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抱き枕って落ち着くよね

 家の中は火の海。


 私は手足を縛られていて、芋虫のようにしか動けない。


 母が床に血溜まりを作って倒れている。


 私は血に汚れる事も厭わずに母のそばに這って移動する。


 まだ温かい。でも息はない。


 現実味がない。


 なんで、こんな事になったんだろう。


 そうだ、母が賭け事や酒に貯金を使い込んでいた父を怒った。


 それに逆上した父が、母を刺して家に火をつけたんだ。


 父は泣きながら震える私を縛って家を出て行った。


 ああ……。これが終わりか。


 熱くて苦しい。


 母を助けられなかったのが悔しい。


 父に抗えなかったのが悔しい。


 もし、もしも私に次があれば、負けない私でいられるのかな……。


 煙が充満し、自分の姿さえも見えなくなる。


 悔しいなぁ……。









 また死ぬ夢を見た。


 夢の内容はあまり覚えていないけど、自分が死に近付いていく感覚だけは覚えている。


 目を開けて確認しなくても服が寝汗でびっしょりだと分かる。

 さすがに気持ち悪いので、どうしたもんかと、そこでようやく体を起こした。


「目が覚めた?」

「――っ、エレナさん。おはようございます」


 一瞬ビクッとしちゃったけど、どうにか取り繕って挨拶を済ませる。不意をつかれたけど完璧な返しだね。


「まだ夜中だよ?」


 完璧じゃなかったか……。いや、でも今起きたんだから、おはようで良いはずだ。うん。

 たしかに窓を見てみると外は真っ暗だ。


 というか、ここはどこ?


「シラハちゃん、倒れる前は何をしていたか覚えてる?」


 エレナさんに聞かれて記憶を探ってみる。

 うーん、さっきまで見てた夢が強烈で何をしていたのか覚えているような、ないような……あ。


「オーク野郎を殴ってました」

「……オーク? まだ顔色も良くないし、記憶もハッキリしてないなんて……お医者さん呼ぶ?」

「魔物のオークじゃなくて、私が心の中でそう呼んでただけです。正気なのでお医者様は大丈夫です」


 おかしい。

 ちゃんと答えられたはずなのに、頭のおかしい子扱いされてしまった。解せぬ……


 そこへ、アゼリアさんが部屋に入って来た。

 この二人がいるって事は、ここは冒険者ギルドかな?


「シラハちゃん、目が覚めて良かったわ……もう大丈夫なの?」


 アゼリアさんにも心配されてしまった。

 そういえば、なんで私は倒れたんだろ?


 気持ち悪くなったのは覚えてるんだけどね。


「顔色も悪いし、目も腫れてるわね……」

「目……?」


 なんで目が腫れるの?

 私は気持ち悪くなっただけだよね?


「シラハちゃん……もしかして覚えてないの?」

「覚えてないって…何をですか?」


 私は意識がプッツリと途切れた感じだったんだけど……。


「シラハちゃんは倒れてから、泣きながらごめんなさいって言い続けていたのよ」


 そういえば倒れる直前は、罪悪感みたいなのがあったかもしれない。

 でも、どうしてそう感じたのかは分からない。


 これは私の前世が関係しているのかもしれない。

 私の前世に関する記憶は、自分の身の回りの情報以外は、わりとスラスラ出てくる。

 けど自分のことになると、どうにも記憶が曖昧なのだ。


 今の今まで自分の事を思い出せない、と気づく事が出来なかったくらいには記憶が怪しい。


 これは転生の弊害なのかな?

 別に前世に関する記憶が無くても困らないんだけど、覚えのない罪悪感や苦痛に苛まれるのはしんどい。


 でも失った記憶なんて戻るかも分からないし、なるようにしかならないよね。


「ねぇシラハちゃん」

「なんですか?」


 エレナさんが何かを言い辛そうにしている。


「言いたくなかったら言わなくていいからね?」

「……? はい」

「シラハちゃんって、もしかして両親か同じ村の人達に……その…変な事とかされてたの?」

「変な事?」


 変な事って生贄の事かな?

