調査開始ぃ!
翌日、名残り惜しくもホテルを後にして私はアルフリードさんを探すことにした。
したのだけれども……。
「アルフリードさんって、どこにいるんだろう……?」
いやー、まいったね。
王都に着いてからはノープランだったよ。
着いたらアルフリードさんが何かしら連絡を入れてくれると思ってたけど、私はお忍びで来てるからね。連絡のしようがないよね!
そうなるとー……騎士はお城に詰めているものだろうから、お城に行けばいいかな?
なんとも考えの浅い事ではあるが、それしか思い付かなかったのだから仕方がない。
アルクーレを出た時も、結構勢いに乗っていたけれど今後は考え無しに突っ走るのは控えておこう。
今回は私も冷静じゃなかったからね。
とはいえ、許せる話ではないんだけども!
思い出しただけでムカムカしてくるね。早く忘れなきゃ。
そして、お城方面に歩き始める。
でも、少しすると周囲の人がチラチラと私を見てくるようになった。
これは私に見惚れてる……なんて自惚れた話じゃなくて、単純に格好のせいなんだろうね。
お城に向かう人の中には私みたいにローブを羽織っている人がいない。
下働きのような人くらい、お城といえどいるはずなので私みたいな一般人は正面からお城に向かうべきではないのかもしれない。
下手をすると貴族に絡まれるかもしれないので、ここは路地にでも入って違う道を探すとしよう。
私は路地に入ると、念の為【潜影】を使っておく。
こうしておけば変な人に絡まれる事もないだろう。
そのおかげか私は無事に裏門? らしき場所に辿り着く事ができた。
なので、とりあえず裏門に立っている騎士に話しかけてみるとする。
「あの、すみません。こちらに、アルフリード様という騎士様はいらっしゃいませんか?」
「ん? アルフリード? いるけど……というか、アンタは?」
「私は……」
名乗ろうとしたところで私はハッとした。
ここで普通に冒険者と名乗ったら身分証の提示を要求されるのでは……。
いや、私は別にやましい事なんてしていませんよ?
ただ、ほらクエンサの一件もあるので、あまり私の所在がバレるのは得策ではない、と言いますか……。
誰に言い訳をしているのかも分からない考えが頭の中を巡っていると、私の中に神がかった良案が閃いた。
「実は私、アルフリードお兄様の妹のシラハと申します。長い間、他の街で療養をしていたのですが、それも終わり、こうしてお兄様に会いに来た次第でございます」
「そうだったのか、アルフリードに妹が……。だが部外者は王城には入れられないんだ」
なんという事だ。
せっかく身分をでっち上げて乗り切ったというのに……。
あれ、これって身分詐称だよね? しかも私は、貴族の妹を名乗ってるし、実は不味いのでは?
やばいと思って咄嗟に考えた嘘は危険だね。あとでアルフリードさんにどうにかしてもらおう。そうしよう。
「だけど、あっちに行けば騎士の訓練場に行ける。騎士の詰所は王城の敷地外にあるんだ」
すでにアルフリードさんの事なんて、すっぽり抜け落ちていた私を、対応してくれていた騎士の人が現実に引き戻してくれる。
なんて神対応……これで貴族とか…良い人かっ!
「ありがとうございます。助かりました!」
「あ、ああ。どういたしまして」
私がふわりと笑ってみせると、騎士は若干どもりながら、ぎこちない笑みを返してくる。
ふふふ。私も罪な女だね。
スキルの事もあるので、あまり影響を及ぼさないように気をつけようとは思っているんだけどね。
さっきみたいに態度も悪くなくて感じ良く対応をされると、こちらも素で返してしまう。
え? 普段は表情が死んでいる? 私は長い間、物置小屋に一人でいたから、表情筋が死んでいるのは否定しないけど、別に冷たく接している訳じゃないんだよ。
ただ、どう接していいか分からないだけなんだって。これでも最近は慣れてきたんだけどね。
さて、今度こそアルフリードさんが居ると思われる場所だね。
さっきの騎士さんが言うには、ここは騎士の訓練場みたいだね。でも見張りが立っていない、無用心な……。
私が訓練場の入り口から中を覗いてキョロキョロしていると一人の男がやってくる。
上半身は裸で、汗がキラキラと爽やかに光っている。
初めてのタイプの人種だ。
「どちらさま? 誰かに用なら呼んでくるけど?」
あれ? 騎士の人って傲慢な人ばっかりだと勝手に思っていたけど、そんな事ないのかな?
