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領主様の不安

「……コホン。それでは話に戻らせていただきます」


 話を途中で止められてしまったけど、領主様のフォローでどうにか戻る事ができそうである。


「つまりシラハは、その翼を使って王都までの旅程を大幅に短縮したわけか」

「はい」

「何故それを黙っていたんだ?」

「それは……」


 領主様が一番聞いて欲しくない事を聞いてくる。

 言えるわけがないよ。自分が普通じゃないなんて……

 それを伝えたら自分の周囲が変わってしまうんじゃないか、という不安や恐怖がつきまとう。

 だから――


「ああ…すまん。別に責めているわけじゃないんだ。私にはシラハが、それを使うのを躊躇っているように見えたのでな」

「…………はい」


 そして私は背中の翼を消す。

 一瞬、ファーリア様とヒラミーさんが残念そうな顔をしていたけど気にしない。


「あんな事ができると知られれば、それを狙ってくる者が現れるかも知れませんし…………なにより他の人と違う事で、奇異な視線を向けられるのでは、と不安で仕方ありませんでした……」


 少しずつ声が小さくなっていく。

 周りの視線を遮りたくて俯いてしまう。


 怖い。

 魔物に立ち向かう事はできるのに、誰かに拒絶されるかもしれない、というのは本当に怖いんだ。


 幼き日のことを嫌でも思い出してしまう。


 小さく震える手を力の限り握りしめる。



「シラハの鼻が良いのも、同じ理由なのか?」


 領主様がさっきまでと同じように質問をぶつけてくる。


「はい」

「たしかに、そんな力があると知っていたら私もシラハに他の頼み事をしていただろうな」


 そうなりますよね。

 もし、そうなっていたら私と一緒に食事をしたり、泊めてくれたりはしてくれなかったかもだけどね……


 そう考えると少し寂しいね。



 そこへファーリア様が、私の握り拳に手を重ねる。

 近くに移動しているのに気付かなかった……周りが見えてないね。


「そんな悲しそうな顔をしないで……ルークはアルクーレの領主である以上、そこにあるものは有効活用しようとはするけど、決してシラハちゃんに酷いことはしないわ。それは私が保証する」

「ファーリア様……」


 手から力が抜けていく。

 安心、したのかな……?


「ファーリアの言う通りだ。私はシラハを道具として扱ったりはしない」

「はい……」

「ほら、シラハちゃん……手を貸して。こんなに強く握って……血が滲んでいるわ……」


 ファーリア様が私の手にハンカチを巻いてくれる。

 その優しい手付きに心が温かくなっていく。


「あら……シラハちゃん? 泣いているの?」

「え……?」


 気付けば瞳から涙が零れ落ちていた。

 それが止まらなくて、手当てをしてくれているファーリア様の手を濡らしていく。


「ご、めん…なさい……わ、たし……」


 訳も分からず涙が溢れてきて声も上手く出ない。


「良いのよ……落ち着くまで、思う存分泣きなさい」


 そんな私をファーリア様は、そっと抱き締めてくれた。



 私は自分の事なのに、泣いてしまう時がよく分からない。

 今回は安心したから涙が出てきたのだろうけど、こんなにボロ泣きするほどの事なのか? と、どこか他人事のように考えてしまっている。


 時折、こうやって子供みたいに泣いてしまうのは、どうにかしたいんだよね。

 私って中身は大人だから、ちょっとキツイ……






 暫くして、ようやく泣き止む事ができたので話に戻ろう。


「見苦しいところをお見せしました」

「気にするな」

「そうよ。私は役得だったから気にしなくていいのよ」


 やっぱり領主様達は優しいね。

 ファーリア様は気を遣わせない為に言ったんだろうけど、それはどうなのさ……


「それで、シラハ。お前は今後どうしたい?」

「今後……ですか?」

「そうだ。シラハは騒ぎの中心となってきたようだが、そうなると今後、このブランタ王国内での活動は難しくなってくる。こちらも下手に動く事はできないから、支援もほとんどできないだろう」


 今後の活動か……

 とりあえず父さんと母さんの所に帰るつもりだったけど、それ以降の事は何も考えてなかったんだよね。

 我ながら行き当たりばったりだなぁ……


 まぁ王都に行く前も、どこかに身を隠すつもりでいたし、その辺は変わりないんだけどね。



「特に行き先が決まっていないのなら、ビザンに行ってみたらどうだ?」

「ビザン?」


 領主様が訳の分からない事を言い出した。

 行く、ということは場所なんだよね?


