシア様を助けに来たんですよ?」
それに、あなたは存在自体が俺に勝っていると思いますが?
「あなたたちはこのダンジョンで拘束する予定だったのよ」
「は?」
「王国の最高戦力の『剣姫』クローデリア・レーヴェンハイトと、あらゆる罪を暴く『断罪の使徒』X……『断罪結社』の主戦力二人がどうしても邪魔だった」
「さっきから何を仰られているのですか?」
「『断罪の使徒』にごまかしがきくとは思っていないから、白状するわ。『反断罪戦線』のリーダーは私よ」
うん?
たぶん俺のことを買い被りすぎだ。ぜんぜん話についていけない。
「嘘……。エリシア、全部あなたの自作自演だというの?」
混乱中の俺に代わって、クローデリアが口を開く。
「そうよ。『断罪の使徒』に見つけられてわざと断罪台に立って、勇者に誘拐させて、『断罪結社』の主力二人をこの断罪迷宮に誘き出して無力化する計画だったのよ」
それを聞いて、俺の「断罪の罵声」が『聖女が公爵令嬢誘拐に加担』と告げたことを思い出す。
「なぜこんなことを……?」
クローデリアが尋ねる。
「『断罪』なんてものをやめさせるためよ。そのためには、最大の障害になるあなたたちを排除しなければならなかったの」
「……なぜそこまでして断罪をやめさせたいの?」
「あなたたちこそ、なぜ断罪を認めるの? 過ちを犯した人を寄ってたかって非難して……。まるで、自分たちの不満の原因が全部罪人のせいだと言うように……。反省や更生の機会も奪って追い詰めて人の人生を奪っているのよ」
「お言葉ですが……」
ここは断罪見物人たる俺の出番だ。クローデリアには荷が重いだろう。
「罪を犯すほうが悪いと思います」
「そんなことはわかっているわ。でもね、罪を犯すのにだって理由があるの。貧困や社会のせいであったり、病のように犯罪を行う性向でどうしようもなかったり、中には冤罪だってあるわ」
「冤罪は避けなければなりませんが、断罪制度自体とは直接関係がないと思います。それにいかなる理由であっても罪を赦すわけにはいきません。でなければ王国は安全を保証できなくなってしまいます。罪を行えばどうなるか見せしめないと……」
「話にならないわ。私は断罪なんかよりも寛容さでこそ、王国は豊かになると思っているの」
「それこそ話になりませんね。罪に対する寛容が罪を生み出すのです」
エリシアはそこで天を仰いだ。
「いいわ。私は負けたんですから。『断罪の使徒』を説得できるわけがないわね。きっとそれはあなたの存在意義を奪うことになるでしょうから」
「あなたのために、捜索隊のパーティーメンバーの四人もが死んでしまったのですよ……。あなた自身の罪も重い。いくらあなたが聖女様でも寛容にはなれません」
エリシアが笑みを浮かべて俺を見る。
「私は彼らを殺していないわ」




