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王都は食事が美味いです!

「ん〜〜よく寝たぁ」


 布団から体を起こし、私は一つ伸びをする。


 昨日はよく働いてしまったから、今日はお昼までぐっすり眠ってしまった。

 ベッドから降りてパジャマから外行きの服に着替える。


「む……また育ってきたかも……」


 どことは言わないけど、ちょっとニンマリとしてしまう。

 私の祈りが何処かに届いたのだろうか。


 着替え終わると部屋を出て階下に移動する。

 ちなみにここは、ホテルではなくて普通の宿屋だ。


 あんなお高いホテルに連日宿泊していたら、私のお金があっという間に溶ける。

 なので昨日、アルフリードさんと調査に出る前に宿屋を探して部屋をとっておいたのだ。

 荷物も邪魔だしね。


 とにかく何か食べよう、お腹がペコペコだ。

 そう思って注文した食事が、目の前に運ばれてきて私は眉を顰めた。


「この匂いは……」

「良い香りですよね……。これは当店自慢の野菜スープです。熱いので気を付けて召し上がってくださいね」


 私の独り言に給仕をしてくれた人が律儀に答えてくれた。

 ゴメン、そういう事じゃないんだ……。


 目の前の料理からは、昨夜アルフリードさんと一緒に食べた料理と同じ匂いがする。

 アルフリードさんの様子がおかしくなったタイミングを考えると、私が選んだ店が怪しいとは思っていた。


 だから、あの店を調べれば何かしら進展があるのでは……と、簡単に考えていたのに。今、私の前に同じ匂いを漂わせた料理が置かれている。


 中に入っている具や調味料は違うから匂いに違いはある。

 だけど、その中から確かにコレだ、と言える強い香りが存在した。


(魔薬だ……)


 魔薬を料理の中に入れてるんだ。これじゃあ無差別なテロじゃん。

 しかも、犯人は食事を提供するお店が少なくとも2軒。


 これは私の手には負えないよ。

 それこそ国が動いて何かしらの手を打たないと……。


 とりあえず目の前の料理は片付けないとね。


「いただきます」


 私が両手を合わせて、いただきますをすると周囲から変な目で見られた。失敗した……。


 私の故郷で食事をする前に、いただきますをしていたのを見たことがなかったので、故郷の森を出てからはやらないように気を付けていたのになぁ。

 考え事をしながらだったので、ふと染み付いた習慣がポロっと出ちゃったね。


 そんな事を考えながら私は魔薬入りの野菜スープに口をつける。美味いんだよなぁ……。

 悔しい事に旨い。なんでこんなに美味しいのに魔薬なんて突っ込むんだよ! と今すぐ厨房に怒鳴り込みに行きたいくらいだ。


 まぁ、そんな事をしたら私が捕まるだけだろうけどね。


 とにかく、この事はアルフリードさんと合流したら話しておかないとね。



 そして食事を終えた私は腹ごなしに散歩へと出かける。


 領主様が、まだ表立って素行の悪い中毒者が何かを仕出かすという事は無いなんて言ってたけど、料理とかに混ぜられて知らず知らずに中毒者にされていたとしたら、かなり危険なのではないだろうか?


 昨日は結局、貧民層には行けなかったからね。

 仕方がなかったとはいえ、今日はもう少し調査を進めたいところだよ。

 でも、私一人で貧民層に行ったりはしないよ。


 何かトラブルが起きたら、正式な手続きをしないで王都に入ってきた私は捕まると思う。

 あれ、待てよ?

 冒険者ギルドだと冒険者カードを魔道具に読み取らせるような事をしていたけど、衛兵の人に身分を証明するために冒険者カードを提示するだけならいけるのでは?