「セバス、地図を出してくれ」

「こちらに……」


 セバスチャンさんは、領主様に言われる前に地図を用意していた。早い……


 そして、領主様が地図を指差して話し始める。


「今いるブランタ王国から出るのなら、西に行ってガルシアン帝国に行けば良いんだが、シラハは帝国に行った時に問題を起こしたらしいから選択肢から外すとして……」


 ちょっと。

 その言い方だと私が問題を引き起こしたみたいじゃないですかっ!

 私が居たことによって起こった問題ですけど、私のせいじゃないですからね!


「ビザンはブランタ王国東部にある、シャルシアの領都から北東に向かい国境を越えた場所にある」

「そのビザンには何があるんですか?」

「ある…というか、居るだな」

「居る?」

「ああ、獣人だ」

「獣人……」


 おお……獣人か。

 前に獣人の話を聞いて満足しちゃってたけど、そうか会いに行くのもアリだね。


「以前、獣人の話に興味を示していたからな」


 覚えていてくれたんだ。恥ずかしい……


「あそこは国境を越えた先だから、追手もすぐには来ないと思うぞ。ただ問題があるとしたら、人間を歓迎してくれるかどうか……」

「嫌われているんですか?」

「獣人を差別している人間が多いからな」

「なるほど……」


 おのれ……私からモフリの道を遠ざけおって……



「それとな……」

「はい?」


 領主様が何やら言い難そうにしている。


「どうしたんですか?」

「レギオラの事なんだが……」

「チッ……」

「舌打ち?!」


 そんなに驚かなくても……

 舌打ちの一つくらいしたくなりますよ。


「それで、そのレギオラさんがどうかしましたか?」

「なんか急に態度が冷たくなったな……。それでシラハを王都に送るはずだった御者から話は聞いた。顔を青くしていたぞ……」

「あの人には、悪い事をしちゃいましたね。責めちゃ駄目ですよ?」

「……分かっている。それでシラハに手を出した冒険者の罰は、冒険者ランクの一ランク降格と30万コールの罰金だ」

「こちら…その支払われた罰金の半分がシラハ様への慰謝料となります。お納めください」

「あ、どうもありがとうございます」


 なんかお金貰えた。やったね!


「そしてレギオラには私の方から注意をしておいた。今後、こういった事がないように気を付ける」

「わかりました。対応してくださって、ありがとうございます」


 この件については、あまり私も思い出したくはないので、これで終わりにしておこう。


「過去に女性側の訴えで、一人の冒険者が冤罪で冒険者資格を剥奪された事があってな……それでレギオラも中途半端な事をしてしまったんだろう」

「そうですか。それは気の毒ですけど、それで私を襲った人の罰が軽くなるのは許せませんよ」

「ああ、わかっている。その辺りは再度、同じ事にならないように私も注意しておく」


 これで本当に終わりだね。

 私としてはレギオラさんに土下座させたいところだけど、本人がいないから、もういいや。



「そうだ、シラハちゃん今日は泊まっていくでしょ?」


 話に区切りがつくと、ファーリア様が突然そんな事を言い出した。


 私がここに居るのは、あまり知られちゃ良くないって分かってるのかな……


「あの……ご迷惑にもなりますし、私は帰ろうかと……」

「別に一晩くらいは構わないだろう。ファーリアも喜ぶしな。……ん、帰る?」


 何やら領主様が首を傾げている。なにか引っかかる事でもあったのかな?


