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依頼報告

「すまない、待たせた」

「いえ、お気になさらずに」


 領主様がセバスチャンさんを伴い部屋に入ってきて、開口一番に謝罪する。

 私が来たタイミングも良くなかったので……

 急いではいるけど、目くじらを立てるほどでもない。


 領主様が部屋にいるメンバーを見ていく。


「何故ハサウェルがここにいる?」

「私も話を聞く為です」

「駄目だ」

「父上!」


 領主様がハサウェル様の意見を聞くことなく拒否する。


「シラハが、ハサウェルをここに連れてきたのか?」


 領主様が私に視線を向ける。

 なんで私を見るんですか。私は被害者ですよっ

 別に付いてくるな、とは言わなかったですけど……


「勝手について来ただけですよ。同席していいかと求められましたが、私に決定権はありませんので」

「そうか……。ハサウェル、部屋を出ていくんだ」

「お断りします。大事な話であるならば、私にもお聞かせください!」


 ハサウェル様が領主様に懇願し、領主様とハサウェル様が無言で向き合う。


 そういうのは、私のいない所でやってくれないですか……


 と、そこへファーリア様が入室してきた。


「あら…ここに居たのね、ヒラミー」

「申し訳ございません、奥様……」


 ヒラミーさんがファーリア様に謝罪をする。もしかして、ヒラミーさんは何か頼まれた事でもあったのかな?

 でもって私がいきなりやって来たからそれができなかった、みたいな? 私のせいじゃん……


「あ、あのファーリア様…私がヒラミーさんの仕事を増やしちゃったのが悪いので……その、あまり怒らないでください……」


 ファーリア様が私の言葉に少し驚いた後、ニヤリと笑う。


「別に怒ってないわよ? 他にも使用人はいるから、ヒラミーが動けないのなら他の者に頼むだけだもの。それともシラハちゃんには私が怒っているように見えたのかしら?」

「い、いえ……滅相もございません……」


 下手な事を言ったら、何を言われるか分からない。

 あと、ちょっと怖い。


「なーんて! シラハちゃん、そんなに畏まらなくてもいいのよー!」

「わっ!」


 すると態度を一変させてファーリア様が飛び付いてきた。

 ファーリア様、テンション高いですね!


「ん〜、シラハちゃんの頬っぺたはぷにぷにしてるわねぇー。やっぱり触れるなら若い方がいいわー」

「あ、あの……」


 その発言はどうなの……?


「あー…ごほん! お楽しみのところ悪いが、ファーリアあとにしてくれるか?」

「はぁ……わかったわ……」


 ファーリア様がつまらなさそうに私から離れていく。助かった……

 じゃなくてっ! 後に回すなよ! 助けてよっ!


「あら…ハサウェルも話を聞くの?」

「駄目……でしょうか?」


 ハサウェル様が請うようにファーリア様を見る。

 その視線を受けてファーリア様が小さく溜息を吐いた。


「良いんじゃないの? ハサウェルもいずれは領地を継ぐのだから無関係でもないのだし」

「母上……!」


 ファーリア様から許しが出て、ハサウェル様が嬉しそうな顔を見せる。

 というか領主様の意見は完全に無視でいいの? 凄いね。


 案の定、領主様が頭を抱えているけれど、私としてはそろそろ話をしたいんだよね。


「そちらの話が済んだのでしたら、私からの報告を行っても宜しいでしょうか?」

「ああ、待たせてしまったな」


 や、ホントだよ。

 私は領主様の部屋に忍び込んだら、ちゃちゃっと話を済ませて帰るつもりだったんだから。


「まず領主様から依頼を受けた王都での魔薬調査なのですが、これは達成できていません」


 領主様の表情が曇る。

 私だって依頼失敗の報告なんてしたくないんだけどね。


「それは……王都の状況が、こちらより悪い…という事か?」

「はい。王都の魔薬はアルクーレの街とは少し広まり方が違っていまして、香辛料の中に混ぜ込まれていました」

「それは……」


 皆が険しい顔付きになる。

 私が言った事が、どれだけ厄介かわかってくれたと思う。


「あ、あの……」


 重苦しい空気の中、ヒラミーさんが声を上げた。

 全員の視線がヒラミーさんに向けられる。


「私は、このままお話を聞いてしまってよろしいのでしょうか……?」

「あ……」


 領主様が間の抜けた声を漏らす。忘れていたんですね。


「もう、ここまで聞いてしまったのだし、いいと思うわよ?」

「そうだな……ここで聞いた事は口外しないと誓えるか?」

「は、はい! 誓います!」


 こんな所で、そんな誓いを立てさせられるなんてヒラミーさん可哀想に……


 さて、気を取り直して……えーと、次は……


「それで香辛料を取り扱っている店舗を調べていたのですが、そこで魔薬とは別に問題が発生しまして……」

「問題?」

「領主様はイリアス王女が行方不明になっているのをご存知でしたか?」

「お、王女?!」


 ハサウェルさんが驚いて声を上げる。

 まぁ今の話から、なんで王女が出てくるよ、って話だもんね。


「イリアス王女の行方がわからない、という話は国王陛下から手紙で聞いている。……だが、シラハが何故それを知っている?」

「国王陛下から……ですか?」

「ああ、そうだが?」


 領主様が国王陛下と繋がっていた?

