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やりたいこと

「これでいいかしら?」


 母さんが人化して作ってくれた服を私に合わせながら確認してくる。

 でも残念ながら、ここには姿見がないので自分の姿を確認できないのだ。


「ちょっと、その服貸してもらっていい?」

「ええ、勿論よ」


 母さんから服を受け取ると、それを両手で広げながら表から裏へと見ていく。

 今回はシンプルなデザインの白いTシャツと黒のワイドパンツを用意して貰った。


 これなら大丈夫かな。

 この服は防具としての役目もあるので長袖にしてある。肌の露出はあっても気にはならないけど、それだと意味ないからね。


「これ気に入ったよ。ありがとう母さん!」

「嬉しいわ。なら、もう1、2着作っちゃうわね」


 母さんが早速と言わんばかりに服を作り出す。

 作る、と言っても布を用意して裁断して縫う。なんて事はしてないよ。

 実は母さん、さっきから服なんて着ていなかったりする。

 私がこの服で良いと了承すれば、そのまま続けて服を作るからだと母さんは言っていた。竜に羞恥心は存在しないんだね。


 ここにいる限り、私の羞恥心は成長するどころか退化していくね。


 竜は人化状態になると、それまでの巨体を人の形まで圧縮する必要がある。

 圧縮と言っても、小さなカバンに荷物をギュウギュウに詰め込む感じではないらしい。

 肉体を魔力に見立てて、その魔力をギュッと押し固めている、とかなんとか。こればっかりは修得した竜でしか分からないんだって。


 ただ、押し固めた時に人間には存在しない部位が邪魔になる。それは角や尻尾だったり、竜鱗もそうだ。


 それらを人化した時に、人間らしくなるように変化させるみたい。角なら毛髪に、竜鱗は衣服に……という具合に。


 え、尻尾? 尻尾はそのまま更に圧縮して消すんだって。なんにしても、竜から人の姿になるのは決して簡単ではないって事は理解したよ。


 それで、竜鱗を衣服に変化して貰っている訳だけど。変化させた衣服を脱ぐ時は別に痛みを伴ったりはしない。

 元の姿に戻る時に、無くなった竜鱗の補填の為に魔力を持っていかれるくらいだ、って母さんは言っていた。


 もしかすると、その辺は父さんと母さんが口裏を合わせていて、私に気を遣わせない様に嘘をついているかも知れないけれど、そこは詮索するつもりはない。


 逆の立場だったら私も同じ事をするだろうしね。頼んでる手前、申し訳ないけど。




 服の事は母さんに任せて、お次は父さんだ。


「む、そっちはもう良いのか?」

「うん。今度は父さんの番だね」

「そうか。……それで作るのは剣、で良いのか?」

「できそう?」


 剣を作る、なんて服より難しいと思う。けれど父さんは二つ返事で作ると言ってくれた。本当に頼りになる。


「それで形は決まっているのか?」

「うーんとね……片刃の剣で形はー……こう、かな?」


 私は作って欲しい剣の形を地面へと書いていく。


「我が知っている剣とは形が違うな」

「そうかもね。私が普段スキルを使っていない時でも持てる様に軽くもして欲しいから、刀身は厚くなくていいからね」

「そんなので良いのか?」

「平気だよ。父さんの竜鱗だし、簡単には折れないよ」

「確かにな!」


 私が父さんに作って貰う剣のイメージは日本刀だ。

 だけど、この竜鱗を変化させての作り方では細かい部分までは作り込めないので、私の完成予想図は鍔も柄もない抜身の日本刀だ。


 さすがに鞘が無いと危ないので、それは何処かの街で誂えようと思っている。


「うーむ……」


 さっそく父さんが試作をしてみるけど上手くいかなかったみたいだ。

 まだ一本目だしね。


 でも、それからも剣は私が依頼した形にはならなかった。


「駄目か……」


 父さんが項垂れる。

 形を作るだけなら、剣の方が服よりは簡単そうなんだけど、なんで出来ないんだろうね。


「父さん、無理なら剣の事は気にしなくていいよ」

「いや……やる」


 もう何回か止めてはいるんだけど、父さんは止めるつもりはなさそうだ。

 何枚も竜鱗を使ってるし平気なのかな?


「好きにやらせましょ」

「母さん……」


 母さんは仕方がない、といった雰囲気で父さんを見ていた。呆れているようにも見えるね。


「母さん、剣を作るのって難しいのかな?」

「ガイアスが作っているのを見ている感じだと、服とは根本的に違うみたいだし、難しいかもしれないわね」

「え?!」


 母さんの言葉に私は驚く。全然分からなかったよ……。


「私が服を作る時は竜鱗を縮小していって、体の大きさや形に合わせるの、服ならそれでほぼ完成ね。でもガイアスが作っている剣は一枚の竜鱗を全て魔力で成形しているし、一度歪むと修正が効かないんじゃないかしら」