「シラハ、もしも答えたくないのなら答えなくて良いんだが、帰る場所があるのか?」


 領主様が聞き辛そうにしながら私に尋ねてくる。

 あー、そうか……今の言い方だと、そう聞こえるよね。


「えっと……一応、父と母が住んでいる場所があります」


 帰る場所? 迷宮です。とは、さすがに言えない。


 私が【迷宮創造】で作った住処を家と呼べるのなら、帰る場所になるんだけどね。


「シラハちゃんの両親って、ご存命なの?」

「いえ……実の両親ではないんですけど、私を本当の子供のように可愛がってくれていますよ」

「そう……」


 ファーリア様が何やら考えている。

 どうしたのかな?


「ねぇ、シラハちゃん? シラハちゃんの両親は、シラハちゃんが今、凄く大変な思いをしているのを知っているの? 本当にシラハちゃんの事を大切にしてくれている?」


 ファーリア様が心配そうにしながら私の顔を覗き込んでくる。

 まぁ、娘が国に追われる事態に陥っているのに、親は何をしているんだ、って思っているんだろうね。

 ファーリア様も心配性だなぁ。


「父も母も私を大事にしてくれていますよ。ちょっと過保護なくらいですし……。それと私が王都で暴れていたのは知らないですね。今回アルクーレに来たのだって私の我儘ですし」