 え、じゃあ、もしかして国王陛下は悪い人じゃなかったり……?


「私は、たまたま城内を散歩していたら姫様が軟禁されている部屋を見つけまして……」

「待て待て! どんな状況になればシラハが自由に城内を歩けるんだ?!」


 やっぱりスルーしてもらえなかったか……


「ええっと……正直に話しますと…ですね、魔薬調査をまともにやってないなんて何を考えてやがりますか、と国王陛下に文句を言いに城内に忍び込みまして……」

「国王陛下に文句を……?」

「城内に忍び込んだ?」

「シラハちゃん……それはちょっと……」


 皆に呆れられてしまった。

 いや、仕方なかったんですよ?


「で、でもっ! それで国王陛下の所に行ったら、使いっ走りをさせられまして、騎士団の三番隊隊長のローウェル様の下に手紙を持って行かされまして、かなり怖い思いをしたんですよ?!」

「ほうほう、それで?」


 領主様が冷たい!


「それで、その帰りにご病気を患っていると話が聞こえたので、姫様の様子を見に行きました」

「よく場所がわかったな」

「私は鼻が利くので、その話をしていた方の匂いを辿りました」

「ああ、なるほど……」

「それで、私は名乗らなかったんですが、姫様と少しお話をしましてですね。結果として姫様が毒を盛られていると判明しました」

「なんだと?! ……つまり、イリアス王女の病気は毒が原因だという事なのか?!」


 領主様が立ち上がる。

 喰いつくね。まぁ、この国の王女様の話だしね。


「そうなりますね」

「その事を誰かに伝えたのか?」

「伝えていませんね。ですが、姫様の毒はすでに解毒済みなので問題ありませんよ」

「そ、そうか……」


 領主様が力が抜けたようにソファーに倒れ込む。


「シラハちゃん、良くイリアス王女の治療ができたわね」

「運良く解毒薬を見つけたので」

「運良く……」


 ファーリア様、何か勘付いているのかな……まぁ怪しいですもんね、私。


「あ、それでですね……一つ聞きたいんですけど、領主様は国王陛下に今回の事を依頼されたんですか?」

「ん? ああ、魔薬調査に進展が見られないから、見事解決したアルクーレ領の力を貸して欲しいとな。そこでイリアス王女が行方不明だという事も相談された」

「もしかして、私に話を持ってきた時に後ろ盾になってくれる人っていうのは、国王陛下の事だったんですか?」

「ああ、そうだ」

「ああああぁぁぁぁ…………」

「ど、どうした?」


 それを知っていたら国王陛下に、あれこれ相談したり姫様を保護したりできたのに……


「どーした? じゃないですよ! それを知っていたら、もっと動きやすかったんですよ! 姫様が死にかける事もなかったんですよ!!」

「ス、スマン……」


 領主様が若干引いている。

 やってしまった……


「すみません。取り乱しました……」

「いや、シラハの反応を見るに向こうで相当な目にあったんだろう?」

「国王陛下が敵か味方かの判別ができなかったので、姫様を軟禁場所から移せなくて、姫様は暗殺されかけました。どうにか一命は取り留めましたが……」

「犯人は……?」

「姫様が目撃しているはずなので意識を取り戻せば、すぐにでも捕まえられるかと」

「それが王都で発生した問題の全てなのか?」

「いえ、他にもあります」

「まだ、あるのか……」


 嫌そうな顔をしないでくださいよ。

 私だって嫌なんですよ。


「私とアルフリード様が調査をしていたところ、ゼブルス団長に絡まれまして……」

「また厄介な奴に絡まれたな……」

「はい……。まぁ、それで私が平民なので殺す、という事になりまして……」

「よく無事だったな……」

「ええまぁ……返り討ちにしましたし」

「……ちょっと待て、返り討ち? ゼブルス団長をか?」

「はい。私もゼブルス団長が貴族と平民を差別するだけなら全力で逃げる事を選んだんですけど、どうにもそれだけじゃなさそうでしたので」

「だから倒したと?」

「跡形もなく消し飛ばしました。生きてはいないはずです」

「それは……大問題だぞ?」


 さすがの領主様も疲れ切った様子だ。

 やっぱり私が悪いのだろうか?


