私は変態ではないのです
「あ、そういえば、私が悪夢を見る原因って結局なんなの?」
色々と話を聞いて忘れていたけど、コレも聞いておかなきゃね。
『そうでした、それを話さなきゃでしたね。――お姉ちゃんが見ている悪夢……自分が死ぬ夢。あれは別にお姉ちゃんの実体験というわけではないです』
「そうなの?」
その割には、あの夢は真に迫っていた気がする。
『でも、全くの虚構でもないんです。あれは、お姉ちゃんの中で今も眠っている魂達が見ている夢なんですよ』
「眠っている……?」
『そうです。私達は摩耗してしまった魂なので、お姉ちゃんの中で眠っているんです』
「それって……つまり、時間が経てば目を覚ますって事だよね? そしたら私の体を皆で取り合うってこと?」
そんな事になったら、二重人格どころの話じゃないよ。ただのおかしい人だよそれ。
『取り合う事はないと思いますよ。主人格はお姉ちゃんですから、私達は表に出られません』
「でもナヴィは表に出てきてるじゃん」
乗っ取られることは無くても、私の中にいる約八万人に一斉に話しかけられたら、頭がパンクする。
確実に廃人になっちゃうよ。
『私は、お姉ちゃんに恩返しする為に力になりたかったので、ちょっと力を頂きまして……』
「力を? 誰から?」
私の中で困っている子に、力を貸してくれる奇特な人がいるとは思えない。
まさか神様? いやいや、ナヴィから聞いた話では、少なくとも廃棄処分しようとしていたナヴィに力を貸すなんてする筈がない。
『えっと、お姉ちゃんから?』
「やっぱり私の体が目当てだったのね……」
『ち、違いますから! お姉ちゃんから力を貰ったというよりは、お姉ちゃんが取り込んだ魔石から力を拝借していたんです!』
「それもどうかと思うんだけど……」
というか、ナヴィは当たり前のようにそんな事を言ってるけど、そんな事できるものなの?
『調子に乗ってゴメンなさい! 恩人のお姉ちゃんから盗ってゴメンなさい! ぶたないでっ!』
「ちょっ…何もしないから落ち着いて、ナヴィ!」
頭の中にナヴィの悲痛な声が響く。
これはくるね……。
それに今の取り乱し方……誰かに暴行でも加えられたことでもあるのかな……。
とても聞けることじゃないけど。
「どう? 少しは落ち着いた?」
少しの間をおいて、私はナヴィに話しかける。
こういう時に相手の様子が分からないのはやりにくいね。
『お姉ちゃん……怒ってますよね?』
恐る恐る、といった感じでナヴィが尋ねてくる。
そんなに怯えなくてもいいのに……
「怒ってないよ。そもそも盗ったって言うけど、実感も実害もないのに、どう怒ればいいのよ。むしろナヴィが、私が気付いてなかった力を有効活用してくれただけでしょ?」
『そう、なんだけど……お姉ちゃんは自分には見えない所で、勝手な事をされてたら怖くないの?』
「怖いけど、それって私がどうにかできることでもないでしょ? 私を不安にさせるのが目的なら、それは叶ってるけど……ナヴィはそんな事をする子には感じられないんだよね。――って、さっきまでナヴィと話せるとも思ってなかった私が何言ってんだって話だけど……」
ナヴィと話していると妙な安心感があるんだよね。
だから転生する前に、会っていたってのは本当だと思ってる。
『あのね、もしかすると時間が経てば眠っている魂達は力を取り戻して、転生できるかもしれないんです』
「そうなの? できる事があるなら手伝うけど、どうやって魂を私の中から出せばいいの?」
『……それは、その時に考えましょう』
「ノープランなのね……」
『それで、ですね。もし私が元気になっても、私はお姉ちゃんの力になっていたいんです。だから…その時になっても私は一緒に居てもいいでしょうか?』
なんで、そんなに私と一緒にいたいのかなぁ……
捨てないで、と言わんばかりの雰囲気が言葉だけで伝わってくる。
「もし転生したくなったら、いつでも私の中から出て行って良いからね」
『大丈夫です! 死ぬまで一緒です!』
「そこまでの決意はいらないよ……」
まぁ、慕ってくれてるのなら可愛いもんだけどね。
「あ、そだ。ナヴィって子供? 私、当たり前のようにナヴィ達を子供だと思ってたけど……」
『魂だけの存在に大人も子供もないんですけど、私も他の魂の子達を子供と認識しているので、おそらくそうなんだと思いますよ』
「そっか……でも、何万もの子供の魂だけを廃棄しようとしてたの? その神様ってヤツは……」
『なんでも子供のうちは魂がすり減りやすいって言ってましたね』
「なんだかなー」
それなら、何かしらの救済措置でもとってあげれば良いじゃない。
向こうの事情を知らないから言える事なのかもだけどさ。
『お姉ちゃんは眠っている子達のことは気にしないで、好きに冒険してくださいね』
「そうするけど……何かあれば言ってね? 私にできる範囲で力になるからさ」
『お姉ちゃんには、こっちに連れ出してもらえただけで十分に力になってもらってますよ』
そう言われると、そうなんだろうけどさ。
私の中で、今も昏睡している子達がいると言われたら気になるじゃん?
