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強く……生きて!

「あまり街を堪能できなかったわね……」


 母さんが後ろを振り返りながら呟く。

 ゴメンね、私のせいでバタバタしちゃって……。


「でも、お風呂は気持ちよかったわ! また街に来たら一緒に入りましょう!」


 母さんはお風呂を気に入ったみたいだね。でも観光目的でもなくて、お風呂目当てなのが悲しいね。

 あ、どこかに温泉とかないかなー。


「たしかに悪くはなかったが、我だけが一緒に入れんのが納得いかないのだが……」


 私達を乗せて飛ぶ父さんがつまらなさそうにしている。

 とは言ってもねー……。


「人間の風習では、雄と雌は別々に入るものだってシーちゃんが言っていたでしょう?」

「それはそうなのだが……」


 父さんは納得がいっていない様子だけど、私がまだ無理なので我慢して欲しい。

 いつか家族で入れたら良いな、とは思ってるんだよ。

 タオルで身体を隠しながらだったらいけるかな?


「それにしてもシーちゃん、あそこから抜け出してきて良かったの?」

「うん、平気だよ。向こうは私達を利用するつもりだったけど、私達にはなんの利点もなかったしね」

「だが、それだとシラハの立場が悪くなるのではないか?」

「んー……。私の立場なんて、無いようなモノだから気にしなくて平気だよ。それに、あそこにいたら父さん達が我慢できなかったでしょ?」

「む……」

「まぁ、そうね」


 あのまま、あの屋敷に滞在していたら確実に二人が暴れていた。そしたら私は間違いなくお尋ね者だよね。

 目撃者が一人でも残ってれば、だけど。


「それにしてもシーちゃんのスキルは本当に面白いわね。シーちゃんのおかげで、ガイアスが暴れる必要もなくなったから街も騒ぎにはならなかったしね」

「暴れる、と言っても精々が壁を壊すだけだろう? だが、たしかにシラハのおかげで静かに出てこれたがな」

「一応試してみたかっただけなんだけど、上手くいってよかったよ」

「影の中に入るなんて経験は望んでも出来る事ではないからな。あれは貴重な体験だった!」


 父さんが楽しそうに笑う。

 さっきまでは、つまらなさそうだったのにね。あれくらいで機嫌を直してくれるのなら安いもんだよ。





 私達は領主の屋敷を抜け出してきた。

 部屋の周りは警備だらけだし、窓も開かないようになっていたし、ああいうのを軟禁とかって言うのかな?


 そんな感じだったから力押しで抜け出すしかないかな、なんて思っていたんだけど、そこで私は一つのスキルを試してみた。


 それは【潜影】。


 私は【潜影】のような自分を対象に使うようなスキルを、誰かに使ってみるような事をしてこなかった。

 使う相手がいなかったとも言うけど……。ボッチじゃないよ!


 そんな訳で、就寝後に三人でベッドに潜り込んで試してみたのである。

 なんでベッドの中かというと、天井裏に誰か居たみたいだから見られないようにする為だよ。


 そして結果として私達三人は影の中へと入り込む事に成功したという訳なのですよ!

 その後は、影を伝ってドアや窓の隙間を使って、外に出ただけ。


 夜だったから街の入り口は閉まっていたけれど、父さんも母さんも人化していても余裕で外壁を飛び越えていた。

 さすが竜、って感じだよね。


 え、私? 私は【疾空】を使って、ピョピョン! と飛び越えましたとも。

 二人みたいに一足飛びになんて無理無理。





 それにしても家族旅行で訪れた場所で、クエンサの街の情報を聞けるとは思ってもいなかったよ。


 分かったのは領主が関わっている事くらいだけどね。結局ローエンさんやロエンナさんが、私の敵かどうかまでは判断できなかった。


 それと私の冒険者カード。

 多分だけどアレを使って街に入ると、色んな所に情報が流れてしまう可能性がある。

 恐らくはクエンサにも私がカルセストラに居る、というのは伝わっているんじゃないのかな?