「城壁の一部も壊したので、かなりの騎士に囲まれましたけど、そちらは殺さずに殴り飛ばすだけに留めました。ただゼブルス団長の部下と思われる騎士二名は殺しましたけど」

「理由を聞いても……?」

「ちょっと都合の悪い事を知っていたんです。調査を円滑に進める為に私は貴族として振る舞っていたんですが、ゼブルス団長は私を冒険者と知っていたんです」

「王都に入る時にギルドカードを使っては……」

「使っていないんですよ。なのにバレたんです。その辺の事を知られているとアルフリード様やローウェル様の立場が悪くなるので口封じをしました。そして私が暴れる事で目を逸らすことができるかも、と思って大暴れしてきました」

「…………よく、無事だったな……」


 領主様もハサウェル様も妙に疲れきっている。

 ファーリア様はそうでもないね。逞しい。


「なので、その事だけは伝えなければ、と思って飛んできたんです」

「それが起きたのはいつの話なんだ?」

「今日の話ですね」

「ん?」

「え?」

「聞き間違いか? 今日、と言ったのか?」

「ですね」

「そういえばシラハは王都に向かってから、まだ一週間程度しか経っていないな……。王都までは急いでも三日はかかるから往復で六日として、調査が一日……」


 領主様がブツブツとなにやら計算を始める。

 私の移動速度はちょっとおかしいもんね。


「旦那様。シラハ様の事ですから、なにか特別な移動手段があるのでは?」

「む? なるほど……シラハなら、ありえる……のか?」


 セバスチャンさんが領主様に助言をする。

 まぁ、あれは大勢に見せたから、構わないけどね。


 ……ちょっと怖いけど。


 私は立ち上がると、少し皆から距離をとる。


「シラハちゃん?」


 ファーリア様も少し不思議そうな顔をしているけど、その表情が不気味なものを見るような顔に変わってしまうんじゃないかと不安になる。


 私は息を大きく吸っては吐いてを振り返して、少しでも気持ちを落ち着ける。


「【有翼(鳥)】」


 私がスキルを使うと背中に純白の翼がバサリと広がる。


「なっ」

「凄い」

「これは……」

「…………」

「綺麗……」


 皆がそれぞれに思い思いの言葉を零していく。


「これが私の秘密です」

「なるほど、空を飛ぶ事で移動時間を大幅に短縮したのですな。素晴らしい」


 セバスチャンさんが感心した、という感じで私を褒める。

 ほんとに、この人は驚かないね。


 そして、ファーリア様が私に近づいてきた。

 なんか悪い予感がする。


「ね、ねぇ……シラハちゃん? その背中の羽、触ってもいいかな?」

「え…イヤで――っひゃう?! あ、ちょっ…と……」


 断っている最中にファーリア様が私の翼に触ってきたものだから、変な声が出てしまった。

 というか誰か止めて!


「奥様……」

「なにかしら? ヒラミー」


 た、助かった。

 ヒラミーさんが話しかけた事でファーリア様の手が止まった。止めてくれてありがとう。


「私も触ってよろしいでしょうか?」

「ええ良いわよ! 凄いふわふわよ!」

「え、あ、あの…やめてくだ――」

「まぁ本当に手触りが素晴らしいです!」

「いぅん?! ちょっ! ホントにやめてぇ……!!」

「本気で嫌がってるから止めるんだ、ファーリア」

「……わかったわ」

「そんなに残念そうな顔をするな……」


 名残惜しそうに手を離すファーリア様。

 領主様、本当に助かりました……


 自分で触った時は少しだけだったけど、人に触られるとくすぐったいし、ゾワゾワするし堪え難かった。



 危うく、変な扉が開かれるところだったよ……って開かれてたまるかー!







ファーリア「シラハちゃん、ちょっとだけだから!」

シラハ「ファーリア様の発言が怪しい人と同じだ! 怖い!」

ハサウェル「ふつくしい……」

シラハ「ハサウェル様?」

ハサウェル「シラハ、君のその姿を絵にしてもいいだろうか?」

シラハ「とか言いつつ既に描き始めてるじゃないですか。私帰りたいんで却下ですよ」

ハサウェル「だが、翼は美しいが体が貧相だな……。胸はもう少し…ぐぼっ?!」

シラハ「貧相とか万死に値しますね」

ファーリア「我が息子ながら愚かね……」

ルーク「ファーリアも相当だと思うがな……」

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― 新着の感想 ―
[一言]  「危うく、変な扉が開かれるところだったよ……って開かれてたまるかー!」 羽を出したのだから、羽を仕舞ったらいいだけじゃないの。
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