 あれ、でもそれはエレナさんには言ったことなかったはず。あれか…レギオラさんが口を滑らしたのか。


「たとえば……嫌がるシラハちゃんが泣くような事とか……」

「されてましたね」

「されてたの?!」


 あの生贄にされるまで閉じ込められていた時は、稀に悪い事があると私の存在のせいにされて、真冬に水をぶっかけられたね。

 ガタガタと歯の根が合わないわ、寒くて震えが止まらないわ、涙も止まらなくて死ぬかと思ったね。


「じゃ、じゃあ……シラハちゃんが痛がっても、その相手が好き勝手にしたりとかは……?」

「ありますね」

「あわわわ………」


 あれがどこの家のオッサンかは結局分からなかったけれど、物置小屋に入るのは禁止されてるから物干し竿みたいな長い棒を持ち出して、私をそれで殴ったり突いたりしてきた頭のおかしいオッサンがいたんだよね。


 私が泣けば煩いと騒いで、痛がれば村に災いをもたらした罰だとか訳の分からない事をほざいていた。

 恨みのある人は沢山いたけど、全部滅んだからどうでも良いんだけどね。


 なんでエレナさんはそんな事を聞くんだろう?

 というか、さっきまでそばに居てくれたからか、私もポロっと喋っちゃったね。

 って、あれ? なんで顔赤いのエレナさん……。


「シラハちゃん……。シラハちゃんが過去にそういう如何わしい事をされて、そういった事に過剰に反応するのは良くわかったわ……。でも安心して、私達はシラハちゃんの味方よ……」


 ちょっと待ってアゼリアさん。

 なんですか如何わしい事って……。

 私そんな事、一言も言ってないし!


「あ、あの……」

「入るぞ……」


 私が否定しかけたところで、疲れた声をしたレギオラさんが部屋にやってくる。


「あ、ギルマスお疲れ様です」

「おう、おつかれ。アゼリアが戻ってこないから、もしかしてと思ったが、やっぱり嬢ちゃんの目が覚めてたんだな」

「あ……」


 レギオラさんの言葉に、アゼリアさんが何かを思い出したのか、声を漏らした。


「なんだ? もしかして、まだ話していないのか?」

「すみません……。シラハちゃんの体調を確認していたら、すっかり忘れてしまいました……」

「はぁ……仕方ねぇなぁ……」


 レギオラさんが溜息を吐きながら、呆れている。


「嬢ちゃん、今回の件については相手の男は酔っていたから大目に見てやってほしい」


 急に訳の分からない事を言われた。何を言っているの?


「酔っていたから、って言うのなら、あの男は今後は一切お酒を飲まないんですね、分かりました」

「いや、そこまでは言ってないぞ……」

「なら私に手を出した罰はないんですか?」

「それは嬢ちゃんが、制裁を加えただろ……」

「私は後ろから襲われたので自分の身を守っただけですが?」

「おいおい、あれを身を守る為の結果と言うつもりか? 周りの冒険者が回復薬を使っていなかったら、アイツは死んでいたかもしれないんだぞ?」

「自業自得では?」


 私がそこまで言い切ると、レギオラさんが頭を抱える。

 変な事を言っているかな? 私。


「好き勝手にやっても、お酒を飲んでいたら無罪ですか……この街の法は随分と酷いものですね」

「いや、そうじゃねえよ……」

「なら、どういう意味です? 私があの男を殴ったから、あの男の罪が消えたと? それなら私は手を出さずに、誰かが助けてくれるまで、されるがままでいればよかったと?」

「そういう……わけじゃ……」

「それを決めたのは領主様ですか?」

「いや、違うが……」

「なら領主様に報告してください。それで同じ沙汰を出すのなら、それに関してはもう何も言いません」

「そうすると、アイツは冒険者を続けられなくなるぞ?」

「普通なら犯罪者確定の事案なのに、敢えて報告しないんですか? なんでですか? 顔見知りだから情けをかけてあげたいって事ですか?」

「嬢ちゃん……いい加減に……」


 レギオラさんが拳を握っている。我慢でもしているのかな?


「黙らなきゃ今度は殴りますか? さっきも言いましたよね、怒りたいのは私の方だって。自分で身を守れたんだから痴漢野郎は無罪放免? 馬鹿にしているんですか?」


 それを報告すべき所に報告もせずに、コイツの裁量で無罪にするとか私に対して喧嘩を売っているとしか思えない。


「私の身になって考えられないのなら、奥さんと置き換えて考えてみたらどうですか? 例えば奥さんに、誰かに襲われても他の人が助けてくれるまで抵抗も反撃もするなよ、って言えるんですか?」

「だから、やり過ぎだと言っているだろ!」

「私がされた事は、それよりもずっと軽い事だと? それを貴方が決めるんですか?」


 駄目だね。コイツは私がされた事を軽く見ている。

 ただ胸を触られただけだろ? と……。


 ここは異世界。地球だったら痴漢とかは恐ろしい事に冤罪が通ってしまうくらいに女性が強かった。


 でも、ここではそうじゃないんだ。別に罪をでっち上げるつもりはないけど、考え方が向こうとでは違うんだと思う。

 男尊女卑……とまではいかなくても、それに近い考え?


