20 ギャグとシリアス
夕食の片付けをした後、俺たちは就寝の準備を始める。
「ん~~~~、ここら辺が平らかな?
ねえねえケン坊。ベッドはここら辺に置いていい?」
「いいんじゃない? 多分、ここが一番平らだと思うよ」
「そうだね。それじゃあ、ベッドを出すね」
そう言うと、アダリアは収納袋に手を突っ込んだ。
その瞬間、俺は声を上げる。
「ちょっと待った!!」
「え? どうしたのケン坊?」
「アダリア! お願いがあるんだ!!」
「??? 何々? どんなお願い?」
「俺が「テッテレー!」って言った後に、「普通のベッドォー!」って言いながらベッドを出してほしいんだ!」
そう、俺は国民的アニメの青タヌキロボットが未来アイテムを五次元ポケットから出すシーンの再現をしようとしているのだ。
やはり日本人としては、死ぬまでに一度は見ておきたい光景だろう。
だが、俺の思惑など分かるはずもないアダリアは不思議そうな顔をする。
「・・・え? なんで?」
「お願い! 多分、理由を説明しても分からないと思うけど、死ぬ前に一度でいいから見てみたいんだ!」
「? それは、何かの儀式みたいなものってこと?」
「まあ、そんな感じかな? 俺の国では皆が知っている儀式みたいなものなんだよ」
「?? みんなが知っている儀式なのに、ケン坊は見たことがないの?」
「いや、何度も見てはいたんだけど、現実で見たことがないんだよ」
「??? 何度も見ていたのに、見たことがないの???
なんだか不思議な儀式なんだねぇ〜。
・・・まあ、よくわからないけど、ケン坊がテレテレーって言ったらベッドを出せばいいんだね?」
「ちゃんとベッドを出すときに「普通のベッドォー!」って言ってね!?」
「うんうん、わかったわかった」
アダリアは目を細めて微笑みながら、収納袋に手を入れて準備をしてくれる。
「ケン坊。それじゃあ、いつでもいいよ?」
「わかった!」
俺はスマホを取り出して録画の準備を整えると、精神統一をしてから息を吸い込み、気合を入れて叫んだ。
「テッテレー!!!」
するとアダリアは、
「普通のベッドォー!」
と声を上げながらベッドを出してくれた。
それは、予想通りの光景だった。
まるで本当に青タヌキ型ロボットが五次元ポケットから道具を取り出すかのように、アダリアが持つ小さい収納袋から大きなベッドが飛び出してきたのだ。
「うおおおおおおおおお!! 本当に見れたああああああああああ!!」
俺はスマホを持ちながら飛び跳ねて喜び、アダリアに感謝の言葉を述べる。
「ありがとう! アダリア! 本当にありがとう!!
いや~~、まさか本当に見れるなんて!
まるでアニメの世界みたいだったよ!
感動した!! ありがとう!」
「えへへっへへ、どうやら儀式は上手くいったようだね?
なんだか分からないけど、ケン坊が喜んでくれて嬉しいよ」
アダリアは耳をピコピコと上下させながら微笑んでいる。
俺たちは満天の星空の下、お互いに喜び合った。
その後、俺たちは昨晩と同じく一つのベッドで眠りについた。
正直、昨晩は色々と困惑と興奮がごちゃごちゃになっていたが、こうして一晩経つと気分も落ち着いて来る。
まあ、狭いベッドにアダリアと二人で寝ているので、どうしても肌が触れ合ってしまうのだが・・・。
頭の中ではアダリアは老婆であり、アダリアも俺の事を孫扱いしていると理解している。
しかし、俺には単なる肌の黒い美少女にしか見えない。
そんなアダリアが俺のすぐ隣に居るのだ。
なんとなく、甘い香りがするような気すらする。
なので昨日に比べたら平静を装えているが、多少は緊張している。
そんな緊張を悟られないよう気を付けながら夜空を見上げると、そこには満天の星空と二つ並んだ月が輝いていた。
「・・・月が二つある以外は、地球と同じなんだよなぁ~~・・・」
俺がポツリと呟くと、横にいたアダリアが小さな声で答えてくれた。
「ねえねえケン坊。ケン坊が元居た世界の話を聞かせてくれない?」
「地球の話か・・・。う~~~ん、どんな話をすればいいかなぁ~」
「じゃあ、ケン坊がどんな生活をしていたのか教えて?」
「俺の生活ねぇ~~」
そこで俺は地球に居た頃を思い出す。
僅か数日前だというのに、俺にとっては遠い昔の記憶に思えた。
「・・・大したことはないよ。
朝起きたら学校に行って、夕方には家に帰ってきて、動画を見たりゲームをしたりして寝るって生活だよ」
そう、俺にとっては普通の日常だった。
だが、そんな日常は失われてしまった。
(・・・あれ・・・?
そういえば、これって現実なんだよな? アニメやマンガじゃないんだよな?
・・・って事はだよ?
冷静に考えたら、もう地球に帰れない可能性もあるんじゃないのか?
一生、この世界に閉じ込められる可能性もあるんじゃないのか?)
もう地球に帰れないと思った瞬間、冷たい恐怖が全身を駆け抜け、同時に涙が零れ落ちてきた。
「お母さんもお父さんも優しくてさ、学校にも友達がたくさんいて、毎日毎日、普通に、平和に暮らしていたんだよ・・・。
それが、ずっと続くと思っていたのに・・・」
だめだ、涙が止まらない。
俺の中で地球の記憶が爆発的に広がっていく。
学校の休み時間には友達と人気の異世界漫画の話をして、
「俺が異世界に行ったらこうしたい、ああしたい」
と馬鹿話をしていたのに、現実はどうだ?
アダリアと出会わなかったら、俺はどうなっていた?
森の中で飢えて死ぬか、獣に食い殺されるか、奴隷にでもなるか・・・。
どう考えても漫画のようにはならなかっただろう。
呼吸が苦しくなる。
涙で視界が歪んでいく。
体の寒気がどんどん増していく。
さっきまで飛び跳ねて喜んでいたのに、こんなに急に感情が変わるなんて。
自分でも情緒が不安定だと思う。
だが、もうダメだった。
涙が止まる気配はなく、呼吸はどんどん荒くなる。
「・・・なんで、俺はここにいるんだよぉ・・・。
・・・俺が、何をしたっていうんだよぉ・・・」
そんなポロポロと涙を流す俺の頭を、アダリアが優しく撫でてくれた。
「ごめんねケン坊・・・、辛い事を思い出させちゃったね・・・。
まだ気持ちの整理もついてないよね。
気が付かなくてごめんね・・・。
・・・あのね、ケン坊。
ケン坊が何故この世界に来たのかは分からないけど、ケン坊のことは私が守るから・・・。
・・・お金もないし、特殊な力もないけど、私がケン坊を守るから・・・」
アダリアの暖かい手の感触が、髪越しに伝わってくる。
「・・・だから、ケン坊。
希望を捨てないで、ね?
この世界に来れたってことは、帰る方法も必ずあるはずだから。
二人で探していこう? ね?」
そういうと、アダリアは俺をギューと抱きしめる。
そして、多分この世界の子守歌なのだろう、優しい声でアダリアは歌い始めた。
柔らかくて甘い匂いがするアダリアに抱きしめられた俺は、ただただ安心した。
そして俺はアダリアの胸の中で、ゆっくりと眠りにつくのだった。
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