とは言え、魂相手に私が出来ることなんてないし……現在進行形で魔薬だったり姫様の事だったりと、やる事はあるのでまずはそっちに専念しないとね。
あっ、あとアレも聞かなきゃ……
「ねぇ、ナヴィ」
『なんですか?』
「私のステータス画面? スキル画面? って、ナヴィが作ってくれたんだよね? あれって、もう少し見やすくできたりするかな?」
あの画面は前世の知識がないと表現できないからね。
だからナヴィが作ってくれたんだと勝手に解釈していた。
『み、見にくかったですか?! すみません、ゲームはあまりやった記憶がなかったので、とりあえず並べてみようと思って……』
「ああ、違うの。基本はアレで良いんだけど、スキルが増えてきちゃったでしょ? だからパッと見た時にスキルを探しちゃうんだよね」
『なるほど……たしかに結構増えましたよね』
もう生贄にされて、かなり経つからね。
『分かりました。少し待っててくださいね』
そういうとナヴィは静かになる。
急に頭の中が静かになって、ようやく冷静になってくる。
まずはナヴィについては、私から手は出せないので様子見するしかない。
もしナヴィが何か悪さをするなら、私はそれまでだと思う。出来るのなら抵抗はするけどさ。
次に眠っている魂達についても保留だ。
さっきも言ったように私に出来る事があるのなら、手伝うけど八万人もの魂を私一人で助けられる訳がない。
そして私の力についてはナヴィが管理を補助してくれている、という事が分かったけど、力そのものは私に備わっているモノらしい。
明らかにならなかった私のチート事情。まだ全然チートって程じゃないけどね。
あとは……神様についてかな?
物申したい気持ちはあるけれど、たぶん相手にしてもらえないだろうね。
それに平気で魂を処分するなんて事ができる人? だから、文句言ったら私も処分されちゃうよね……
という訳で、神様は無視。
これで大まかな方針は決まったね。よしっ!
『お姉ちゃん、お待たせしました』
「ん? 全然待ってないよ」
すると、ちょうど良いタイミングでナヴィが戻ってくる。
では……見せて貰おうか。ナヴィの新しいステータス画面の性能とやらを!
名前:シラハ
領域:〈ソードドラゴン+パラライズサーペント〉
《森林鷹狗》 サハギン フォレストマンティス
レッドプラント ハイオーク エアーハント
シャドー 迷宮核 シペトテク(0)
スキル一覧
通常:【牙撃】【爪撃】【竜咆哮】【丸呑み】【鎌撫】
【吸血】【風壁】【影針】
強化:【竜気】【剛体】【熱源感知】【跳躍】【水渡】
【疾空】
変態:【竜鱗(剣)】【有翼(鳥)】【血液操作】【擬態】
【潜影】
状態変化:【麻痺付与】【解毒液】
重複:【獣の嗅覚】【側線】【誘引】【誘体】
自動:【体力自動回復(中)】【毒食】【夜目】【潜水】
【散花(●)】
迷宮:【迷宮領域拡大】【迷宮創造】【主の部屋】
特殊:【贄魂喰ライ(0)】
「おおっ、良いんじゃない? 凄く見やすくなったよ」
『本当ですか?! 良かったぁ……』
「そんなに心配しなくても良いのに……。スキルはいくつか種類を分けてくれたんだね」
『はい、その方が見やすいと思って』
「助かるよー。ありがとうね、ナヴィ」
『お姉ちゃんの力になれたなら良かったです!』
本当に嬉しそうなナヴィに、私はほっこりとしてしまう。
声だけでも可愛いわ。……って、ん?
