19 魔力制御と食事事情
『気持ちのいい』水浴びを終え、山菜入りのお粥を食べ終えると、待ちに待った魔法の練習が始まる。
「それじゃあ、まずは魔力の流れを理解しようか?」
「はいっ!!!!」
「アハハハハ、大丈夫大丈夫。そんなに緊張しなくていいから」
アダリアはケタケタと笑いながら手を伸ばす。
「じゃあ、私の手を握って? まず最初に私がケン坊の魔力を抜き出したり戻したりするから、それで魔力の流れを感覚で理解することが最初の課題だよ」
「はい! お願いします!」
「アハハハハハ。じゃあ、始めよっか」
俺はアダリアの手を握り、感覚を研ぎ澄ます。
「じゃあ、以前と同じく魔力が抜ける感覚を感じてね?」
アダリアがそういった次の瞬間、以前と同じく体から何かが抜け落ちる感覚を覚えた。
「あ~~~、分かる分かる。以前よりも力が抜け落ちてるのが分かるよ」
「それそれ、その感覚が大事なの。じゃあ次は魔力を戻すね」
すると、今度はアダリアから心地よい感覚が伝わってくる。
「!! なんだろう、くすぐったいというか、ムズムズするというか・・・不思議な感覚があるね」
「そう、それ。その感覚。その感覚を忘れないでね。
じゃあ、もう一度やろっか? 何度も経験すればするほど、感覚が研ぎ澄まされるから。
そしたら自然と体内を流れる魔力も認知できるようになるよ」
「はい! わかった!」
その後、何度か魔力の流れを感じるためにアダリアは俺から魔力を取り出し、戻すを繰り返す。
そしてアダリアが言っていた通り、徐々に感覚が研ぎ澄まされていくのが分かった。
これは多分、格闘家とかが長年の修行の末に感じ取る「気の流れ」に近いのかもしれない。
体内を流れる、血液とは違う実体のないエネルギーの流れ。
言葉に形容しがたい感覚ではあるが、俺は確実に細部まで感じ取れるようになりつつある。
その後、俺たちは何度も練習を繰り返し続け、気が付いたら夕暮れとなっていた。
「それじゃあ、そろそろ夕飯の準備をしよっか?」
このアダリアの言葉で練習は終了となり、俺たちは暗くなりつつある河原で料理を始める。
まあ、夕飯の用意といっても俺にできる事は大したことはなく、精々が山菜を刻む程度だ。
俺がアダリアから借りたナイフで山菜を刻んでいる間、アダリアは魔法を使って焚火を起こし、鍋でお湯を沸かし始めている。
「それじゃあ、刻んだ山菜を頂戴」
「はい、これでいい?」
「うん、上出来上出来」
「ああ、あと、これも」
そういうと、俺はリュックから「赤飯」と書かれたアルファ米を取り出す。
「これも肉が入ってないから、アダリアでも食べられると思うよ」
「赤いご飯ってのは珍しいね。ひょっとして辛いの?」
「辛くない辛くない。入っている豆の色が米に移っただけだよ」
するとアダリアは頷きながら赤飯と刻んだ山菜を鍋に入れ、お粥を作り始める。
そんなアダリアに俺は質問をした。
「そういえば、ここに来る途中に鳥とか小さい動物を何匹か見たよね?」
「うん、見たね。可愛かった」
「やっぱりエルフってさ、狩りはしないの?
