嵐が去った……
「長老そろそろ里に帰ろうよ……」
レイリーがお爺ちゃんに里に戻るように言っている。しかし、お爺ちゃんはゴロリと寝転がったままだ。
そして、返事も決まっている。
「だから人化を会得したら帰ると言っているだろう……! 本当にしつこいヤツだ」
これである。
結局お爺ちゃんは居ついてしまった。
最初は私もすぐに帰らせるのは可哀想だと思って、レイリーの味方をしなかったんだけど、途中からはさすがに手伝ってあげた。
いや、だってね……お爺ちゃん、かれこれ一ヶ月は、ここにいるんだもん。
おかげで父さんはピリピリしているし、母さんも疲れている感じだ。
私も疲れたよ……。
父さんとお爺ちゃんのやり取りを見てなきゃいけないし、里とここを往復しているレイリーを手伝って、お爺ちゃんの説得もしなきゃいけないんだから。
私は一ヶ月前に私達が寝床としている洞窟の奥に、家とは名ばかりの建物を作った。
私の想像では、もう少しまともな建築物ができるはずだったんだけど、正直なところ微妙だった。
どうも【迷宮創造】では細かい物を作る事が出来ないみたいで、部屋の仕切りとして壁を作っただけでドアの設置もできなかったんだよ。
蝶番が作れなかったの……残念。
なのでドア代わりに蔓や草木を使って、すだれっぽい物を作ってみた。
素人が作ったのでヨレヨレだし、隙間だらけなので視界に入るたびに少し恥ずかしい。
お風呂も作れないし、家作りはまだまだだ。
でも、ベッドだけはどうにかなったんだ。
ベッドは脚付きだと上手くできなかったので、もう開き直ることにして、四角く切り出した岩をそのまま使うことにしてみた。
当たり前だけど、そのまま寝ると硬過ぎて体が痛いので街まで出かけて寝具を買ってきた。布団とかは、どうにもならないしね。
街には、どうやって入ったかというと忍び込みました。
前回、街から抜け出した経験を生かして、コッソリと入り込む事もできるんじゃね? と考えた結果です。
いやー、成長を実感しますね。
もちろん、忍び込んだ街はクエンサでもカルセストラでもないからね。たしかウィーナッドとかって名前だったはず。
といっても、以前カルセストラの街で引き出したお金の残りしかないので、派手に買い物はできない。
だから寝具だけ買ってきた、ってわけ。
おかげで夜はベッドでぐっすりだよ。
あの領主の屋敷にあったのよりは質が良くないけどね。
抜け出した時に、布団だけでも貰っておけば良かったかな? 迷惑料としてさ。
布団を抱えながら、飛んで帰るのって大変なんだけどね。
なんか布団の話ばっかになっちゃったけど、この一ヶ月は家と布団とお爺ちゃんの事くらいしか報告することがないくらいに平和だったと言うことだね。
本当は家作りが終わったら、アルクーレの街にお忍びで顔を出しに行こうかな、と思っていたんだけど、お爺ちゃんがいるからあまり留守にするのも悪いかなーって事で我慢している。
お爺ちゃんの人化した姿も興味があるしね。
なので私は暇潰しを兼ねた修行をしていたりする。さすがに、お爺ちゃんの人化修得をずっと見ているのも退屈だから母さんと一緒に外に出てきた。
魔物は食べ物として必要以上には狩ってはいなかったけれど、お爺ちゃんが持ってきてくれた魔石を早く取り込んで見せてあげたいので、少し多めに狩っている。
お爺ちゃんもいるから、魔物肉が多少増えても片付くしね。
でも無駄になる魔物肉を減らす為に、私はご飯にならない魔物も狩っている。
以前、戦ったロックスコーピオンがいた岩場の周辺には、食べられないような魔物もいる。
それがゴーレムだ。
ゴーレムは大きな岩から手足が生えていて、どの個体も微妙に形が違うのだけれど、どれも不恰好だ。
体が大きいからなのか、体が不恰好で不揃いなせいで動きにくいのかは分からないけど動きが悪い。
だから私は【跳躍】や【疾空】を使ってゴーレムを翻弄しつつ、【爪撃】でゴーレムの体を削っていく。
大本は手足が生えている胴体? 頭? を砕けばいいんだけど、デカいから簡単にはいかない。
