体に悪い物は美味しい? コレはダメでしょ
「……なんだって?」
聞き返したくなる気持ちは分かるよ。でも現実を受け入れようよ。
「だから下町では、魔薬入りの食事が提供されている所が少なくとも2箇所はあります」
「聞いている限りでは他にもありそうだな……」
私は待ち合わせ場所で合流したアルフリードさんに、再度同じ事を報告した。
アルフリードさんは信じられないといった様子だけど、それは私だって同じだよ。
王様のお膝元で、そんな事になっちゃってるんだからさ。
「なので昨日行った定食屋と、私が宿泊している宿屋を調べたいんですけど、アルフリード様はそういった所の取り調べを行える権限とか持ってます?」
貴族なら誰でも取り調べとかは出来そうだけど、貴族にだって上下関係があるはずだから、騎士が独断で取り調べるなんて事はさすがに出来ないと思うんだ。
「残念ながら持ってないね……」
「ですよね」
アルフリードさんには悪いけど、そこは期待していなかったからね。
となると、どうしようか……。
私が忍び込んで証拠品でも手に入れてくる?
でも、それをやるとアルフリードさんへの説明が難しいんだよね。
「と、いつもならそうなんだけど……今はこういった物がある」
「なんですか、それ?」
アルフリードさんがなにやら懐から装飾品を取り出した。
あまり、そういった物を着けているイメージがなかったから意外だ。
「なんだと思う?」
ふふん。と自慢気に私の質問に対して質問で返してくる。
ウゼェ。勿体ぶらずにさっさと説明しろよ。
「ウザイです。勿体ぶらずに早く説明して下さい」
「ああ……うん。ゴメン」
おっと、つい本音が漏れてしまった。
でも、ちょっと優しく言ったからセーフだよね?
「これは陛下から頂いた許可証みたいな物だよ。このペンダントは王家の紋章を象っていてね、調査の時にこれを見せれば従わなければいけないのさ」
そう言われて私はもう一度アルフリードさんの持つペンダントを見る。そこには中央の剣と両脇に二頭の虎という、どこにでもありそうな紋章があった。
「シラハ……なにか失礼な事を考えてないか?」
「そんな事ないですよ?」
「なぜ語尾が疑問形なのか問い質したいところだけど……まぁ、いいか」
なぜ分かったし、と一瞬ドキリとさせられたけど、なんとか誤魔化せた。
「つまり、それがあれば国王陛下の威を借りて好き勝手に振る舞えると……」
「嫌な言い方するね……。それにしても陛下が出てきた事には驚かないんだね、シラハは」
あ……そうだ。私が昨日、王様のところに忍び込んだのは当然アルフリードさんは知らない。
私にとっては昨日今日の話だけど、アルフリードさんにとってはずっと待ち望んでいた事だったのかもしれないんだ。
「驚いてはいますよ。ただ遠すぎるお方なので実感が湧かないだけです」
「たしかにね。僕も陛下から直接コレを預かった訳ではないけど、まさか陛下が僕の事を覚えていて下さったなんて驚きだよ」
アルフリードさんが嬉しそうに語る。
そんなに嬉しいものなのかな……。騎士ではない私にはわからない感情だね。
「それじゃあ、早速始めようか」
「最初はどちらに行きますか?」
「まずはシラハが宿泊しているという宿に行こう。ここから近いんだろ?」
アルフリードさんは調査をやる気満々みたいで何よりだ。
昨夜は帝国領で何があったのかを聞くと喚いていたけど、今日会ってみれば、すっかり忘れているのか尋ねてくる様子はない。
このまま、忘れてくれる事を祈るよ。
私達は宿屋に到着するとアルフリードさんは躊躇なく入っていくが、私は宿泊しているせいもあって若干の後ろめたさがあったが、少し悩んだ後に意を決して踏み込んだ。
中に入ると、すでにアルフリードさんが店主さんを呼び止めていた。早いね。
「き、貴族の方がなんの御用ですか……? もしかして宿泊でしょうか?」
店主さんは恐縮しまくりだ。
当然だよね。いきなり貴族がやってきたら驚きもするよ。
この反応だと、やっぱりこの国の貴族は大衆にとって敬えるような存在じゃあないんだね。
全員が悪い貴族ではないと知ってはいるだけに、この反応は悲しいね。
「そう構えなくても良い。僕は国王陛下の指示で市井の仕事ぶりを確認しに来ただけなんだ」
「は、はぁ……?」
店主さんは意味が分かっていないようだった。そうなるよね、いきなりそんなことを言われても反応に困ると思うもの。
「つまり、少しほかの客に対する接客や厨房での調理など、君達の仕事を見せてもらうだけだよ」
「いつも通りでよろしいんで?」
「ああ、勿論だ」
アルフリードさんが伝えた内容を聞いても店主さんは、特に反応はしなかった。