「ねぇ、ナヴィ。悪いんだけど一個だけ直してもらっていいかな?」
『え?! ダメでした? 何処ですか? ごめんなさい!』
「はいはい、落ち着いてー。ちょっと表記を直してもらいたいだけだから、慌てなくて良いよ」
ナヴィを落ち着かせながら、私はとある部分を見やる。
うん、これだけは何かヤダなぁ……
「ゴメンね、折角やってもらったのに……ただ、この種類分けしてあるところの「変態」ってのは、なんとなく気になるから違う言葉にして貰いたいんだ」
『え、何か変でしたか? 竜鱗や翼が生えて姿形が変わるので間違ってないと思うんですけど……』
「うん、間違ってないよ。間違ってないんだけど、ちょっと変態と言われるのには抵抗があると言いますか……」
言葉としては間違ってないんだけどね……。
コレを見て、変態さんが使うスキル…と、思ってしまった私は、きっと汚れているんだろうな……。
子供の無垢さや純真さは、時として大人を苦しめるモノなんだね……。
『わかりました。お姉ちゃんが気になるのなら直しておきますね』
「ほんとゴメンね……」
『いえ私の方こそ、気が利かなかったみたいでゴメンなさいでした』
違うんだよぉ!
私が悪いんだから落ち込まないでぇ!
「そ、そうだ。スキルの重複枠は普段から効果があるけど、使うとさらに効果が上がるスキルの事だよね?」
『あ、そうです! そこは、どうやって分けたら良いか、なかなか悩みました』
「たしかに難しそうだよね……私は分かり易いと思ったよ」
ナヴィはゲームの知識があまりない、って言ってたのに、これだけできるんだから凄いと思う。
「こうやって種類分けできるなら、ナヴィはスキルの詳細って知ってるの?」
『詳細……ですか?』
「ほら、たとえばお爺ちゃんが持ってきた魔石から手に入れたスキルの【贄魂喰ライ】とかさ説明文が意味わからなかったから……」
『ああ……あれですか。私もあのシペトテクの情報はよく分からなかったんですよ。あの説明文だって周りの人が言っていた言葉ですし』
「ん、人? 周りに人がいたの?」
アレって魔物だよね? なのに周りに人って……冒険者とかかな?
たしかナヴィは魔石を取り込むと、その魔物の記憶だか情報だかが流れ込んでくるって言ってたから、そこからの情報なのかな。
となると間違ってはいないんだろうけど、肝心の効果がわからないんじゃあなぁ……。
やっぱり欲しい情報は簡単には手に入らないか……
でもナヴィのおかげでステータス画面が改善されたし、今後は分からない事は聞けるし、かなり楽ができるようになるね。
なんだか、私の周りが少しずつ賑やかになっていくね。
静かな方が好きなんだけどなぁ……
と、なんだかんだ思いつつも、イヤではない私だった。
シラハ「ナヴィがいるから今後は一人で、あんな事やこんな事ができなくなるね……」
ナヴィ「あんな事って、なんですか?」
シラハ「聞かないでください、お願いします」
ナヴィ「なんで敬語なんですか?! 私なにか気を悪くさせるような事を聞いちゃいましたか!?」
シラハ「ナヴィ…聞かない優しさ、というモノもあるんだよ……」
ナヴィ「お姉ちゃんが一人の時って……たしか、 『むさ苦しい冒険者稼業にオアシスを…! 猫型の魔物が集う迷宮特集!』って本を読んでばっかりでしたよね?」
シラハ「見られてたっ?!」
ナヴィ「にゃんにゃん言ってる、お姉ちゃんは凄く可愛かったですよ」
シラハ「いやー! やめて恥ずか死ぬぅぅ!!」