さすがにゴーレムの攻撃を受ける事はないけど、とにかく時間がかかってしまうのだ。
【影針】を使って動きを止めて、竜鱗を使って手足を砕いたりして、やっとの事で倒す。
私は【竜咆哮】以外に威力の高い攻撃手段がないから、こういう硬くて耐久力のある魔物は苦手みたいだ。
『レッドプラントの成長を確認しました。
スキル【血液操作】が
使用可能になりました。
フォレストマンティスの成長を確認しました。
スキル【鎌切】が【鎌撫】に変化しました』
戦い終わって自己分析をしていると、新しいスキルを手に入れた。
【血液操作】は、なんとなく効果は分かるけど【鎌撫】は予想がつかないね。
名前:シラハ
領域:〈ソードドラゴン+パラライズサーペント〉
《森林鷹狗》 サハギン フォレストマンティス
レッドプラント ハイオーク エアーハント
シャドー 迷宮核(1)
スキル:【体力自動回復(中)】【牙撃】【爪撃】【竜気】
【竜鱗(剣)】【竜咆哮】【麻痺付与】【毒食】
【解毒液】【熱源感知】【丸呑み】【獣の嗅覚】
【跳躍】【夜目】【有翼(鳥)】【疾空】【潜水】
【側線】【水渡】【鎌撫】【擬態】【吸血】
【誘引】【血液操作】【剛体】【誘体】【風壁】
【潜影】【影針】【迷宮領域拡大】【迷宮創造】
【主の部屋】
【血液操作】流れた血液を操作する。
【鎌撫】撫でられたと思った時には切られている。
いや意味わかんないよ?!
【血液操作】は、予想していた通り細かいところは使ってみなきゃ分からないって感じだけど、【鎌撫】は全然分からないよ。
お前はもう死んでいる。みたいな事をリアルでできるスキルって事?
体が爆散するんじゃなくて、切り刻むバージョンとして?
なにそれ、それじゃあ猟奇殺人鬼みたいじゃん。
やべースキルだよ、どうしよう。
とりあえずコレらのスキル検証は今は止めておいて、一人の時にやろう。
あとは、なにやら領域の空き枠が一つできたから帰ったら、お爺ちゃんの持ってきた魔石を取り込んでみようかな。
保険として空き枠は確保しておきたいんだけど、取り込まないと帰らない可能性もあるからね。
そうなるとレイリーの心労がね……。
「シーちゃん大丈夫?」
「あ、うん! 大丈夫だよ」
おっと、いけない。考え事に夢中になってちゃダメだよね。
それじゃあ、魔物を狩って帰りましょうか。
「うむ。シーちゃんの用意してくれた、ご飯は旨いなぁ!」
お爺ちゃんがバリバリと骨ごと魔物肉を食べている。
ゴメンね、それ母さんが狩ったヤツなんだ。あと、別に下拵えとかしてないから味はどれも同じだと思うよ。
あ、個体差はあるのかな……。
「いやー、魔石を取り込むところは一度見てみたかったんだよねぇ」
レイリーも一緒に食事をして、食べ終わるとウキウキとした様子で私が魔石を取り込むのを待っていた。
思ったより元気だね。
「切り替えが大事だからね」
なるほど切り替えているんだね。
この一ヶ月で、そんな状況に慣れちゃったって事だよね……。
レイリーに哀れみの視線を向けておく。
「あれ? 娘ちゃん、なんでそんな目で僕を見てるの?」
私は気を取り直して、お爺ちゃんが持ってきてくれたシペトテクの魔石を、布で触れないようにしながらポーチの中から取り出す。
私一人だったら気にしないんだけど、見物人がいる場合は目の前で取り込んであげないとね。
本当は見世物じゃないんだけどなー。
そして皆の前に魔石を取り出すと、私は直接それに触れた。
『シペトテクの魔石を確認しました。
領域を確認、魔石を取り込みます。
シペトテクの魔石の取り込みが完了しました。
スキル【散花】【贄魂喰ライ】が
使用可能になりました』
魔石は私が触れると跡形も無く消える。
それを見て、お爺ちゃんとレイリーが驚いていた。
「本当に消えるんだねぇ」
「さすが儂の孫、という事か……」
お爺ちゃん……ただ魔石が消えただけだよ。
二人の反応を確認しながら、スキルの説明を見る。
【散花】散った花に宿るは新たな命。
【贄魂喰ライ】囚われた魂が解放されるは、いつの日か……。
ちっくしょう、全くわからないよぅ!
