パシらされました
「うーん……」
王城の人気の無い通路で唸る声が響く……。
もし、それを聞いた人がいたら王城の七不思議とかできちゃうかな?
っと、そんな事はどうでも良いんだ。お察しかとは思うけど、私は今【潜影】を使って通路の影に潜んでいる。
別に警備がザルだとかではないよ?
ただ、スキルのおかげで難なく潜り込めてしまっただけなのだ。
そして潜り込んだのはいいんだけど、王様が何処にいるのか分からない……。
そもそも私は王様の顔も知らないんだよね。
ちょっと王様の所まで行って、ちゃんと魔薬について調べろよって言おうと思って来たのはいいけど、これは完全に失敗ですな。帰ろう。
とはいえ、普段なら足を踏み入れる機会もないであろう王城だ。それなら夜中の王城見学といこうではないか。
大丈夫。バレなきゃ怒られない。
バレたら打ち首案件だと思うけどね。
さて……そうなると、まずは王城の見どころ…というか観光名所的な場所は何処になるのかな?
最初に思いつくのは宝物庫……。
アレだよね。物語の終盤になると勝手に鍵を開けて宝を掻っ攫って行くんだよね。
私にはそんな鬼畜な所業はできそうにないね。
でも宝物庫には興味があるね。行ってみる?
宝物庫といえば地下……かな? とりあえずは適当に下っぽい所に行ってみようかな。
私は下に降りる道を探して移動する。もちろん影に潜ったままだ。
一応、人の少なそうな道を選んで移動している。ここは王城。警備がしっかりしているのは勿論、腕の立つ人だって居るはずだ。
そうなると影に潜っている私の気配に気付く人がいるかも知れないからね。
でも、それが良くなかったのかも知れない。
道に迷った……。
いや、これは仕方がない。だって王城広いし。
宝物庫は止めよう、見つからないよ。
そもそも私みたいな小娘が簡単に見つけられるような場所に宝物庫がある訳がない。
もう寄り道なんてしないで王様を探そう。そうしよう。
そう思っていると、どこからか芳しい香りがしてきた。
なんか、またお腹が空いてきたね。私は食いしん坊ではないんだけどなぁ……。
匂いにつられて移動して行くと厨房を発見した。
影の中でも匂いが分かるんだ……。
厨房を覗くと何人もの料理人が忙しなく動いている。
ふむ……つまみ食いとかは、できないかな……?
王城の料理とか興味あるんだけどなぁ。
私がいくつも並んだ料理を見ていると、一食だけ他とは違う料理が置いてあった。
王様の食事ではないね。他の料理と違って、ちょっと質素な感じがするね。
「失礼……姫様の食事は用意できておりますか?」
慌ただしい厨房に燕尾服を着た男がやってくるなり、そう聞いた。
そして、すぐに料理人の一人が、さっきまで私が見ていた料理を男に渡していた。
「姫様の調子はどうですかい? 言ってくれれば何でも作るんで遠慮なく言ってくだせい」
「食欲も落ちるばかりですね……医師にも原因が分からないと……」
「そうですかい……」
他の人達も会話は聞いていたのか、皆雰囲気が沈んでいる。どうもお姫様が病気みたいだね。
病気じゃ私に出来ることはないけどさ。
そして私は王様探しを再開する。
なんで私は居所を探さなければいけない王様を後回しにして、あるかも分からない宝物庫を優先してしまったのだろう。私のおバカっ
でも宝物庫探しで一階は粗方探索し終えたからね。決して無駄ではなかったんだよ。
となると、残りは上階だね。
願わくば王様と一目見て分かる警備だったり、王様オーラでも発している人だと楽なんだけどね。
こう……背後にキラキラとした空気が漂っているとか……うん、ないね。
そして長時間に渡り探索をした結果、私は遂に王様の寝室らしき場所にたどり着いた。
(【熱源感知】【側線】)
私はスキルを使って警戒を強くすると、寝室の前に陣取る護衛達の間をすり抜けて扉から侵入する。
部屋の中には王様と思われる人しかいない。
でも寝室の入り口には護衛が二人、天井裏にも二人待機しているのが分かった。
これだけ守りを固めているのなら、ここの部屋の主は王様か、或いはそれなりに偉い人な筈だ。
私はそんな守りの中を、影を伝って抜けて行く。
王様? は巨大なベッドに横たわっている。寝てるのかな? 起こしちゃマズイかな?
ベッドの近くまでは移動できても、ベッドの上には上がれない。
天井裏にいる二人が、どれくらいで私に気付くかも分からないので下手に王様に接触する事もできない。
困ったな……。
そこで私は【迷宮領域拡大】と【迷宮創造】を使ってみる事にした。
どこを迷宮にするのかって?
