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私は一人じゃない。いや、比喩ではなく……

 頭の中に聞こえた声のおかげで、鬱屈とした気分が楽になった。


「誰?」


 咄嗟に聞いてしまったけど、私はこの声を知っている。


「もしかして私の頭の中に響いてくる声の人?」


 そう、いつもスキル等を手に入れた時に頭の中に響く声と同じなんだよ。


『はい、正解です』


 おお正解だったよ、やったね。


『ちなみに私が誰かは分かりますか?』


 む、難問だね。

 というか、私の頭の中に直接語りかけられる知り合いなんていないけどね。


『やっぱり覚えてないですよね……。あ、別に気にしてないですよ? 忘れてしまっているのは分かっていたので……ただ、ちょっと残念だな、って思っただけです』

「思いっきり気にしてるじゃん」


 頭の中に変な子が住み着いていました。どうしよう……。


「それで、アナタは私とどういった関係なの? さっきは、私の事をお姉ちゃんって呼んでいたけど」

『う……そう言われるとグサっときますね。いえ、分かりきっていた事です、負けるな私!』


 まだ引き摺っているのね……。

 なんだかなぁ……。


『あ、それで私達の関係…でしたよね? ちなみにお姉ちゃんは、なんだと思いますか?』


 逆に聞かれてしまったよ……。

 うーん、私が忘れている? 何処で? 今世の記憶ならバッチリ残ってるから、そうなると前世か……。


「前世で私の事が好きすぎて、私が死んだ後にも一緒に居たくて、異世界にまで付いてきてしまったストーカー? うーん、自分で言っててちょっと怖いな……」

『違いますから!』

「じゃあ、愛が重い後輩ちゃん?」

『私達は前世の知り合いじゃないですよぅ……』


 なんだ違うのか。

 せっかく前世トークができると期待したのに。


「それじゃあアナタは私の何なの?」

『お姉ちゃんは私達の命の恩人なんです』


 全く記憶にないなぁ……。

 私が、魔石取り込める事に気付く前に、誰かを助けた覚えは全くない。

 そもそも外に出られなかったし。


「人違いじゃない? それに私達? アナタの他にも誰かいるの?」

『いますよ、お姉ちゃんの中に』

「怖いこと言うのはやめてくれる? それに証拠だってない――」

『死んじゃう夢を……見ませんでしたか?』


 心臓が止まるかと思った。

 体が酷く冷たく感じる。

 嫌なことを思い出させるね……。


「……なんで、そんな事を知っているの?」

『話すと長くなりますよ』

「明日も色々とやらなきゃいけないから、ざっくりと手短に話してもらえる?」

『あ、あれ? この話題は気になって仕方ないところじゃないんですか?』

「別に知らなくても生きていけるし」


 たしかに知りたくはあるけれど、それで明日に響くのはちょっとなぁ……。

 王都に来てから夜更かし続きだから、このままだと成長にも影響が出かねない。


『あの! 私せっかく出てこれたんで、もう少しお話に付き合ってくれませんか!?』

「そう…それよ」

『ふぇ?』


 声が縋るように懇願してくるので、話に乗ってみることにした。


「なんで急に出てきたの? 私、何度かアナタに喋りかけた事あったわよね?」


 おかげで虚しい思いをしましたとも……。

 せめて一人で森に居た時に話し相手になってくれれば、精神的にも楽だったのに。


『えっと……その時はごめんなさいです……。ただ、その時は話しかけられなかった理由があったんです』


 まぁ、そうだろうね。

 ちょっと言ってみたかっただけなんだけどね……。


「ごめん、私もちょっと混乱してるみたい。……責めるような事を言ってゴメンなさいね」


『いえ、気にしないでください! ……ふふっ』


 声が急に笑う。

 笑えるような話だったかな?