 あ、でも後で聴取される時に冒険者カードを提出するかもしれない……。

 そうなったらアウトだね。

 やっぱり散策だけにしておこう。


 私だけでは行動が起こせないとなると、アルフリードさんと合流できる時間が待ち遠しい……。

 モヤモヤした気持ちばかりが溜まっていく。


 早く時間にならないかな……。


 私は周囲を注意深く見る事も忘れてしまう。

 これじゃ、散策している意味ないね。


 無駄に歩いて体力を消費するくらいなら、一つ所に留まって時間を潰していた方がいいかも知れない。


 私はアルフリードさんと待ち合わせをしている、広場の噴水の縁に腰掛ける。

 噴水から水が湧き出る音に、焦りで曇った気持ちが軽くなっていく。


 焦っても仕方がないもんね。


 とはいえ約束の時間まではまだかなりあるので、このままここで時間を潰すのは辛いかもしれない。


「あれ? 君はシラハ……?」

「えっ?」


 どうしたものかと悩んでいると、不意に声をかけられた。

 王都にはアルフリードさん以外で私に声をかけてくる人なんていないと思っていたから、咄嗟に反応して顔を上げてしまった。


「ああ、やっぱりシラハだ。アルフリードは今日も訓練場だ。一人で行くと怒られるかも、と思っているなら俺が一緒について行ってやろうか?」


 私に声をかけてきたのはヴァンスさんだった。

 ヴァンスさんは昨日、私がアルフリードさんに一人歩きを注意されていた事を覚えていたみたいだ。


「こんにちは、ヴァンス様。今日は訓練場に行く予定はありませんので大丈夫です。心配して下さってありがとうございます」

「そっか。でも人目がある場所だからって、女の子が一人でいるのは感心しないぞ?」


 これは私の事を心配してくれているんだよね? 貴族だから、なんか別の意味があるとかじゃあないよね?


「もう少ししたら帰りますのでご心配なく……」

「そうか? なら俺もそれまで付き合うとするか」


 帰れよー!

 私はこの人の事をアルフリードさんから聞いていないから、下手に喋ると絶対にボロがでちゃうんだってー!


「私は療養として一人で居る事が多かったので、誰かとお話しするのを苦手としています。私と一緒ではヴァンス様が退屈な思いをなさるかもしれません……」

「平気だ。騎士は私語厳禁な時が多々あるからな。たとえ半日喋れなくても平気だとも!」


 そんな事を言われてもなぁ……。

 これ以上、断るのも難しいか。


「シラハはなんで一人でこんな所にいるんだ? せっかく帰ってきたんだろ? なら家族と一緒に過ごせば良いのに……」


 ごもっともな指摘をありがとう!

 くそー。面倒くさいのに捕まってしまった。なんでアルフリードさんに友達がいるんだよ。


「家族とは離れていた期間が長かったので……なんと言いますか……。どう接していいのか分からないのです」

「でもアルフリードには真っ先に会いに来たよな?」

「ええ。…………ヴァンス様はお兄様が以前アルクーレに滞在していたのは、ご存知でしょうか?」

「ああ、知ってるよ。先輩騎士が何人かの後輩騎士に押し付けたヤツだよな? 俺は難を逃れたけど……」


 なるほど、先輩の騎士に押し付けられたんだ。

 だとしたら最初に会った時に突っかかってきたのも、単純にイライラしていただけなのかも知れない。

 アルフリードさんも色々あったんだねぇ……。


「で、それがどうした?」

「それで、お兄様が療養していた私を訪ねて下さいまして、そこで初めてお兄様と対面いたしました」

「初めて?! 今までアルフリードに会った事なかったのか?!」

「はい」


 嘘と本当を混ぜておく。

 アルフリードさんが滞在していた領主様の屋敷を訪ねたのは私だけど、あそこで初めて会ったのは本当だ。


「よくそれでアルフリードが兄だと分かったな」

「偽物なら使用人が追い払っているでしょうから」

「それもそうか……」


 ヴァンスさんの質問もネタが切れたのか沈黙する。


 私は口下手なので喋りません。という設定だよ。


「シラハ。君はいつ社交界デビューをするんだ?」

「はい?」


 全く予想していなかった質問に、私は上手く返事が出来なかった。

 なんだよ社交界デビューって、冗談じゃない。間違ってもファーリアさんには言うなよ。確実にパーティーしようぜ、とか言い出す。


「シラハも貴族なら、いずれは何処かの令息と婚約するんだろう?」

「そ、そうですわね……」


 そんな予定ないよ!

 この話題イヤだよ!


「俺は17歳だけど、まだ婚約者を決めてないんだ。もし俺がシラハと婚約してアルフリードの義弟になったら、アイツどんな顔するかな?」


 するかー!

 勝手に私の婚約者になるな!

 というか、私と結婚してもアルフリードさんとは義兄弟にはなれないんだぞう!


「私のデビュタントをどうするかは、まだ決まっておりませんが、それらはお父様がお決めになるかと思います。それに私はまだ13歳ですので……」

「まあ、そうだろうな。ふむ……シラハは13歳なのか。なら、すぐにでも社交デビューはできそうだな。楽しみだ」


 キランと歯を光らせながら笑うヴァンスさん。

 デビュー出来ちゃうのかよ!

