14 初めて見るのに、既視感のある収納魔法
それから出発の準備を始めたのだが、正直、俺の荷造りは殆ど出来ていると言っていいだろう。
何故なら両親が用意してくれた大きなリュックには、既に大抵の道具が入っていたからだ。
俺のやった事と言えば携帯式の太陽パネルをリュック背面に装着し、移動中もスマホの充電ができるようにした程度だろう。
だが、問題が無いわけではなかった。
俺は地面に置かれたベッドに視線を送り、
「流石に、これは入らないよなぁ・・・」
と呟く。
別に高級品ではないのだが、長年使い続けてきたベッドと寝具だ。
ここに放置するしかないことは理解しているが、複雑な気持ちになる。
だが、持って行けないものは仕方ない。
俺は心の中で別れを言い、
「アダリア、準備出来たよ」
と告げた。
するとアダリアが、
「ケン坊、そのベッドは私が運ぼうか?」
と提案してくる。
「え? これ運ぶの? どうやって?」
「もちろん魔法でだよ」
「!! こんな大きな荷物を運べる魔法ってもしかして収納魔法!?」
「あれ? 知ってるの?」
「そりゃね!! アダリアは収納魔法が使えるんだ!!
うわーーー!! 見たい見たい!!」
まさか有名な収納魔法が見れるとは、流石の俺も興奮が隠せない。
俺の興奮気味な声を聞いたアダリアは長い耳をピクピクと動かしながら、
「それじゃあ、ケン坊に収納魔法を見せちゃおっかなぁ~」
と言うと、持っていた収納袋の口を開いた。
「え? もしかして、その袋に収納魔法がかけてあるの?
ってことは、その袋は魔導具!?」
「正解!
・・・へ~~、ケン坊の世界には魔法はないのに魔導具って考えはあるんだねぇ~」
「まあ、一般的な言葉ではないけどね」
多分、俺の両親は魔法は分かるだろうが魔導具なんて単語は知らないだろう。
「でも、私にはケン坊が言っていた言葉が分かったよ」
「それは翻訳魔法のお陰でしょう?」
「ちょっと違うね。
いくら翻訳魔法でも相手の世界に無い言葉を翻訳することは出来ないんだよ」
「へ~~、そうなんだ」
どうやら魔法も万全ではないらしい。
ここで俺は一つの疑問が浮かんだ。
「ん? でもおかしくない?
俺が最初に言った「グッドイブニング」ってのは「こんばんわ」って意味なのに通じなかったよね?」
「ああ、それはね。
翻訳魔法は話者が日常的に使っている単語を解析して翻訳しているんだよ。
多分、その言葉をケン坊は日常的に使っていなかったんじゃない?」
確かに。
まあ、グッドイブニングなんて言葉を俺は日常的に使ってはいないな。
むしろ魔導具という単語の方が日常的に使っていたと翻訳魔法は判断したらしい。
確かに友人との会話で何度か言った記憶はあるが、随分と日常使い判定がシビアではなかろうか?
「なるほどね。翻訳魔法は片方の世界に無い言葉とか、日常で使っていない言葉を翻訳できないのか」
「正解。一度の説明で理解するなんて、ケン坊は賢いね~~」
するとアダリアはニコニコと微笑みながら俺に近づき、自然な動作で手を伸ばすと、俺の頭を撫で始める。
このアダリアの動きは極めて自然で違和感の無いものだったため、俺は逆に驚き、困惑してしまった。
いや、可愛い女の子に頭をなでられるという行為に嫌悪感はないのだが、どうにもアダリアの距離感が把握しづらい。
(この距離感はエルフの一般的な距離感なのだろうか?
それともアダリア特有なのだろうか?)
そんな多少の困惑は残ったが、とりあえず俺はアダリアを急かした。
「ねえねえアダリア。収納魔法を早く見たいんだけど?」
「ああ、そうだね。それじゃあ、よく見ててね?」
と言うと、アダリアはベットに収納袋を近付ける。
すると、どうみても袋より大きいベッドがスルスルと袋の中に入っていくのだ。
「うわっ!! 本当に入った!!」
「ふっふっふっ。凄いでしょ~~」
「ねえねえアダリア!! これも一般的な道具なの!?」
「あ~~~・・・」
するとアダリアは若干目を泳がせながら、
「・・・まあ、そうだね。
市販品よりも少しだけ性能はいい感じかな?
