28 魔法って難しい!
(・・・せっかく・・・魔法が使えると思ったのに・・・)
魔力の燃費が異常に悪いという体質を前に、俺は落ち込んでいた。
最近は異世界に放り出された事態を何とか受け入れ、精神的にも元気になりつつあったのだ。
そんな俺の心の支えは、
(俺のチート級の魔力量を使えば、どんな魔法でも自由自在に使えるようになるに違いない!)
という希望だった。
ところが、実際に魔法が使えたと喜んだ瞬間に希望は打ち砕かれ、絶望のどん底に突き落とされたのだ。
落ち込むなという方が無理がある。
「・・・ハァ~~~~~~・・・」
俺は力なく地面に腰かけると、深く溜息を吐きだした。
そんな俺をアダリアは必死に慰める。
「だ、大丈夫だよケン坊! ほら! 例えケン坊が魔法を使えなくてもさ!
何か困ったことがあったら私が助けるから!!」
「・・・・・・・・・」
「あ、あ、あっ! そうだそうだ! そろそろご飯の時間だからね!
今日もケン坊が大好きな肉料理を腕によりをかけて作っちゃうよ!!
今日のおかずは美味しいよぉ~~! 絶対に美味しいよぉ~~!」
「・・・・・・・・・」
「えっ・・・と・・・、あの・・・、まあ・・・。
じ、人生ってさ、何が起こるのか分からないからね!
ひょっとしたら、ケン坊の燃費の悪さも役に立つかもしれないよ!?」
「・・・例えば?」
「え!? た、例えば!?
あ・・・う・・・、そ・・・のぉ・・・。
例えばぁ~~・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「と、とりあえず! そろそろ日も落ちるし、急いで夕飯の準備をしちゃわないとね!
あ~~忙しい忙しい!!」
そういうと、アダリアはイソイソと俺から離れて夕飯の準備を進める。
そんなアダリアを、俺は無気力に見つめた。
(・・・まあ、そうなんだよな・・・。
アダリアの言う通り、例え俺が魔法を使えなくても、アダリアが側にいてくれれば特に問題ないんだよな・・・)
そして俺はライター魔法を発動した時の魔法陣を思い出す。
(アダリアはライター魔法が一番簡単な魔法って言ってたけど、あの魔法陣、かなり複雑だったんだよなぁ・・・。
正直、完全に暗記して使いこなせる自信は無いかなぁ~~。
・・・ってか、あれで一番簡単って事は、結界とか攻撃魔法はどんだけ複雑な魔法陣なんだよって話だよなぁ)
そんな事を考えている間にも、アダリアは魔法で火を起こし、光球を浮かべ、更には結界まで張って寝床の準備も同時進行で行っている。
(・・・こうして魔法を少しでも知ると、アダリアって凄いんだな~ってのが良く分かるよ・・・。
俺は地面に描かれた魔法陣を凝視しないと駄目だったけど、アダリアって何も見ずに魔法を発動しているってことは、全部の魔法陣を暗記しているってことだろ?
それに俺は必死に集中しないと種火を起こせなかったっていうのに、アダリアは料理をしながら魔法を発動しているんだもんなぁ~~)
そんな事を考えながら、俺はアダリアをボーっと眺め続ける。
すると、視線に気が付いたアダリアがニコッと微笑み、俺に手招きした。
「ケン坊ケン坊。そろそろ夕飯が出来るから、こっちにおいで~~。
」
アダリアに呼ばれた俺はノソノソと立ち上がり、結界の中に入ると適当な場所に腰かけた。
「ほらほら見て見てケン坊!
毎回の食事のおかずが焼肉だけだとケン坊も飽きちゃうだろうし、今日はお肉のスープを作ってみたよ!」
「・・・うん、ありがとうアダリア」
「まあ、今日は色々とあったけど、とりあえずお腹いっぱい食べれば大抵の悩みは解決するから!