 既に出てきた後だから、そこは問題ないけれどね。


 ただ本当に冒険者カードで様々な所に情報が共有されてしまうのなら、私は街に行く事が難しくなってしまう。

 これについては少し考えた方が良いのかもしれないね。


 貴族に目を付けられたから目立っている、って可能性も高そうだけど……。


 やっぱり父さんと母さんと隠遁生活かなぁ。

 街には遊びに行きたかったんだけどなー。


 こればっかりは仕方ないか、と肩を落とす私だった。










 寝床に戻ってくると二頭の竜が言い争いをしていた。


「じゃーかーらー、シーちゃんを探しに行ってくると言っておるだろうが!」

「そんな事しなくても、少ししたら帰ってくるって言ってるでしょ! 行き違いになったら、もっと時間かかるよ!」

「戻ってくるとも限らんだろうが! ガイアスが儂に嫌がらせをして、巣を移動しているやもしれんだろ!」

「ここに娘ちゃんの魔力が広がってるし、それは無いって言ってるでしょうが!」


 相変わらずレイリーは苦労人だね……。


「なるほど。巣を移して姿を眩ませる、か……。アリだな」


 父さんがお爺ちゃんに聞こえるように、そんな事を言い出した。


「聞いたか、レイリー! あの糞息子は本当に性格が最悪だ!」

「そこは否定しない! あ、嘘です、ごめんなさい。謝るから、また行方を眩ませないで……! 探すの凄く大変なんだから!」


 お爺ちゃんは父さんを凄い顔で睨んでいる。あと言葉遣い酷いね……。


 そしてレイリーはヘコヘコと頭を下げていた。なんだか、とても可哀想な生き物に見えるよ……強く生きてね。



「お爺ちゃんは里から出ても大丈夫なの?」


 一通り言い合ったのを見た後に、私はお爺ちゃんに聞いてみる。長老って言っていたから、なんか動けないイメージがあったんだよね。


「平気だとも。シーちゃんに会うためなら里が滅びに瀕していようとも会いにくるからな」

「それはダメだと思うよ、お爺ちゃん……」


 なんで出してくる例えが、そんな極端なんだろうか……。

 私と里の存在を天秤に乗せちゃダメだと思うんだ。


「そういえば、今日は遊びに来てくれたの?」

「そうだとも! シーちゃんは可愛いなぁ! ガイアスみたいに捻くれてはイカンぞ」

「お前がいなければ、そんな心配もない。さっさと用件を済ませて帰れ」

「父さん。せっかく遊びに来てくれたんだし、邪険にしちゃダメだよ」


 家族なんだし、もう少し仲良くすれば良いのに。


「娘に注意させるとは、父親としての自覚が足りんのではないか?」

「ぐぅ……!」

「お爺ちゃんも、そういう言い方は良くないよ」

「はぅあ?! シーちゃん、ごめんよぅ! じぃじを嫌いにならないでおくれ!」


 お爺ちゃん、どんだけ必死なのさ……。


「さて長老。盛り上がってるところ悪いけど、理性を無くす前に娘ちゃんに渡す物は渡したら?」

「渡す物?」

「そうだった。シーちゃんや、これはじぃじからの贈り物だ」


 お爺ちゃんは何かを口に咥えて、私に見えるように前に出す。


「魔石?」

「うむ。前に約束したシーちゃんへのお土産を持ってきた」


 ああ、そんな事もあったね。

 迷宮核を取り込んだり、ダンジョンボスのアーマードゴブリンの魔石を手に入れたりしたから、なんか報酬は貰った気になっていたんだよね。


 そこへ新たな魔石をお爺ちゃんが持ってきてくれたのだ。

 本当に貰っちゃっていいの? と不安になる。


「土産ではなく正当な対価だな。シラハ、気にせずに貰っておけ」


 私が手を出していいか悩んでいると、父さんが受け取るように言ってくる。

 それなら良いのかな?


 私が両手を前に出すと、お爺ちゃんが魔石を手の上に落とした。

 そして聞こえてくる、いつもの声。


『シペトテクの魔石を確認しました。

 領域を確認、領域が不足しています』


 しかし、領域には空き枠がないので魔石は取り込めない。


「シペトテク?」


 私は聞いたことのない名前に首を傾げる。知ってる名前の方が少ないんだけどね。


「うむ。ぶっ殺してきた!」


 豪快だね、お爺ちゃん。でも、そうじゃないんだよ……。


「娘ちゃんが聞きたいのは、どんな魔物かでしょ? 長老が魔石持ってる時点で、倒してきたのは誰でも分かることでしょ……」


 さすがレイリーだね。分かってくれて嬉しいよ。


「シペトテクってのは、やたらとしぶとい魔物だよ」

「…………? え、それだけ?」

「え、うん」


 全然わからないじゃん! おのれレイリーめ……使えないヤツめ。


「あれ? なんか僕の株が下がった気がする……」


 私がレイリーを見て、むくれていると母さんが頭を撫でてくれた。


「私達、竜族は……ほら、力押しでどうにかする事が多いでしょ? だから細かい事は気にしないのよ」

「なるほど……そう言われると納得かも」


 たしかに竜は強いから、倒せてしまえば他の事には気を取られる事は無さそうだ。

 そうなると、どんな魔物かも分からない魔石を取り込んでみたくなる。

 しぶといって事は耐久性が上がるスキルとかが、あるかもしれない。死に難くなるモノなら大歓迎だよ!