食べるだけじゃなくて、毛皮の服を作ったりとかもしないの?」
「私たちは肉食文化が無いから狩りはしないね~~。
ケン坊が言う毛皮の服っていうのも私は見たことも聞いたこともないね。
そもそも獣って臭いがきついから、服があっても着たいと思えないかな?」
なるほど、異世界の異文化というのはこういうことなのだろう。
そういえば、野生動物も俺たちを見て逃げるそぶりも見せなかった。
やはり、「エルフは動物を襲わない」というのは異世界の生き物の常識なのだろう。
「なるほどね~~。
まあ、アダリアは知らないだろうけど、お肉って美味しんだよ。
特に牛って動物のお肉が最高に美味しんだ。
・・・ああ、思い出したら涎が出てきちゃうよ・・・」
俺は地球で食べた焼肉を思い出す。
脂滴る肉を濃い味のタレで味付けして、白米と一緒にガツガツと食べる瞬間。
まさに快楽だった。
「もちろん、アダリアが作ってくれる料理も美味しいよ」
「ふふふ、ありがとう。
はい、美味しい山菜お粥が出来たから召し上がれ」
俺はアダリアから受け取った山菜お粥を口に運ぶ。
・・・確かに美味しいスープだ。
地球にはない山菜には独特な風味があり、赤飯の薄い塩味で味を整えられたスープは健康にも良さそうだ。
だが、やはり焼肉には勝てない。
そしてホカホカな白米にも勝てない。
俺は空腹に腹を鳴らしながら、お粥を腹に収める。
「美味しかったよ。アダリア、ありがとう。ごちそうさま」
「ふふふ。美味しかったのなら良かった良かった」
だが、ここで俺の腹が、「グーーーーー」と大きな音を鳴らしてしまう。
その音を聞いた瞬間、アダリアの耳が垂れ下がった。
「・・・やっぱり、足りない?」
「いやいや! そんなことないよ! 美味しかったよ!」
「・・・ごめんね。
私って本当に貧乏で、塩の手持ちもないから味が薄すぎたかな・・・。
それに育ち盛りのケン坊には量も物足りないよね・・・」
「違う違う! そうじゃないから!」
「ごめんね・・・ごめんね・・・。
ケン坊を守るなんて思っていたけど、ろくな物を食べさせてあげられなくて・・・」
本当に落ち込んでいるのだろう。
その証拠にアダリアの耳は先ほどよりも垂れ下がっている。
(やばい。これはやばい)
正直な話、アダリアが作ってくれる料理は美味しいのだが、いかんせん味も量も足りていないのは事実だ。
健康的と言えば健康的かもしれないが、慣れない山道を歩き続け、温かい風呂にも入れない状況下において、こういう食事は結構きつい。
それを証明するかのように、またしても俺の腹は大きく、「グーーーーー」と鳴ってしまう。
この音を聞き、俺たちは黙り込んだ。
沈黙が周囲を支配し、川と焚火の音だけが聞こえてくる。
アダリアは顔を伏せ、ますます落ち込んでしまった。
「じゃあ、こうしよう」
俺は口を開く。
「実際、肉を食べられないのは辛いんだ。
だからアダリアにお願いがあるんだよ」
「お願い?」
落ち込んでいたアダリアが顔を上げる。
「そう、お願い。
アダリアって攻撃系の魔法は使える?」
「専門じゃないから強い攻撃魔法は使えないけど、多少は使えるよ」
「その魔法で動物を狩れないかな?
できれば、それなりに大きい動物が食べ応えがあって嬉しいんだけど」
「・・・動物を、狩る・・・」
正直、エルフに狩りをお願いするのは異様かもしれない。
俺が知っているエルフは動物を愛し、肉を食べる事を嫌う種族だからだ。
だが、それはそれとして今のような食事が続くのはキツイ。
俺はアダリアの返答を待った。
「・・・やったことが無いから分からないけど、試しにやってみようか?」
「いいの? さっき野生動物が可愛いって言ってたけど」
「まあ、動物は可愛いけど、ケン坊が食べたいなら協力するよ」
「ありがとうアダリア。嬉しいし助かるよ」
「気にしないで?
むしろ、ケン坊が苦しんでいることに気が付かなくてごめんね?
明日は美味しい肉を食べられるように頑張るから」
ようやくアダリアの機嫌が直ったらしく、その証拠にアダリアの耳はピンと伸びている。
どうやらアダリアにとって俺は「可愛い孫」らしいので、俺に頼られるというのが嬉しいようだ。
俺はそんなアダリアを見てホッと一安心すると同時に、
(ようやく肉が食べられる。しかも焚火で焼いた肉が食べられる)
と、ゴクリと喉を鳴らした。
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