「一回形を変えると、もう直せないの?」

「ええ、そうよ」

「え、じゃあ、母さん達の竜鱗は……?」


 今の母さんの話だと、人化した時の服は元には戻らない、と言っているように聞こえる。

 それでは負担が大きい気がする。それなのに私は当たり前のように人化だったり竜化だったりしてもらっている。


 私は二人に負担をかけていたのかもしれない。


「シーちゃん。勘違いしちゃダメよ? 直せないのは体から離れた竜鱗だけよ」

「本当に?」


 私が二人に無理をさせていたと思っているのが分かったのか、母さんが訂正してくるけれど、それを疑問形で返してしまう。

 疑っても、私には分かるはずもないのにね。


「本当よ。と言っても信じて貰えないかもしれないけれど、竜鱗を剥がせば多少は消耗するわ……でも姿を変えるなんて事は一度出来る様になってしまえば、息をするのとなんら変わらない行為よ。シーちゃんは息をするのは辛いかしら?」


 私は首を横に振る。ああもう、これじゃ母さんを責めてるみたいじゃん!

 そんなつもりなんてないのに!


 私は母さんにバフッと抱きつくと、母さんの胸に顔を埋めた。


「母さん……ゴメンね。私……」


 私が言葉を紡ごうとすると母さんが頭を撫ではじめる。


「気にしなくていいわ。シーちゃんは私の娘なんだから、たくさん甘えて、たくさん我儘を言って良いのよ」

「それじゃあ私、嫌な子になっちゃうよ……」

「それでも、シーちゃんは好きな様に生きなさい。私達を気遣って生きていたら、シーちゃんは息を吐く暇もなくなってしまうわ……」


 それは気遣いの話なのか寿命の話なのか、どちらかは分からない。

 私はわりと好きにやってきたと思うのだけれど、母さんから見た私は遠慮をしているように見えたのだろうか。


 人と竜の感覚の違いは分からない。

 でも好きにして良い、と言われるのなら、もう少しやりたい事をやってみようかな。


「ありがとう、母さん」


 やりたい事ね。

 それなら、まずは――――












◆レギオラ視点


「ああ…くそっ! またかよ……」


 俺は書類を確認しながら悪態をつく。

 先日、ハイオークの目撃情報があった国境に行こうとしたら、すぐにハイオークの討伐報告が届いた。

 意味がわからん。


 倒せる当てがないから救援を頼んだんじゃないのかよ。

 何の為に他の職員に仕事を丸投げしたと思ってるんだ。仕事を振って出掛けようとしたら、まさかの救援の取り消し。


 職員全員のあの目……。あれは俺が悪いんじゃないんだからな! ったく、休みの職員にまで出てきてもらったのに、仕事が取り消しになれば恨まれもするか……。


 俺は気を取り直して黙々と書類を片付ける。


 そんな時だった。俺は微かな気配を察知した。


(なんだ? 気配を消している……とは違う。希薄と言えばいいのか……暗殺者か?)


 冒険者ギルドのギルマスともなれば、色んな方面から恨みを買う。特に捕らえたチンピラや潰した何処ぞの組織の生き残りだったりとな。


(武器は…少し遠いか)


 俺は自分の武器(相棒)の位置を確認しながら、侵入者の位置も探る。

 しかし相手の位置が分からない。この部屋に居るのは確かなのに、部屋には居ないような感覚。一体……何者。


 俺は相手に気取られない様に仕事をこなす振りをしながら武器が届く位置に移動する。これで一息で武器を取って攻撃できるな。


 そう思った時だった。本当にいきなりだ。

 侵入者の気配が唐突にハッキリとしたのだ。


 俺は考えるまでもなく、武器を手に取り侵入者に向かって飛び掛かる。


(相手は気配をあそこまで巧妙に消せる。なら油断はしない!)


 侵入者との距離はもう無い。あとは大剣を振り下ろすだけだ。


「え?」


 侵入者から声が聞こえた。女か。相手は動かない。俺を見ている。幼いな。小柄で白髪……ん? って、まさか?!


「うおぉぉぉ?!」

「きゃあ?!」


 俺は咄嗟に攻撃を止めたが、飛び掛かった勢いまでは止められなかった。

 そして目の前の白髪の少女に衝突する。


 攻撃を中断する為に離した大剣が、壁際の棚に直撃して倒れる。マジか……あとで片付けるのは、俺だよな?


 と、そうじゃない。

 俺はぶつかって一緒に倒れた少女に目を向けると視線があった。相変わらずあまり動じていないように見える。


 でも、さっきは「きゃあ」とか言ってたな。この嬢ちゃんも一応は女って事か……。

 いや、それより、どうしてここに嬢ちゃんがいる?

 どうやって、この部屋に入った?


