第二十四話 たとえ傷つき死のうとも、石を投げ、俺は叫ぶ(前編)
偽聖女騒動を終え、ぐっすり眠った翌日、目が覚めてから、昨晩までのことをいろいろと思い返していた。
特にクローデリアに抱きしめられたこと。
公爵令嬢があんなはしたないことをしてはいかんだろう。しかも相手はモブの平民なのだ。きちんと貴族としての礼節を守ってもらわないと。って貴族が平民に言うべき言葉だろ。
なんてことを悶々と考えながら、父の鍛冶仕事を手伝うかと思っていると、工房の戸を叩く者があった。
偽聖騎士ではないだろうけれど、嫌な予感しかしない。
「ユウマ、出てくれるか。ちょっと作業中でな」
父が言うので、俺は工房の入り口に向かい、戸を開く。
「うわっ!」と思わず声を上げてしまった。そこに、騎士風の男がいたのだ。
……しかしよく見たら制服には「王国騎士」の紋章が。偽聖騎士ではない……と一安心しながらも、また別の嫌な予感が湧き上がる。
王国騎士ということは王政府絡みだろう……
「ジークフリート様から緊急のお呼び出しです」
だよね。知ってた。
「父さん、ジークフリートに呼ばれたから行ってくる」
「……ジークフリート?」
騎士が怪訝な顔で俺を睨む。
「父さん、ジークフリート様に呼ばれたから言ってくる」
「おう、面白そうな断罪の話だったらすぐ教えろよ」
父が答えるが、その前に鍛冶屋見習いの平民が宰相直々に呼ばれている異常さをつっこんで欲しい。
そして騎士の視線はより怪訝さを深めるのだった。
※
「クローデリア様が失踪した」
俺はすぐにジークフリートの言葉の意味が飲み込めなかった。
固まった俺にもう一度ジークフリートが繰り返す。
「クローデリア様が失踪した」
……昨晩のあれは失踪フラグだったってこと?
「クローデリア様が失踪した」
「もうわかりましたよ!」
「それからレーヴェンハイト公爵も昨晩から帰宅していないらしい」
「は?」
昨晩のレーヴェンハイト公爵家での会食にも公爵はいなかった。婦人は「いつも帰りが遅い」と言ってはいたが……
「レーヴェンハイト公爵も昨晩から帰宅していないらしい」
「繰り返さなくてももう大丈夫ですよ。何か手がかりはないんですか?」
「手がかりはないが、犯罪と断罪の臭いがすると思わないか?」
「……『誘拐』ということですか?」
俺の言葉にジークフリートが頷く。
「レーヴェンハイト公爵はわかりませんが、クローデリア様がそう簡単に誘拐されるとは思いません」
あの超強いクローデリアが少なくとも力づくで誘拐されるはずがない。
「レーヴェンハイト公爵が誘拐され、人質にされたとしたらどうだ?」
クローデリアが父の公爵のことをどう思っているかは知らないが、普通に考えれば、見殺しにすることは考えにくい。それなら、いくら強いクローデリアでも誘拐犯の要求に従うかもしれない。
「ありうるかもしれません。しかし、他の家族の方は何かご存知ではないのですか?」
「その家族からご連絡をいただいたのだ。レーヴェンハイト公爵が帰宅せず、クローデリア様が昨晩家を出たきり帰ってこないと」
昨晩!? まさか俺を家まで送って、その帰りに何かがあったということか?
つまり、俺を送るために家を出たから誘拐されたということか?
ちょっぴり浮かれていた寝起きの俺を殴ってやりたい気分だった。
「ジークフリート様、どうしたらいいでしょう?」
俺は縋る思いで尋ねる。
「ユウマのスキルで捜索できるか?」
「もちろんです」
「王都中、場合によっては王国中を回ることになるかもしれないが、できるか?」
「構いません」
俺のせいでクローデリアは誘拐されたのだ。王都中だろうが王国中だろうがやるしかない。
「よし、よく言ってくれた。では秘策を授けよう」
ジークフリートが言った。秘策とはありがたい。




