お会いしたかったです!
「んー! 気持ちいいなぁ〜」
両腕を広げながら照りつける太陽に向かって私は飛んでいる。
いやー、久々に一人で空を飛んだかも?
父さん達といると、なんだかんだと二人の背中に乗せられるからね。まぁ私と二人の飛行速度にはかなりの差があるのも理由の一つなんだけどね。
背中に羽が生えたような珍生物では、竜種である二人にはとても追いつけないって事だね。
それはさておき、なぜ私が一人で空を飛んでいるのかというと、それは明朝になってエレナさんと別れを惜しみつつも領主様が用意してくれた馬車に乗ろうとしていた時のことだ。
期待していた訳ではないけど、冒険者ギルドのギルマスさんが領主様に、私を痴漢した男の事を報告していないみたいだったのだ。
これは私の勝手な考えなんだけど、もし報告があったのなら一緒に王都に向かう事になる馬車に乗っている御者の人に言伝くらいは頼んでいると思う。
領主様は分からないけど、きっとセバスチャンさんなら、それくらいの気遣いはしてくれると思う。
それがなかった事から報告はなかったんだな、と判断して御者の人に私を送るより優先して欲しい事がある、と言って領主様に伝言を頼んだ。
御者の人は凄く困っていたけど、断るようなら私も依頼を断ると脅したので今頃は領主様があれこれと調べてくれているはずだ。
本来なら御者の人が王都に着いたら、入り口で領主様の名を使って私の身分を保証する予定だったけど、それができなくなってしまったけど問題はない。
またアルクーレに忍び込んだ時のように、こそっと入ればいいのだ。
うん、問題大アリだよね。
でも細かい事は、どこかへと投げ捨てて私は王都へと飛んで行く。
まさに羽を伸ばすだね。
一般の人なら、地上から私を見ても鳥かなにかにしか見えないだろうけど、リィナさんみたいな遠見の祝福を持っている人が私を見つけたらビックリだろうね。
あれ? リィナさんみたいに遠くを見る事ができる人がいるのなら、遠くから私を射抜く事ができる人もいるのかな?
あ、そう考えると怖くなってきたかも……。って気にしてもしょうがないか!
うんうん。そんな事できる人なんて稀だよ、きっと。
そんな人と私が遭遇する確率なんて、天文学的な数字に違いない。
益体のない思考を放棄して、私は飛ぶ事に集中する。
「暇だ……」
ポツリと呟くが私の零した言葉は、すでに遥か後方に置き去りだ。
別に誰も聞いていないから、いいと思う。普段は誰かと行動するのが当たり前なので、どうも一人で居ると独り言が出てしまう。
たしか一人で森の中にいた時も、こんな感じだった気がする。
誰に説明する訳でもないのに、わざわざ声に出していたと思う。思い返すとなんだか恥ずかしいね。
おっ、体を見られてもなんとも思わない私にも羞恥心が残っているんだね。良かった良かった。
え? ローエンさんにキスした時の事? 記憶にありませんね。
私は黒歴史を何処かに投げ捨てると、再度飛行に集中する。
というか、私さっきから集中できてないね。
これじゃ落ち着きのない子供だよ。
空を飛んでいるし、歩くのよりは断然速いはずだから、きっと王都までは一日もかからないはずだ。
そう自分を鼓舞しながら空を飛ぶ。
途中、村や街を見かけたので結構いいペースで進んでいると思う。
こうなれば意地でも今日中に王都に辿り着いてみせる!
なんて考えたけど、距離的に無理があったら泣けるね。
そうこうしているうちに日が沈んできたけど、どうしようか……。私の気分も沈んできたんだけど。
辺りは真っ暗。
それでも私の目がそれをはっきりと視認した。
「王都だぁ……」
行った事はないから確信はないけどね。
なんかデカいお城っぽいものが街中に生えてるから、王都でしょ。っていう浅い理由で王都と呟いた。
軽々と王都を守る為の城壁を飛び越えて、私は王都入りを果たす。
私は人のいない所を探すと、見られないように注意しながら地面へと降りると翼を消した。
やっと着いた。
「はー……背中痛い……。めっちゃ痛い泣きたい」
ホントは途中から降りて休憩しようか悩むくらいに痛かった。空を飛ぶ、という行為に慣れていない私には長距離飛行は辛いものがある。
というか、なんで【有翼(鳥)】は生えてきた翼に感覚があるのかが分からない。まぁスキルの事なんて、殆ど分からないんだけどね!
