第二十五話 たとえ傷つき死のうとも、石を投げ、俺は叫ぶ(後編)
「断罪の石投げ」
投げた石がUターンし、俺の頭にぶつかった。
痛い。
が、裂傷はできていなさそうだ。
頭にターバンのように巻いた包帯がクッションとして多少機能しているようだ。
そう、このターバンこそジークフリートの「秘策」だった。
要は何発でもスキルで石を投げて、自分の頭に当てまくってでも犯人を探してこいということだ。
【スキル:断罪の石投げ】【効果:悪人に必中……スキル使用者が視認可能な範囲内で、設定した罪状に最も近い者が「悪人」とされる。同等の罪状の者が複数人いる場合はランダムの一人に当たる。該当者がいない場合は自らに石が向く】
これが俺の持つ主要スキルの一つだ。視認可能な範囲に犯人がいればその犯人に石が当たって見つけることができるが、いなければ自分に石が返ってくる。
自分が傷つく覚悟がある者でなければ、人に石を投げる資格などない。そんな自己犠牲と引き換えに悪人を見つけ断罪する、英雄的なスキルなのだ。
忌々しい犯人め、「断罪の使徒」Xことユウマ・クレイを舐めるなよ。
今日の俺はいつもよりも気合が入っている。俺のせいでクローデリアは誘拐されてしまったかもしれないのだ。何度石をこの身に受けようとも、必ず犯人を見つけ、クローデリアを取り戻す。俺のこの決意は強い。
出発地点は俺の家だ。ここから、レーヴェンハイト公爵家の屋敷までの間に、クローデリアは何かしらの事件に巻き込まれた可能性が高い。
「剣姫」クローデリアなら大丈夫だろうと一人で帰らせてしまったことが、今さらながら悔やまれる。しかし、送り返したら、クローデリアもまた俺を送っていこうとするだろうから永遠にお互いの家を行き来するループになっていたか。
くだらないことを考えて後悔している場合ではない。さっそく行くぞ。
罪状を「公爵令嬢誘拐」に設定する。
「断罪の石投げ」
痛い。
俺は視野の先に進む。
「断罪の石投げ」
痛い。
まだまだ。
「断罪の石投げ」
痛いよぉ。
泣き言など言っている場合ではない。
俺は痛みと戦いながら道を進んでいく。昨晩クローデリアとともに歩いた道を戻って、彼女の足跡を求める。
……しかし、やがて俺は限界らしきものを迎える。
俺の「断罪の石投げ」は強烈な殺傷力はないものの、地味に威力があり、防御力がないに等しいモブ平民の俺にはけっこうな負担なのだ。
パンチドランカーのように意識が朦朧としてきて、ターバンにも湿ったものが滲み始めていた。包帯ターバンなどではなく、鍛冶屋の父に鉄兜か鉄仮面でも作ってもらっておけばよかった……
こうなっては仕方がない。これまで封じていた最終手段を使うしかない。
【スキル:断罪の罵声】【効果:悪人を的確に罵る……スキル使用者が視認可能な範囲内で、設定した罪状に最も近い者が「悪人」とされる。同等の罪状の者が複数人いる場合はランダムの一人を罵る。該当者がいない場合は自らを罵る】
俺はもう一つ、罵声によって犯人を発見できるスキルを持っている。
しかしなぜ俺が石投げにこだわっていたのか。——それは、スキルが自分に返ってきた時に、精神的なダメージより、物理的なダメージのほうがマシだと思っていたからだ。
しかしこのまま石投げスキルを続けて物理的に死ぬわけにはいかない。とはいえ、クローデリア捜索を諦めるわけにもいかない。
俺は覚悟を決めた。
「断罪の罵声! 人が断罪されるのが好物ってどんだけクズ野郎なんだ、下衆モブ平民が!」
人の趣味を否定するんじゃねえ。
「断罪の罵声! いつも女に守られてへこへこしてんじゃねえ、軟弱モブ平民が!」
俺が弱くてクローデリアが強いんだから仕方ないだろうが。
「断罪の罵声! 奴隷って言われて喜んでんじゃねえ、変態モブ平民が!」
くっ、破壊力が増してやがる……
「断罪の罵声! 公爵令嬢がモブ平民を好きになるわけないだろう、勘違いキモ平民が!」
ぐはっ! これは恥死レベルだ。なんて強烈なスキルなんだ……。言葉が人を殺す力を持つとは……。
しかもレーヴェンハイト公爵家の屋敷はもうすぐそこじゃないか! 関係者に聞かれたらどうする!
もう次で最後だ。公爵家の屋敷の前で叫んだら走って逃げよう。
「断罪の罵声! 聖女が誘拐に加担するんじゃねえ!」
俺は逃げるため急いで走り出す。
が、足を止める。
何て?
「聖女が誘拐に加担」?




