22 日焼けと我慢
河原の拠点に腰を下ろして数日後、俺たちは旅立ちの準備を進めていた。
「それじゃあケン坊。手に入れた肉は収納袋に入れてあるから、食べたくなったら言うんだよ?」
と言うと、アダリアは大量の肉の入った収納袋を背負う。
「それに入れると腐りにくくなるんだよね?
どれくらい持ちそう?」
「ん~~~、肉を入れた事が無いから分からないけど、ケン坊の食べるペースなら腐る前に食べきれると思うよ? 多分だけどね」
「分かった。
それじゃあ出発前の記念撮影しよっか」
俺たちは手慣れた様子でスマホに笑顔を向け、パシャリと写真を撮る。
「ほら、今回も綺麗に撮れたよ」
そして俺はアダリアにスマホを見せた。
するとアダリアは少しだけ首を傾げる。
「・・・ねえねえケン坊。昔の記念撮影を見せてくれない?」
「え? 別にいいけど。はい」
俺はアダリアと最初に撮った写真を見せた。
するとアダリアは画像と目の前にいる俺を見比べる。
「・・・ケン坊の肌の色って、昔よりも黒くなってない?」
「ああ、それは日焼けしたんだよ」
考えてみれば、ずっとキャンプしているような生活を続けている。
日焼けするのも当然だろう。
だが、アダリアは不思議そうな顔をする。
「ひやけ? 太陽に焼かれるってこと?」
「そうそう、太陽の下で活動すると肌が黒くなるんだよ。それを日焼けって言うの」
「それじゃあさ、ケン坊もずっと太陽の下にいれば私たちみたいな肌になるの?」
「ん~~~、アダリアみたいに濃い色にはならないけど、多少は近い色にはなると思うよ?」
「・・・ふ~~~~ん・・・そっかそっか」
何やらアダリアは思案している様子で、ブツブツと呟いている。
「どしたの?」
「ねえ、ケン坊。私たちの関係って、お婆ちゃんと孫だよね?」
「ああ、うん、まあ、設定ではそうなっているね」
「でもね? ケン坊の肌の色ってかなり白いから、正直、血の繋がりのある孫って誤魔化すのが難しいかな~~って思ってたの」
俺は何となく、アダリアの言いたいことが分かった。
「・・・あ~~、なるほど。つまり日焼けした俺なら誤魔化しやすいと?」
「そうそう、だからケン坊は街につくまでに、全身日焼けしてくれない?」
「全身日焼け・・・」
つまりは日サロに行った感じにしろということか。
「ん~~~、綺麗に全身日焼けするのは難しいけど、とりあえず分かった。頑張ってみるよ」
そんな俺の言葉に、アダリアはニコニコと微笑む。
「そっか、そっか。
う~~~ん、ケン坊が私みたいな肌色になってくれるのが楽しみだねぇ~~。
本当の家族になった気分だろうねぇ~~」
どうやらアダリアは本当に嬉しいらしく、耳をピクピクと上下させている。
この会話の結果、俺の「やる事リスト」に全身日焼けが追加されたのだった。
河原の拠点を後にして数時間後、俺たちは森の中を進んでいる。
もちろん、道中はアダリアから異世界の常識を教わったり、山菜や薬草を集めながらの移動だ。
そんな時、ポツポツと雨が降り出した。
「アダリア、雨が降ってきたよ」
「あ、本当だ」
「こりゃ本格的に降ってきそうだね」
俺はリュックを探ると、折りたたみ傘を取り出す。
「? ケン坊、それはなに?」
「これは折りたたみ傘って言って、その名の通り折りたたんでコンパクトにできる傘なんだよ」
そして俺は取り出した傘を広げて見せる。
だが、アダリアは不思議そうな顔で傘を見つめた。
「かさ? それで雨を防ぐの?
でも、それだと風が吹いたら雨が横から入ってこない?」
「・・・え? この世界って、傘がないの?
なら、どうやって雨を防ぐの? 雨合羽を使うの?」
「あまがっぱ? ケン坊の言っている物がどんなものか分からないけど、こっちの世界だと単純に結界を張るだけだね。ほら」
そういってアダリアが毎晩使っている結界を周囲に張る。
「ね? これなら雨も風も防げるでしょう?」
「いや、これだと移動できないよ。雨が止むまでここで待つって事?」
「まさかまさか~。・・・ああ、ケン坊は寝るときにしか結界を見ていないから知らないんだね。
この結界は別に固定式じゃなくて、普通に移動も出来るんだよ。
ほら、見ててね」
そういうと、アダリアはスタスタと歩き始める。
すると、青白く光る結界がアダリアを中心に移動しはじめた。
「ね? こうすれば雨風を防ぎながら移動できるんだよ」
「・・・すげ~~~・・・」
俺は周囲に張られた結界を見上げながら、ただただ呆然と口を開ける。
「でもケン坊の世界は不思議だね~」
「なにが?」
「だって、スマホっていう凄い板を作り出す位の文明なのに、さっきの小さい布で雨風を防ごうだなんて。
誰か結界みたいな方法を考えたりしなかったの?」
「ん~~~・・・、まあ、考えはしただろうけど、技術的に難しいんだよ」
「面白いね~~。
私たちにはスマホを作ることはできないけど、ケン坊たちには結界が作れない。
なんていうか、完全な文明っていうのは無いのかもしれないね~~」
そんなことを言いながら、アダリアはケラケラと笑っている。
そこで俺は、ふと気が付いたことがあった。
「そういえば、俺と出会う前のアダリアは魔力がなかったんでしょ?
結界は使えたの?」
「まさか~~、結界なんて使えなかったよ」
「じゃあ、どうやって雨風を防いでいたの?」
するとアダリアはニコニコと微笑みながら一言、
「我慢」
と言い放った。
・・・どうやら異世界は全てが魔法を前提としているようで、魔法が使えないと本当に生活は悲惨らしい。
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