以前、翼が折れた時は痛かったし、こうやって長く空を飛べば背中の筋肉というか筋が悲鳴をあげる。
もう少し、空を飛ぶ練習しとこ……。
すでに遅い時間なので、まずは宿探しだ。
当てがある訳ではないので、とりあえず大通りに出て、それらしい所に入ってみよう。
背中が痛いので、とにかく早く休みたい。
「うわぁ……人が多い」
大通りっぽい所に出ると、最初に抱いた感想がそれだった。そして思わず口から飛び出した言葉が周囲の視線を集める。
これじゃ、おのぼりさんだよね。そうなんだけどさ……
視線を遮るように、フードをすっぽりと頭からかぶる。
歩いているといい匂いが漂ってくる。
その匂いがする方へと視線を向けると、なにやら立派な建物が見える。どうもホテルみたいだ。
私が行ったことのある街には、なかったような……。
偉い人が来たら領主の屋敷にでも泊まるのが当たり前なのかもね。
他に泊まれる場所を探すのも面倒だし、ここでいっか。
私は早く休みたい一心でホテルに突撃する。
ホテルに踏み込むとフロントに向かって歩いていく。
ロビーには他のお客さんもいて、私を見ている気もする。
貧乏人が泊まる場所じゃない、とか言われなきゃいいけど……。
「一泊したいんですけど、おいくらですか?」
フロントにいた、お姉さんがニコリとしながら対応してくれる。
「一泊50000コールになりますが…宜しいでしょうか?」
たっか!
私が普段泊まってる宿の十倍以上の値段だよ!
私は動揺を悟られないように、素早く代金を支払う。
すると別の従業員がスッと出てきて、私を部屋へと案内する。
「お部屋はこちらになります。お食事はどうなさいますか?」
部屋への案内を終えると従業員が食事について聞いてくる。
「食事の時間は決まっていますか?」
「いえ、特には決まっておりません。お食事は料金の中に含まれているので、三食までなら無料になります。それ以外の場合は別途料金が発生しますのでご了承下さい」
「それでしたら、先にお風呂に入りたいのですが………」
「お風呂でしたら、お部屋に備わっております。――こちらでございます」
従業員に言われるがまま付いていくと、部屋にはバスルームが備え付けられていた。
「当施設は最新式の魔道具を使っており、魔道具のこちらに触れると浴槽にお湯が溜まる、という仕組みになっております。お湯は自動で止まりますので、その間はご自由になさっていて構いません」
「おおっ、凄い!」
思わず声を上げてしまった。
いや凄いじゃん!
魔道具はあまり見たことないから貴重品だって認識だったけど、それをお風呂に使ってるんだよ?
え、シャワーもあるの? 最高だね!
自由にできる、という点では【主の部屋】で、自分で用意した方が良いんだけど、アレは魔力をゴソっと持っていかれるから、休むっていう目的にはそぐわないんだよね。
いやー、高いお金を払ったかいがあるね。
これなら、食事も期待できそうだなー。
私はまだ見ぬ料理にヨダレが止まらなかった。
◆アルフリード・オーベル視点
午前中の訓練の時間が終わり、それぞれが体を休めている。有事の際に動けるようにしておく事には理解できるが、魔薬の広がりを止める事ができないのに、こんな事をしている場合ではないだろうに……。
アルクーレの領主ルーク殿に、彼女を応援に寄越して欲しいと手紙を送ってから一月が経った。
しかし、その後に届いた手紙では彼女が帝国領で行方不明になったとの報せだった。
目の前が真っ暗になった。
もう僕だけでは、どうしようもないのだ。
若手の騎士の一部が僕に賛同してくれて、王都に戻ってきてから魔薬調査に協力してくれていた。
しかし、普段の訓練と午後の見回りや警備を終えたあとに行う調査は、かなりしんどい。
おまけに僕には支払える報酬なんてない。
もし魔薬の製作所の一つでも潰したのなら、褒美がでるだろうけど。
そんな状態では調査も長続きせず、今じゃ僕一人で活動している。
僕がアルクーレから戻ってくると、国王陛下からお褒めの言葉を頂いた。感激だった。
その調子で王都の魔薬も根絶してほしい、と期待を寄せられていた。
しかし、その後、僕には調査の指示がこなかった。
僕のアルクーレでの調査報告書を元に、上層部が調査本部を立ち上げたと聞いたけど、そこに協力を要請された先輩騎士の話では、下町に出向くことはあるが経費で飲み食いができる楽な仕事だと言う。
なんだ、それは?