・・・あ~~・・・、とりあえず、あまり周囲には言わないでね?」
と答えた。
どうやら、この魔導具には何か事情があるらしい。
だが、
「へ~~~、そうなんだ~~~。わかったよ」
と、俺はあえて「事情」をスルーし、袋にベッドが吸い込まれていく様子を眺めていた。
そして、ふと気が付く。
(・・・これって、あれだ。あれに似ているんだ)
俺の脳内には、青タヌキ型ロボットが腹に付いた五次元ポケットから未来道具を取り出すシーンが浮かんでいた。
まさにそんな具合に、アダリアの持つ小さな袋にベッドが吸い込まれていくのだ。
(まさか、ファンタジー世界でSF世界を垣間見るなんて・・・。
高度な科学は魔法と同じというけど、魔法は高度な科学と同じなんだなぁ~~)
そんな事を俺はボンヤリと考えながら、アダリアがベッドを袋に収納する様子を見つめ続ける。
その後、ベッドが袋に仕舞われた事を確認すると、俺はアダリアが持つ袋を凝視した。
「ねえねえアダリア。
結構大きなベッドを入れたのに、袋の大きさは変わってないよね?」
「そうだね。収納魔法がかけてあるから、大きさも重さも変わらないよ」
「あのさ、その魔導具について質問があるんだけどさ、生き物とかも入るの?」
するとアダリアは首を小さく振った。
「無理だね。
手を入れて中の物を取り出すことは問題なく出来るけど、体が全部入った瞬間に死んじゃうよ」
「じゃあさ、食べ物は? 時間を止めて腐らせなくしたり出来るの?」
「う~~ん・・・、時間を止めることはないけど、多少は腐らせにくくするよ?
まあ、それでも放置すれば腐っちゃうけどね」
「そうなのか~~。やっぱ、漫画みたいにはならないか~~」
「ふふふ、ケン坊は勉強熱心だねぇ~」
アダリアはクスクスと微笑みながら、収納袋を背負った。
「ちなみに、この魔導具も動かすのには魔力が必要なんだよ。
だからケン坊に魔力を分けてもらう前はただの袋だったんだよ?」
「へ~~、ただの袋としても使えるんだね」
「まあ、元々がただの袋に収納魔法をかけただけだからね。
魔力がなくなれば、元の袋に戻っちゃうんだよ」
「・・・ん? じゃあ、中にベッドを入れた状態で魔力が切れたらどうなるの?」
「そりゃあ、魔力が切れた瞬間に袋が裂けてベッドが飛び出してくるよ」
・・・どうやら、思ったよりも異世界は魔力に対してシビアらしい。
いきなりベッドが飛び出てこないように、アダリアには魔力管理を頑張ってもらうしかないようだ。
「あ、そうだ。
いっそのことケン坊の荷物、私が全部持とうか?」
「え?」
「これから何日も歩き続けることになるからね。
私は肉体強化魔法を使えるから大して疲れないだろうけど、魔法が使えないケン坊には辛いでしょう?
だから少しでも荷物を減らした方がいいんじゃないかな?」
「あ~~~・・・う~~~ん・・・。
・・・ちなみにさ、その肉体強化魔法って俺にかけることはできないの?」
「ごめんね、それは無理なんだよ。
肉体強化魔法は魔力さえあれば誰でも使える魔法だから、わざわざ他人にかける必要性がなくてね。
だから私も自分の肉体を強化することは出来ても、ケン坊の肉体を強化する方法を知らないの」
「ああ~~、なるほどね。
需要がないから他人に肉体強化魔法をかける方法は開発されなかったわけか・・・」
「だから、せめて荷物くらいは軽くしてあげたいんだけど・・・。
どうかなケン坊?」
正直、アダリアのいうことは一理ある。
これから何日も歩き続けることになるのだから、荷物を減らした方がいいだろう。
・・・しかし・・・。
「いや、やめとくよ」
「?? なんで? 遠慮しているの?」
「そうじゃなくて、このリュックには色々と元の世界の思い出が詰まっているんだよ。
別にアダリアを疑うわけじゃないけど、もしも何かがあって荷物を失うことになるのを防ぎたいんだ。
だから、この荷物は俺が背負うよ」
「そっか、なら仕方ないね。
それじゃあ、いっそケン坊を私が背負うってどうかな?
それならケン坊も疲れないでしょ?」
この提案に、俺の心は揺れた。
アダリアはお婆ちゃんらしいが、一見・・・いや、いくら凝視しても少し年上程度の美少女にしか見えない。
そんな美少女の背中に密着しながら移動できるというのは、かなり魅力的だった。
しかし、俺は理性で押し止めた。
「いや~~~~、流石に女の子に背負われながら何日も移動するのは、倫理的にちょっと無理。
それに体力を鍛える意味もあるから、やっぱり歩くことにするよ」
「まあ、ケン坊がそこまで言うならやめておくけど、もし疲れたら遠慮せずに言うんだよ?
その時は私が背負うからね?」
「あ~~~~、うん、その時は、お願いします」
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