「えっと、アルフリードお兄様はいらっしゃいますか……?」
「アルフリード……お兄様?」
上半身裸のイケメンボーイが、なにやら不審者を見るような目で私を見てきた。
あ、この人、黒目だ。この世界に黒目の人もいるんだなぁ……。髪も黒いし、顔立ちは日本人っぽくないのが残念だけど、なんかホッとするわ〜。
「なぁ、君は本当にアルフリードの妹なのか? アイツに妹がいるなんて聞いた事ないぞ?」
なに?! まさか疑われている……だと!
おかしい……。私に落ち度は無いはずなのに……。
それより誤算だったのが、アルフリードさんに家族の事を話せるような友人がいたなんて!
とにかく、ここはゴリ押しで進めるしかない!
私は警戒を少しでも解くためにフードを外すと、黒髪くんを見つめる。
黒髪くんが少し頬を赤くしているけど、ここで色仕掛けなんて通じないだろう。いや、通じても困るけどね。
あと、黒髪くん以外にも人が集まりつつある。早くなんとかしないと……。
「私達には私達の事情があります。私をお疑いになるのでしたら、アルフリードお兄様を呼んでください。そうすれば、その疑いも晴れる事でしょう」
「そ、そうか……。すぐに連れてくるから、そこから動くんじゃないぞ!」
「かしこまりました」
黒髪くんがどこかへと走っていく。
その間も周囲の人達の視線が止む事はないのでフードを被り直しておく。
なんとも居心地の悪い時間だったけれど、大して待つ事もなくアルフリードさんがやって来た。
これで一安心だ。って、なんでそんな不審そうな目で私を見ているんですか、酷いです!
と思ったけど、私は今フードを被っていたんだった。見た目は不審者だよ。
なのでアルフリードさんに視線を向けながらフードを外す。少しでも悪い印象を払拭できるように笑顔を振りまくのも忘れない。
「お会いしたかったです、お兄様!」
一瞬、周囲がザワリとした気がしないでもなかったけど、そこは無視してアルフリードさんに呼びかける。
これで私は可愛い妹と認知されたはずだ。フハハハ!
って思ったのに、アルフリードさんの反応は乏しい。
あれ、なんか思ってたのと違う。
なんですかその、誰だよお前。みたいな顔は。
「お兄様? もしかして私に会いたくはなかったのですか? せっかく療養を終えてアルクーレから戻って来ましたのに……」
アルフリードさんが固まっているけど、なにも反論しないのなら、あれやこれやと周囲に吹き込みますよ?
「なんだよ、そういう事だったのか! まともに動けないのでは子供も作れないから、居ない者扱いされるのは珍しくないもんな。だから妹がいない、って言ってたんだな」
なんと言い出そうか、と考えていると黒髪くんが突如そんな事を言い出した。ほほぅ、貴族にはそんなケースもあるんだね。
上手く勘違いしてくれたね。しめしめ……
というか、そうかぁ……黒髪くんはちょっと残念な感じの人なんだね。
最初は私を疑っていたから、警戒していたんだけどなぁ。
まぁ、黒髪くんはどうでも良いんだ。
アルフリードさん、そろそろなにか反応してくださいよ。
さすがに周囲に怪しまれます。
「お兄様……?」
私がアルフリードさんに近づくと、ふいっと視線を逸らされる。そういう事されると地味に傷つくんですよー。
そして、再度私に顔を向き直すと胡散臭そうな笑顔を浮かべたアルフリードさんになっていた。
「やぁ、シラハ。久しぶりだね。ここまでは一人で来たのかい? いくら元気になったとはいえ一人歩きは感心しないね」
「申し訳ありません……。私、どうしても元気になった姿を一番にお兄様に見てもらいたくて……」
ようやく調子を取り戻したみたいだね。それともいきなりだったから、上手く役になりきれなかったのかな?
「ほれ、アルフリード。せっかくなんだから家まで送ってやれよ。先輩達には俺が説明しておくからさ」
「ヴァンス……」
すると黒髪くんが私を家に送るように言い出した。ナイスアシストだよ黒髪くん! あ、ヴァンスって言うんだね。
今回は自己紹介する機会に恵まれなかったけど、アルフリードさんの友人なら、またいつか会うかもね。
私の身分は偽りだけどね!
