第二十六話 困ったら断罪(前編)
レーヴェンハイト公爵家の屋敷の門から、聖女エリシアが、相変わらずおっとり笑顔を浮かべて出てくるところだった。
「あら、ユウマさん。何か仰いました?」
しまった……。エリシアに見つかってしまった。こうなっては腹を括るしかないか……。
「エリシア様、ちょっとお伺いします。クローデリア様が失踪されたことはご存知ですよね?」
「……はい、もちろんです。ずっとこのお屋敷におりましたから。奥様など昨晩からずっとお休みになられておりません」
「エリシア様は何かご存知なのでは?」
「何かというのは何でしょう?」
「クローデリア様の誘拐に加担しているのではないですか?」
言った。言ってしまった。
エリシアはおっとり笑顔を崩さないが、目が笑っていない。
「仰っている意味がわかりませんが……」
笑顔のまま目がすっごい俺を睨んでいる。
これ以上、モブ平民が一人で挑んでいい相手なのか? 相手は聖女だぞ。俺の隣にクローデリアはいないんだぞ。
気づけば俺は逃走の構えに入り、走り出した。
「覚えておけ……覚えておいてくださ……覚えておいていただけると大変幸いです」
くそっ、捨て台詞のつもりが、聖女への敬意を拭い去れない……。
※
俺は王城に逃げ込み、息も絶え絶えにジークフリートを訪ねた。
「ユウマ、その様子は何か見つけたな?」
俺は何とか息を整える。
「はい、クローデリア様の誘拐に加担した人物を発見しました」
「それはどこの誰だ?」
「それは……」
言っていいのか? 何か引っかかる……。
しかし、何としてもクローデリア様を救わないと。それにあの俺を睨む目……。
「聖女エリシア様です」
「……」
ジークフリートがエリシアの名前を聞いて固まった。耳を疑っているに違いない。
「聖女エリシア様です」
「ユウマ、おまえ石を頭にぶつけすぎて、おかしくなったか?」
「聖女エリシア様です」
「もうわかった。つまり、聖女エリシアにスキルの石が当たったのだな?」
「いえ、『断罪の罵声』で、『聖女が誘拐に加担している』と出ました」
「本当に罵声スキルのほうを使ったのか?」
「はい。……それが何か?」
「いや、妙な自尊心のあるユウマのことだから、自分を罵る方法を取ることはないと考えていたのだ」
おまえに俺の何がわかるのだ、ジークフリートよ。
「石ぶつけすぎて命の危険があったので、罵声に切り替えました」
「そうか、死ぬまで石を投げるかと思っていたが、俺の思い違いだったか。それで、何と言って自らを罵ったのだ」
「それ、今話をする必要があります?」
「それはそうだ。ユウマ、疑いたくはないが、おまえが本当に正しく罵声スキルを使ったのか、確認する必要があるのだ」
こいつ……もっともらしいことを言って俺を辱めようとしているな……。
「……一発目で先ほどの『聖女が誘拐に加担』が出ました」
「嘘をつくな! そんなわけがあるか!」
かぶせ気味にジークフリートが怒鳴る。
くそっ、クソ上司め。
「……『断罪好きなんて下衆モブ平民が』と言われました」
「他には?」
「『いつも女に守られて軟弱モブ平民が』と言われました」
「ふむ、まずまずだな。他には?」
「『奴隷って言われて喜ぶ変態モブ平民が』と言われました」
そこでジークフリートはたまらず声を上げて大爆笑を始めた。
何という屈辱……。覚えておけよ、このやろう……。
「それ……自分で自分に言ったんだよな? ぷぷっ。よくそれでまだ続けたな。ぷぷっ。私なら死ねる。……がははは」
俺も死の淵まで行きましたよ。
「よし、ユウマが虚偽の証言をしていないことははっきりした。ただ、ユウマが変態平民だと判明したことは重大な事案としてしっかり心に留めておこう」
くそぉ……。「名喰い」したい……。自分に。
「では、気を取り直して聖女様の件だが、何か話したか?」
「はい、クローデリア様の誘拐に関わっているのか伺ったところ、『何のことかわからない』としらばっくれられました」
「なるほど……」
ジークフリートが思案げな顔をする。
が、気づけばまた笑いを堪えた顔になり、無理やりまた真顔に戻そうとして苦しんでいる様子だった。まだ俺の罵声を思い返してやがるか。しつこいやつだ。
「ユウマのスキルに間違いがないことはよくわかっている。相手が有罪だとわかっていて、犯行の自白が望めない以上、ここは私の土俵に持ち込んで尋問するとするか」
「ジークフリート様の土俵というと……」
「断罪だ」




