5話
数日ほどして彼は再び私の前に現れた。
その赤い目の下にはくっきりと黒い隈があって、あまり寝れていないことが見て取れた。
いつもの樹の下、二人だけの空間で木の葉がざわざわと揺れる音がする。
「夢を見たんだ。大嫌いなお前がいないこと以外、現実と何も変わらない夢」
静かな空間でぽつりと彼が呟く。それは、私に言っているというより独白みたいで、私はその続きを黙って聞いていた。
「それに気づいた時、はじめはやっと願いが叶ったって喜んださ。邪魔者がいなくなって俺は二番手じゃなくなった。一番になれたんだ」
そういう彼の顔は暗くて、とても嬉しそうには見えない。
「なのに、俺は抜け殻になったみたいだった。空っぽで、ひどく惨めだった」
「お前でこの憂鬱な気分を晴らしてやろうと思って、夢の中で馬鹿みたいに必死こいて探し回ったよ。でも、いつも憎たらしいくらい俺の視界に入ってくるくせに、どれだけ探してもお前の姿だけがなかった」
「当たり前だよな、俺の願いを模した夢なんだから」
自嘲気味に笑う姿が痛々しい。
「あれだけお前なんていなければと願ったのに、消えたら今度はお前の姿を探してる」
光のない赤色の瞳が、じっとこちらを見ている。
「クソ、なんで、何でなんだよ……。ああもう、お前なんか嫌いだ。大嫌いだ」
ダムが決壊したかのように彼の赤い瞳からとめどなく涙がぼろぼろと溢れる。場違いにも、その涙が真珠みたいに綺麗で尊いもののように思えた。
「俺の事なんて眼中にないくせに、平民なのに俺にないものを全部持ってるくせに、俺にハンカチをやったりして何がしたいんだ。同情のつもりかよ、心底吐き気がする」
迷子の子供みたいな顔。
そんなに泣いたらその瞳が溶けてしまいそうだ。
「俺はお前のせいでこんなにめちゃくちゃなのに、どうせお前にとって俺はそこら辺にいる生徒と変わらないんだろ、っなあ」
泣いて欲しくなくて、服の袖でなるべく肌を傷つけないようにその涙を拭いた。多分傍から見れば、ぐずる弟とそれをあやす姉にでも見えたことだろう。
「やめろ、俺の顔を拭うな。泣いてなんかない。やめろって言ってんだろ、その耳は飾りか?」
「気持ちが伴ってないくせに、こんなことすんなよ」
彼に手を振り払われないのをいいことに、私は泣き止むまでずっと、涙を拭い続いた。