ほらほら! いっぱい食べて食べて!!」
そういうとアダリアは俺の器に肉スープを注ぎ入れた。
俺はゆっくりとスープを口に運び、味わいながら食べ始める。
「・・・美味しい。アダリア、このスープ美味しいよ!」
「え? 本当? 良かったぁ~~」
「うん! なんか肉そのものも味が染みてて凄く美味しい!」
「ふふ~~ん、実はね?
事前に肉の切り身を山菜で作ったタレに漬け込んでおいたんだよ。
ケン坊に喜んでもらいたいから内緒にしてたんだけど、喜んでくれたようで私も嬉しいよぉ~♪」
そういうとアダリアは嬉しそうに耳をピクピクと動かしながら微笑む。
俺は、そんなアダリアを凝視した。
「ん? どうしたのケン坊?」
「いやさ、俺ってさ、気が付いたら、この世界に居たじゃん?」
「あ~~、うん。・・・そう、らしいね」
「でさ、俺も滅茶苦茶不安だったんだけど、今日まで俺の心の支えになってたのがさ、
いつか魔法が使える。
って希望だったんだよね。
でも俺って燃費が悪くて、魔力をバカ食いする癖に魔法が全然使えないじゃん?」
「あっ・・・、・・・うん・・・そうだね・・・」
「だから、まあ、落ち込むのも仕方ないかなって思うんだよね」
「・・・まあ・・・ね・・・」
「・・・でもさ」
俺はアダリアを見つめながら、口を開く。
「正直、アダリアに魔法を教えてもらって痛感したよ。
例え魔力の燃費が良かったとしてもさ・・・」
そして俺は立ち上がり、一呼吸おいてから夜空に向かって叫んだ。
「あんな複雑な魔法陣! 覚えられるかああああああああああ!!」
突然の俺の雄たけびに、アダリアは眼を見開いて驚く。
「あのさ! ライター魔法って一番簡単な魔法なんだよね?!
あれが一番簡単な魔法陣なんだよね!?」
「ええぇ? う、うん。そうだよ? あれが一番簡単な魔法陣だよ?」
「じゃあさ! 試しに結界魔法の魔法陣を描いてみてよ!」
「今?」
「今!!」
「えっと・・・」
するとアダリアは立ち上がり、落ちていた枝を使って魔法陣を描き始めた。
そしてアダリアが魔法陣を描き始めて1分経った。
まだアダリアは魔法陣を描いている。
そして3分経った。
まだまだ描いている。
更に5分経った。
描き終わる気配がない。
「はい!! アダリア! ありがとう! そこでストップ!!」
「え? まだ描き終わってないよ?」
「いいから! それでいいから!!」
「ん~~~????」
「アダリア! 光球をもっと明るくして魔法陣の全体を見えるようにできる?!」
「え? うん。なんなら、光球の数も増やそうか?」
「お願い!!」
「分かった」
するとアダリアは空を指さし、いくつもの光球を浮かべる。
これで、魔法陣が見やすくなっただろう。
そして俺は最後のお願いをした。
「お願いアダリア! 俺を背負ってジャンプしてくれない?!
上空から魔法陣が見たいんだ!!」
「あ~~、なるほどね。
分かったよ」
それからアダリアは俺を背負って、高く高くジャンプしてくれた。
そして、俺は見た。
見てしまった。
地面に描かれた、複雑怪奇としか言いようがない、巨大な魔法陣を。
(あれは・・・無理!! 絶対に覚えられない!!
ってか、あれでまだ一部なんだよな!?
無理無理無理無理!!
絶対! 無理!!!)
その後、俺たちは自由落下に身を任せ、地上に帰還した。
俺はモソモソとアダリアの背中から降りると、小さく深呼吸をする。
それから心配そうな表情をするアダリアの手をしっかりと両手で握りしめると、
「アダリアさん!! どうぞ! これからも! よろしくお願いします!!」
と深々と頭を下げる。
するとアダリアは嬉しそうに微笑み、
「うん! 任せてケン坊!」
と力強い声で答えてくれた。
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