17 エルフの性事情
俺達が出発してから数時間後。
腕時計が昼を知らせる頃、アダリアは立ち止まると耳をピクピクと動かし始める。
そして森の奥を指差し、興奮気味に声を上げた。
「ケン坊ケン坊!! 向こうに川があるよ! 水浴びしよ!」
「いいね~。もう二日も体を洗ってないから、汗を流したいと思っていたんだ」
「うんうん。それに水も底をつきそうだったから補給していこうね」
それから俺たちは足元に気を付けながら川へと向かった。
辿り着いた川はそれ程大きい物ではなかったが、人が水を浴びるには十分な広さがあるようだ。
「うん。これくらいの広さがあれば十分だね。
ケン坊、今日はここに泊まろうか?」
「え? まだ昼過ぎだよ? もう少し進んだ方が良くない?」
「ん~~・・・、別に急いでいるわけじゃないし、それに」
「それに?」
「そろそろ魔法の練習を始めようかと思うの」
「!!!!」
心躍るとは正にこの事、ついに異世界で魔法が使える時が来た。
俺は興奮気味に答える。
「ついに魔法の練習が始まるんだね! 最初は何からやるの!?
炎系!? 水系?! もしかして闇系魔法とか!?」
そんな興奮気味の俺を前に、アダリアは苦笑する。
「まあまあ、落ち着いて。
とりあえずは水浴びを済ませちゃおうよ。
それにお昼ご飯も食べたいし、全部済んだら魔法の練習を始めよっか」
「じゃ、じゃあ! 急いで水浴びしなくちゃ!
そうだなー! あそこの岩から向こう側で俺は水浴びするから、アダリアはこっち側で水浴びしよっか!」
俺としては当然の提案をしたつもりだった。
異性が裸で水浴びをするのだから、お互いが見えないようにするのは配慮のつもりだったし、異世界でも常識だと思っていた。
だが、俺はまたしても異世界の洗礼を受ける事となる。
「なんで? 一緒に水浴びすればいいじゃない?」
そう言った直後、アダリアは収納袋を下ろしすと何の前触れもなく服を脱ぎ始めたのだ。
俺は視線を素早くアダリアから外し、声を上げる。
「ちょっと待った!!」
「え? どうしたのケン坊?」
「いいから!! 服を着て!!」
「??? 分かったけど、なんで?」
不思議そうな顔をするアダリアに、俺は赤面しながら答える。
「前々から思ってたけど、アダリアはもう少し気を付けたほうが良いよ!!」
「??? 何を? この周辺に危険は無いと思うけど・・・」
アダリアは周囲にキョロキョロと視線を送った。
「そうじゃなくて!! 異性に対して簡単に裸を見せるとか、ありえないから!!」
「??? なんで?」
「なんでって・・・、アダリアは女性なんだから、最悪、襲われる可能性があるでしょ?」
「襲われるって、私はお金もないし、盗まれるような貴重品も殆ど無いよ?
収納袋だって、外見はただのボロ袋だし・・・」
「そうじゃなくてさ~~!!」
「???」
俺は意を決し、口を開く。
「つまり・・・、アダリアは・・・その・・・強姦とかを・・・心配したほうが良いよって話だよ・・・」
「ごうかん? どういう意味?」
「その・・・、無理矢理・・・子作りさせられるっていうか・・・」
「??? ケン坊は私に子供を産んで欲しいの?」
「そうじゃなくてさーー!! っっっっ!! つまり!! 子作りって気持ちいいでしょ!?
だから可愛いアダリアが襲われる可能性があるの!!」
そんな俺の言葉に、アダリアは答える。
「子作りが気持ちいい?
・・・別に? あんなの疲れるだけだよ?」
「・・・まあ、女性はそうかもしれないけど、男は違うって言うか・・・」
「男も同じだよ? そもそも射精なんて簡単に出来るもんじゃないでしょ?
射精用の魔法を事前にかけたり、何日も薬を飲んだりしないと出せないでしょう?」
・・・どうにも話がかみ合わない。
というか、何やらアダリアの言葉には違和感がある。
「・・・ちょっと詳しくエルフの子作り事情を説明してくれる?」
「そうだね。こっちの世界の常識を教えないとね」
こうして、アダリアはエルフの性事情について懇切丁寧に説明をしてくれた。
要約すると、そもそもエルフには性的快楽という概念が無いらしい。
つまりエルフにとって子作り行為は神聖な行為であり、同時に単に疲れる労働に近い存在なのだとか。
では、そんなに疲れる子作りを何故するのかという事だが、それは案外単純な理由があるようだ。
つまり、「自分の能力と相手の能力をかけ合わせた強い子供が欲しい」ということらしい。
「じゃあ、アダリアの両親もお互いの能力に惹かれたってこと?」
「もちろん。父様は優秀な戦士だったし、母様も魔法開発で知られた人だったからね。
お互いが知恵と力に惹かれていたんだよ」
「それは、お互い愛し合っていたの?」
「当然! 父様は母様が作り出した魔法をいつも褒めちぎっていたし、母様も父様の戦いぶりを誇りにしていたしね」
・・・どうにも、こっちの恋愛観というのが分からない。
元の世界も相手をスペックで見る人というのは居たが、こちらではスペックでしか見ないのかもしれない。
「・・・ちなみに、アダリアから見て俺はどう?」
「可愛いよ~~。ナデナデしたくなるくらいに可愛いよ~~」
「そうじゃなくて、異性としてどう思う?」
するとアダリアは少し考え、
「・・・可愛い孫だね!」
と元気よく答えるのだった。
どうやら俺は愛し合う対象の異性ではなく、一方的に可愛がる対象らしい・・・。
まあ、漫画やアニメじゃあるまいし、いきなり出会った異性に最初から惚れているなんてありえないのは理解している。
(しかし、まさか孫扱いとは・・・。
まあ、年齢的に考えれば孫どころではないのだろうけど・・・)
俺は小さくため息を吐き出したが、アダリアは気づいていない様子だった。
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