僕の報告書を元にした調査が、それ?
そんな事では、どうにもならないと国王陛下に伝えなければ……。しかし、僕のような新米騎士では簡単に陛下にお会いする事など出来はしない。
一度、魔薬調査に関わる事と言って謁見を申し出たが、それも断られた。
本当にどうしたらいいんだ……。
僕が項垂れていると、そこへヴァンスが声をかけてきた。
コイツは同期で、僕は勝手にヴァンスは良き好敵手だと思っている。
「なぁ、アルフリード。お前って次男だったよな? 妹とかいないよな?」
「そうだけど……急になに?」
そんな僕の好敵手は唐突に、僕の家の家族構成を尋ねてきた。
いきなり何を言っているんだコイツは?
「いや……アルフリードの妹だ、って名乗ってる女がそこまできてるんだよ……」
「そんなのいるわけないし……」
「でも、知り合いかもだろ? とりあえず顔だけでも見てみろよ」
「仕方ないなぁ……」
ヴァンスがそこまで言うのなら、一応確認してみようか。
僕とヴァンスは訓練場の入り口に向かう。
念の為と思って木剣も持って来ている。
いきなり襲われるかもしれないしね。
そして、頭からスッポリとフードをかぶって顔を隠している怪しい人物を見つけた。
いや、誰だよ……。
騎士以外の人間がここまでくるのが珍しいからか、周りには人集りができている。
「みんな暇なの……?」
「さっき、チラッと顔が見えたんだけどさ……。結構、可愛い子だったんだよ。なんか、こう、色気がさ」
なんだよそれ……。
僕が人を避けながら前に出ると、フードをかぶった人がパっと僕の方に振り向くとフードを外した。
その瞬間、周囲がザワリとした。
僕も一瞬、呼吸を忘れたくらいだ。
フードを外した彼女は満面の笑みを浮かべていた。
僕も見た事の無いような笑顔だった。
そんな彼女が僕に告げた。
「お会いしたかったです、お兄様!」
誰だよ、お前?!
いや、分かるよ? シラハだよね?
僕が言いたいのは、君はそんな笑顔をする女性ではないという事だ!
というか、僕をお兄様と呼ぶな!
何故その設定を王都にまで持って来た?!
「お兄様? もしかして私に会いたくはなかったのですか? せっかく療養を終えてアルクーレから戻って来ましたのに……」
なんか新しい設定が加えられている……。どうしよう、話についていけない。
「なんだよ、そういう事だったのか! まともに動けないのでは子供も作れないから、居ない者扱いされるのは珍しくないもんな。だから妹がいない、って言ってたんだな」
違うよ?
本当に彼女とは血が繋がっていないからね?
「お兄様……?」
シラハが僕のそばにやってくる。
上目遣いをしてくる彼女は、こんなにも色っぽかっただろうか? ダメだ、変な気分になりそうだ。
「やぁ、シラハ。久しぶりだね。ここまでは一人で来たのかい? いくら元気になったとはいえ一人歩きは感心しないね」
「申し訳ありません……。私、どうしても元気になった姿を一番にお兄様に見てもらいたくて……」
ねえ、その儚げにするのやめない?
なんか周りが悶えてるんだけど……。
僕、コイツらに兄と呼ばれるのは絶対に認めないからね? そもそもシラハが誰と一緒になっても、僕が兄と呼ばれる事はない。
「ほれ、アルフリード。せっかくなんだから家まで送ってやれよ。先輩達には俺が説明しておくからさ」
「ヴァンス……」
本当に良い奴だなヴァンス。その勘違いがなければ素直にそう思えたんだけどなぁ……。
ここはヴァンスの提案に乗って、僕はシラハを連れて訓練場を後にした。
アルフリード「さっきまで真面目な雰囲気だったのになぁ……」
シラハ「まぁ?! 私はいつでも大真面目ですわよ?」
アルフリード「ねぇ、それやめない?」
シラハ「あら、それとはなんですの?」
ヴァンス「なんかよく分からんけど仲良さそうだなぁ……」
アルフリード「ヴァンスの目は節穴なの?」
ヴァンス「そんな事はないぞ。お兄様」
アルフリード「…………」
ヴァンス「…………」
アルフリード「上段斬り!」
ヴァンス「甘い!」
シラハ「ずずっ……。はぁ、緑茶が美味しい……」
アルフリード「ホント何しに来たの?!」