「何か可笑しかった?」

『あ、いえ、その……やっぱり、お姉ちゃんは優しいなって思いまして』

「私には、その記憶がないんだけどね」

『でも、私達はちゃんと覚えてますよ』

「そう……」


 声の主は本当に子供のように無邪気に告げる。


「何があったか話してくれる?」

『良いんですか?』

「ええ……。なんかアナタ達の事は忘れちゃいけない気がするから」

『お姉ちゃんは覚えてますよ』

「え?」

『だって、お姉ちゃん。私が出てきてから昔の喋り方に戻ってますし……』

「…………」


 ホントだ。

 意識しないで喋り方が変わったのは初めてかもしれない。

 なんか、この声の子と話していると自然と出てくるんだよね。


『無意識にやっているにしても、なんか嬉しいです』

「そっか……」


 なんか照れるね。

 さて、それじゃあ何があったのか聞かせてもらおうじゃないの。


『私達とお姉ちゃんの初めての出会いは――――』


 まずはそこからね。

 前世については私個人の事は全然記憶にないけど、その辺りも分かるのかな?


『真っ白で何もない、天国という場所でした』

「はい、ストップ」

『はい?』

「天国? 比喩的な表現ではなくて?」


 そんな死んでから始まる物語とか……あ、異世界転生は大半がそんな感じだ。


『比喩ではないですね。神様もいましたし』

「神様か……。それ本物なの? 偽者じゃなくて?」

『お姉ちゃんは「アンタなんか神じゃない!」って言ってましたね』

「それホントに私? 仮にも神を名乗ってる存在に普通喧嘩を売るかな?」

『あはは……でも、そのおかげで私達は救われました』


 ふむ。

 そこから私が神様とバトルして、誰かを救うなんて想像がつかないね。


『お姉ちゃんは魂の存在って信じてますか?』

「うーん……信じてないけど、こうして転生しているわけだし、あるんじゃないかな」

『ですね。……私達は、その魂の状態で次の人生が……転生先が決まるのを待っていました。――――けど』

「何か問題があったの?」

『はい。私達には転生先がありませんでした』

「無いって……」


 そんな事があるの?

 いや、もしかすると前世で凄く悪い事をしていたのなら、そういう事も? あったりするかもだけど……。

 この声の子は、ただの子供に感じられるんだよね。


『神様の話では、私達の魂が摩耗していて転生するだけの力が足りなかったそうです』

「そんな事もあるんだ……」


 それなら仕方ないのかな……?


『だから私達は廃棄処分待ちになっていました』

「え…廃棄……?」


 それは天国ならではの用語とかではないんだよね?

 捨てるの?

 魂を?


『そこで転生する為に神様とお話をしていたお姉ちゃんが、私達に気が付いて神様と揉め始めたんです』

「なるほど……」


 ああ……そこは簡単に想像がつくね。

 命を簡単に処分するとか神様が聞いて呆れる、とかなんとか文句を言いそうだもん。


『お姉ちゃんは、そのあと私達の所にやって来て「一緒に行こう」って言って、手を差し伸べてくれたんです』

「え、自分がどうなるかも分からないのに、私そんな無責任な事を言ったの?」

『そう言われるとアレですけど……それでも私達は嬉しかったんです。誰も……私達に話しかける事なんてしませんでしたから』

「薄情な人しかいなかったんだね」


 子供が困っていたのなら手を差し伸べてあげればいいのに……。


『そして私達を庇うお姉ちゃんに神様が言ったんです。「そんな薄汚れた魂はいらない。それを庇うと言うのなら、一つの魂にして別世界に飛ばしてやろう」と……』

「ゴメン、意味がわからない……」

『大丈夫です。私もわからなかったので』


 それは大丈夫と言っていいのかな?


『そして神様が私達の体に手を翳すと、体の自由が利かなくなって、そのままお姉ちゃんの体の中に入ってしまったんです』

「だから私の頭の中に喋りかけられると……」


 ふむふむ。

 頭の中に声が聞こえるのはわかったけど、なんで私はその時の事を覚えていないんだろ。


『私達は、お姉ちゃんの中に入ると意識を失ってしまったので、その後の神様とのやり取りはわからないんですけど、私達が中に入る時、お姉ちゃんはかなり苦しそうに悲鳴をあげていたので、記憶がないのはそれが原因ではないかと思っています』

「なるほどねぇ……。ちなみにアナタ達は何人くらいいるの?」


『えっと86531人ですね』

「え、多くない……?」

『この人数が多いのか少ないのかは分かりませんが、それだけの魂がお姉ちゃんの中にいます』


 てっきり十人とか、それくらいだと思ってたんだけどなぁ……想像以上に多かったよ。

 というか魂を一つにするとかよく分からないけど、魂を詰め込みすぎてパンクとかしないよね?