 ヤバイよ、てっきり15歳くらいからだと思ってたよ。


「あ、でも療養していたのならダンスとかの練習をする必要があるのか? となると、もう少し時間が必要になるかもな」

「そ、そうですわ! 今は体力作りの為に、こうして散歩をしているのです」


 適当に話を合わせておく。

 ヴァンスさんは危険だ。

 ちょっと近くに居たくない。結構、強引そうだもの。


「そろそろ休憩も終わりにして帰ります」

「それなら俺が家まで送る。今日は遅番だから時間に余裕あるし」


 だから、こんな所で遭遇したのか。

 なんて不運な……。


「せっかくの申し出ですが一人で帰れます。未婚の女性が男性と一緒に居ては、変な噂を立てられてしまいます」

「そうか……。なら、気を付けて帰るようにな」


 私はヴァンスさんにお辞儀をしてから、その場を足早に立ち去った。


 疲れた! なんだよ社交界って! デビュタントって!

 誰がやるか!


 本当に疲れた。精神的に……。

 今日はもう休もうかな……。あ、でも姫様には会いに行ってあげないとなぁ。

 姫様も精神的に弱ってそうだし……。


 そして私は結局、宿屋に戻ってベッドの上で待ち合わせ時刻まで時間を潰すことにした。

 寝落ちしても大丈夫なように、宿屋の人に時間になったら起こすように頼むのも忘れない。


 それでは時間まで、おやすみなさいー。









◆アルフリード・オーベル視点


「はぁ……」


 今日何度目かも分からない溜息を吐く。


「アルフリード、弛んでいるぞ」

「はいっ、スミマセン!」


 一緒に警備をしている先輩騎士に注意される。

 いかんいかん。警備に集中しなければ。


 でも……。

 昨夜の事を思い出してしまうと駄目だ。

 僕はシラハに迫ってキスをしてしまった……。


 なんて事をしてしまったんだ……!


 いや、勿論イヤという訳ではない。シラハの唇は柔らかくて、口を舌でこじ開けようとすれば熱を持った吐息が溢れ、僕の理性をさらに奪っていった。


 そこで僕の意識は途切れたけど……。


 シラハの声で目を覚ませば頭は妙にスッキリしていた。殴られたからかな?


 その後は僕が魔薬を飲んでいたと言われたり、シラハに背負われて運ばれたりと、色々あった。


 その中で僕はまたシラハに変な事を言ってしまって、彼女を怒らせた。地面に落とされてすぐに不味いと思い、謝ろうとシラハを見上げると彼女は見たことのない表情をしていた。


 拗ねたように唇を尖らせながら、俯いて頬を赤く染めてシラハは言った。


「綺麗って言ってくれたのに……」


 いつ言った? と思わなくもなかったけど、すぐに思い出した。店を出て少しして頭がボーっとした辺りで、僕は確かにシラハにそう言った。

 確かに言ったけど、その反応じゃあ、なんかまるで……


「え……?」


 思わずシラハに見惚れていた僕の口はダラシなく開いていたらしく、そんな言葉を零すことしかできなかった。


「なんでもないです!」


 シラハは顔を真っ赤にして、そっぽ向いてしまった。もっと見ていたかったのに残念だ……。


「はぁ……」

「おいっ」

「はっ! 申し訳ありません!」


 危ない危ない。だから警備中なんだって。

 シラハの事を思い出すと緩んでしまう。今までそんな事はなかったのに。

 気を付けようとしても、今日もまたシラハに会えると思うと駄目だった。このままじゃ不味い。どうしようか……。


「君がアルフリードか?」


 すると一人の騎士に声をかけられた。

 あ、青いマントを着けている。という事は……騎士団の三番隊所属の方だ。

 そんな方がなんの用だろう?


「君に話がある。少し良いか?」

「は、はい!」

「彼を少し借りる。近くに居るから何かあれば呼んでくれればすぐに戻らせる。構わないか?」

「問題ありません!」


 僕が返事をすると三番隊騎士の方が先輩騎士にも許可をとってくれた。

 わざわざ僕に声をかけてくるという事は、魔薬絡みだと思う。


 もしかして三番隊が協力してくれるのかもしれない。

 光明が見え始め、僕の足取りは軽くなる。


 これで苦労ばかりかけているシラハにも、少しは良い報告ができるかもしれないな。






アルフリード「やめるんだヴァンス! 早まるな!」

ヴァンス「ふふふ、諦めろアルフリード……」

シラハ「アルフリードさんがピンチに……。一体なにが!」


ヴァンス「さぁ覚悟して貰おうか! アルフリード義兄上(あにうえ)

アルフリード「ぐはぁ!」パタリ

ヴァンス「アルフリードのその悶絶する顔が見たかった……」

シラハ「そんなくだらない事で婚約したら、なんてたらればの話をするんじゃなーい!」

ヴァンス「げふっ……我が人生に一片の悔い無し……」ガクっ

シラハ「しょうもない事に人生懸けるなよ……」

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