 早く取り込んで色々と試してみたいかも!


 でも枠がないので、どうにもできない。むぅ……



「シーちゃんや、魔石を取り込むところを見せて貰っても良いか?」


 おおう……なんという事でしょう。お爺ちゃんに残念なお知らせをしなければいけないとは……。


「あのね、お爺ちゃん……。まだ魔石を取り込めるようになってないんだ。ゴメンね……」

「そうかぁ〜……」

「長老落ち込み過ぎでしょ。娘ちゃんが気にしちゃうよ」


 お爺ちゃんがヘコんで、レイリーがフォローをする。大変だねぇ……と他人事のように考えてみたいする。


「そうだ、シーちゃん。帰ってきたら、やる事があるんじゃなかったの?」

「あ、そうだった! ちょっと、やってくるね」


 母さんに言われて用事を思い出した私は、自分の領域にした場所に移動する。


 そして【迷宮創造】を使い壁を作り出す。

 うん【迷宮領域拡大】と違って、全然負担は少ないね。



「シーちゃんは何をやっているのだ?」

「アレは迷宮核のスキルなんですよ。それでシーちゃんが家族で住める家を作ってくれるんですって」

「なん……だと……」


 母さんがお爺ちゃんに説明しているけれど、なんか凄くショックを受けているような……。


「なんという羨ましい話だ! 早く儂も人化を会得せねば! 儂もここに住もう!」

「駄目に決まっているだろ」

「長老が他所に移り住める訳ないでしょ……」

「よぅし! レイリー、里の事は万事任せた! これで里は安泰だし、儂はここで孫と静かに暮らせる……」

「「ふざけんな!」」


 おお、父さんとレイリーの声が重なった。


 父さんはともかく、レイリーが我慢できないなんて、よっぽどだね。


「長老? 僕がここまで案内してきたのは、そんな戯言を聞くためじゃないんだよ? あんまりふざけた事を言ってると娘ちゃんに、長老の恥ずかしい武勇伝を語り尽くすよ?」

「なっ?! 貴様、卑怯だぞ!」

「卑怯で結構。長老なんて堅苦しい肩書きなんて僕は要らないよ」

「よし、やってしまえレイリー。援護するぞ」


 父さん……。

 私は家作りの手を止めて、お爺ちゃんのそばに行く。


「お爺ちゃん。此処にいる間は一緒にいるから、ちゃんと里にも帰ってあげてね?」

「むむぅ……だが……」

「里の為に頑張るお爺ちゃんって、カッコいいと思うんだ」

「儂頑張る!」


 よし、お爺ちゃんの説得終了。チョロいな。

 そこへ、レイリーが私に話しかけてきた。


「ねぇ、今度から長老絡みで困ったら娘ちゃんに協力してもらっても良いかな?」


 遠い目をしながら、レイリーが私に聞いてくる。

 ああ…うん。手伝うから、その死にかけた目はやめようか。戻ってくるんだ、レイリー……



「手伝うので、強く生きてください」

「ありがとう……嬉しいよ。ハハ……」



 ホントに大丈夫なの……? と、思わずにはいられない私だった。




シラハ「家作りが進まなかった……」

じぃじ「儂の部屋は作ってくれるのか!?」

父さん「あるわけないだろ」

母さん「なら私の部屋をお義父様に差し上げますわ」

じぃじ「さすがレティーツィア……。糞息子も見習え」

父さん「くたばれ糞ジジイ」

父さん・じぃじ「ケッ!」

シラハ「それじゃ、母さんは私の部屋を一緒に使お?」

母さん「ええ…ありがとう、シーちゃん」

母さん(ふふふ……計画どおり……)ニヤリ

父さん「ば、馬鹿な……。そこまで読んでいただとっ」

じぃじ「なんて恐ろしいヤツなんだ……孫と一緒の…部屋………ガクッ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 竜が出てきてからの親子ほのぼの面白いです!なんか今までのレズっぽい描写は気持ち悪かったけど、作者さんはこういったほのぼのストーリーがお上手ですね!
[気になる点] せっかく面白かったのに竜が出てきてからつまらんくなった
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