「もういいです……。明朝まで時間ありませんしね。エレナさん、こんな時間ですけど、お家にお邪魔しても大丈夫ですか?」

「え? あ、うん、大丈夫だよ。もう動けるの?」


 私とコイツの会話を聞いているだけだったエレナさんが、ハッとして動きだす。


「アゼリアさんも、こんな時間までありがとうございました」

「気にしなくていいわよ。それよりシラハちゃんは無理しないでね」


 アゼリアさんに体調の方なのか、誰彼構わずに気に喰わないと突っかかる事を言っているのかは分からないけど、心配されてしまった。


 軽視されたくらいじゃ怒らないんだけどね。今回は実害があったから止まらなかっただけだよ。





 あの後は、何か言いたげなアイツを無視して私は部屋を出てきた。

 そして冒険者ギルドを出たところでエレナさんが私に尋ねる。


「シラハちゃん、大丈夫?」


 これは何に対しての大丈夫なんだろう……。体なのか心的になのか、どっちなんだろ。


「大丈夫だと思います」

「思うって……。本当なら、ゆっくり休んで貰いたいけど、領主様からの依頼もあるし、早目に寝ないとね……」

「そうですねぇ……」


 私だってエレナさんとお喋りしながら寝たかったのにっ!


 エレナさんの家に着くと、遅い時間なのにエレナさんのお母さんが起きて待っていた。


「あら? たしかシラハちゃん…だったかしら?」

「はい、そうです。どうもお久しぶりです」


 エレナさんのお母さんは、どうやら私の事を覚えていたらしい。名前も覚えててくれて私ビックリだよ。


「あの時は、引き籠もったエレナを部屋から出してくれて、ありがとうね。もしこの子があのまま出てこなくなったらと思うと、旦那に申し訳なくて……」

「お母さん! こんなとこで、そんな話しないでよ!」

「まっ、あのまま出て来なかったら、力ずくで引き摺りだしてたとこだけどね!」


 エレナさんのお母さんは嘘泣きしたり、力こぶ作ったりと忙しい人だね。

 前あった時は、こんな感じじゃなかったと思ったけど……。やっぱり、あの時はエレナさんが心配で元気がなかったのかもね。


 せっかくエレナさんの家にお泊まりしに来たというのに、夜も遅かったので軽く食事を済ませると、早目に就寝する事になった。残念……




「シラハちゃんあったか〜い!」

「エレナさん、くすぐったいのであまりモゾモゾしないでください!」


 エレナさんと一緒に寝る事になって、私はエレナさんの抱き枕と化している。


 でも同じ布団で寝たりするのは良いよね。


 ウチでは母さんと一緒に寝ようかと思ったんだけど、父さんが拗ねるからね……。だから母さんとも一緒に寝てないんだよ。


 竜の姿なら一緒に寝れるけど、人の姿になると男である父さんと一緒の布団で寝るのに抵抗があるんだよね。不思議だ。


 などと考えていると、エレナさんの抱き付きが緩む。

 そっと様子を窺うと既に寝息をたてていた。


(私が倒れたから、エレナさんは休めなかったもんね……)


 私が押し掛けたから、今日はバタバタしていたから色々と大変だったはずだ。



 私も今日は随分とイライラさせられたしね……。エレナさんの寝顔で癒されても良いはずだ。


 私は先程の仕返しとばかりに、ギュッと抱き返すと目を閉じた。


 今度は良い夢が見られますように……






エレナ「うーん……トイレ……」

シラハ「ぎゅー……」

エレナ「シラハちゃん手を離して……あれ、外れない……って力つよっ!」

シラハ「うにゅ……?」

エレナ「え? あ、ちょっとシラハちゃん力を込めないで! なんでビクともしないの?! シラハちゃん苦しいから! 中身出ちゃうから起きてー!」



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― 新着の感想 ―
[良い点] もしかして主人公は過剰防衛という言葉を知らないのかな?もちろんやる奴が一番悪いけどね。
[気になる点] こういう話で過去の世界のトラウマみたいなのが出てくるのは萎える。そんな物はいら無い。作者の自己満足になる
[気になる点] 主人公を厳格にさばかないギルマスや領主に文句をいうところだよな。じぶんだけは特別扱いしてるカス主人公が不快ですね。力のあるものが自分の価値観を押し付ける。糞貴族とやってることは同じだわ…
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