「ちなみにアナタだけが喋れるのはなんで?」

『お姉ちゃんに感謝を伝えたくて、必死に言葉を発する事ができるように頑張ったからですね』


 頑張ってできる事なんだ。


「私を乗っ取る為に暗躍とかは……」

『してませんから!』


 ふぅ……それなら安心だ。

 もしかすると私が寝ている間に悪さしてるかもだけどさ。


「じゃあ、アナタの名前は? なんて呼んだら良いの?」

『名前はありません。なので好きに呼んでください』

「名前ないの? まさか、それも神様のせい?」

『たぶん、そうなんだと思いますけど……お姉ちゃんは前世の名前覚えているんですか?』

「…………覚えてないね」


 そういえば、そうだったね。

 ほ、ほらっ私は覚えてなくても、他の人は覚えているかもじゃん?

 その為の確認だよ!


「それじゃあ、ナヴィ……とか、どうかな?」

『えっ…それが私の名前、ですか……?』

「あ、イヤだった? ゴメン、他の考えるね」


 反応が凄く微妙だった。

 私、名付け下手だったのか……うーむ。


『あ、違うんです! その、ビックリしちゃって……! 私、ナヴィが良いです!』

「え、良いの? 無理してない?」

『無理なんてしてないです! 凄く嬉しいです!』


 喜んでもらえたのなら良かった。

 名前の由来?

 ただ私のスキルや力が、どうなったとか説明してくれるから、案内してくれるナビみたいだなって思っただけ。

 でも、そのまんまナビだと可愛げがないからナヴィにしてみたんだよ。

 気に入ってくれたのなら私も嬉しいよ。


「ねえ、ナヴィ」

『はい! なんですか!?』


 テンション高いよ!

 頭の中に声が響くんだから、せめてもう少し声のトーンを下げて……


「あのさ…コレが一番気になってたんだけど、私の力って何なの?」


 ずっと気になってはいたんだけど、カトレアさんの影響を受けて得た力。という仮説しかたてられなかった。

 ただカトレアさんの元の姿というか正体である、パラシードという魔物の力に似ている部分がある、という事だけだ。


 それをアレやコレやと管理してくれているナヴィなら、何か知っているかも知れない、と思ったのだ。


『何なんでしょうねぇ……』


 あれぇ?

 なんか思ってた反応と違う……。

 全部じゃないにしても、少しくらい知っててもいいじゃんよぅ!


「え、本当に知らないの? ちょっとくらい何か知ってるんじゃないの? ほら恥ずかしくないから、お姉ちゃんに教えてごらん?」


 なんか変なお姉ちゃんになってしまった。

 でも気にしないよ私は!


『と言われても……。私はただ、生まれる前に感じた力を手本にして、お姉ちゃんが取り込んだ魔石を調べてるだけですし……』

「ん? あれってナヴィが取り込んでるんじゃないの?」

『違いますよ? お姉ちゃんが魔石を取り込むと、魔物の情報? 記憶? が流れ込んで来てビックリするんですから』

「なんか……ゴメンね?」



 よくわからないけど、どうやら魔石を取り込む力とナヴィは全くの別物らしいです。


 私の力の謎に迫りたかったのに残念……







シラハ「私の謎に迫れなかった……」

ナヴィ「残念でしたねぇ」

シラハ「他人事みたいに言うなよぅ! 大事なことでしょうが!」

ナヴィ「私はお姉ちゃんとお話できたので、それで十分です……」

シラハ「そ、そっか……(照)」

ナヴィ「あれ? お姉ちゃん照れてます? もしかして照れちゃってます?」

シラハ「う、うっさい! 大人を揶揄うんじゃないよ!」

ナヴィ「可愛らしい大人ですねー」

シラハ「ぐぬぬ……今に見てろよー」

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