それだけ魔薬を使っているとバレない自信があるのか、それとも……。
「もしかして、そっちのお嬢さんがウチに泊まっていったのも、その調べ事の一環なんですかい?」
店主さんの視線が私に向けられる。
まぁ、そう思うよねー。
「いや、彼女がここに泊まったのは偶然だ。彼女は冒険者で僕の助手みたいなものだよ。君達も何人もの騎士に見られていたんじゃ疲れてしまうだろ?」
「それは…まぁ……」
それは私も御免だね。
考えただけでも気が滅入る。
「それは良かった。お昼に何回も食事をおかわりしてくれていたから気に入ってくれたのかと思っていたんですが、それがそっちの仕事だったのかと思ってしまいまして……」
「シラハ?」
私はふいっと顔を横に向ける。
しかしアルフリードさんの冷たい視線が突き刺さるのを感じた。
「ちょっと向こうに行こうか」
「仕事しましょうよ、アルフリード様」
少し店主さんから離れた位置にくると、アルフリードさんは私にだけ聞こえるようにと中腰になって喋りかける。
「この店の食事には魔薬が入っているんじゃなかったのか?」
「入っていますね、たっぷりと……」
「なんで、そんな物を何度も注文するんだ?!」
アルフリードさんが小声で怒鳴る。器用だね。
「安心してくださいアルフリード様。同じメニューは注文していません」
「それのどこに安心できる要素があるんだ?」
私はアルフリードさんの言葉を聞いて落胆する。いや、ホントにガッカリだよ。
「なんで僕は、そんな蔑みの目で見られなければいけないんだ?」
「これくらいの事がわからないなんて……。いいですか? 違うメニューを頼んで、どの食事にも魔薬が入っていれば店主さんは確信犯の可能性が高まります。そして一部のメニューだけだった場合は、仕入れている一部の食材などに魔薬が仕込まれている可能性が出てきます」
「それで、どうだったんだ?」
「どれも大変おいしかったです」
「おい」
「冗談ですよ……。ただ、これはあくまで探りのようなものでしかないので、確証があるわけではないですよ?」
「先入観を持つのは良くないが、僕は魔薬を見分けられないから少しでも情報が欲しいんだ」
ちゃんとアルフリードさんなりの考えがあるのなら、別に私は構わないけどね。
「全部食べたわけではないですが、いくつか食べた感じだと香りの強い料理に魔薬が多く使われているように感じましたね」
「香り……?」
「はい。おそらくは香辛料かと……」
「匂いを誤魔化すためか? それとも……」
「香辛料に魔薬が混入しているか、ですね」
「……わかった、調べてくれて助かった。しかし、いくらシラハは毒が効き難いとはいえ、進んで魔薬を食べるのは控えてくれないか?」
「それは……」
効かないと言っても不安が残るのは分かる。
だけど私の能力を活かした方が、手っ取り早いし、今回は食べるだけで済ませられた。
私のやり方なら相手を警戒させる事もないので、できることなら活用していきたい。
だから、いくつもの料理を食べ比べた事をアルフリードさんに伝える事をしなかったのだ。
「効き難いだけで、大量に摂取すればシラハでもどうなるか分からないだろ?」
「そうですけど……」
「駄目……かな?」
なんですか、その悲しそうな目は……。
「わかりました、善処します……」
「ありがとう」
アルフリードさんがお礼を云いながら私の頭を優しく撫でる。急にどうしたんですか?
しかも、店主さんや他のお客さんが見てるしね! アルフリードさん、時と場所を考えようか!
「すまない。待たせた」
「い、いえ……」
店主さんが困った顔しちゃってるじゃん。そりゃ、なにしてるんだアンタらって思うよね。
私もそう思うよ。
「それでは厨房を見せてもらって良いかな?」
さっきまで人の頭を撫でておいて、よく普通の顔をしてられるよね。
周りの人に見られてて恥ずかしくなかったのかな?
私達は店主さんの案内で厨房へとやって来る。
厨房に入ると魔薬の独特な匂いが充満していた。
アルフリードさんが店主さんの話を聞いている間に、私は厨房の中を匂いで確認していく。
店主さんは手から魔薬の匂いが薄っすらとする。調理の時に触っているからかもしれない。
そのせいか厨房からは、至る所から魔薬の匂いがするので探りにくい。
そんな中、厨房の隅に大きな袋を見つけた。
私は確認のために袋を開けて中を覗いてみる。
「ごっふぉ?!」
「シラハ?! おい、どうした?!」
「あ、それは香辛料の袋ですね。匂いを嗅ぐとクシャミが出るんですよ」
胡椒か、コショウなのか! ぁぅあ油断した!
ああああぁぁ……私のワンコ並みの鼻が痛い! ムズムズするを通り越して鼻の奥が痛くて堪らないよ!