それは勿論、王様のベッドだよ。
私は王様のベッドに魔力を流し込んで、ベッドを自分の領域下に入れる。今まで試していたのより範囲も狭いから楽だね。
そして今度は【迷宮創造】でベッドの真下から、王様の耳元辺りに直通の穴を開ける。
これでベッドの上と下で会話ができるね!
「ん……なんだ?」
あ、やっべ。王様起きちゃった。
とにかく何か話さなきゃ……。
「夜分に失礼します国王陛下。ここには他の方の耳もありますので、私の話を静聴していただければ幸いです」
「このように穴を開けてあれば上の者には聞こえん。存分に話すとよい」
あれ、意外と冷静な対応だ。
「それでは単刀直入に伺います。陛下は王都に蔓延る魔薬を取り除くつもりはないのでしょうか?」
「何を言っている? 現在、私の命令で調査にあたっている。すぐにこの国から魔薬など根絶してくれる」
「その調査の為に集められた者達が、調査と称して他の貴族と飲み食いしているだけだと言ってもですか?」
「……それを信じる証拠はあるのか?」
「陛下がご自身の目で確かめれば済む話でございます」
「なるほどな……」
王様が沈黙する。
天井裏の二人が動く気配はないので、時間稼ぎというわけではないね。
「それで其方は、そのような話を私に聞かせて何の得があるのだ?」
すると王様は魔薬ではなく、私個人に問いを投げかけてきた。いや、魔薬の事を聞けよ!
「魔薬で少々羽目を外した方に絡まれた事があります。ですので陛下には、一刻も早く魔薬を――」
「ふむ……分かった。では、これを騎士団の三番隊隊長のローウェルという男に渡して欲しい」
「え、あの……」
王様は私の返事も聞かずに、空いた穴に手紙を突っ込んできた。
「頼んだぞ?」
「拒否権とか無いんですか?」
「一刻も早く魔薬をどうにかして欲しいのだろ? なら少しくらい協力してくれても良いだろう?」
こいつぅ! ベッドを蹴飛ばしてやろうか!
「…………分かりました。それで、そのローウェルとかいう方はどちらにいらっしゃるのですか?」
「さあな……。だが今日は夜番だったはずだから、この時間であれば騎士団の詰所にある執務室に居るはずだ」
この王様、さあなとか言いながら、ちゃんと把握してるんだね。皆こういうものなのかな?
「それでは、これを届けたら私は帰ります。これで魔薬も落ち着いてくれる事を祈っています」
「ああ。上手く事が運べば其方を登用する事も考えよう」
「結構です」
私を勧誘なんかするなよ!
リクルートしてる暇があれば、もっと色々と手を打てよ!
私は、さっさと王様の寝室から出て行った。
あ、王様のベッド直すの忘れた。まぁ、いっか。
ふむ。おかしいな……なんか当たり前のように使いっ走りにされてしまったけど、王族って皆ああなの?
今度から近付かないようにしよう。
とにかく、その騎士団の三番隊の隊長さんに手紙を渡せば良いんだね。
普通、私みたいな侵入者に手紙なんか渡すかな?
しかも、既に用意してあったみたいだし私がくる事を予見してた? それは、ちょっと笑えないね……。
王族怖い……よし覚えた。
騎士団の詰所となると、昼間に行った訓練場の何処かってことだよね。
それって今いる場所から、どこに向かえばいいのさ。
仕方ない、また頑張って探すしかないか……。
そして私は騎士団の詰所らしき所を発見した。
ついでに三番隊隊長さんのローウェルさんも見つけた。
ここは要人とかがいるわけではないのか、見張りは厳しくなかった。
というか、ローウェルさんの部屋の前には誰もいなかった。
なので、ささっと入って用事を済ませようかと思ったのだけど、そうは問屋が卸さなかった。
「何者だ」
ローウェルさんが放った言葉で私は動けなくなった。
少しでも動けば私の位置を悟られる。私は強面のローウェルさんを見て、そう思った。
「気のせい……ではないか」
勘違いって事にして欲しかったけどね!
でも、これはマズイ。
まさか、あの王様は私をここに送って始末するつもりだった? だとしたら、やられた。
今度、機会があればベッドを粉砕してやる。
お互いに動かない。
相手は私の気配を探り、私は相手の出方を窺う。
このままでは埒があかないと思い、私は思い切って影の中から手紙を放り出す。
「む? これは……」
チャンス!
ローウェルさんの意識が手紙に向いた!
私はすぐにローウェルさんの部屋から逃亡した。
はぁ……心臓に悪かった。
もう、王城には近付かないようにしよ。
私は心に固く誓うと、外に向かって移動を開始する。
そこで、どこかから話し声が聞こえた。
周囲に人影も熱源もないので、位置なのか風向きなのかは分からないけど、たまたま聞こえてきたのだろう。
「イリアス様の容態はどうだ?」
「一人では、まともに立ち上がる事もままならないご様子です」
「そうか……万が一という事があってはならぬ。目を離さぬようにな」
「はっ」
この声は厨房にいた燕尾服の人だ。
という事は、イリアス様ってのが姫様なのかな?