 二人とも私について来ようとしたくらいだしね。


「そうか……。村を出てくるくらいだから親は居ないと思っていたからな。だが、シラハにも帰る場所があって良かった」

「王都で何もなければ、そろそろ真剣に養子縁組を考えていたのに……」

「そうだったんですか……。私なんかの為に…なんか申し訳ないです」


 それは危なかったね……

 領主様達は良い人だから家族になっても、きっと嫌な思いをする事はないと思うんだけどね。


 何度も言うようだけど、それと一緒に付いてくる貴族社会が嫌なんだよ……

 その想いは今回の騒動で、さらに深まったように思う。


「そんな訳だから今晩は泊まっていきなさい。私はシラハちゃんと一緒に寝たいし」


 本音がダダ漏れですよ、ファーリア様……


「そういえば王都からアルクーレまで、ずっと移動していたのなら食事もとっていないのか?」


 領主様が今気付いた、とばかりにそんな事を聞いてくる。

 まぁ色々ありましたからね……


「大丈夫ですよ。途中、休憩しながら適当にお腹に詰め込みましたから」

「本当に大変だったんだな……」


 ほとんど空気と化していたハサウェル様が、私の話を聞いてボソリと呟く。

 そう…本当に大変だったんですよ。

 あと食べたのは魔物肉だとは口が滑っても言えない。大騒ぎになってしまう。


「シラハちゃん、お風呂は……入れてないわよね?」

「水浴びはしましたけど……」

「ヒラミー、洗ってしまいなさい」

「かしこまりました」


 ササッと動き出すヒラミーさん。

 もはやお風呂は確定事項である。


 なので私も観念する。


「一晩お世話になります」

「ああ。今日はゆっくりしていってくれ」


 そうして私はヒラミーさんについて、部屋を出て行った。



 ファーリア様……私を寝かせてくれるかなぁ……

 以前エレナさんと三人で寝た時も、髪やら肌やら色んなところを触られて、なかなか寝付けなかったのを思い出す。



 お泊まりするの、はやまったかもなぁ……










◆ルーク・アルクーレ視点



 シラハが部屋を出て行く。

 そこで漸く、私は深く息を吐いた。


「ふぅー……」

「ルーク、お疲れ様」


 ファーリアが私を労ってくれるが、頭の中はさっきの話で一杯だ。


「セバス、シラハの話をどう思う?」

「そうですな……ただの冒険者であれば、まともには取り合わないのですが、シラハ様には不可解な点がいくつかありましたからな……」


 セバスの言葉に私も頷く。

 思い当たる事は、いくつかある。


「毒が効き難い、鼻が利く…の他にも、レギオラから聞いた話では、いきなり部屋の中に現れたとも言っていたな……」

「たしかハイオークが国境に出現したと国境警備隊のガレウス殿から報告書が届けられた時も、白髪の冒険者と書かれていましたな」

「しかも、そのハイオークは結局、森の中で死んでいたのが発見されたんだったな……」


 こちらも報告を受けてバタバタさせられたから、よく覚えている。

 それらがシラハが持っている不思議な力によるものだとすれば、それは凄いことだ。

 その力を使えば、たしかに報告した事ができるのかもしれない。



 だが、もしもこれが私も知らない冒険者の話であれば、警戒した事だろう。

 どんな人物かも分からないのに、予測もできない力を持っていたとしたら、それは恐ろしい事だ。


 今回、シラハは屋敷の警備を潜り抜けてきたと、セバスが言っていた。

 もし、それが暗殺者だったとしたら……?


 私は殺されていただろうな……ファーリアも……


 私が、ちらりとファーリアを見ると目が合ってしまう。

 そこでファーリアが少し不機嫌な顔をする。


「もう…! そんな不安そうな顔をしなくても、シラハちゃんは悪い事なんてしないわよ」


 それは分かっているんだが、それでも考えずにはいられない。

 彼女が敵に回ったとしたら……と。


 今回の騒動で王国はシラハを敵と認識し、指名手配ぐらいはするだろう。

 貴族を殺しているんだから、やるだろうな。

 本来なら私もシラハを捕まえるべく動かなければいけないんだが、この国の貴族のあり方には昔から疑問を持っていた。


 貴族の家に生まれたから偉いのか?


 無能な貴族なんて山程いる。

 そんな無能に顎で使われ、代わりなどいくらでもいると言わんばかりに使い潰される平民達。


 平民は貴族に税を納めるが、貴族は平民に何をしてやっている?

 使い潰し、税を搾り取り、贅を尽くした生活をするだけの穀潰しじゃないか。


 そんな貴族がシラハを平民だからと殺そうとした。

 シラハだけの主張だから、どこまでが真実かは分からないが、全てが嘘ということはないだろう。


 だが、それだけならゼブルス団長の自業自得だと考えてしまう。

 そこでシラハを殺そうとしたのは、ゼブルス団長がなにかしら魔薬に関わっていたからなのだと考えられる。


 しかし全ては私の推測でしかない。


「なんにせよ、こちらは王都からの連絡待ちだな」

「大丈夫よ。アルフリード君が向こうにはいるのだし」

「そうだな」



 だが、アルフリード殿の立場が悪くなるから騎士を殺めたとも言っていたことから、アルフリード殿もあまり動ける状況にないのかもしれない。



 私は、これから起こるであろう面倒事を想像する。


 ああ……目眩がしそうだ……



 こんな事なら、さっさとハサウェルに家督を譲ってしまおうかな……






ルーク「ハサウェルよ。今からお前が、このアルクーレ家の当主だっ!」

ハサウェル「な、なんですって!? 急にどうしたのですか、父上!」

ルーク「え? ぶっちゃけ、これから大変そうだし? 面倒事は全部投げ出してファーリアと旅行にでも行ってくるわ」

ハサウェル「ぶっちゃけ過ぎです、父上!!」

ルーク「じゃあ、そんな訳であとよろしくー」

ハサウェル「軽いっ! 父上そんな少しくらい助けてくださいよ!」

セバスチャン「ハサウェル様、私もお暇を頂きたく……」

ハサウェル「セバスチャンまで?! 私一人でどうしろと!?」


ハサウェル「ハッ! ……夢か。恐ろしかった……」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 黒幕が宰相と伝えてないなぁ。
[一言] 「そんな悲しそうな顔をしないで……ルークはアルクーレの領主である以上、そこにあるものは有効活用しようとはするけど、決してシラハちゃんに酷いことはしないわ。それは私が保証する」 シラハに対し…
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