なんなのコレ?! 今回は本当に意味が分からない……!
こんな説明で、どうしろって言うのさ?!
「シーちゃん、どうだ? なかなか良さそうな力は手に入ったか?」
うう……。お爺ちゃんの期待に満ちた眼差しが痛い……!
「ちょーっとスキルの説明が難しくてね……。だから、すぐには使えないかなー?」
「別にスキルの確認くらい、我が手伝うぞ?」
父さんはなんで、こういう時はお爺ちゃんの味方になるの?! 本当はお爺ちゃんのこと大好きなんじゃないのかな!?
「でも、どんなモノかも分かってないから危ないかなー、って思うんだけど……」
「我等なら大丈夫だ。任せるがよい」
「そうだぞ、シーちゃん。じぃじは強いからな」
やっぱり仲良いなぁ……。そこまで言うのなら、今やっちゃおっか。
私は皆から少し距離を取るとスキルを使ってみる。
「【散花】」
しかし何も起こらなかった。
……うん。こうなる予感はあったよ。ホントだよ?
「今のは、ここじゃ効果ないみたいだね」
お爺ちゃんが明らかにガッカリそうな反応をする。スキルに関しては、使ってみないと分からないからねぇ……。
せっかく苦労して取ってきてくれた魔石だとしても、それが有用かは分からないからね。
「それじゃあ、もう一つのスキルを使うね【贄魂喰ライ】」
スキル【贄魂喰ライ】を使うと、私の体から黒い靄の様なモノが噴き出してきた。
靄は少しの間、私の周りに留まっていたけど、特に何をする事もなく霧散した。
「えっと……これで、終わりかな?」
お爺ちゃんは私の反応を気にしているみたいだけど、この状況でどうやって場の空気を変えろと? 難易度高いよっ!
「こんな使えない魔石をシラハに持ってくるとはな。これが報酬とか…………ハッ!」
「うぉーん!」
お爺ちゃんが男泣き?!
って、父さんも追い討ちかけちゃダメでしょうが!
「お、お爺ちゃん? 私は、お爺ちゃんからのお土産嬉しかったよ」
少しでも元気づけようと私は笑いかける。
「そ、そうか! よしっ、では今度はもっと使える魔石を取ってくるからな! というわけで儂、ちょっと行ってくる!」
お爺ちゃんは元気が出たかと思うと、バサー! と空高く飛んで行ってしまった。嵐みたいな人だねぇ。
「って、長老! ここを出るなら里に帰れよ?! ああクソッ! それじゃ僕は長老を追いかけるから、またね!」
慌てて飛び出そうとするレイリーに私は声をかける。
「もしお爺ちゃんが里に帰らないで魔石を取りに行こうとしたら、皆に迷惑かけて取りに行った魔石は受け取らない、って言っていたと伝えてください」
「娘ちゃん……。実はさっきの魔石も皆に迷惑かかってたりするんだ……」
「そんな気はしてました……」
うん。お爺ちゃんのあの様子から見て、その辺は予想できたからね……。本当に父さんとソックリと言うか何というか……親子だねぇ……。
「とにかく困ったら、娘ちゃんの名前を出して動きを止めてみるよ。ありがとうね、それじゃ!」
レイリーは今度こそ、空に向かって羽ばたいていった。
いやぁ〜……。こんな賑やかなのは初めてだったかもね。
疲れもしたけど、こんな日があっても良いかな、と思うのは悪い事じゃないよね。
シラハ「賑やかだったねー」
父さん「騒がしかったな」
母さん「ガイアスと同じくらいにね」
父さん「なっ?! 我は騒ぎはしないぞ?!」
シラハ「えっ」
父さん「えっ」
母さん「ほら、シーちゃんも騒がしく思ってた」
父さん「うぉーん!」
母さん「泣き方も同じだものね……」
シラハ「親子だねぇ……ホント仲良しだね」
父さん「……………」
シラハ「あれ? 静かになった」
母さん「今のシーちゃんの言葉がトドメだったわ」
シラハ「えぇー」