どうしようクシャミが止まらない。涙も止まらない。
「大丈夫かい、お嬢さん? 水で香辛料を落とすと良いよ」
私が苦しんでいると店主さんが水桶を用意してくれていた。優しい人だ。
「この香辛料は何処にでも売っている物なのか?」
私が顔を洗いながらクシャミと戦っていると、アルフリードさんが話を進めてくれる。
グッジョブだよ。
今の私は涙とかで酷い顔をしてるから出来れば見ないでほしい。
「そうです。これが一番香りが強くて味もしっかりするので、一度食べると忘れられなくなると常連の連中も言ってるんですよ」
まぁ中毒性が高い魔薬だからね。
そりゃリピートも増えるよ。
「これは何処に行けば買える?」
「少し表からは外れた通りにある店なんで道が分かりにくいんですが……よければ地図を描きますが……」
「頼む」
「へい。それにしても、この香辛料が気に入ったんですか? それでしたら香辛料を買うんじゃなくて、ウチで食べて行ってくれていいんですよ? って、貴族の方にお出しする物じゃないですよね!」
店主さんが地図を描きながら料理を勧めてくるが、相手が貴族だと思い出したのか慌てて撤回する。
「あ、あれ? こっちに行ったら右で……あ、左か? それで次は……つぎは……?」
地図を描いていた店主さんの手が止まる。少し様子がおかしい。
発汗に手の震え、あとは……わかんないや。
とにかく、落ち着かせなきゃ……。
「シラハ。なんか店主の様子がおかしくないか?」
アルフリードさんが、クシャミから回復した私に耳打ちしてくる。
「ですね。禁断症状なんじゃないですか?」
「な?! ど、どうすれば良いんだ?! 殴れば良いのか!」
「殴っても解決しませんよ。店主さん椅子を借りますね……えっと器は、っと」
私はアルフリードさんを適当にあしらいながら、椅子を足場にして大鍋から器にスープをよそう。
「落ち着いて食事をしている場合か!」
「失礼な。私が飲むわけじゃないですよ」
「なら、今持っているスープはなんだ?」
「見てればわかりますよ。……店主さん、これを飲んで下さい」
私は店主さんにスープを差し出して飲むように促した。
すると――
「シラハ! なにを考えている?! それには――」
「しっ」
私は声を荒げたアルフリードさんの口に指を当てて黙らせる。店主さんは混乱しているし魔薬の事を聞いてもわからないかもだけど、万が一という事もある。
用心するに越したことはないのだ。
「お腹が減っていると、何事も上手く出来ませんからね。そのスープを飲んで落ち着いてください」
「あ、ああ……」
店主さんがスープに口をつけ始める。
その間にアルフリードさんと話をしておく。
「良いですか? ここで魔薬だと騒ぐのは得策ではありません。何故だかわかりますか?」
「犯人達が警戒するから……」
「そうです。なので店主さんには申し訳ないのですが、今は治療している余裕はありません」
「だが――」
「それに、ここで店主さんを治療しても魔薬の供給を止めなければ、何処かでまた魔薬入りの何かを手に入れてしまう可能性があります。魔薬を抜くのには苦痛も伴うと聞いていますし、仮にそうなってしまった場合は店主さんが二度苦しむ事になるんです」
私も出来る事なら治してあげたいけど、魔薬が絡むと貴族も近いし規模も大きいから、どうにもならない。
私の【解毒液】の効果はお墨付きだけど、結局のところ個人の力では多くを救うなんて事は、そうそう出来る事ではない。
それなら、私ができる事に全力で取り組むしかないのだ。
「分かった。なら店主が落ち着いたら、香辛料を売っている店の場所を聞いて、ここは終わり…でいいか?」
アルフリードさんが漸く納得した顔になり、ここで行う事の確認をする。
私は、それに頷いた。
きっと私達が考えている事は同じだと思う。
こんなふざけた事をしている連中を見つけ出して、ぶん殴ってやる!
アルフリード「考えている事は同じ?」
シラハ「私はそう信じています」
アルフリード「照れるな……」
シラハ「照れる要素がどこにあるんですか?」
アルフリード「え?」
シラハ「え?」
アルフリード「また僕とキスをしたい、って思ってたんじゃないの?」
シラハ「私の解毒液で魔薬が抜けなかったんですね……可哀想に。なら、その時の記憶を消してあげますよ」
アルフリード「シラハはそんな事まで出来るのか……」
シラハ「まぁ、殴って記憶を飛ばすだけですけどね」
アルフリード「冗談?」
シラハ「ほ・ん・き・☆」
アルフリード「いやあぁぁぁ!」
狐鈴「ブックマークが100件を超えました。いつも読んでくださって、ありがとうございます! これからも頑張って更新を続けていくので、生温かい目で読んでいってください!」
シラハ「性懲りもなく私の前に現れるとは、余程死に急ぎたいのか駄狐め……」
狐鈴「ひぇ!」
シラハ「脱がされた恨みは駄狐の毛皮で勘弁してやるー!」
狐鈴「いやあぁぁぁ!」
シラハ「あ、私の旅も生温かい目で見守ってくださいね」