 今日はエレナもアゼリアも受付に居るから、この嬢ちゃんが無事だと分かれば仕事を投げ出して俺に報告に来るはずだ。職員として、それはどうかと思うがな。


 そもそも嬢ちゃんがこの街に入れば、俺やルークに連絡が行くようになっていたが、その報告もなかった。


 一体どうやって、ここまで……


「ギルマス、大丈夫か?!」


 様々な考えが頭の中を巡っていると、いきなり執務室の扉が開かれた。

 そちらを見ると、冒険者やら職員が警戒や不安といった表情をしながら俺を見ていた。

 なるほど、さっき棚を倒した音を聞いて様子を見にきたんだな。心配かけちまったな。


「ああ、悪いな皆。心配かけ――」

「ギルマス何やってるんですか?!」

「ちまっ――てぶるぉあ!?」


 俺が喋っている最中にエレナが唐突に蹴りを放ってきた。

 なんつー良い蹴りを……じゃなくて、俺ギルマスなんだけど!

 俺はエレナに注意をしてやろうとガバリと起き上がると、集まった全員の冷たい視線が突き刺さる。

 ん? なんだこの空気?


「シラハちゃん大丈夫?! ギルマスに変な事されてなかった?」

「え? 大丈夫ですよ。それより皆さん集まってどうしたんですか?」

「どうしたって、ギルマスの部屋から凄い音が聞こえたから……」


 エレナの言葉に嬢ちゃんが辺りを見回す。


「ああ、あれですか。なんかレギオラさんが急に武器を持ち出したんですよね。襲われるかと思いました」

「ええ?! 襲われたの?!」

「襲ってねぇよ!」


 って言うか、俺が襲われるかと思ってヒヤヒヤしてたわ!

 あ、まさか、ここにいる連中は俺が嬢ちゃんを襲っていたと思っているのか?

 一体どこを見れば、そうなるってんだ。


 大剣のせいで荒れた部屋。床に倒れる嬢ちゃん。その上に覆い被さる俺……。やべぇ事案じゃねえか!

 不味い……。これは口止めしておかないと色々と不味い!


 嬢ちゃん(少女)を押し倒したとして社会的に死んで……。そしてシャーネ()が娘を連れて家を出て行く……精神的に死ぬ!


 最期は……


「え、レギオラが少女を押し倒した? そんな訳ないじゃん。あ、ちょっと……ファーリアさん? その書類は触っちゃダメだよ? え? じゃあサインしろ? だからレギオラがそんな事する訳……シラハを襲った時点で死刑確定? そんな滅茶苦茶な……ぐほっ?!」


 領主であるルーク(最後の砦)が倒れて、ルークの嫁(魔王)が俺の刑を執行する……。

 詰んだな……。



「別に私は襲われていないですよ? それより私はレギオラさんに話があるんですが……」


 嬢ちゃんの言葉に全員の視線が和らいだ。助かった……。


「分かった。お前ら騒がせて悪かったな」

「あ、それとエレナさんとアゼリアさんも時間があれば同席しませんか?」


 おい、嬢ちゃん。そんな事を言ったらコイツらは仕事を放棄するんだぞ?


「もちろんだよ。仕事は大丈夫だから、私お茶でも淹れてくるね」

「私も大丈夫よ」


 エレナは紅茶を用意しに行って、アゼリアは席の周りを片付けている。いや、ギルマスである俺の意見も少しは聞けよ。


「レギオラさん、よくあんなに早く私に反応しましたね」

「あん? 何を言ってるんだ? 確かに反応はできたが、嬢ちゃんだと気付くのは遅れた。気配の消し方が巧妙過ぎて、俺自身余裕がなかった証拠だ」

「そうなんですか? でも私がいるのは分かっていたんですよね?」

「部屋の何処かに居る、ってところまではな。あんな事ができるとはな……ホント色んな意味で死ぬかと思ったぜ」

「まぁ、私を押し倒したのはレギオラさんの自爆ですけどね」


 うるせーな。んな事は分かってるけど、あんな紛らわしいことをした嬢ちゃんにも非はあるんだと言わせてもらいたい。

 だが、ここでそんな事を言い出せば俺が三人に叩きのめされる。



 しかし気がつけば、俺も肩の力が抜けているな。

 俺も嬢ちゃんが心配だったと言うことかね。



 さて、嬢ちゃんはその辺の事を話してくれるのやら。







シラハ「もう、お嫁に行けない……」

エレナ「ギルマス、ギルティですね」

レギオラ「マジで、そういうのヤメテ……」

シャーネ「アナタ…なんて事を……」

レギオラ「シャ、シャーネ?! なんでここに!」

シャーネ「アナタの為にお弁当を持ってきたのに……」

レギオラ「いつも、そんな事してくれないのに、なんで今日に限って?!」

シャーネ「面白い事が起きていると、新妻の勘が……」

レギオラ「新妻って誰だよ。お前、今年でもうさんぶふぉあ?!」ドサ……

エレナ「ギルマスが死んだ!?」

シラハ「レギオラさんって何気に失礼な事を口走るから、人生やり直しても似たような事で死にそうだよね」

シャーネ「あ、それわかる〜。ここで助かっても、家の食事に毒とか盛られちゃうのよね」

レギオラ「毒入れるのお前だよね?!」

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