この国は魔薬に侵されてるし、病弱な姫様もいて大変だね。
私は二人が話をしていた場所を探し、そこから匂いを辿る。少し…少しだけ覗いたら帰ろう。
そして、他の部屋から少し離れた所にも部屋を見つけた。
私がその部屋に入ると、一人の女の子がベッドに腰掛けていた。
(鎖……?)
女の子の足には何故か足枷が付けられていて、それがベッドに繋がれていた。
それが私には、とても心苦しく感じた。
彼女は病気だと言われていた。
だから、ここに隔離されているんだ。
でも、その為に鎖で繋いだりしなくても良いじゃないか。
「こんばんは」
「っ?!」
声をかけてしまった。
本当なら見て見ぬ振りをして帰るつもりだったけど、目の前にしたら無視できなかった。
私が影から姿を現して声をかけると女の子は、凄くビックリしていた。そりゃそうだよね。
私も出てくるところを見せるつもりはなかったんだよ。
「急にゴメンなさいね。驚かすつもりはなかったのだけれど……」
「あ、貴方は……誰、ですか?」
メッチャ警戒されてるし。
病気で部屋に閉じ籠ってるせいか肌が真っ白だ。親近感湧いちゃうよ。
それに金髪に緑の瞳。可愛いなぁ……頬っぺたをプニプニしたい。
おっと早く何か言わないと、なんか凄い睨まれてる。
「あ、私はシ………通りすがりの国王陛下の使い走りです」
「えっ、兄上の使いの者ですか?!」
おっ、姫様が食い付いた。
ふむ。妹だったのか……たしかに王様の声は若かったからね。娘というよりは妹の方が不思議はないね。
「それで兄上はなんと? やはり兄上が王位を継いでお忙しい中、私が病を患ってしまい怒ってらっしゃいますよね? だから、お見舞いにも来てくださらないのよね……?」
ソウナンダ。
そんな事情なんて全く知りませんでしたとも。
これは下手な事を言うとボロ出しちゃうね。
「私は手足となって動くだけですので、陛下の心情を察する事はできません。ですが姫様が陛下にお会いできなくて寂しがっておりました、と伝えておきますね」
「え?! だ、ダメよ! 子供っぽいと思われてしまうわ!」
なんか姫様がポカポカと私を叩きながら顔を赤くしている。なんだ、この可愛い生き物は……。
そして、こんな可愛い姫様に嘘を吐くとか心苦しいな。
「冗談です。そして私は姫様の様子を見に来ただけでございますので、これで失礼させてもらいますね」
「そう……」
姫様が寂しそうな表情になる。
あまりここには人が立ち寄らないのかもしれない。
ここに一人でいたとしたら、退屈だろうし寂しくもなるよね。
「また明日も顔を出してもよろしいでしょうか?」
「え? ――ええ、勿論よ! 待っている―っ、げほっけほっ」
パァっと、表情が明るくなる姫様。でも、すぐに咳き込んだ。
そうだった。調子が悪いと言っていたのに普通に話していたから忘れてた。
私はすぐに姫様の背中をさすり、落ち着くまで待つ。
そして近くに置いてあった水差しから、水を用意して姫様にゆっくりと飲ませていく。
「落ち着きましたか?」
「ええ……ありがとう」
咳をし終えた姫様は疲れた様子だったので、横になった方がいいかも知れない。
「姫様、今日はお休みになってください」
「でも……もう少し話していたいわ……」
「また興奮して咳をしても困りますから……。明日、また顔を見せに来ます。ですから、しっかり休んで元気になっていなければ私は帰りますからね?」
「はぁい……」
姫様が若干拗ねた感じで返事をする。
くそぅ。このまま飛びついて一緒に寝ちゃおうかなぁ。
「それでは姫様、おやすみなさいませ。――あ、この事は二人だけの秘密でお願いしますね」
私は飛び付きたい欲求を跳ね除けて、私のことを話さないように釘を刺しておく。
「ええ……わかったわ。女同士の秘密ね」
そして姫様とニコリと笑い合い、私はその場から姿を消した。
シラハ「今日は色んな所に行かされたなぁ……」
王様「この私自慢のベッドに穴が……」
シラハ「やっべ」
王様「やはり其方を登用して、コキ使おう」
シラハ「くっ、なら捕まる前に…! ベッド粉砕!」
王様「なっ、私のベッドが……バラバラに……」
シラハ「ふふふ。ざまあみろー」
三番隊隊長「御用改めである」
シラハ「…………脱兎!」