そうして、私はアルフリードさんに訓練場の外に連れ出された。
訓練場から出たあと人気のない所まで移動すると、ようやくアルフリードさんが口を開いた。
「シラハ、なんで君がここにいる?」
「なんで、ってアルフリード様が私を呼んだのでしょう? なにを仰っているのですか?」
ホント何を言っているんだよ? 本気で言っているのなら帰るぞぅ!
「まず、その喋り方をやめようか。以前も言ったけど怖い」
「ひ、酷い! せっかくアルフリード様と一緒に居られるようにと努力していたのに、そんな言い方をするなんてっ」
さっきから酷い。ホントに泣くぞぅ!
「はぁ……大体なんで妹設定を今更持ち出したのさ?」
「それはですね……。ちょっと色々ありまして領主様が手配してくれた従者の方をアルクーレに置いてきたんです……」
「なんで?!」
「まぁ色々と……」
「まずは、そこら辺の事から話を聞いても良いかな?」
「話さなきゃダメですか?」
「話しにくい事?」
「いえ、そういうわけでは……。ただめんど…んんっ! 長くなりそうなので」
「ねぇ、今のは本音だよね?」
なんの事ですかねー?
私は知りませんよぅ。
「では聞きたいのなら、どこかお店に入りましょうか」
「え? 僕はシラハを送ったら詰所に戻るつもりだったから財布持ってないよ?」
「チッ。私が出すので気にしないで下さい」
「なんか君、性格変わった?」
「そんな事ないです。昔も今も私は私です」
あとの結果は散々だったけど、魔薬調査はしていて楽しかったからね。なんかあの時に戻ったみたいで、楽しくなっているのかも。
気が緩まないように気をつけないとね。
「さすがに僕が君に奢って貰うわけにはいかないからね。宿はとっているの? もしまだならオーベル家の屋敷に泊まって行くといいよ」
「えー……」
おっと、貴族の屋敷に泊まることに拒絶反応が……。せっかくの提案を無下にするのは良くないね。
「すみません。嫌、というわけではないんですけど……」
言い訳気味になりながら謝ると、アルフリードさんがクスクスと笑っていた。
「気にしないよ。本当に君は貴族が苦手なんだね。……いや、嫌いなのかな?」
「それだとアルフリード様も嫌いという事になりますよ?」
分かって言っているのだろうか?
するとアルフリードさんが意外そうな顔をした。
「シラハは僕の事が嫌いだと思っていたんだけど、違うのかい?」
「嫌ってませんよ? もし嫌っていたのなら頼まれても会いに来ませんよ」
「そうかもしれないが、ほら…僕は最初、君に失礼な事を言っただろう? だから――」
「あれはキチンと謝罪をして下さったじゃないですか。あの後は普通に接してくれましたし、私としては嫌う理由にはなりませんよ。――――それに」
「それに?」
一瞬、言おうか悩んだけど、私が嫌っている。なんて勘違いをしている人には言っておいた方が効果的かもしれないね。
「私が魔薬を飲んだ時、アルフリード様は本気で心配してくれたじゃないですか。あれは……本当に嬉しかったんですよ」
「…………」
「アルフリード様?」
固まるんじゃない。こういう台詞は言うの恥ずかしいんだから。
「あっ、そ、そうか。嫌われていた訳ではないんだな」
「不謹慎かもしれませんけど、またアルフリード様と調査できるのは、ちょっと楽しみでもありました」
これは本当だよ?
貴族絡みが面倒とは思ったけど、調査は楽しかったからね。だから嘘ではない。
「そうか……。早く解決しなければ、と気が逸っていたが君となら楽しく調査もできるかもしれないな」
それは照れるね。
それじゃあ、今日から楽しく調査を頑張るとしましょうか!
シラハ「あっ! お兄様、あちらを見てください!」
アルフリード「ねぇ……」
シラハ「お兄様、あれはなんでしょうか!」
アルフリード「ねぇ君、普通に楽しんでない?」
シラハ「そんな事ありませんわ。調べるにしても、まずは下町の事を知らねばなりません。すでに知っていたアルクーレとは違うのですよ」
アルフリード「なんか今の君の姿を見ていると不安になるんだ……」
シラハ「お兄様。アルクーレで調査をしている時、売人の目を欺くために私達は何をしていましたか?」
アルフリード「え? 屋台で買食いしたり、小物を買ったり、飲み物飲んだり、芸を見たり?」
シラハ「楽しかったですねぇ……」
アルフリード「え、まさか、純粋に楽しんでただけなの?!」




